Emotoin monster ~感情の舞い~   作:夢見る座禅組

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第1章 紅い空の願い事
第1話 夜間騒動


 静かな森の中。静寂を生みだす漆黒の闇。

 夜空には半月が浮かんでいる。しかし背の高い木々のせいで森の中からはよく見えない。

 

 一人、その静寂を切り裂いて走る少年がいた。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁっ…クッソっ。なんなんだよ…!どうなってんだよこれ…!」

 

 少年は追われている。

 

 少年は必死に逃げる。

 

 ドスッドスッドスッ――

 後ろから大きな足音をたてながら何かが追ってきている。

 

 暗いせいで足元はよく見えない。後ろから迫り来る「何か」もよく見えない。いや、見る暇さえ無いと表現したほうが正しいのか。

 わかっているのは後ろから足音がすること。その足音から逃げなくてはならないこと。本能に従わなくてはいけないこと。

 

 いったい何から逃げているのかさえよくわからないのだが。

 

 死に物狂いで走り続ける。

 

「はぁッ、はぁッ…あ"ぁ!…はぁッ…」

 

 なぜ自分がこんなことになっているのか。突然、森の中におちて、尻もちをついて、そしてこれだ。

 

 なぜ、自分がこんな目に遭うのか。他にもこんな目に遭うべきヤツがたくさんいるだろうに。

 

「意味がわからねぇんだよ…ッ!」

 神様だか運命だかは、こんなヤツをいじめるのが楽しいのか。とんだ物好きだ。

 

 そんな鬼ごっこの最中。少年は木の根につまずいて転倒してしまう。

 

…ここまでか。

 

 後ろからの「気配」が近寄ってくる。その「気配」と間近で目があった。

 間近で観察してみると、狼のような顔に血走った目、獰猛な二対の牙がある。だが群れて行動する狼が一匹でいるはずがない。

 

 ご馳走を目の前にして興奮する、飢えきったその表情は「オオカミ」というよりも、「怪物」というのがふさわしいだろう。

 

 その飢えに飢えたウルフフェイスの「怪物」がご馳走を目の前にしてどこかに行くわけもなく、倒れた少年の腹部に牙を突き刺した。

 

「あ''ぁァァッッッ…!」

牙が刺さり、痛覚と本能が叫ぶ。

 こんな理不尽な仕打ち、体験したことがあるヤツは他にいるだろうか。いや、いてたまるものか。

 

―――消えろ。

ふつふつと、ふつふつと、血が煮える。

 

―――消えろ!

神と運命への恨みが我を忘れさせたが故の怒りか、恐怖を隠すために強がったか。

 

「…っ!…消えろ…消えろ…消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろっ!消えろーーーっ!」

 

 少年の叫ぶ。その咆哮によって衝撃波が発生する。同時にその「怪物」は蹴られた小石のように吹っ飛ぶ。そして叫んだ少年の下には小さいクレーターができあがった。

「あ''ァァ!アァッ!ああああぁぁぁぁ――……」

 そして、生命力を失ったかのように少年はその場に力なく倒れ、意識を失った―――

 

 

「~♪」

 場所は変わって、森上空。

 箒にまたがり、鼻歌交じりに夜空を飛ぶ魔法使いの少女がいる。

 霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)。人間にして魔法使い。騒がしい。

 

 白黒の魔法服に身を包んでいる。

「魔力」と、人間の魂が生まれながらに持つことのできる「霊力」を使用する人間。

 

「♪~…ん?騒がしいな?こんな時間に」

――今は夜だぞ?

 

 普段は静かな森のはずなのに、どうしてか今日は騒がしい。さっきは爆発音のような音も聞こえたし、土煙も上がっている。

 

「…!?」

 遠目ながらも、魔理沙は生い茂る木々の間に倒れた人影を発見する。

「た、大変だ!どーする?!えっと…そ、そうだ霊夢だ!霊夢んちだ!」

 

 「霊夢」とよばれる人物に助けを求めるために魔理沙はある場所へと急ぐ。

 

 

 再び場所は変わって、とある神社。この神社の鳥居には「博麗神社」と書かれている。本殿のうしろには、ひとつの家さながらの住居空間がある。

 

 そこを住まいとする、一人の少女がいた。

 

「ズズゥ~…ふぅー。月がキレイね…」

 

 名前は博麗霊夢。ケチ巫女。赤を基調とした一風変わった巫女服に、服とは別々の巫女服の袖を身につけている。袴ははいておらず、代わりにスカートをはいている。よくわからん。

 

 霊夢が縁側でお茶をすすっていたときだ。

「…ぃぃむぅぅぅ……れぇぇぇいむぅぅぅーーー!」

 箒にまたがって空を駆けてきた魔法使い、魔理沙がやってきた。

 

「何よ、騒がしいわね。あんたの説明では騒がしいって言われているんだから、少しは自重しなさいよね。」

 

「うるさいケチんぼ巫女!って、そんなことより――」

 

「『お茶を出せ』?そんなものはありません。」

 

「なぁんだー。ないのかー。…って、違ーう!けが人だぜ!倒れている人がいるんだぜ!」

 

「あー…けが人ねー大変大変。で、どこにいるの?毛ガニは。」

 

「毛ガニじゃなくてけが人な。そいつなら…」

 

「私をからかおうっていうなら、1000年後か、毛ガニをちょうだい」

 

「……忘れてきた…!けが人、おいて来ちまったんだぜ!ちょっと待っていてくれだぜ!」

 

とだけ言い残し、魔理沙は身を翻して魔法の森に向かう。

「やっぱり騒がしいわね、あいつは…。」

 

 

 しばらくして、魔理沙が帰ってきた。片手には少年を抱いて、もう片手で箒にぶら下がってやってきた。その少年は気を失っている様子。                                     

 

「…魔理沙が人助けをするなんて……!明日は空から槍でも降ってきそうだわ…」

 

「私を悪人扱いしないでほしいんだぜ!とりあえず、こいつにちゃんとした応急処置を頼むぜ。私は傷口を塞ぐ程度が限界なんだぜ…。」

 

「え、えぇ。」

 縁側にあがり、二人は居間に入る。霊夢があわてて布団を敷き、魔理沙がその飢えに素早く少年を寝かせる。

 

「じゃあ私はこれで失礼するぜ。あとはまかせたぜ、霊夢!」

 

 そう言って魔理沙は少年を寝かせた部屋のふすまを閉め、博麗神社を後にする。

 

「さてっと。とりあえず傷の処置と…」

 

 

―――あれ…?俺は…一体…何を…

―――さっきのは、夢なのか?

 少年は、ぼやける視界に入る情報を精一杯脳につたえる。

―――ここは…うぅん…ここは……

「俺ん家ちじゃねぇぇ!?――ゲホッゲホッ!?」

 

「あぁ、ダメよ。まだ傷は塞がっていないんだから。しばらくは安静にしなくちゃ。」

 一人の少女が少年に声をかける。

―――傷?

「あ…」

「あら、どうしたの?って、そりゃ驚くなって方が無理よね。ここは――」

「喰われる…」

「――え?」

「怪物…!狼…怪物に…ばけものに…喰われる…!喰われる…!喰われる!嫌だ!喰われる!!あァ!あ''ァァッッッ!!アァーーーーッッッ!」

 

――ッ!?な、なによ…この霊力は!?いや――魔力…!?

 

 少年が叫ぶと同時に、霊夢が顔をしかめる。

 

「え、ええっと……とりあえず落ち着けこらぁ!」

 瞬間、霊夢が少年のうなじにチョップをかます。

 

「あ''ァー!――ああっ!?うぁうっ…うぅ……」

 

 そうして少年は再び眠りの中に落ちる。

 

「あ、あっちゃー…ま、いっか。」

 

 博麗霊夢というものは、マイペースでおおざっぱである。「うるさいわよ!」




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