「そんで紅夜よ。西住さんから独立行動の許可を貰ったって、何するってんだ?」
「やる事無かったら、やっぱ本隊に戻った方が良くねぇか?何の宛も無くウロウロしても意味ねぇし、俺等が離れたから向こうは4輌だぜ?相手14輌居るのに対して」
静まり返った市街地を、レッド・フラッグの戦車3輌が進んでいた。
《ふらふら作戦》開始後、みほから独立行動を許されたレッド・フラッグ一行は、そのまま本隊を離れて行動していたのだが、一向に黒森峰の戦車に会う兆しが見られずにいた。
「まぁ、お前等の言う事も分かるっちゃ分かるんだが、西住さんが作戦に要したのは、アヒルさんとウサギさん、それからレオポンなんだ。それに、俺等が離れているって事を連中が知ったら、そりゃ確かに向こう側は有利になると思うだろうが、同時に、何処から俺等が現れるかと言う警戒もするだろうから、もしかしたら、敵さんの戦力をさらに分散させられるかもしれないって考えてるかもしれないぜ?」
「成る程な………………つまり一部の奴等に、俺等を探させるかもしれないって事か」
独立行動に否定的なコメントを呟く達哉と翔に言葉を返す紅夜に、勘助は言った
「まぁ、そう言うこった」
「そうなれば本隊への負担も減るから良いとは思うが、そう上手くはいかないと思うぜ?何せ、フラッグ車の数は同じなんだ、他のチームなんて無視して、フラッグ車をぶっ潰す事だけ考えるかもしれん」
「それがツラいんだよなぁ………………」
勘助からの現実味溢れるコメントに、紅夜は苦笑を浮かべながら言う。
『黒森峰って練度はトップクラスだけど、結構火力任せな部分があるものね………………最初から私達の事なんて眼中に無かったりして』
「嫌な事言うなよ、黒姫」
あまり考えたくない事を言う黒姫に、紅夜はそう言った。
その頃、紅夜達レッド・フラッグの面々や、黒森峰本隊最後尾の戦車を引き受けたウサギさんチームが離れた事により、たった3輌での行動となった大洗チーム本隊は、黒森峰本隊に見つかり、狭い路地を走り回っていた。
「麻子さん、次の角を曲がってください。其所にウサギさんチームが待機していますので、後ろのエレファントを撃破してもらいます」
「了解………」
麻子は小さく返事を返し、開けた交差点を左折する。
ポルシェティーガーと八九式が後に続いて左折すると、彼女等を追う黒森峰チームは、右に隠れているウサギさんチームのM3の事など構いもせずに左折し、大洗チームを追い回す。
そうして一行は、再び道幅の狭い路地へと舞い戻った。
「レオポンさん、アヒルさん。道はかなり狭いですが、あんこうが隠れる程度で蛇行してください」
『『了解!』』
みほの指示を受けた2チームは、狭い道で小さく蛇行運転を始める。これにより、黒森峰本隊からは、Ⅳ号の姿が全く見えなくなった。
「………………ッ、邪魔よ!」
挑発するような蛇行運転に苛立ったエリカはそう怒鳴るが、ポルシェティーガーと八九式は、そんな彼女を嘲笑うかのように蛇行を止めない。
そして、とある角でⅣ号は右折し、ポルシェティーガーと八九式は、そのまま直進する。
「成る程、そう来たか………………ポルシェティーガー達を追うんだ」
先行するティーガーⅡの車内から見ていた要は、敢えてⅣ号を追おうとせずに直進させる。
そして、その直ぐ後ろに居るエリカのティーガーⅡは、右折してⅣ号を追わせた。
「此方あんこう、103地点を右折します。レオポンは373地点を右折、アヒルさんは左折。その次の角を右折してください」
『了解しました』
沙織が地図を見ながら指示を出し、2チームはその通りに動いた。
その頃、最後尾を走行していたエレファントは、その巨体故の車重からなる遅さにより、本隊からの置いてきぼりを喰らっていた。
「うわぁ~。隊長はおろか、もうヤークトティーガーの姿も見えないよ~………………」
誰も居ないと言う景色を小さな窓から眺めながら、エレファントの操縦手は言った。
「隊長のティーガーなら、整地で時速約40キロ、副隊長や謙譲さんのティーガーⅡでも、30キロ後半は出せるんだものね………………」
「それなのに此方は………………」
「時速20キロ………はぁ………」
その巨体から放たれる威圧感の割りには、車内では哀愁が漂っていた。
「来た!」
それを待ち構えていたウサギさんチームでは、最後尾の戦車が近づいてきている事に気づいた梓が合図を送る。
桂利奈は一旦M3を急発進させると、交差点への出口を塞ぐ形で躍り出る。
「ええっ!?」
いきなり現れたM3に、エレファントの車長が驚いたのも束の間。綾は即座に副砲を撃ち、正面装甲の上部分に傷をつけると、そのまま一目散に逃げ出した。
「ッ!コイツ、よくもやってくれたわね………………ッ!」
完全に喧嘩を売られたエレファントの車長はそう呟きながら、操縦手にM3を追わせる。
「ホーレホレ!遅いぞゾウさん!」
挑発するように蛇行するM3にて、あやはそう言いながら再び発砲する。
放たれた砲弾はエレファントの直ぐ横を掠めていき、お返しとばかりに88㎜砲が火を吹き、砲弾はM3の上を掠めて近くの電柱を粉々に吹っ飛ばす。
「おおーっ、怒ってる怒ってる!」
電柱を粉砕するおとが響き、あゆみがそんな感想を溢す。
「桂利奈ちゃん、この次を右折ね!」
「あい!」
「その次も次も、そのまた次も右折!」
「あいあいあーい!」
優季から立て続けに出される指示に、桂利奈も連続で返事を返す。
「昨日、徹夜で考えた作戦を実行する時が来たよ!名付けて………………」
「「「「「「《戦略大作戦》!!」」」」」」
そんなやり取りを交わしながら、M3はエレファントを上回る機動力を活かして路地を走り回り、終いにはエレファントの真後ろに回り込んでいた。
「しまった、回り込まれたぞ!超信地旋回!」
回り込まれた事に気づいたエレファントの車長が叫び、操縦手は大急ぎで方向転換させようとするものの、先述の通り、エレファントは巨大な戦車だ。路地を走り回るのがやっとの状態で方向転換など出来る筈も無く、車体前部の右側と後部の左側がコンクリートの壁にぶつかり、全く身動きが取れなくなっていた。
「よっしゃー、撃てーッ!」
「発射!」
その隙を見逃さずにゼロ距離まで接近すると、あやとあゆみは同時に発砲する。
だが、砲弾は其々バラバラの場所に着弾し、その成果も僅かに傷が付く程度でしかなかった。
「か、固すぎる………………ッ!」
「ゼロ距離で撃っても駄目なんて、もう倒しようが無いんじゃ………………ん?」
正面も無理、背後からでも無理な状況に諦めかけていた時、誰かがあゆみの肩を突っついた。
「………………」
これまで何1つとして言葉を発しなかった少女――丸山紗希(まるやま さき)――だった。
「薬莢、捨てる所………………」
小さな声で、紗希はエレファントの背面装甲中心部にある薬莢投棄用のハッチを指差した。
「おおっ、その手があったか!紗希ちゃん天才!」
それは考え付かなかったとばかりに、あやが声を上げた。
「よぉーし、そうと決まれば早速やるよ!」
「りょーかい!せーので決めてやろう!」
あやとあゆみはそう打ち合わせをして、2つの砲口をハッチに向ける。
「行くよ~………………」
「「「「「「せぇ~のぉ~でっ!!!」」」」」」
そして、同時に放たれた砲弾は狙い通りに命中し、エレファントはハッチから黒煙を上げ、次の瞬間には撃破を示す白旗が飛び出した。
「やった………………遂にやったよ、皆!」
「「「「「「イェーイッ!」」」」」」
梓の声に、他のメンバーからの歓声が上がる。
「………………ッ」
紗希も嬉しそうに、その感情の変化が乏しそうな頬を緩めるのであった。
『こ、此方エレファント!先程M3にやられました!』
「何ですって!?ちょっと何やってんのよアンタ達!!」
エレファント撃破を確認し、次の戦車を撃破せんとばかりにM3がその場を後にした頃、黒森峰本隊には、エレファントの車長からの戦況報告のための通信が入っていた。
あの重戦車が何回りも小さく、火力も防護力も格下な戦車にやられるとは思わなかったのか、エリカが声を荒くして叫ぶ。
他の戦車の乗員からも、予想外の事態に慌て出すような声が次々に上がる。
「落ち着け、冷静になるんだ!フラッグ車を狙う事に集中しろ!」
自らの視線の先で逃げ回るⅣ号の背面装甲を睨みながら、まほは無線機に向かって叫んだ。
まほの援護に向かっていたエリカ達は今、乱入してきた八九式とのカーチェイスならぬタンクチェイスの真っ只中にいた。
八九式の主砲の威力は、今居る黒森峰の戦車からすれば紙鉄砲にしかならないが、それでも執拗に撃ちまくる。
「挑発に乗るな、落ち着け!」
エリカは仲間の乗員に向かって言うが、八九式はエリカの乗るティーガーⅡの側面に体当たりを仕掛け、2輌の間で火花が散る。
「こんのォォ~~ッ!!八九式の癖にィィィッ!!」
『だからって、私のティーガーⅡにぶつけてくるなよ副隊長!そもそも挑発に乗るなとか言う以前にそっちが乗ってるじゃないか!』
「五月蝿いわよォ!」
体当たりを仕掛けてきた八九式に大人気なく怒り、そのまま押し返そうとするもののアッサリと避けられたエリカのティーガーⅡは、八九式を挟んで走っていた要のティーガーⅡにぶつかる。
それについて苦情を付けてくる要に、エリカは大人気なく怒鳴り散らす。
そうしている内にも、八九式はエリカ達の列から出て短い坂を上ると、そのまま並走しながら主砲を撃つ。
他の戦車は反撃するものの、八九式は急ブレーキで軽々と避け、さらに急加速して引き離していく。
「やーいやーい!捕まえてみろ~~!」
「待ァてェェェェエエエエエッ!!」
聞こえない筈のやり取りを交わしながら、八九式vs黒森峰戦車隊のタンクチェイスは続いた。
「撃て撃てーッ!」
その頃、ウサギさんチームはヤークトティーガーに遭遇し、背後に回り込んで攻撃を仕掛けていた。
放たれた2発の砲弾は戦闘室の背面に着弾し、ヤークトティーガーは、そのまま加速して距離を取ろうとする。
「あ、逃げたぞ!追え!」
それを追おうと、桂利奈はM3の速度を一気に上げ、その頃には、ヤークトティーガーは交差点を右折して姿を消した。
「………………ッ!停止!」
そして、交差点が近づいてきたところで異変に気づいた梓は、即座に停止命令を出す。
「ッ!?ぬぅぅううういッ!!」
突然の停止命令に驚きながらも、桂利奈はM3を急停止させようとするが、速度が乗った状態で直ぐに止まれる訳が無く、M3は履帯とアスファルトの設置部分から激しい火花を散らしながら数メートル程地面を滑り、交差点へ少し顔を出した状態で動きを止める。
そして、動きを止めた次の瞬間には、何時の間にか方向転換を終えて待ち構えていたヤークトティーガーの砲撃を受け、車体前部に大きな傷が付く。
「このままじゃ、やられる………………桂利奈、M3をバックさせて!早く!」
「あ、あいーッ!」
梓にそう言われ、桂里奈は大急ぎでM3を後退させる。
すると、交差点からヤークトティーガーがヌウッと姿を現し、そのままM3を追い始める。
「ちょっと!ヤークトの128㎜砲チョー恐いんだけど!」
徐々に迫ってくるヤークトティーガーの128㎜砲の砲口を目の当たりにしたあやはそう叫ぶ。
「離れても仕方無い………………じゃあ、くっつけば良いんだ!」
桂利奈はそう言って、M3をヤークトティーガーの車体前部にぶつけ、主砲の下に潜り込む。
暫くM3を押した後、今度は減速して距離を取ろうとする。
「あっ、今度は下がってる!」
「そうはさせるか!」
すると桂利奈も速度を落とし、先程のようにヤークトティーガーの主砲の下に潜り込ませるが、今度は逆に押され始める。
「うわっ!今度は押してきた!」
「挑発しやがって~、1年ナメんな!」
「そーだそーだ!ナメんな!」
押され始めて慌て出す桂利奈を他所に、あやとあゆみは砲撃を仕掛けるのの、ヤークトティーガーは意に介さず、さらに速度を上げてM3を押す。
「この後ろの方、ちょっとヤバイかも………………」
「何が!?」
優季が切羽詰まったような表情で呟いた。
実は、彼女等が押されている先はT字路になっており、そのガードレールを突き破った先は用水路となっているのだ。このまま押され続ければ、M3はその用水路へと真っ逆さまに突き落とされる結果を辿る事になるだろう。
「ヤークトを、西住隊長達の所に絶対行かせちゃ駄目………………此処でやっつけよう!」
そんな状態でも、ヤークトティーガーをみほ達の元へは行かせないと言う決意を固めた梓は、この場で何としてでもヤークトティーガーを撃破すると言い出した。
「でも、どうやるのさ!?」
「一か八かだけど、合図で左に曲がって………………今!」
「くぅっ!!」
梓の合図で、桂利奈はM3を左へ曲がらせるが、その一瞬の隙を突いたヤークトティーガーの砲撃を受けて吹っ飛ばされ、横倒しになって撃破と判定される。
そのまま無駄死にになるのかと、ウサギさんチームの誰もが思った時、奇跡は起きた。
何と、M3を押していた時にスピードが乗りすぎていたのだろうヤークトティーガーがガードレールを突き破って段差に車体の半分以上を乗り出し、そのまま重さと勢いに耐えきれずに用水路へと落下、主砲をへし折って裏返しになり、そのまま行動不能を示す白旗が車底から飛び出した。
ウサギさんチームは、自らがヤークトティーガーにやられるのと引き換えに、ヤークトティーガー撃破を成し遂げたのだ。