「な、何だアレは!?」
「あんなの今まで見た事ねぇぞ!」
「ちょ、おい!あのグレーの戦車の奴、髪の色が蒼くなってるぞ!?おまけに片目も蒼になってるし、建物にヒビ入れてやがるぞ!」
「一体何者なんだよ彼奴は!?」
観客席では、何メートルにもなる蒼く巨大な炎のようなオーラを噴き上げる紅夜の様子がモニターの画面一杯に映し出され、それを見た観客達から驚きの声が次々と上げられていた。
「あ……あぁ…………」
「うへぇ~、彼奴やりよったなぁ~」
モニターに映し出される紅夜の様子に圧倒される千代の隣では、蓮斗がマイペースにそう言った。
「お兄ちゃんの姿が……変わった…………?」
普段は感情の起伏が大して無い愛里寿も、流石にこれには驚いたらしい。目を見開いてパチクリと瞬きしていた。時折、両手で目を擦って再びモニターへと視線を戻すが、目に飛び込んでくる状況は全く変わっていない。
全身から蒼く巨大な炎のようなオーラを噴き上げ、髪の毛と右目を蒼く染めた紅夜の姿が其所にあった。
「あ、あれは………一体………?」
同時刻、レオポンチームのポルシェティーガーを撃破した要達は、建物後ろから立ち上る巨大なオーラに威圧されていた。
それに、建物の壁に亀裂を入れていると言う事まで加われば、そのオーラが単なる虚仮威しではないと言うのは鮮明だ。
入れられていく亀裂は止まる事を知らず、遂にはレオポンチームのポルシェティーガーの頭上へと到達していた。
「うわー、凄いねコレ。建物が崩れそうだよ」
「長門君って、つくづく人間としての常識を超えてるよね~」
「エンジンフルスロットルって感じかな?」
「いやいや。フルスロットルって言うよりかは、秒速でブローかオーバーヒートする勢いだよアレは」
今にも崩れそうな建物の真下に居るポルシェティーガーの車内では、レオポンチームのメンバーがそんな会話を交わしていた。
少しだけ開けたキューポラの隙間から、天井に亀裂が入っていく様子を見たナカジマが言うと、他の3人も言葉を返す。
言葉だけ聞けば、こんな状況でも全く動じていないように見えるが、実際はかなり動揺していた。
その証拠に、彼女等の笑みは引きつっており、冷や汗も流している。
ナカジマはペリスコープを覗き、黒森峰一行が未だに動きを見せていないのを見る。
一瞬、その隙に反撃しようと考えるものの、撃破と判定された状態では出来る筈も無い。
「さて、此処から長門君達がどのように動くのか、この特等席で見させてもらおうかな」
一旦ペリスコープから顔を離したナカジマは、車長の椅子に凭れてそう言うのであった。
「こ………紅夜………?」
立ち上るオーラに黒森峰一行が戦いている中、紅夜達レッド・フラッグでは、姿を変えた紅夜にメンバー全員が驚いていた。
パンターのキューポラから上半身を乗り出した静馬は、目を見開いて自分の幼馴染みの名を呟くが、彼からの返答は返されない。
一旦、イージーエイトのキューポラから上半身を乗り出している大河の方を見るが、彼もどうすれば良いか分からないと言わんばかりに肩を竦めるばかり。
そのため、一旦車内に引っ込もうと身を屈めた時だった。
『あ~、良い具合だ……溜まってたガスが一気に抜けたような気分だぜ…………これで、心置き無く暴れまくれるって訳だな………………』
狂気に満ちた声で紅夜が呟き、静馬は動きを止める。
先程と比べると、気だるげな声ではない様子から、オーラを撒き散らした事で不完全燃焼状態が治ったようだ。
『さて………………静馬、大河』
そう言って、紅夜は2人へと振り向く。
右目が蒼、左目が赤と言うオッドアイになった目が、2人を真っ直ぐ見つめる。
その姿から感じられる威圧感に圧倒され、生唾を飲み込みつつ、2人は次の言葉を待つ。
『これから俺等は、黒森峰の軍団に突っ込んでいく。去年の同好会試合の時と比べりゃ、戦力は当時の3倍以上だ、下手すりゃ怪我するかもしれねぇ…………覚悟は出来てるか?』
そう言われ、静馬と大河は互いに顔を見合わせる。
少しの沈黙の後に頷き合い、紅夜へと視線を戻した。
「勿論よ、隊長」
「怪我するかもしれねぇだァ?上等じゃねぇかよ。そんなんで尻込みする程、俺等は小心者じゃねぇぜ!」
2人からの返答に、紅夜は満足そうに頷く。
すると、3輌の戦車其々のエンジンが、自分達のやる気を見せつけるかの如く咆哮を上げる。
「私のパンターも、やる気満々みたいよ」
「俺のイージーエイトもな。こりゃあ、大暴れする時は期待大だぜ!」
自分達の戦車の咆哮を聞いた2人が力強く言い、それを聞いた紅夜は満足そうに頷く。
『さて………………それじゃあ、そろそろ大暴れしてやるか』
そう言うと、紅夜は視線を前に向け、目を瞑る。
緑から蒼へと変わった長髪が噴き上がるオーラに靡き、我が愛車――ISー2――のエンジンの唸りも聞こえてくる。
そして、閉じていた両目をカッと見開き、紅夜は声を上げた。
『All tanks,let's move out(全車、出撃)!!』
「「Yes,sir!!」」
紅夜の掛け声に、静馬と大河が同時に返事を返し、3輌の戦車が一斉に走り出す。角を右折すると、黒森峰の戦車隊が、出口を塞いでいるポルシェティーガーの前で足踏みしているのが見える。
『Charge(突撃)!!』
その声と共に、3輌は一気に速度を上げて黒森峰の戦車隊に突っ込んでいった。
「ッ!?副隊長!レッド・フラッグが!」
突撃してくる3輌の戦車に気づいたパンターG型の車長がそう言うが、真っ先に突撃してきた紅夜のISー2からの砲撃を受け、撃破される。
『Gotcha(よっしゃあ)!!』
122㎜の砲口から白煙を上げるISー2のキューポラから上半身を乗り出した紅夜が、蒼いオーラを纏ったままそう言った。
「くっ!早速撃破されるとは………………全車、砲撃準備が整った車両から撃て!数の勝負なら、未だ此方が勝っている!!何としても1輌たりとも残さず撃破しろ!」
『『『『『『『りょ、了解!』』』』』』』
通信を受けたエリカが指示を出し、他の戦車も砲撃準備を始め、出来次第に直ぐ様撃ち始める。
「簡単に喰らって堪るかってんだよォ!」
次々に飛んでくる砲弾を見ながら達哉は言うと、操縦捍を操作してスタントカーの如く360度回転させながら砲弾を避け、再び突進する。
「なっ!?」
「ティーガーより機動力が劣ってるISー2で、あんな挙動を………………ッ!?」
「それに、あのISー2………速度が段違いに速い………ッ!」
常識外れな挙動に戸惑っている中でも、紅夜達レッド・フラッグの猛攻は続く。
今回ばかりは暴走族一歩手前の運転をしている千早が駆るイージーエイトの砲手である煌牙が引き金を引き、1輌のパンターの履帯や転輪を粉々に吹き飛ばし、破壊された履帯が吹き飛んで道に散乱する。
「踏み台にしてやるよ!このカメ野郎!」
雅は、スコープに映るラングに向かってそう言うと、一旦フルブレーキでパンターの車体前部を沈み込ませ、次の瞬間にはアクセルを全開にする。
急な加速による挙動で、先程まで地面と接触スレスレまで沈み込んでいたパンターの車体前部は浮き上がる。
さらに、道に散乱していた履帯や転輪による段差に乗り上げたパンターは、雅がアクセルを一番奥にまで踏み込んでフルスロットルにまで引き上げ、さらにクラッチを乱暴に繋いだために車体前部が浮き上がり、ウィリーの要領でラングの車体側面に激突すると、そのままいとも簡単に乗り越えてしまう!
その後、ラングは向きを変えて静馬のパンターを撃とうとするものの、横から襲いかかってきた紅夜のISー2からの砲撃を受け、あっさりと撃破される。
「Ha-ha!この雅様にやらせりゃあ、ざっとこんなモンよぉ!!」
パンターを反転させて他の戦車へと向かわせながら、雅はそう叫んだ。
「さて、そろそろ1輌ぐらい吹っ飛ばしてやるか!」
スモーキーチームでは、イージーエイトの砲手である煌牙がスコープを覗きながら気合いを入れていた。
車長である大河も、キューポラから上半身を乗り出して撃破出来そうな黒森峰戦車を探す。
すると、此方に背を向けている1輌のヤークトパンターに目が留まる。
「良し、最初の獲物は彼奴に決定だな………………千早、2時の方向に居る、あのヤークトパンターのケツに回り込めるか?」
「結構無茶だけど………………やってみせる!」
意気込んでそう答えると、千早はイージーエイトを加速させ、例のヤークトパンターと擦れ違うと、そのまま一旦距離を取る。
「フフッ♪案外呆気ないものね!」
10メートル程離れた場所でそう言うと、千早はイージーエイトを反転させてヤークトパンターへと向かわせる。
「煌牙!絶対に当てなさい!撃ち漏らすんじゃないわよ!?」
「分かってるって、任せとけ!」
千早にそう返すと、煌牙はスコープを覗いて照準を合わせる。
「Let's give those newspapers something to write about(新聞に載せてやるよ)!」
そう言っている内に、後ろから突撃してくるイージーエイトに気づいたのか、ヤークトパンターが一旦下がってから超信地旋回で正面から向き合おうとするが、その間にも、追い抜くタイミングを見計らっていた煌牙の行進射撃をエンジングリルに受け、そのヤークトパンターは撃破される。
「Tennessee says hello(テネシー流の挨拶だぜ)!」
撃破されたヤークトパンターに、大河はそう言い放つ。
「嘘、だろ……?3倍の戦力があるのに、こんなにも追い詰められるなんて…………!」
レッド・フラッグの3輌がハリケーンの如く暴れ回り、向かってくる戦車を車種問わず片っ端から撃破していく光景を目の当たりにした要は、そのエゲツない光景に戦いていた。
全国大会1回戦における対戦校抽選会の日、戦車喫茶――『ルクレール』――にて自分が喧嘩を売った者が率いるチームが今、自分の目の前で、その猛威を振るっている。
砲撃を受け、はたまた横から激突されて横倒しにされたり、弾き飛ばされる僚機からは、援護を求める声や悲鳴が、絶えず響き渡る。
「もう、5輌も撃破されているとは………………どうやら私は、トンでもない相手に喧嘩を売ってしまったようだな…………ッ!?」
しみじみと呟いた時、突然、彼女のティーガーⅡが激しく揺れる。
砲塔側面の装甲に、ISー2の122㎜砲弾が叩き込まれたのだ!
砲撃を仕掛けたISー2は、そのままティーガーⅡの横を通り過ぎていく。
「ぐうっ!?………人が考え事をしている時に……………ッ!照準を、あのISー2に合わせろ!せめて1発でも撃ち返すぞ!」
「は、はい!」
要の指示を受け、彼女のティーガーⅡの砲手が砲塔を回転させる。
「照準、敵ISー2に合わせました!」
「良し!撃てェッ!!」
要の掛け声と共に、砲手が引き金を引く。
強烈なマズルフラッシュや爆音と共に放たれた88㎜砲弾は、砲口転換しようとしていたISー2の砲塔側面にぶち当たり、その衝撃でISー2は曲がりきれず、そのまま建物に突っ込む!
物凄い衝突音と共にISー2は砂埃の向こうに消える。
それから間を入れずして、ガラガラと大きな音が聞こえてくる。
恐らく、衝撃で建物の天井や壁が壊れたのだろう。
『ぐああっ!?』
そして、落ちてきた天井の煉瓦などが、キューポラから上半身を乗り出していた紅夜の頭に直撃する。
『あークソッ!あの野郎、やりやがったなァ!?』
落ちてきた煉瓦などで負傷し、頭から血を流しながら、紅夜はそう言う。
『達哉ァ!その壁を突き破って外に出ろ!!あの虎野郎を吹っ飛ばしてやる!!』
「あいよ!」
紅夜の指示を受け、達哉はアクセルを踏み込む。
それによって、ISー2は建物内の部屋にある机や椅子、ランプなどの家具や、部屋同士を隔てる壁など、全てを豪快に弾き飛ばし、はたまた履帯で踏み潰し、はたまた体当たりで突き破りながら速度を上げていき、終いには壁を突き破り、煉瓦や窓ガラスの破片をぶちまけながら外に出る。
『ティーガーⅡの車長!ツケを返しに来たぞ!!!』
壁を突き破った事によって飛んできた、煉瓦や窓ガラスの破片などで頬に切り傷を作り、眉間に1本の血の筋を描いた紅夜は、要に向かって怒鳴る。
傷だらけになりながらも、紅夜の闘志は弱まる事を知らず、寧ろ、さらに燃え上がっていた。
心なしか要には、紅夜の身体中を蒼白い稲妻が迸っているように見えた。
相変わらず噴き上がるオーラに威圧されるも、其処で及び腰になってなるものかと自分に鞭打ち、真っ直ぐに紅夜を見返す。
「上等だ、レッド・フラッグ!かかってこい!」
『そう来ねぇとなァ!!』
狂気に満ちた笑みを浮かべながら言う紅夜を乗せたISー2は、615馬力へと引き上げられたエンジンの咆哮を其処ら中に響かせ、マフラーから炎を噴き上げながら、要のティーガーⅡへと襲い掛かるのであった。