第118話~実家に帰ります!~
ダージリンやケイ、ノンナ、クラーラ等と言った戦車道強豪校の人物や、静馬や神子、愛里寿や蓮斗と言った友人。そして長門家全員が見舞いに訪れ、その最中に様々な出来事が起きた、1週間にも及んだ紅夜の入院生活も、無事に幕を下ろした。
元樹とも別れた今、一行は豪希が運転する車で、東京の実家を目指していた。
「この前は無理だったけど、今日こそはこうちゃんに私の料理を振る舞えるのね?」
「ああ。そうだな幽香」
助手席にて、子供のように嬉しそうな表情を浮かべながら訊ねてくる幽香に、運転席に座る豪希は頷いた。
「フフッ♪じゃあ今日の晩御飯は、何時も以上に美味しいのを作らないと………………それに、お嫁さん候補も居るものね♪」
「お、お母様……………」
嬉しそうに呟く幽香が放った『お嫁さん候補』と言う単語に、黒姫は顔を真っ赤に染め上げる。
「………………」
そんな黒姫の隣では、紅夜が窓に頭を預けて寝息を立てていた。
「こうちゃんも幸せねぇ~。こんなにも良い娘に慕ってもらえるなんて………あら?」
からかうように言う幽香だが、紅夜の方へと顔を向けた時、彼が寝ている事に気づく。
「こうちゃんったら、もう寝てるわ……そんなに疲れたのかしらね…………?」
「どうだろうな?コイツ車の中ではしょっちゅう寝るから、疲れたから寝てるのか、単に寝たかっただけなのか……………その辺りは全く分からん」
寝ている紅夜について問い掛けてくる幽香にそう答え、豪希は肩を竦めてみせた。
「ああ、そう言えば黒姫ちゃん」
「は、はい!?」
不意に豪希に話しかけられ、黒姫はビクリと反応した。
「おいおい、そんな驚かなくても良いだろうに………………」
豪希はそう言って苦笑を浮かべると、話を続けた。
「お前さんの部屋についてなんだが、一応、綾………………ああ、紅夜(コイツ)の妹の事なんだが、ソイツが使ってた部屋が空いてるんだ。寝る時は其所を使えば良い」
「あ、ありがとうございます。お父様………」
黒姫は複雑そうな表情で礼を言う。
本音を言えば、自らが慕う主と閨を共にしたかったのだが、泊めてもらう手前、そのような我儘を言う訳にはいかない。そのため、豪希の言う事に従おうと思って答えたのだが、其処で幽香が待ったをかけた。
「アナタ、流石にそれは無いわよ」
「ん?どういう事だ?」
いきなりの幽香のダメ出しに戸惑いを見せる豪希。
「黒姫ちゃんはこうちゃんのお嫁さん候補なんだから、一緒の部屋で寝かせて上げるのが筋と言うものでしょう?本人もそうしたいって顔してるわよ?」
「ッ!?」
自分の考えが読まれていた事に、黒姫は顔を真っ赤に染めて目を見開くが、暫くの無言の後、ゆっくりと頷く。
「ハハッ。何だ、そうだったのか?それならそうと、言ってくれりゃ良かったのになぁ……」
豪希がからかうように言うと、黒姫は恥ずかしそうに俯いた。
「やれやれ、紅夜の奴。静馬ちゃんのみならず、こんな良い娘にも慕われて………………コイツ、一体誰と結婚するつもりなんだろうな?」
「さぁね……なんなら、こうちゃんに惚れてる娘全員と結婚させちゃうのはどう?」
「いやいや、んなモンどうやったって無理だろ」
何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべながら、豪希はそう言った。
その後、紅夜に次いで寝てしまった黒姫と幽香を微笑ましそうに見ながら、豪希は世田谷の実家へ向けて、車を走らせた。
「さぁ着いたぞ。ホラ、起きろ起きろ」
約2時間のドライブを経て、一行は家へと到着する。
家の前の駐車スペースに車を止め、エンジンを切った豪希はスマホを取り出すと、時間を確認する。
「ふむ、7時半か…………」
そう呟き、豪希はスマホをズボンのポケットに押し込む。
その傍らで、眠い目を擦りながら起きた幽香と黒姫が、先に家に入っていく。
そして、少し遅れて車から降りた紅夜が家に入ろうとした時だった。
「ああ、ちょっと待て紅夜」
「んー?」
家に入ろうとした紅夜を、豪希が呼び止める。紅夜は眠そうな声で返事を返した。
「こうして帰ってきたんだ。久々に、“コイツ”のエンジン音を聞きたくねぇか?」
豪希はそう言うと、車の隣に大きなシートをかけられている“モノ”を指差す。
「あー…………いや、今日は止めとくよ。今日は飯食って風呂入ったらさっさと寝る」
「お前、車の中でも寝てただろうが」
「それはそれ、これはこれ」
そんな会話を交わしながら、2人も家に入っていった。
「さて、久々にこうちゃんにご飯を振る舞えるんだから、腕によりをかけなくちゃね!」
車から降りてきた時の眠たげな表情は何処へやら、すっかり調子を取り戻した幽香は、エプロンを着ながらそう言った。
「お袋、急に元気になったな。さっきまでスッゲー眠そうだったのに」
車から降りてきた時からは考え付かない程に元気の良い母親の姿に、紅夜は唖然としながら言った。
「だって、久し振りにこうちゃんにご飯を振る舞えるんだもの。眠気なんて、直ぐに覚めるわ♪」
「ま、マジですか………(高々俺1人家に来ただけで、あんなにも張り切るお袋って一体………)」
そう答える幽香に、紅夜は何とも言えないような気分だった。
「まあまあ紅夜、取り敢えず席に座れや。これはお前の退院祝いみたいなモンなんだからよ。ホラ、黒姫ちゃんも座りな」
「で、ですがお父様。私も何かお手伝いを……………」
自分も手伝うと言い出す黒姫だが、豪希は首を横に振った。
「良いって良いって。今日は幽香に全部任せな」
そう言う豪希に椅子を勧められ、2人は言われるがままに、椅子に腰かけた。
その後料理が運ばれ、紅夜は3年ぶりに、母親の料理を口に含むのであった。
「………暇ねぇ」
「ああ、暇だなぁ」
その頃、大洗女子学園の学園艦にある紅夜の家のリビングでは、2人の女性が退屈そうにソファーに座り、暇をもて余していた。
「レッド1とコマンダー、何時帰ってくるのかしらね?」
「さぁ?俺にも分からん」
金髪碧眼の女性が訊ねると、左目を赤い眼帯で覆っている女性が肩を竦めてみせる。
「そういやレッド2。お前レッド1を呼びに行った時に、レッド1より少し後に降りてきたじゃねぇかよ。何してたんだ?」
「ああ、コマンダーの机からノートが落ちてね。それが日記だったから読もうとしてたのよ」
「………………そう言うモンって、勝手に見ても良いのか?」
「なぁに、バレなければ問題じゃないのよ。まぁ未遂に終わったけどね」
そう言って、懐から日記と思わしきノートを取り出すレッド2。
「持ってきてたのかよ…………」
「さっきコマンダーの部屋に行った時に拝借したのよ………………さて、どんな事が書かれているのかしらね~」
レッド2がそう言いながらノートを開くと、それに興味が湧いたのか、レッド3が隣に近づく。
そして、レッド2が最初のページを開く。
「こ、これは……っ!」
「っ!」
その文章を見た瞬間、2人の目が大きく見開かれた。
何故なら、そのページに書かれている文章の内容が、紅夜が森の中に放置されていた自分達を見つけた時の事だったからだ。
その次のページへ、さらに次へとページを捲っていく2人。
そして、そのノートの全てのページを見終わると、レッド2はノートを閉じた。
「……全部、私達の事が書かれていたわね…………ホント、コマンダーの戦車好きときたら………………」
「ああ………俺等を見つけた時の事から、修理した事や、試合の事も………それに、大洗のチームに加わってからの事も書かれてたな………………それにしても彼奴、どんだけ俺等の事好きなんだよ………」
言葉の割には嬉しそうに言う2人の顔は、赤く染まっていた。
「それにしても、日記とは言えあんな事書かれちゃ………………俺、彼奴が帰ってきたら襲っちまいそうだぜ」
「それについては同感よ、レッド3」
そんな会話を交わしながら、2人は紅夜が帰ってくる日に想いを馳せた。
「そんじゃ寝るか。明日は教習所に行くんだからな」
東京の実家では、夕食を終え、さらに風呂を終えた紅夜が部屋に上がろうとしていた。
「黒姫、お前は誰の部屋で寝るんだ?」
「え?……そ、それは……その………………」
顔を真っ赤にして視線を右往左往させる黒姫に首を傾げる紅夜だが、其処へ幽香が声を掛けてきた。
「こうちゃん。黒姫ちゃんは貴方と一緒に寝たいそうよ?」
「お、お母様!」
恥ずかしさからか声を張り上げる黒姫だが、幽香は微笑ましそうに笑っているだけだった。
「あら、車の中では頷いてたじゃない。それとも、やっぱりこうちゃんとは別々の部屋で寝る?」
「ッ!?そ、それは………………」
「おい、お袋。あまり黒姫を苛めてやんなよ」
「フフッ♪ごめんなさい。でも、反応が可愛いんだもの♪」
反省の色が見られない謝罪を入れる幽香に、紅夜は呆れたと言わんばかりの溜め息をついた。
「やれやれ、お袋の癖は治らねぇなぁ………………黒姫、もうこの際だから一緒に寝ようぜ」
「ッ!?う、うん…………」
そうして紅夜は、顔を真っ赤にしている黒姫を伴って2階に上がっていった。
「若いわねぇ~」
「だな~」
そんな2人を、豪希と幽香は微笑ましそうに見ているのであった。
「よっと……………良し、こんなモンで良いか」
2階に上がった2人は、綾の部屋から布団を持ってきていた。
ベッドは学園艦の家にあるため、紅夜も布団で寝るのだ。
「にしても黒姫、勢いで一緒に寝るとか言っちまったが、ホントに良いのか?嫌なら綾の部屋に持っていくが………………」
紅夜がそう言いかけると、黒姫は首を横に振った。
「ううん。ご主人様と一緒に寝たいの………………」
「そっか。なら寝るか」
「うん!」
そうして、2人は先ず敷布団を広げ、枕を置き、最後に掛け布団を広げる。
暑くならないようにと、其々が寝る布団同士の間を空けようとした紅夜だが、黒姫の要望により、くっつける事にした。
そして電気を消すと、2人は布団に入った。
「ふわぁ~あ…………そんじゃあ先に寝るよ……」
入って早々大欠伸をした紅夜は、その言葉から大した間も空けずに眠りにつく。
対照的に、中々寝付けない黒姫は、自分の身を紅夜の方へと寄せ、抱き締める。
「ご主人様………………愛してる」
そう言うと、黒姫は紅夜の額にキスを贈り、そのまま眠りについた。
「あらあら、黒姫ちゃんもお盛んねぇ~。結婚したての私達みたい」
「ああ、そうだな………………そんじゃ、俺等も2人のようにして寝るか」
「あら、それは良いわね♪私の体がイヤらしいからって、襲っちゃ嫌よ?」
「分かってるって」
その光景が両親に見られている事に気づく事は、決して無いだろう。