静馬達、レッド・フラッグ女子陣と生徒会メンバーとの接触から3日後の夕方、山林にある、レッド・フラッグの戦車の格納庫前にて、レッド・フラッグ男子陣は集まっていた。
「なあ、紅夜。ホントに来るのか?大洗女子学園の生徒会の人達って」
格納庫の外に出された3輌の戦車のうち、スモーキーチームの戦車、シャーマン・イージーエイトの砲身にぶら下がっている、達哉程の長さで、フサフサと逆立っている黒髪に金色の瞳を持つ青年、和泉 煌牙(いずみ こうが)は言った。
「ああ、静馬達曰く、今日来るだとさ。なんでも戦車道の教官さんも引き連れてくるんだと」
「それはそれは、随分と必死なんだな」
煌牙の質問に答えた紅夜に、他人事のような返事が、シャーマンの砲塔に腰かけている、少し黒みを帯びた赤い瞳に、比較的長めの黒髪が特徴の青年、冴島 新羅(さえじま しらぎ)から返される。
そんな会話を交わしながら、彼等は暇潰しとばかりに思い思いの時間を過ごしていた。
紅夜は集めてきたゴミ箱でのドラム演奏、他のライトニングのメンバーはゲームでの通信対戦、スモーキーの男子3人に至っては昼寝を始めていた。
そして1時間後………………………
「やあやあ!遅くなってゴメンね~!」
「おーおー、遂に来なすったぜ……………ほら、起きろお前等」
紅夜はそう言って、手を振りながら近づいてくる杏と、その後ろで歩いてくる桃と、おっとりした雰囲気を感じさせる小山 柚子(こやま ゆず)、そして、自衛官らしき服を着た女性を視界に捉えた。
そして紅夜は、昼寝をしていたスモーキーの男子陣を叩き起こした。
「えー、須藤ちゃんから話は聞いてると思うんだけど、私は角谷杏。大洗女子学園の生徒会長だよ!んで、此方の片眼鏡の子が……………」
「河嶋桃だ。生徒会広報をしている」
「小山柚子です。生徒会副会長をしています」
3人が名乗ると、自衛官らしき服を着た女性が前に出てきた。
「それで、私が蝶野 亜美(ちょうの あみ)。大洗女子学園戦車道の教官をしているわ。よろしくね」
亜美が笑みを浮かべながら言うと、紅夜が警戒した目をしながらも、前に出て言った。
「戦車道同好会チーム《RED FLAG》隊長兼《Lightning》車長、長門紅夜です」
淡々としか言わない紅夜に、杏は笑いながら声をかけた。
「まあまあ、そんなに警戒しなくても良いじゃん。別に私達は、喧嘩売りに来た訳じゃないんだよ~?ほら、スマイルスマイル~!」
「それは良いですから、取り敢えず、本題に入ってください」
「つれないな~」
そう言いながら、杏は1歩下がって言った。
「えー、須藤ちゃんから話は聞いてると思うんだけど、君達レッド・フラッグの皆には、私達大洗女子学園の戦車道チームに入ってほしいんだ」
「ほう……………その理由は?」
紅夜が言うと、杏は少し間を空けて言った。
「えーっと、私達って戦車道の授業を最近になって復活させたばっかで、あまり戦車道経験者は、今のところは西住みほちゃんただ1人しか居ないんだ。それで、更なる腕の上昇のためで、君達の戦車道の腕を見込んで……………って言うのはダメかな?それにほら、この前須藤ちゃん達呼んだ時もさ、君が戦車道やるならやっても良いって言ってたんだ。という訳で、ここは1つ、隊長である君に、良い返事を貰いたくてね」
「…………静馬達と話をしたなら、俺達が表舞台から姿を消した理由も、彼奴等から聞いていると思うのですが?」
「理由?んにゃ、聞いてないよ?君達が表舞台に出る気がないって事だけ」
「そうですか」
そう言って、紅夜は溜め息をついた。
「因みに、その理由とやらを聞かせてはもらえないかな?」
「………………良いですよ」
そうして紅夜は、表舞台から手を引き、もう表舞台には出ないと決めた理由を話した。
『戦車道は女子のスポーツ』という風潮が広まる中で発足したレッド・フラッグは、当初こそは『異例』と呼ばれていたが、高いスペックを持つ戦車や、それが無駄にならないような戦い方による勝利を何度も見せつけていく中で、次第に認められていったのだが、風潮が乱れ、戦車道がどのようなスポーツなのかという疑問が殺到するという混乱を恐れた連盟から、引退を要求されたのだ。
『戦車道は女子の嗜み』、戦車道には、それを女性がすることによる利点が述べられていても、男性のは述べられていない。
そのため、男性が戦車道をしても、特に何の利点もないばかりか、逆に戦車道というものについて分からなくなるだけだとも言われ、まるではした金と言わんばかりに、戦車の維持費、砲弾、燃料の補充等の費用を負担するという事だけ言われ、そのまま戦車道同好会のリストから、レッド・フラッグはつまみ出される結果となったのだ。
「………………そんな連中が見ているような公式戦に、また出ろと言うのですか?」
紅夜の赤い目が鋭さを増して、4人を睨み付ける。その鋭い眼光に、紅夜達を説得しに来た一行は怯む。
そんな紅夜の目を見ながら、杏は考えていた。
「(ふーむ、確かにそれは酷い話だねぇ。彼等があんなに怒るのも、それで試合への意欲を失うのも無理はない…………でも、それでも彼等は戦車道が好きだった筈だ。でも、今の彼等からは、戦車道の試合へ向ける灯が、ほぼ消えている………………でも、なんでかな……………彼等、口ではやりたくないとか言ってるけど、まだ続けていたいという気も僅かに感じる……………その気持ちが再び燃え上がるような出来事って、何かないかなぁ………………流石に、その実力を廃らせるのは勿体無いし、連盟に追い出されたからって戦車道から全面的にシャットアウトするなんて、間違ってるし……………)」
杏がそう考えていると、不意に、横から声がした。
「じゃあ、明日の土曜日、私達大洗女子学園戦車道チームと試合をしてみない?」
『『『『『え?』』』』』
亜美の提案に、男子陣と生徒会の3人の声が重なった。
「私達との試合なら、別に表舞台じゃないし、一言で言えば非公式だから、誰かに文句言われる事はないわ。これなら問題ないでしょう?」
「ええ、確かにそうですが……………休日なのに良いんですか?」
「まあ、たまには良いでしょう!それに、戦車道やれば、男子にモテるとも言われてるものね!」
「それ、ただの迷信でしょうに……………」
『『『『『『同感』』』』』』
亜美の言葉に、紅夜が冷めた声でのツッコミを入れる。他の男子陣も、それに相槌を打っていた。
生徒会のメンバーについては、全員苦笑いを浮かべていた。
「まぁ、非公式なら問題ないし、久々に練習試合やるってのも、悪くはねえな…………」
紅夜はそう呟くと、後ろに居るチームメイトの方を向いた。
それを見た男子陣は、力強く頷いて親指を立てる。
それに紅夜も頷き、親指を立てると、杏達の方を向いて言った。
「分かりました。その勝負、受けましょう」
「よーし決まりだね!じゃあ、負けたら君達には、大洗女子学園戦車道チームに加わってもらうよ~」
「そう来ましたか……………まぁ良いでしょう。じゃあ、俺等が勝ったらどうするんです?」
「そうだねぇ………………君達レッド・フラッグのメンバー全員の前で、大洗女子学園戦車道チームのメンバー全員、教官含めてアンコウ踊りでもやろっか!」
「ええっ!?」
「か、会長!本気ですか!?」
「うん!此方は人の決めた事に土足で踏み込んで条件出したんだから、此方もそれなりにリスクがある罰ゲームにしないとフェアじゃないっしょ!」
「いやぁああ~!あんなの踊ったら、もうお嫁に行けない~!」
杏の提案に、桃と柚子、亜美が悲鳴を上げる中、男子陣は………………
「なあ、アンコウ踊りって何だ?」
『『『『『『さあ?知らね』』』』』』
この大洗学園艦に住んでいるのに何故か知らない、アンコウ踊りという未知の単語について、首を傾げていた。
「じゃあ、土曜日に大洗女子学園の格納庫前に来てね。裏門開けておくから、其所から入ってきてね~」
「了解です」
そう紅夜が答えると、杏は何処からとも無く取り出したメモ用紙に何かを書き付けると、それを紅夜に渡して言った。
「それ、私の携帯番号。何かあったら連絡チョーダイ。そんじゃねー!」
「邪魔したな」
「失礼します。ホラ教官、行きますよ」
そうして、杏達は未だに絶望したような表情の亜美を引き摺って戻っていった。
その後、学園に帰っていった杏達を見送った彼等は、静馬達に連絡を入れた後、男子陣全員でアンコウ踊りについての動画をY○uTu○eで見たのだが、それを見た全員が腹を抱えて大爆笑したのは余談である。