ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第131話~救出します!~

 時は夜。夏が近づいているとは言え、未だ若干肌寒い夜であるこの日、聖グロリアーナ学園艦の昇降用ドック付近にある、今では使われていない建物の4階にある大広間に、その青年――長門 紅夜――は、誘拐されたアッサムの救出と、不良グループ殲滅の任務を背負ってやって来た。

 4階へ向かう階段を上がる途中に突っ掛かってきた男を4階に殴り飛ばし、階段を上がり終えた彼は其所で、下着姿にされたアッサムと、今にも彼女を襲おうとしている、不良グループのリーダー格の男。そして、その手下である男達を見つける。

 

「……ククッ…………There you are(見つけたぜ).」

 

 探していた獲物を見つけ、暗闇の中故に不良グループの面々からは見えない、整った中性的な顔を狂気に染める紅夜。

 若干下を向いているためか、目を覆うようにして垂れた、鮮やかな緑髪の下で、彼の持つルビーのように赤い瞳が光る。

 今此処に、大洗最強の殺戮嵐(ジェノサイド)が君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、誰だテメェは!?」

 

 紅夜を視界に捉えたリーダー格の男は、右手で紅夜を指差して叫ぶ。

 

「俺か?俺はな………………」

 

 紅夜はそう言いかけると、下を向けていた顔を一気に上げて緑髪を翻し、露になった赤い瞳で不良グループの面々を見据えて言った。

 

「………………趣味で戦車道をやっている者だ」

『『『『『………………はぁ?』』』』』

 

 紅夜がそう言うと、男達は間の抜けた声を出して互いを見合う。

 彼等の顔はあちこちに向けられ、恐らくメンバー全員と見合っていただろう。

 

『『『『『………………』』』』』

 

 そして、互いを見終わったのか、紅夜へと視線を戻した男達は………………

 

『『『『『ギャハハハハハハハッ!!』』』』』

 

………………下品な声で笑い出した。

 

「戦車道って、あの戦車道か!?」

「《女子の嗜み》って呼ばれてる、あれかぁ!?」

「女のスポーツなのに男がやるとか………やべっ、クソ笑える!」

「コイツ、体は男で心は女って奴かァ?」

「うっわ、キモッ!」

 

 腹を抱えて爆笑しながら口々に言う男達。

 紅夜率いる戦車道チーム――《RED FLAG》――の事を知っているアッサムは、大笑いする男達を睨み、今度は紅夜に、すまなさそうな視線を向けた。

 

「………………」

 

 紅夜は目を瞑って首を小さく横に振ると、右足を軽く上げ………………

 

「五月蝿ぇよ、少し黙れやテメェ等」

 

 短い一言と共に、右足をコンクリートの床に叩きつけた。

 右足は床にめり込み、其所から大笑いする男達の方へと亀裂が走っていく。

 

「うわっと!」

「な、何だこりゃ!?」

「お、おい!床に亀裂走ってやがるぞ!」

 

 自分達の方に向かってくる床の亀裂を見た男達は怯み、2、3歩程後退りする。

 それはリーダー格の男も例外ではなく、それによって出来た一瞬の隙を突いて、アッサムは勢い良く回れ右をすると、後ろを振り返る事無く走り出し、途中で落ちていた制服とスカートを拾って紅夜の後ろに隠れる。

 

 紅夜は目をアッサムの方に向けて訊ねた。

 

「………確認するのが遅れたが、怪我は無いか?」

「ええ。服が破かれましたが、体の方は無事です」

 

 アッサムがそう答えると、紅夜は安堵の溜め息をついた。

 

「そりゃ良かった。お前が傷物になってたら、ダージリンさん達が悲しむからな」

「…と言う事は………ダージリン様が、貴方を………?」

 

 そう訊ねるアッサムに、紅夜は頷いた。

 

「友人とツーリングしてたら、いきなり電話掛かってきてな。出たら急に、聖グロの学園艦に来てくれなんて言われるし、いざ行ってみれば、今度はお前を助けてやってくれと言われたよ」

「………申し訳ありません」

 

 そう言うアッサムだが、紅夜は首を横に振った。

 

「別に構わねぇよ。状況が状況だからな………………まぁ取り敢えず、これ羽織ってろ。流石に上から下まで下着姿じゃ、腹壊すからな」

 

 そう言うと、紅夜は羽織っていたパンツァージャケットを脱いでアッサムに羽織らせる。

 

「さてと………………そんじゃあアッサムさんも無事が確認出来たところで………………最初の任務を終わらせますかぁ!」

 

 紅夜はそう言うと、肩に担いでいたバールを捨てて走り出し、とある壁の一面へと向かっていく。

 壁が少しずつ近づいてくると、右手に握り拳を作って大きく振りかぶる。

 

「そぉ~ら、よっとぉ!」

 

 そして、壁がゼロ距離にまで迫った時、その拳で壁を殴り付けた。

 轟音と共に砂埃が舞い上がり、紅夜と壁が砂埃の向こうに消える。

 

「な、何だ彼奴?」

「気でも狂ったのか?壁殴っても意味ねぇだろうに………」

 

 そんな紅夜の行動に、不良グループの面々は不思議そうに首を傾げていたが、当の目的を忘れていない者も当然ながら居る訳で………

 

「お、おい。何か良く分からねぇが、今ならヤれるんじゃね?」

「た、確かにな。あのガキは砂埃の向こうに消えやがったんだ、ちゃちゃっと捕まえて、俺等をコケにしやがった分、思いっきり犯してやらねぇとな!」

 

 そんな卑猥な会話を交わした、ある2人の男が、1人残されたアッサムへと襲い掛かった――――

 

「おいコラァ、何してやがんだテメェ等」

「がはっ!」

「ぐぇえッ!?」

 

――――のだが、その砂埃の中から、あたかも壁を突き破るようにして飛び出してきた紅夜が彼等とアッサムの間に割って入り、その内の右側に居た男には強烈な右ストレートを喰らわせ、左側に居た男には、左腕でのラリアットを喰らわせる。

 右ストレートを喰らった男は、そのまま右方向へと吹っ飛ばされて横向きに倒れ、ラリアットを喰らった男は、その場に仰向けに倒れる。

 

「さぁて、邪魔物はブッ倒して、臨時の非常口も出来たところで………おいアッサムさん、行くぞ!」

「え?あの、行くってどちらヘ…………きゃあっ!?」

 

 最後まで言い終える前に、紅夜に横抱きにされたアッサムは、可愛らしい悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め上げる。

 

「い、いきなり何を!?」

「ちょっと口閉じてろ!変に喋ったら舌噛むぞ!」

 

 そう言うと、紅夜はアッサムを抱いたまま、先程殴り付けた壁へと走り出した。

 彼の行く先に壁は無く、代わりに巨大な穴が開けられており、その先には、光り輝く満点の星空と学園艦に立ち並ぶ町並みが一望出来た。

 それに視線を下へ向けると、紅夜と蓮斗が乗ってきた陸王と、それの側車に座って退屈そうにしている蓮斗が見えた。

 

 紅夜は床の先のまで足をつけると、一瞬膝を曲げて勢いをつけ、そのまま穴から飛び出した。

 

「ッ!きゃあああああああっ!!?」

 

 その事に、アッサムは先程まで赤かった顔を青ざめさせ、そのまま甲高く悲鳴を上げた。

 それもその筈。何せ、今の紅夜の行動が意味するのは、“アッサムを抱いたまま、4階から飛び降りる”と言う事。

 2階からでも十分恐かろうに、4階から飛び降りて悲鳴を上げない者が居ようか、いや居ない。

 もし居たら、その者は余程度胸のある人間か、自殺願望者のどちらかである。

 

「死にたくない!死にたくありません!」

 

 アッサムはパニックに陥り、目尻に大粒の涙を浮かべて『死にたくない』と連呼しながら、紅夜の腕の中でじたばた暴れる。

 

「落ち着け、大丈夫だ!ちゃんと着地するから!」

 

 落ちながら紅夜は言うが、アッサムは聞く耳を持たずに首を横に振るばかりだ。

 

「そんなの出来る筈がありません!あんな高さから飛び降りるなんて、自殺行為以外の何物でもありませんわ!これで死んだら、どう責任を取って………………!?」

 

 ヒステリックに叫び、ただ暴れるアッサム。だがそれは、紅夜が彼女をキツく抱き締めた事によって一気に収まる。

 

「安心しろ!俺だって、その辺りもちゃんと分かった上で飛び降りてんだ!それに少なくとも、お前だけはぜってぇ死なせるか!俺が下敷きになってでも守ってやる!!だからッ………………俺を信じろ、アッサム!!」

「~~~~~~ッ!?」

 

 紅夜がそう叫ぶと、アッサムは声にならない悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め上げ、完全に大人しくなった。

 

 そうしている内に、地面はどんどん近づいてくる。

 

「この速度じゃ、ちょっと厳しいか………………『ならッ!』」

 

 紅夜はそう言うと、知波単との練習試合があった時期、アウトレット付き添いでに行く男子を決める際のごたごたで見せた金色のオーラを纏い、そのまま両足の裏を地面に打ち付けた。

 轟音が響き渡り、砂埃が舞い上がる。

 

「おいおい、マジかよ紅夜…………死んでねぇよな?」

 

 それを間近でみていた蓮斗は、驚愕のあまりに目を丸く見開き、そのまま陸王の側車から飛び降りると、砂埃が上がっている場所へと駆け寄る。

 

「おい紅夜!聖グロの嬢ちゃん!無事か!?」

 

 もくもくと舞い上がる砂埃の向こうに居るであろう2人に、蓮斗はそう呼び掛ける。

 

「こりゃ、マジでヤバいな…………急いで聖グロの学校に行って、あのダージリンって娘に救急車を……『その必要はねぇよ、蓮斗』……ッ!紅夜!」

 

 瞬間移動で学校へと戻り、ダージリンに救急車を呼ばせようとした蓮斗だが、砂埃の向こうからそんな声が聞こえ、その次の瞬間には、舞い上がっていた砂埃が一瞬にして吹き飛ばされ、金色のオーラを纏って金髪碧眼に変わった紅夜と、彼に抱き抱えられたアッサムが姿を現した。

 

「おぉ、良かった!お前等、無事だったんだな!」

 

 蓮斗はそう言いながら、紅夜とアッサムの肩を叩いた。

 

『まぁな……だが、これが通常状態だったら、ちょっとヤバかったかもしれねぇな』

 

 紅夜はそう言うと、纏っていたオーラをしまって、何時も通りの緑髪と赤い瞳に戻す。

 そして、アッサムを地面にゆっくりと、地面に下ろした。

 

「取り敢えずアッサムさん、シャツの方はボタン新しく付けねぇと使えんだろうから、一先ず俺の使っとけ」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 アッサムはそう言うと、一旦シャツを地面に置き、紅夜から羽織らされたパンツァージャケットのファスナーを上げて、形の良い胸と、それを覆う下着を隠し、スカートを穿こうとするのだが、其処で紅夜達の方へと顔を向けた。

 

「あ、あの……すみませんが、向こうを向いてもらえますか…………?」

「ん?……あー、成る程ね。了解」

「あいよ、そんじゃ穿いたら教えてくれ」

 

 恥ずかしそうに言うアッサムにそう返すと、紅夜と蓮斗はアッサムが視界に入らない方向を向き、それを確認したアッサムは、スカートを穿き始めた。

 

「………良し………もう、良いですよ」

 

 大して掛からぬ内にそう言われ、2人は振り向いた。

 

「おっ、スカートは無事だったんだな。良かった良かった」

 

 多少汚れてはいるものの、大した傷が見られないスカートを見て、紅夜は腕を組んでウンウンと頷きながら言った。

 

「スカートが無事なのは良かったが、制服の上着がな……それに白いシャツも、ボタンが粗方どっかに弾け飛んじまったらしいし……」

 

 蓮斗はそう言うと、シャツの上に置かれている青い上着を気の毒そうに見る。

 その上着は左右に引き裂かれており、その損傷具合は、“ボタンを直したり、避けた一部を縫い合わせば何とかなる”程度の損傷ではなかった。

 

「えっと………ゴメンな、アッサムさん。もう少し早く来ていれば、何れもこれも無傷だったってのに」

「気にしないでください。そもそも貴方は、遠い大洗の学園艦から態々来てくださったのです。その辺りについての文句を言うのは、野暮と言うものですわ」

 

 すまなさそうに頭を下げながら言う紅夜に、アッサムは微笑みながらそう言った。

 

「さてと………………それじゃ蓮斗、後は頼んだぜ?」

「「えっ?」」

 

 突然の紅夜の言葉に、蓮斗とアッサムは揃って間の抜けた声を出す。

 

「『後は頼んだ』って………………何する気だよ?」

「決まってるだろ?」

 

 紅夜はそう言うと、4階に大穴が空いた建物へと視線を移す。

 その建物から、先程の男達がゾロゾロと出てきて此方に向かってきていた。

 

「彼奴等を片付ける。だから蓮斗、お前はアッサムさんを学校まで送っといてくれ」

 

 紅夜はそう言うと、アッサムへと視線を移す。彼女も紅夜の方を見ており、心配そうな表情を浮かべていた。

 

「おいおい、そんな顔しないでくれよ。別に死にに行くんじゃねぇんだから」

「ですが!相手は未だ8人居るんですよ!?貴方も逃げた方が…「何言ってんだよ」…ッ!?」

 

 紅夜に言葉を遮られ、アッサムは口を閉じる。

 

「今此処で全員ぶちのめしておかなきゃ、明日からまたやるかもしれねぇんだぞ?なら、今日中に潰しておく方が良い………………俺なら大丈夫だから、心配すんな」

 

 紅夜はそう言うと、蓮斗に視線を向けた。

 

「さぁ、蓮斗。行ってくれ」

「………………あいよ」

 

 蓮斗はそう言うと、アッサムの肩に軽く触れて、瞬間移動で学校へと転移していった。

 

「ふぅ………そんじゃ、此方の仕事も終わらせる」

 

 そう言う紅夜を、何時の間にか男達が取り囲んでいる。

 

「テメェ、よくも俺等の計画を邪魔してくれやがったな……生きて帰れると思ってんじゃねぇぞ!」

 

 リーダー格の男がそう言うと、手下の男達が、紅夜に襲い掛からんとばかりに構える。

 

「計画だぁ?ただアッサムさんの体や心に、一生消えねぇ傷をつけようとしただけの何が計画だっつーの」

「五月蝿ぇ!清楚ぶってるお嬢様に1発仕込んでやる事の何が悪い!」

「全部だよボケが」

 

 呆れたように言う紅夜に男の1人が反論すると、即答で返事が返される。

 

「やれやれ、こんな連中に使うのは惜しいが………………『ちょっとばかりお仕置きが必要みてぇだなぁ………………』」

 

 ドスの効いた声で紅夜が言うと、足元から炎が吹き上がるかの如く紅蓮のオーラが吹き上がり、紅夜を包む。

 それに伴って突風が吹き荒れ、紅夜が立っている地面が軽く沈んだ。

 

「ぐおっ!」

「な、何だいきなり!?」

「クソッ!何がどうなってやがる!」

 

 あまりにも強い突風に耐えきれず、男が数人吹き飛ばされる中、何とか堪えている男達は、腕で目を覆う。

 

 そして突風が止み、耐えきった男達は目を覆っていた腕をゆっくりと退け、吹き飛ばされた男達は続々と起き上がる。

 

「イテテテ……一体何が起こって………………!?」

 

 起き上がった男の1人は、紅夜の姿を視界に捉えて目を見開いた。

 

『………………』

 

 彼等の目の前には、紅蓮のオーラを纏い、鮮やかな緑髪をオーラと同じ赤色に染めた紅夜が、目を瞑った状態で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 殺戮嵐(ジェノサイド)、此処に君臨。

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