土曜日、1日の始まりを感じさせる朝日を浴びながら、レッド・フラッグのメンバー、総勢14人を乗せた3輌の戦車は、全速力で山林の坂道を駆け下り、そのまま速度を落とすことなく吊り橋を突っ切る。
その吊り橋は、以前行われた、大洗女子学園戦車道チームの模擬戦で損傷した橋である。
その部分は模擬戦の後日、専門の整備士によって直されていたとは言え、3輌の戦車が猛スピードで突進していけば揺れるのは確実。
それでも落ちず、かと言って車体を落下防止のためのワイヤーに擦ることなく渡りきるのは、長年の試合で磨き上げられた、操縦技術の賜物と言えるだろう。
現に、彼等は現役時代、コンクリートの道は勿論、砂利道や雪道、沼地、岩場等、数々の悪路を走破してきたのだ。その道中には、橋がある事もあれば、川を渡らなければならない事もある。
先日行われた、大洗での模擬戦でみほ達のチームが橋を渡ろうとしていたが、その際には車体をワイヤーに接触させていたが、様々な悪路や川、橋を走破してきた彼等からすれば、このような橋を渡りきるのは当たり前なのだろう。
橋を突っ切った一行は、そのまま道に沿って全速力で突き進み、極めつけにはショートカットとして、道から外れて茂みの壁を突き破り、大洗女子学園戦車道チームの戦車の格納庫が見えるグラウンドへと飛び出す。
ガレージの前では、既に5輌の戦車を外に出した、今日の対戦相手達が居るのが見える。
大洗のメンバーは、いきなり現れた3輌の戦車に驚いているようだ。
操縦手用の覗き口から彼女等の姿を捉えた其々の操縦手は、アクセルペダルをさらに踏み込む。
3輌の戦車は、横1列に並んだ状態で速度を上げ、エンジンの雄叫びを響かせながら、大洗の女子生徒達へと猛スピードで突っ込んでいき………………………
「全車、停止ッ!」
IS-2のキューポラハッチから身を乗り出し、外の様子を見ていた紅夜の号令で一斉に停車した。
その勢いで砂埃が巻き上がる。
「こりゃ、少しばかり調子に乗りすぎたかな………………」
そう呟きながら、紅夜は砲塔に腰掛け、無線機で全戦車の乗員に、戦車から降りるように伝える。
すると、3輌の戦車のハッチが開き、レッド・フラッグのメンバーが続々と戦車から降り、大洗女子学園の、グラウンドの土を踏みしめる。
全員が戦車から降りたのを見届けると、紅夜もIS-2の砲塔から飛び降りる。
そして、其々チーム毎に1列、計3列に並び、彼等12人の前に、紅夜と静馬が並んで立つ。
砂埃が晴れると、大洗女子学園の女子生徒達の視界には、前に立つ2人の男女と、その後ろに3列で並んでいる12人のメンバー、そのさらに後ろで、威圧感を放ちながら控えるように、3輌の戦車が停車しているのが見えた。
「凄い……………あの短い間に、整列すら終えてしまうなんて………………」
亜美が驚き、彼らから放たれるベテランチームとしての威圧感に、生徒達が表情を強張らせるのを他所に、紅夜と静馬は1歩、前に踏み出す。
「この度は休日にも関わらず、試合の場を設けていただき、感謝します。私は戦車道同好会チーム、《RED FLAG》隊長、及びチーム《Lightning》の車長、長門紅夜と申します。今日はよろしくお願いします」
「同じく副隊長及び、チーム《Ray Gun》の車長、須藤静馬です。以後、お見知りおきを」
そう挨拶を終え、2人はピッタリと揃ったお辞儀をする。
『『『『『…………………』』』』』
「「…………………」」
だが、大洗女子学園側からは、何の返事も返されない。目の前に居る14人の男女と、その後ろに控える3輌の戦車から放たれる、とてつもない威圧感の割には、丁寧な言葉遣いだった事に驚いているのか、メンバーはただ驚いた表情で、紅夜と静馬、そして他のメンバーと彼等の戦車を交互に見るだけだった。
そんな中、紅夜は自分を凝視している茶髪の女子生徒を見つけた。
「(ん?あの子とはどっかで会ったような……………)」
「はいはいはい!皆注目!」
紅夜がそう思っていると、手をパンパンと叩きながら、生徒の注意を引く声が聞こえ、大洗女子学園の女子生徒達やレッド・フラッグのメンバーは、我に返って亜美の方を向く。
「せっかく挨拶してくれているのに、此方が何もしないのは失礼よ!ほら、隊長は早く前に出る!」
亜美が言うと、杏はAチームのみほを呼び、その日1日の隊長にした。
みほは緊張した面持ちで、2人の前に立った。
「え、えっと……………大洗女子学園戦車道チーム隊長、西住みほです!こ、此方こそ!きょ、今日は、よろしくお願いします!」
そう言って、みほは凄い勢いで頭を下げる。
「はい、よろしくお願いします」
そう返し、紅夜は微笑みながら右手を差し出す。
頭を上げたみほは、少し顔を赤くしながら、差し出されたその手を握り返した。
「じゃあ、両チームの挨拶も終わったことだし、試合の説明をするわよ!」
そう言って、亜美は今日の試合の説明を始めた。
「えー、範囲は先日の模擬戦と同じとするわ。そして、レッド・フラッグ側の要望で、相手チームの戦車を先に全滅させた方を勝ちとする残滅戦とします。因みに、我々大洗女子学園戦車道チームが勝てば、彼等は大洗女子学園戦車道チームの特別チームとして、此方に所属することになります!」
『『『『『おおーっ!!!』』』』』
戦車道業界唯一の男女混合チームにして、ベテランチームが加わると聞き、生徒達は歓声を上げたが、杏がそれに口を挟んだ。
「因みに、相手側が勝ったら、大洗女子学園戦車道チーム、亜美さん含む全員で、レッド・フラッグのメンバー全員の前でアンコウ踊りフルバージョンだからね~。スーツもあるから覚悟しとくように~」
--ピシィッ!!--
瞬間、大洗女子学園の生徒達の空気の温度が、一瞬にして絶対零度にまで下がり果てた。
「(ウワー、アレ本気でやるってのか?冗談だと思ってたのに。まあ、それにしても負けたくないが、俺等が勝ったら、何か向こう側が可哀想な気がしてきた…………………)」
「(見た感じ、角谷さんは大して抵抗は無いみたいだな……………なんでこの人は、ああも余裕そうでいられるのかが不気味で仕方ねえが……………つーか角谷さん、アンタはまだ良いとしても他の連中見てみろよ、全員目ぇどころかオーラが死んでるぞ完全に……………これ、俺等が勝ったらマジで悪者になりそうな気がしてきたぜ……………)」
まるで、余命三日を宣告された患者のような雰囲気を漂わせる生徒達に苦笑いしながら、紅夜と達哉はそう思っていた。
「あー紅夜君、こんな雰囲気になっちゃったけど遠慮は要らないから全力でおいで~」
「鬼かアンタは!?」
落ち着いた青年的なオーラを漂わせていた紅夜は、一瞬にしてツッコミキャラへと変貌した。
「さあ、各チームの隊長は此方に来てー、所定の位置を教えるから~…………………」
自分まで巻き込まれ、おまけにスーツまで着せられ、挙げ句に男子も居る前で踊らされると言う絶望的状況に、完全に死人同様になっている亜美が言うと、紅夜とみほは亜美から所定の位置を聞き、既にチームメイト全員が乗り込み、準備万端状態の戦車に乗り込むと、亜美から聞いた位置へ移動するようにと指示を出す。
「あー、そのー……………まあ取り敢えずだ、角谷さん曰く『手加減は無用』らしいから、多分アレは嘘だと思うんだ……………そう、嘘だと信じて、思いっきり暴れるぞ!!久々の試合だ、暴れ回れ!戦場を駆け抜けろ!」
『『『『『Yes,sir!!!』』』』』
「Victory is(勝利は)……………」
『『『『『Ours(我等に)!!!』』』』』
そして、紅夜が操縦手の達哉に指示を出すと、達哉はIS-2のアクセルペダルを踏み、紅夜が言う位置へと向かう。
『それでは………………試合、開始!!』
「「Panzer vor!!!」」
両チームの隊長の号令で、其々の戦車の操縦手は一斉にアクセルペダルを踏み込み、相手の戦車を撃破するために向かわんとして、勢い良く飛び出した。
それは今此処に、《RED FLAG》のメンバーからすれば久し振りの試合が始まったという事を、意味するのであった。