大洗チームや他校の面々、そしてレッド・フラッグの女性陣や付喪神による紅夜争奪戦が行われている中、昼食を摂るために紅夜を連れ出す事に成功したレッド・フラッグ男性陣。
近くにあったレストランで昼食を済ませ、自分達が紅夜を勝手に連れ出した事への女性陣の反応を危ぶみながら戻る最中、一行は公園で休憩する事に決める。
大はしゃぎで公園内を駆け回る紅夜に疲れさせられる中、休憩していた達哉の元に、継続高校のミカがやって来る。
談笑する2人の先では、スモーキーの面々が紅夜と本気のおいかけっこをしているのであった。
「ヤレヤレ、なぁに餓鬼相手に本気出してんのさ彼奴等……………」
「ああ、全くだ」
ジュースの入ったペットボトルを片手に戻ってきた翔が呆れ半分に言うと、同意だと言わんばかりの台詞を呟きながら、勘助が相槌を打つ。
「おいおい、他人事のように言ってやがるが、お前等もさっきまで彼奴等と同じだったんだからな?」
ベンチの背凭れに深々と凭れ掛かった達哉が、苦笑混じりにツッコミを入れる。
「おっと、そうだったか?」
そんな達哉に、翔は惚けてみせた。
「そういや達哉、そちらさんは?」
そんな翔の隣で、達哉の横に座っているミカに気づいた勘助が言った。
「ああ、継続高校のミカさんだ」
「よろしくね」
達哉が紹介すると、ミカは軽く微笑んで言った。
「ああ、俺は風宮翔。それでコイツが………」
「藤原勘助だ、此方こそよろしく」
そんなミカに、翔と勘助も名乗った。
「それで達哉、話を戻すけど………」
そう言って、ミカは紅夜を追い掛け回している大河達に目を向ける。
「彼等は、君達の知り合いなのかい?」
「………ああ、そうだよ」
達哉はそう言うと、ベンチから立ち上がって4人に声を掛けた。
「おーい、お前等!ちょっと休憩しとけ!」
『『ほぉ~~い…………』』
「はーい!」
大河、煌牙、新羅から気だるげな返事が返され、そのままよたよたと歩いてくる中、1人絶好調の紅夜は、小走りで達哉の元に戻ってきた。
「おいかけっこは楽しかったか?」
「うん!」
達哉の問いに、満面の笑みを浮かべて答える紅夜。
そんな紅夜を見て、ミカは目を丸くした。
そして、おずおずと紅夜に声を掛ける。
「君はもしかして……紅夜、なのかい………?」
そう声を掛けられ、紅夜はミカの方へと顔を向ける。
「お姉ちゃん、誰?なんで僕の事知ってるの?」
「え?ああ、それは………」
そう言って、ミカは柄にもなく口ごもる。そんな彼女の様子を見た達哉は、助け船を出す事にした。
「紅夜、ミカは俺達の友達でな。お前の事は、以前から話してたんだよ。な、そうだろ?」
そう言って、達哉はミカに視線を向けて同意を求める。
それを察したミカは彼に話を合わせた。
「う、うん。そうなんだよ。それで、この公園に君達が居ると聞いてね。偶々近くに居たから見に来たんだよ」
「そうなんだ~。よろしくね、ミカお姉ちゃん!」
丸い目をぱちくりと瞬かせ、納得したかのように頷くと、紅夜はニパッと笑みを浮かべてそう言った。どうやら信じているようだ。
「あ、ああ。よろしくね」
無邪気な笑みを浮かべる紅夜に、ミカは頬を赤く染めつつ返事を返した。
そして、紅夜が自分の言った事を信じている事に内心安堵の溜め息をつき、達哉に視線で礼を言った。
「んしょ、んしょ………」
そんな中、紅夜はベンチをよじ上ってミカの隣に腰掛けると、彼女の膝の上に置かれているカンテレに目を向けた。
「それ、なぁに?」
「え?………ああ、これはカンテレと言ってね…………」
好奇心を含んだ目で言う紅夜に、ミカはカンテレの説明を始めた。
その傍らでは、達哉がポケットからスマホを取り出そうとしていた。
「さて、今は何時かな…………げっ、マジかよ」
「どうした?そんな険しい顔して」
スマホの電源を入れた瞬間に表情をしかめた達哉に、勘助が訊ねる。
「………これ、見てみろよ」
そう言って、達哉はスマホの画面を勘助に見せる。
「ん~、どれどれ……あ~、これはこれは…」
画面を除き込んだ勘助は、納得したとばかりに相槌を打った。
画面に写し出されているのは、沙織からのLINEの無料通話による着信履歴の数々だった。それも、1件2件と言う生温いものではない。数分~10分おきで掛かってきたため、必然的に10件以上掛かってきたと言う事になる。
これを見れば、それだけ掛かってきたのに気づかなかった事が、逆に凄く思えてくると言うものだ。
「うわっ、スゲェな…………武部さん、こんなにも電話掛けてきたのか………」
勘助の後ろからスマホの画面を覗き込んだ翔が、苦笑混じりに言った。
「それもそうだが、地味に冷泉さんからも電話掛かってきてたみたいだな………いやはや、モテるねぇ~達哉。よっ、色男!」
「お前等他人事のように言ってんじゃねぇよ」
翔に続ける形で冷やかすように言った勘助に言い放つと、達哉はスマホを引ったくり、ポケットに押し込むと、小さく溜め息をつく。
その傍らでは、何時の間にか紅夜を膝の上に乗せたミカが、紅夜の膝にカンテレを置いて一緒に弾いていた。
小さな手を懸命に動かして弦を弾こうとする紅夜に、ミカは微笑ましげに笑っている。
「祖父さんもミカさんも、幸せそうだな」
大河がそう呟くと、煌牙は相槌を打って言葉を続けた。
「ああ。こんな微笑ましい光景、出来ればずっと見ていたいところだが…………」
「そうもいかねぇんだよな、コレが」
新羅も言葉を続け、楽しそうに笑っている紅夜に目を向けた。
その後、スモーキーの3人は一旦其々を見合い、頷いてから一斉に言った。
「「「そろそろ戻らねぇと、女子陣に何されるか分からん」」」
そうとなれば、やる事は1つだ。3人はそれを実行に移すべく、達哉達の方を向いて声を掛けた。
「なぁ、達哉。もう十分遊んだし、そろそろ戻っても良いんじゃねぇか?」
「同感だ、流石にこれ以上長居する訳にはいかんだろ。よくよく考えたら、未だ宴会やってる途中で抜け出してきたんだからな、俺等」
「あ~、確かにそうなんだがなぁ~………」
そう言って、達哉は苦い顔をする。理由は言わずとも分かっていたが、此処は敢えて言わない。
ふと、達哉は紅夜の方へと顔を向ける。彼は未だ、ミカの膝の上でカンテレを弾いている。
一方で、紅夜を膝に乗せているミカは、然り気無く紅夜の腹に腕を回して後ろから抱きついており、大きな胸を紅夜の背中に押し付けていた。
「あんな幸せそうな空間に割り込むのは悪いしなぁ…………」
「コラ、あの2人を言い訳に使うんじゃない」
「イテッ」
翔がツッコミを入れ、達哉の頭を小突いた。
強めに小突かれたためか、頭を擦りながらジト目を向ける達哉を無視して、翔は紅夜に言った。
「紅夜。楽しんでるところ悪いが、そろそろ帰る時間だぞ」
「え~?でも未だ5時じゃないよ~?」
そう言って、紅夜は時計を指さした。時計の針は2時45分を指している。
「確かにそうだが、俺等はさっきまで居た建物に帰らなきゃならないんだ。お姉ちゃん達が待ってるからな」
「うー………」
翔にそう言われ、紅夜は俯いた。5歳程度にまで退行したのに正論だと分かるのか、何も言い返せなかった。
やがて、紅夜は渋々頷くと、すまなさそうな表情をミカに向けた。
「ゴメンね、ミカお姉ちゃん。僕、帰らないと………」
「良いんだよ、紅夜。おかげで私も、それなりに楽しめた」
謝る紅夜にそう返すと、ミカは紅夜の膝に置かれていたカンテレを退け、紅夜を地面に下ろす。
そして、紅夜は寂しそうに肩を落としながらトボトボ歩き出し、出発する準備を終えていた達哉達に合流する。
振り返ると、ミカは未だベンチに座っており、膝に乗せ直したカンテレを弾いている。
「ミカお姉ちゃん、ばいばーい」
そう声を掛け、紅夜は小さく手を振る。
「ああ、バイバイ」
ミカもそれに気づき、手を振り返した。
そうして男子陣一行は、公園にミカを残して宴会場へと足を進めた。
「………………行っちゃったか」
段々小さくなっていく紅夜達の後ろ姿を見送り、ミカはそう呟く。
あのまま、彼等についていくと言う選択肢も確かに存在したかもしれない。『自分も一緒に行きたい』と言えば、紅夜は快く迎えてくれるだろう。
だが、彼女は敢えて、それをしなかった。
「どうせなら、元に戻った彼と…2人きりで…………」
そう呟いて立ち上がると、紅夜達が歩いていった方へ向いた。
「また会おう。気儘な風が、再び私達を巡り会わせてくれるなら」
今となっては、もう見えない紅夜に向けてそう言い、ミカは仲間が待っている愛車に向けて足を進めるのであった。
「さて……とうとう帰ってきてしまったな…………」
「ああ………」
その頃、宴会場に帰ってきた男子陣一行は、広間へと通じる扉の前に立っていた。
その扉の向こうからは、紅夜争奪戦をしていた時のような騒がしさは感じられず、恰も無人であるかのように、不気味な静けさを感じさせている。
「……………?」
達哉と手を繋いでいる紅夜は、彼等が中々広間へ入ろうとしない事を疑問に思い、キョロキョロと男子陣を見回している。
「ねぇ、どうしたの?早く入ろうよ~」
そう言って、紅夜は達哉の腕をプラプラと振る。
「あ、ああ………そう、だな………」
歯切れの悪い返事を返し、達哉は扉へと目を向けた。
一見、特に珍しい事も無いただの扉なのだが、紅夜以外の男子陣からは、それが地獄への入り口のように感じられていた。
だが、何時までも其所で屯している訳にはいかない。覚悟を決めなければならない時が来ているのだ。
達哉は深呼吸して、扉に手を掛けると、他の男子達に目を向ける。
『『『…………ッ!』』』
目を向けられた紅夜以外の男子達は、力強く頷いた。
「良し…………では、いざ!」
そうして扉を開け放った、その時だった。
『『『『『『『『『おかえりなさ~~い♪』』』』』』』』』
列を2つ程作った女性陣が満面の笑みを浮かべて立っていた。
コレが何も知らない男であれば良かったが、達哉達は違う。彼女等の後ろから溢れ出る、阿修羅とも呼ぶべきオーラが彼等に重く圧し掛かってくるのだ。
『『『た、ただいま~……(ああ、俺等生きて帰れるかな…………)………』』』
紅夜以外の男子達は、冷や汗を滝のように流しながらそんな事を考えつつ、広間へと入っていく。
そして、最後に紅夜が入ったところで、扉がゆっくりと閉められるのであった。
「へぇ~、レッド・フラッグの隊長さんが子供に?」
「ああ、とても可愛かったよ」
「私も見に行けば良かったなぁ~」
一方、継続高校の3人は、今日のミカの体験談で盛り上がっていたとか………………