「この丘の頂上の0920地点で、サンダースのフラッグ車を叩きます。麻子さん、急いで!」
「了解…………」
丘を駈け上るⅣ号では、みほが最後の作戦の内容を話していた。
双方共に走っている状態では命中が期待出来ないと悟ったみほは、丘の上で停車した状態で撃破することに決めたのだ。
だがみほは、何かを感じ取ったのか、突然叫んだ。
「ッ!停車!」
「ッ!?」
突然の事に驚きながらも、麻子はみほの指示に従ってⅣ号を横滑りさせ、無理矢理停車させる。
すると、Ⅳ号が進もうとしていた先に砲弾が着弾し、砂埃を巻き上げた。
「きゃあ!?」
「ッ!?一体何が!?」
着弾の衝撃がⅣ号を襲い、沙織と華が声を上げると、みほはキューボラから上半身を覗かせた。
その視線の先には、砲口から白煙を上げているファイアフライの姿があった。
「ッ!ファイアフライ!」
みほは、後方で砲口から白煙を上げているファイアフライを睨み付けた。
「IS-2の横をすり抜けてきたのか…………」
「麻子さん、急いで!」
「了解…………ッ!」
みほが叫ぶように言うと、麻子はⅣ号を急発進させる。
クラッチを蹴っ飛ばしてギアを上げ、アクセルペダルを思い切り踏み込み、丘の頂上を目指す。
「…………チィッ!」
スコープから覗いていたナオミは、砲弾を避けられた事に舌打ちをしながらも、ファイアフライを前進させ、Ⅳ号を追う。
「ファイアフライが次の弾を撃ってくるまで、この間で勝負を着けます!」
「はい!」
みほと華がそう言い合っている間にも、Ⅳ号は目的の、0920地点に到着した。
眼下には、サンダースのフラッグ車を追いながらも、後ろから追ってくる2輌のシャーマンから逃げる大洗の戦車隊が見える。
そんな時、IS-2が砲塔を後ろへと向け、後ろから追ってくる2輌のシャーマンのうち、1輌のシャーマンを撃破するのが見えた。
Ⅳ号は砲塔を旋回させてフラッグ車に照準を合わせようとするが、砲塔旋回だけでは間に合わないため、麻子が車体ごと旋回させる。
そうしている間にも、ファイアフライがⅣ号の後ろに付いていた。
「花を生ける時のように集中して…………」
そう呟きながら、華はスコープを覗いてフラッグ車へと狙いを定める。
「装填完了!」
「(貰った!)」
ファイアフライでは次弾の装填が完了し、ナオミは勝利を確信する。
そして、少しの沈黙の末に…………
「発射!」
華とナオミが引き金を引く。
「…………Feuer」
それと同時に、とある戦車の砲手も引き金を引く。
そして、3つの砲撃音が、草原地帯に響き渡る。
1つ目はⅣ号の、2つ目はファイアフライの砲撃音である。なら、最後の3つ目は…………?
そう、IS-2である。
IS-2から放たれた砲弾は、Ⅲ突の真上を通り過ぎ、38tの砲塔の直ぐ横を掠めていく。
そして、Ⅳ号から放たれた砲弾がM4A1のエンジン部分に被弾した次の瞬間、IS-2から放たれた砲弾がM4A1の防盾に命中し、爆発音が響き渡る。
そして、ファイアフライから放たれた砲弾も、Ⅳ号のエンジン部分に叩き込まれ、被弾による爆発音が其所からも響き渡る。
その様子がエキシビジョンでも映し出され、紅夜達大洗の戦車隊や、唯一生き残ったケイのシャーマン、の乗員達、そして観客席を沈黙が支配する。
紅夜はキューボラから出てくると、砲塔の上に立ち上がり、双眼鏡を取り出して目に押し当てると、黒煙を吹き上げながら停まっているサンダースのフラッグ車を睨み付ける。
操縦手用のハッチから出てきた達哉は、Ⅳ号とファイアフライが駈け上がった丘の頂上を見る。
勘助や翔もキューボラから出てくると、紅夜と達哉が見ている其々の方を見た。
そして暫くの沈黙の末に、M4A1から白旗が飛び出した。
『サンダース大学附属高校フラッグ車の行動不能を確認!よって1回戦は、大洗女子学園の勝利!!』
「「「「……………………WHOOOO-HOOOO!!!」」」」
大洗女子学園の勝利を告げるアナウンスが響き渡り、紅夜達ライトニングの面々は、暫く唖然として互いに顔を合わせ、次の瞬間には歓声を上げた。
「Gotcha!!やったぜ!」
「おお、勝ったぜリーダー!無名校の大勝利だぜ!Ha-ha!」
「「「「We fight!We fight!We fight!We fight!」」」」
達哉が喜びの声を上げると、ライトニングの面々が高らかに、自分達の戦前の誓いでの言葉を連呼する。
そして一通りはしゃいだ後、彼等はIS-2に乗り込み、Ⅳ号とファイアフライが駈け上がった丘へと向かった。
全速力で丘を駈け上がってきたIS-2は、エンジン部分から黒煙を上げ、白旗が出た状態で停車しているⅣ号の隣に来た瞬間、達哉のフルブレーキで急停車し、紅夜が一番に、IS-2から飛び降りる。
「よお、隊長!やったな!俺等の勝利だ!」
IS-2から飛び降りた紅夜は、あんこうチームのメンバーに囲まれているみほに近づき、声をかける。
「紅夜君!」
みほは紅夜を視界に捉えると、紅夜に駆け寄った。
「やったね、紅夜君!」
はち切れんばかりの笑顔で言うみほに紅夜も笑みを浮かべた。
「ああ、やったな!お前等は見事にやり遂げたんだ!やってくれると思ってたぜ!」
紅夜はそう言って、みほの両肩に手を乗せて労い、砲手の華も同様に労う。
そう言い合っていると、達哉達がIS-2から降りてきて、あんこうチームに駆け寄ると、其々のメンバーを労う。
『『『『『『『『西住隊長ーーッ!長門せんぱーーいっ!!』』』』』』』』
「お?」
「あれは!」
突然聞こえた声に、紅夜とみほが振り向く。
その視線の先には、撃破され、回収されたアヒルさんチームとウサギさんチームの面々が手を振っている。
『『『『大洗ーーッ!!!』』』』
すると、反対側から生き残ったカバさんチームとカメさんチームが向かってきていた。
Ⅲ突の天板に乗ったエルヴィン、カエサル、左衛門佐が手を振り、38tから体全体を乗り出した杏が笑顔を浮かべ、ピースサインを送る。
それを見たみほと紅夜は互いを見やると微笑み合い、駆け寄ってきた仲間と互いを労い合うのであった。
「やったな、静馬」
「ええ。何だかんだ言っても、結局は勝っちゃうのね…………まあ、紅夜達が居るなら、こうなるのも予測出来なくもない事だけど」
試合終了を知らせるアナウンスが鳴り響き、観客席が熱気に包まれてから数分後、Ⅳ号が回収され、回収車の荷台で騒ぐ大洗のメンバーと、その隣を徐行するIS-2を映し出すエキシビジョンを見ながら、大河と静馬はそんな事を言い合っていた。
彼等が居る観客席では、もう既に帰り始める見物客がちらほらと出てきているが、それでも殆どの観客が残っており、熱気は、未だに治まる気配を見せない。
席に座り続ける者も、帰っていく者も皆、今回の試合の話で盛り上がっている。
まあ、長い間戦車道の大会に姿を現さず、今ではすっかり無名校となっていた大洗女子学園が、優勝候補の一角とされていたサンダースに勝利し、さらに大洗には、一時期姿を消していた戦車道同好会チーム、《RED FLAG》のメンバーすらも居るのだから、熱気が治まらないのも無理はない。
「まあ、取り敢えずはこれで、俺等の2回戦進出が決まったな」
「ええ。まあ、私達レッド・フラッグ全員が出られるのは決勝戦だから、準決勝では私達レイガンか、貴方達スモーキー、このどちらかが出られるのよね……………………はてさて、どちらになるのやら」
フェンスにもたれ掛かった静馬に、大河は笑って言った。
「準決勝に進んだとして、選ばれるのはお前等レイガンだろうよ。何たって静馬、お前はレッド・フラッグの副隊長なんだしさ……………チームとしては、お前が一番、紅夜から信頼されてるしな」
「…………それもそうね。何て言ったって、私は紅夜の幼馴染みなんだもの…………まぁ、それもそうなんだけど…………」
そう静馬は言いかけると、エキシビジョンに映し出されている、みほと親しげに話す紅夜を見て、頬を膨らませながら言った。
「女の子の中で、紅夜と一番親しいのは私なのに…………なんか、苦労して手懐けた犬を横からかっ拐われたような気分だわ」
「まあまあ静馬、落ち着けよ。取り敢えずは彼奴等を労いに行こうぜ。もう他の連中、先に行っちまったぞ」
そう言って、大河と静馬は先に歩き出したメンバーに追い付き、みほ達を労いに行った。
「…………まあ、あれは相手の油断もあっての勝利…………と言った感じですかね。IS-2の実力も確かに見えましたが、肝心の大洗自体は、ちょっとね……………」
黒森峰が陣取っている丘陵の上では、要がそんなコメントを溢していた。
「まあ、あれだけ見ればそう思うでしょうね…………でも見てなさい。何れは彼女等が実力勝ちするのを見られるだろうから……………」
そう言って、エリカは先に歩き出したまほを追いかけていった。