ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第5章~2回戦へ向けて~
第34話~日常の中の衝撃です!~


「ウワァ~ア…………久し振りに俺等の格納庫にやって来たぜ」

 

ある日の朝、山林の奥にある古びた建物--《RED FLAG》と書かれた板がある格納庫--の前にIS-2が停まり、キューポラを開けて車外に出てきた紅夜は、眠たそうに欠伸をしながら格納庫の前に立った。

この日は練習が休みで、紅夜を除いたレッド・フラッグのメンバーは各自、自宅で休養を取っていると言うのもあり、紅夜は前もって、杏に学校に入る許可を得て、格納からIS-2を持ち出すと、そのまま操縦席について運転し、元々レッド・フラッグの戦車が置かれていた格納庫へとやって来たのだ。

 

「俺等が大洗の戦車道チームに所属してから、随分と経つ訳だが……………………全く変わってねえな、この建物は…………」

 

紅夜はそう呟きながら、格納庫の中へと入っていった。

格納庫の中へと入り、電気をつける。すると、先程まで真っ暗だった格納庫の中が、明るく照らさせる。

壁に《コ》の字を描くようにして置かれている棚には、紅夜達レッド・フラッグの現役時代、勝ち取ってきたトロフィーやメダル、賞状等が、所狭しとばかりに飾られていた。

 

「そういや俺等、大会では結構優勝してたな…………最初こそは負けたが、その次からほぼ負け無しなんて事になるから、俺自身も吃驚だぜ」

 

紅夜はそう呟きながら、格納庫の中を歩き回り、置かれているトロフィーやメダル、賞状を眺めていく。

 

「あの頃は楽しかったなぁ……………そういや現役時代は、俺も破天荒が過ぎてたっけな…………達哉に、『敵戦車のフェンダー部分にぶつけて敵戦車の乗員を怖がらせろ』とか言ったり、他にも色々と、無茶振りしたモンだな…………今となっては懐かしいぜ」

 

紅夜はそう呟くと、格納庫から出る。そして、IS-2の操縦手用のハッチを開けて中に入り、操縦席に座ると、格納庫から出てきた時の記憶を頼りにIS-2を操縦し、IS-2の車庫入れを見事に成功させた。

 

「ふぅ…………やっぱこういうのは、達哉にやってもらうに限るな…………俺だったら他に誰か居てもらわねえと、やっぱ不安だ」

そう呟き、紅夜はハッチを開けて車内から出る。そしてIS-2と向かい合うようにして立ち、レッド・フラッグのトレードマークである、風に靡く赤い旗が描かれたフェンダーに手を置くと、優しく撫でた。

 

「お疲れ様だな、相棒…………久々に我が家へと帰ってきた気分はどうだ?まあ、他の戦車は大洗の格納庫にあるから、お前だけの里帰りになっちまったがな」

 

そう言って、紅夜は軽く笑う。

そしてIS-2の周りを歩きながら、装甲を優しく撫でていった。

 

「俺の指示だったものだとは言え、お前はよく、履帯を壊したりせずに付いてきてくれたな…………偉いぞ、それでこそ俺の相棒だ。次も頑張ってくれよな」

 

そう言うと、紅夜はフェンダーに飛び乗ると、そのまま軽くジャンプして砲塔の上に飛び乗る。

キューボラを開けて中に入り、車長席に座ると、背凭れに凭れ掛かり、目を瞑る。

それから1秒と経たないうちに、紅夜は寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

紅夜が寝息を立て始めてから数分後、突然、紅夜の前が光り出すが、紅夜は深い眠りについており、気にせず眠り続ける。

 

「偉い、か…………元々は殺戮兵器だった私なのに、嬉しい事を言ってくれるのだな、私の主は」

 

その光の中から女性の声が聞こえ、やがて光が消える。

すると其所には、紅夜や静馬と同じように腰まで伸ばされた、車体の色がジャーマングレーであるIS-2には似つかわしくない銀髪に朱色の瞳を持ち、装束のような衣服に身を包み、袖の手首辺りには、レッド・フラッグのトレードマークである、風に靡く赤い旗が描かれた腕章をつけ、反対側の袖には、『Lightning』と書かれている、比較的小柄な少女が立っていた。

その少女は、未だに眠り続ける紅夜に近づき、愛しげにそっと、頬に触れる。

 

「子供みたいに寝ておるなぁ…………試合の時の凛々しさは何処へやらって感じの寝顔だ。まぁ、そのような主など、もう何度も見てきたのだが、寄り添って寝てしまいたくなるような感覚には、どうしても慣れないものだな」

 

そう言いながら、少女は紅夜の頬から手を離す。

 

「『次も頑張れ』か…………ああ、良いだろう。お前がそこまで私を信頼してくれると言うのなら、その期待に応えてやろう」

 

そう言って、女性は再び光を放つと、その姿を変えた。

着ている服はそのままに、体つきが如何にも女性らしくなり、比較的短めの銀髪は黒髪長髪のサイドテールになり、何処か威風たる雰囲気から一転、人懐っこさを感じさせる顔つきに変わった。

 

「ふぅ、姿を変えられるとは言え、やっぱりこの姿の方が落ち着くなぁ……………今日のところは、この辺りでおいとましようかな……………じゃあ、またね。今度はちゃんと起きているのよ?私の愛しいご主人様♪」

 

そう言って、女性は光と共に消えた。

その後には…………

 

「ウワァ~ア……………………ん?何かあったのか?誰か居たような感じがするんだがなぁ……………」

 

眠たそうな目を擦りながら起き、視界がぼんやりしたまま車内を見回す、紅夜ただ一人が残された。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうすっかね」

 

あれから暫くの間、紅夜はIS-2の車内に留まっていたが、次第に退屈になっていき、学園の格納庫にIS-2を戻し、適当に見つけたファストフード店での昼食を終えた後、学園艦の町を走り回っていた。

普通の人間なら暫く走れば息が上がるものだが、達哉と亜音速での追いかけっこを繰り広げたことがある紅夜からすれば、学園艦中を走り回るなど容易い事だった。

 

「そういや、いくら学園艦の町も広いと言えど、俺が興味ある店なんて大して…………ん?」

 

走りながら呟いていた紅夜は、突然足を止める。そして、自分の右にある店を視界に捉える。

 

「戦車ショップか…………こんな店があったとは知らなかったな」

 

紅夜はそう呟き、店の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………まさか、自分のチームに関する雑誌を自分で買うなんてな…………他の人が買うなら未だしも、何か複雑な気分だぜ」

 

店の中に入った紅夜は、1時間程店の中を歩き回った後、自分のチームの事が書かれてある雑誌が目につき、暫く悩んだ末に購入した。

そして店から出ると、紅夜は買い物袋の中から雑誌を取り出して呟いた。

 

「まあ、家に帰って暇潰しに読むとするか」

 

そう言って歩き出そうとした時…………

 

「それはもしや、《RED FLAG》の雑誌ではないのかな?」

「え?」

 

突然、背後から紅夜に声をかける人物が居た。紅夜が振り向くと、其所には60代程の、一人の老人が立っていた。

 

「ええ、まあ…………興味が湧いたものでして」

「そうかそうか」

 

紅夜が答えると、老人は頷きながら言った。そして紅夜に近づくと、雑誌の表紙を見る。

 

「ほう、大洗女子学園が全国大会1回戦で勝利か…………やるもんだな」

「あはは、そうですね」

 

興味深そうに表紙を見る老人に、紅夜は雑誌を差し出して言った。

 

「良ければ、これあげますよ」

「おや、良いのか?買ったばかりなのでは?」

「立ち読みしてたから、大体の内容は覚えてるんですよ」

「そうか…………なら、ありがたく貰うとしよう」

 

そう言って、老人は雑誌を受けとる。

 

「そう言えば、君はレッド・フラッグのリーダーだよね?生で見るのは初めてだが、暫くは君達に関する情報を聞かなかったから、危うく忘れそうになっておったよ」

「は、はぁ……………まぁ、レッド・フラッグのリーダーなら、他でもなく俺ですが……………」

「そうかそうか…………いやはや、まさか2代目の男女混合戦車道チームの隊長に会えるとは……やはり、長生きはするもんじゃな」

「…………2代目?俺等が初めてなのでは?」

 

老人が言った『2代目』と言う単語に、紅夜は怪訝そうに聞き返す。

 

「おや、知らないのか?なら、ついてきなさい。少しばかり、話をするとしよう」

 

そう言って歩き出した老人に、紅夜は取り敢えず、ついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

「まあ飲みなさい。粗茶だがな」

「あ、どうも」

 

老人の家へと案内された紅夜は、出されたお茶を啜る。其所へ老人は、紅夜に数枚の写真を持ってきて、卓袱台の上に置いて見せた。

 

「これは、ワシがまだ君ぐらいの頃…………否、それよりもっと若いかな…………中学生の写真じゃよ」

 

老人が見せる写真には、1枚目には、1輌のティーガー戦車と5人の青年が写っていた。

それから2枚目、3枚目となっていくにつれて、戦車数やメンバーも増えていき、最終的には5輌の戦車と23人の少年少女が写っていた。

 

それから老人は、恐らく其々の戦車毎の乗員を撮ったものなのであろう写真を見せてきた。

それらの写真に写る戦車には、紅夜達レッド・フラッグの戦車と同じように、砲身にチーム名らしき単語が書かれていた。

 

「あの頃は楽しかった…………男も女も問わず、戦車道をしておったからな…………今では、戦車道は女だけの武道と成り果ててしまったがな」

 

老人は、残念そうな顔でそう言った。

 

「…………まあ、此処で少し、昔話でもしようかな…………」

 

そう言って、老人は語り始めた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

あれは大体40年ぐらい前…………さっきも言った通り、ワシが中学生の頃の話じゃよ。

 

『おい拓海(たくみ)!戦車乗ろうぜ!』

 

学校でワシに、そう言ってくる同期が居たんじゃよ。今こうして見れば、君とはほぼ瓜二つな奴じゃった。まあ君とは違って、髪の色は黒で目は蒼じゃったが、君と同じように、髪を長く伸ばしておったよ。それについては、君と同じぐらいの長さじゃったな。

君と彼奴の似ようは、一瞬、彼奴が生まれ変わってきたのではないかと錯覚するぐらいの似ようじゃよ。

それで、ソイツの名は八雲 蓮斗(やくも れんと)と言ってな、兎に角活動的な奴じゃった。彼奴の性格を一言で言い表すとしたら、『猛者』じゃな。

なんせ腕っぷしはメンバー1じゃったし、不良10人相手でも余裕で圧倒するような化け物じゃったしな……………

それに、顔も良いからかなりモテたんだが、彼奴は筋金入りの唐変木でな、何処かでフラグを建てては、大抵を勘違いで終わらせよったよ。

その都度、ワシがぶん殴って成敗したがな。

それもあるが、彼奴は何と言うか……………兎に角不思議な奴でな、操縦が難しいティーガーを、意図も簡単に動かしておったのじゃよ。

それに、初めてワシがティーガーを操縦させてもらった際、ティーガーはワシが思うように動かなかったのじゃ。そりゃ、初めてだから当たり前なのじゃがな……………それに、ある程度操縦を覚えても、今度は進む以前にエンストする事もあって、焦ったのを覚えとるよ。

 

まあ、それについては後で言うとして、話を戻そうか。

 

『ホラ!何ボサッとしてやがんだよ!早く行こうぜ!』

『はあ?ちょ、おい!?』

 

まだ行くとも行かないとも言ってないワシの意見も聞かずに、蓮斗はワシを、とある山へと引っ張って行ったんじゃよ。 それで其所にあったのが、写真に写っているティーガーⅠじゃった。

今思えば、あれはティーガーⅠの中でも初期のティーガーⅠじゃったな。

それもそうだが、ティーガーⅠにしては矢鱈とフェンダーが長いし、転輪等をサイドスカートが覆っておるじゃろ?戦時中でも見られなかった姿じゃ。おまけに、大概のティーガーは黄土色かジャーマングレーだったのに対して、このティーガーは、真っ白とは言えんが、結構白に近い色をしておるじゃろ?彼奴はその珍しさもあって、そのティーガーを気に入ったんじゃろうな。まあ、そこで何故ワシの元に来たのかは分からんが…………

それで、彼奴はワシを車長の席に座らせて、ティーガーを操縦しておった。

彼奴曰く、ワシを誘いに来る前からティーガーを見つけていて、暫くは1人で動かしていたらしいのじゃ。

それから何日かして、彼奴はよく一緒に遊んでいた仲間を3人集めてきたんじゃよ。

 

『この5人で役割分担して、この戦車を動かそうぜ!それから他の戦車道チームと試合するんだ!』

 

そうやって、楽しそうに言う彼奴を止められる者など、1人も居らんかったよ。まあ、ワシ含む他の連中もノリノリだったからな。

そして、蓮斗が車長、ワシが操縦手となった。

この時じゃったかな、戦後に戦車に乗る男が出来たのは…………何せ、その頃から戦車道は女だけの武道となっていたからな。

それからと言うもの、ワシ等5人は暇さえあれば集まり、ティーガーを動かして遊んでおった。

それから色々あって、ワシ等は始めてとある学校と戦車道の一騎討ち試合をすることになったんじゃよ。経緯は覚えていないんじゃがな。それが、戦車道廃止前の大洗女子学園じゃったよ。

 

結果は、ワシ等の勝利じゃった。ほぼ毎日集まって操縦訓練をしたりしておったから、後は実戦で活かせればオッケーじゃったからな。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

そう言うと、老人--拓海--はお茶を啜る。

 

「それからワシ等は、戦車道チームを立ち上げたんじゃ。《白虎隊(ホワイトタイガー)》とな。するとまあ、参加したいって言ってくるメンバーが集まるわ集まるわで、メンバーを募ったワシ等が一番戸惑ったよ」

「それはそれは…………」

 

楽しそうに言う拓海に、紅夜も笑って言った。

 

「それから、ワシ等は山に放棄されていた戦車をかき集めて、戦車道連盟に修理してもらえるように掛け合ったんじゃよ。最初は拒否されたが、一人の役人が修理すると約束してくれてな。いやぁ、あの時のメンバーが大喜びで跳び跳ねておったよ」

「目に浮かびますよ、その光景が」

 

昔を思い出しながら言う拓海に、紅夜が相槌を打つ。

「集めた戦車は、Ⅴ号戦車パンターG型とⅣ号J型、Ⅳ号駆逐戦車《ラング》にファイアフライじゃったよ。ファイアフライが唯一、ドイツ戦車ではなかったな」

「それから戦車道の試合に?」

 

紅夜がそう訊ねると、拓海は頷いて言った。

 

「そうじゃな。その日からは、毎日がワクワクの連続だったよ。なんせ、あちこちの学校や同好会チームと試合をしたんじゃからなぁ……………初陣で勝利を収めた嬉しさもあってか、ワシ等は積極的に、試合を受けてきた。当然負けもしたが、ある程度試合を経験したら、そこからは破竹の勢いで勝ち進んでおったよ。全盛期のワシ等なら、君のチームに勝つ自信があるな」

「それはどうですかねぇ?数は負けてますが、俺のチームだって結構試合してきたんですから、簡単には負けないと思いますよ?」

「ほっほっほっ!そりゃ違いないわなぁ」

 

互いに軽口を叩き合い、楽しそうな雰囲気となる。

 

「それで、ワシ等は其々の戦車毎にチーム名をつけたのじゃよ」

そう言って、拓海はチーム毎に写っている写真を順番に見せていった。

 

「先ず、ワシや蓮斗が乗ったティーガーⅠは《白虎》、Ⅳ号J型が《青龍》、パンターG型が《朱雀》、ラングが《玄武》、ファイアフライが《陰陽》じゃった」

「日本の四神とかの名前を使ったんですね」

「そう。蓮斗が考えたチーム名なのじゃが、態々チーム名を考えた理由は、『カッコいいから』の一言じゃったよ」

「別に良いじゃないですか。俺のチームの戦車にもチーム名つけましたけど、それだって似たような理由でしたから」

「ほっほっほっ!そうかそうか!」

 

そうして、2人は楽しそうに、現役時代の思い出を語り合う。

 

だが、ある程度話した後、拓海は表情を曇らせた。

 

「だがな…………そんな楽しい生活も、長くは続かなかったよ」

「…………?どういう事ですか?」

 

紅夜がそう訊ねると、拓海は立ち上がってタンスに近づき、其所から1つの箱を持ち出すと、小さく折り畳まれた、とある新聞を取り出すと、それを広げて見せた。

 

「あまりにも不運な事故があってな……………蓮斗が死んでしまったんじゃよ」

「ッ!?」

 

突然の重い話に、紅夜の赤い目が見開かれた。

 

「試合の時に、敵戦車の砲撃を至近距離で喰らってな…………相手はⅧ号戦車--マウス--じゃったよ」

「…………」

 

紅夜は沈黙するが、話を聞き続けた。

 

「強固な装甲を持ち、おまけに50トンを越える重量級のティーガーでも、マウスの砲撃には耐えられなかったんじゃろうな。何せ、至近距離からの砲撃じゃったからな………………ワシ等のティーガーは、横向きに軽く吹っ飛ばされ、不運にも、3メートル程の崖から落ちたんじゃよ。彼奴はその際、車外に放り出されたんじゃ。それに運悪く、打ち所が悪くて即死してしもうたよ…………」

 

そう言って、拓海はすっかり冷えてしまったお茶を飲み干した。

 

「………………」

 

それを見た紅夜も、何とも言えない気持ちを紛らせようとお茶を飲む。拓海が飲み干したお茶同様、すっかり冷えきっていた。

飲み干して空になった湯飲みを置き、次の言葉を待つ。

 

「それが引き金になったんじゃろう、ワシ等は戦車から離れていった。最初はファイアフライの乗員がチームを抜け、次にラングの、次にⅣ号の、パンターのと続き、終いには、ワシ等ティーガーの乗員も抜け、白虎隊は解散した……………彼奴は、ワシ等を繋ぎ止めるキーパーソン的なやつじゃったのだよ」

「そう…………なんですか…………」

 

紅夜は、項垂れるかのように俯いている。

 

「チームの解散後、ワシは戦車の車内を掃除しようとして、格納庫へと向かったんじゃが、其所に戦車は1輌もなかった。後で聞いた話では、連盟が勝手に持っていってしまったそうじゃ。それで、ワシ等の戦車は売りに出された」

「…………使わないと勝手に判断して、売り出したって事ですか」

「そうじゃな…………まあ、長い間ほったらかしじゃったから、そのせいでもあるがな」

 

そう言って、拓海は話を続けた。

 

「それから聞いた話じゃが、ワシ等の戦車は非常に売れ行きが良かったらしい。売りに出してホンの数日で売り切れじゃ。まあ、全部強力な主砲を備えていたし、ティーガーは珍しい形をしておったからな、それも、欲しがる学校が多かった理由じゃよ」

 

だが、と逆接を置き、拓海は一呼吸の間を設け、話を再開した。

 

「ティーガーは買い取り先が見つかって、数日したら直ぐに返却された。それも一件だけではない、ティーガーを買い取った全ての学校が、買い取って数日で返却したんじゃよ。なんでも、訓練中の車内で原因不明の怪我人が続出した上、エンジントラブル等が頻発したらしいのじゃ。まるで、ワシ等以外に触られるのを、ティーガー自身が拒否しているかのようにな……………ワシがティーガーを上手く操縦出来なかったのは、もしかしたらそのせいなのではないかとすら思ったね」

「所謂、《憑き》の戦車になったって事ですか」

「その通り。それでティーガーは、装備していたパーツの分解の費用などの問題もあったが、まあ大概は気味が悪いって理由で、何処かの山奥に放棄されたよ。その在処を知る者は、誰一人として居ないのじゃ……………ワシ等、白虎のメンバーすらもな」

 

そう言って、拓海は話を終えた。

 

「ありがとうね、最後まで聞いてくれて」

「いえいえ」

 

礼を述べる拓海に、紅夜は答える。ふと窓の外を見ると、何時の間にか夕方になっていた。

 

「んじゃ、俺はそろそろ帰ります。お邪魔しました」

そう言って紅夜が立ち上がると、紅夜の直ぐ近くにあった本棚から、1冊の本が紅夜の足元に落ち、さらにはかけられてあった帽子が落ちる。

紅夜はその本と帽子を拾い上げ、其々を見る。

 

「ティーガーの操縦マニュアルに、白虎隊の帽子か…………」

 

紅夜がそう呟くと、拓海は言った。

 

「その本と帽子、持っていきなさい」

「え?良いんですか?大事なものなんじゃ?」

「良いんじゃよ。雑誌をくれたお礼みたいなモンじゃ。それにもし、君があのティーガーに出会い、認められることがあったら、それが役に立つだろうしな」

 

そう言う拓海に礼を言い、紅夜は拓海の家を出た。

 

「…………この話で俺は、何をすべきなんかねぇ…………まあ、俺の目標は、男女問わず戦車道を出来る世界にする事だが…………それと拓海さん達の夢見た世界が同じか…………どうなのかねぇ…………取り敢えず、この事は他の奴等には黙っておくか…………言わなきゃならんときが来たら、言うとしよう」

 

紅夜はそう呟きながら、家路についた。

悩みながら歩く紅夜の表情には、何時もののんびりした色はない。

 

紅夜は家に着いても、何とも言えない気持ちは拭えず、そのまま適当に夕食や風呂を済ませ、何時も楽しんでいる夜の番組を見ることなく、布団に潜った。

 

それから紅夜が寝付くには、4時間近く掛かったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、拓海の家の前に、1人の青年が立っていた。

紅夜と同じ、腰まで伸ばされた髪の毛を、ポニーテールに纏めた黒髪の青年だった。

背面に、雄叫びを上げる白い虎が描かれている灰色のパンツァージャケットに身を包み、同じように、雄叫びを上げる白い虎が描かれている黒い帽子を深くかぶった青年は、やがて帽子のつばを上げ、街灯の光を僅かに反射して、サファイアのように煌めいている蒼い目で拓海の家の表札を見て言った。

 

「よぉ、拓海。蓮斗だ……………暇だからお前の家まで来てみたぜ……………と言っても、お前が緑髪のガキを家に入れるところからだがな」

 

そう言って、その青年--八雲 蓮斗--は夜空を見上げる。

 

「あのガキが、ティーガーの操縦マニュアル持ってくのを見たよ……………お前も何と無く、感付いたんだな……………彼奴は何れ、ティーガーに出会うだろうと……………」

 

そう言って、蓮斗は家の前を立ち去る。

 

「お前がそうするってんなら、俺もあのガキに賭けてみることにするぜ……………彼奴が、男女問わずに戦車道を出来る世界にしてくれるってな」

 

そう呟き、蓮斗は暫く、学園艦の町の中を歩き回る。すると、『長門』と書かれた表札が目に留まった。

 

「へぇ、此処があのガキの家か……………明かりが消えてんなら、もう寝てんだな……………まあ、精々頑張りやがれ、我等の後輩共。ここぞの時、テメェが力を求める時まで、俺はのんびり待ってやるよ……………だがな、待たせたら待たせた分だけ、暴れさせてもらうから覚悟しやがれよ?赤旗の戦車乗り……………まぁ、たまにちょっかい出すかもしれねぇが」

 

そう言って、蓮斗は体から光を放ち、そして跡形もなく消えた。

それを見た者など、誰一人として居ない。

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