戦車道全国大会2回戦、アンツィオ高校との試合が日に日に近づいてきているある日の事、大洗女子戦車道チームの練習を始めようとしていた時だった。
「えー、急ではあるが、今日は練習を取り止め、第2次戦車捜索作戦を実行する」
何時ものようにメンバーが列になって並ぶ中、桃がそう言った。
「え?どういう事ですか?」
「諸君も知っての通り、アンツィオ高校との試合が近づいてきている。今後の試合の事を考えると、今の戦力ではレッド・フラッグを除けば心持たないと思ったのだ。それに、この大洗では、まだ戦車が何処かに眠っている形跡が確認されたのだ。よって今日は、その戦車の捜索を行う」
唐突な事に梓が訊ねると、桃がそう答える。
それから班分けが始まり、生徒会との待機班に華と翔、歴女グループに優香里と勘助が加わり、レイガンとスモーキーがチーム毎の捜索、1年生グループに沙織と達哉、そして、みほのグループには、麻子、バレーボールチーム、そして紅夜が加わることになった。
さて、場所を移して、此処は旧部室棟。長年使われないまま放置されていたからか、建物のあちこちが劣化し、廃墟と化しつつあるこの場所を、みほ達のグループは捜索していた。
「戦車なんだから、直ぐに見つかりますよねッ!」
「だと思うんだけど…………」
自信満々に言う典子に、みほは自信無さげに返す。
「手掛かりは無いのか?」
「確かにな…………このまま闇雲に探してたら、見つかるモンも見つからねえよ」
「冷泉先輩に長門先輩、刑事みたいです」
ごもっともな事を言う麻子と紅夜に、忍は言う。
「それが、部室が移動しちゃったみたいでよく分からないんだ」
「マジか…………まあ、それなら仕方ねえか」
みほが力なく言うと、紅夜はそう呟く。
そのまま一行は、戦車の捜索を続行するのであった。
その頃、歴女チームと優香里、そして勘助は、大洗女子学園の校舎の屋上に来ていた。
「…………ハッ!」
そんな掛け声と共にカエサルが手を離すと、八卦と太極盤のようなものの上に立てられていた杖らしき棒が倒れ、東の方向を指す。
「フム、東が吉と出たぜよ」
「え、コレで分かるんですか!?」
「八卦占いとは…………アンタ等らしいっちゃらしいが…………よくこんなの考え付いたよな…………こんなので見つかったら奇跡だが……………これが吉と出るか凶と出るか、どうなる事やら………」
棒が指す東を見ながらおりょうが言うと、優香里は驚きの声を上げ、勘助は八卦占いで捜索する場所を決めてしまった歴女チームのやり方に、只々苦笑を浮かべるだけだった。
はたまた、1年生チームと沙織、そして達哉は、学園艦の深部へと入っていた。
「へぇ~、長門君に辻堂君って18歳なんだ。その割には皆、敬語使ってないんだね」
「ああ、高校で言えば、3年生辺りだからお前等よりも先輩だな。だからレッド・フラッグの中では、俺と紅夜が最年長で先輩なんだが、発足当時に紅夜の野郎が、『先輩っつっても、あんま年齢変わらねえから、タメ口で良くね?』とか言うモンで、メンバーは全員、年齢問わずタメ口なんだよ。つーか現に、お前さんもタメ口使ってるじゃねえか」
「あ、そうだったね…………何か、此方の方が喋りやすいし」
1年生の前に立って歩きながら、達哉と沙織はそんな会話を交わす。
「何なの此処、何処なの~?」
「凄い、船の中っぽい」
「いや、此処って『中っぽい』とか言う以前に船の中だし」
その後ろでは、優季、桂利奈、あやがそんな会話を交わす。
「そういや思ったんだが、なんで船なんだろな?」
「それって確か、大きく世界に羽ばたく人材を育てるためと、生徒の自立独立心を養うために、学園艦が造られたらしいよ?」
ふと、学園艦への疑問を呟いた達哉に、沙織がそう答えた。
「成る程な…………言うなれば、無謀な教育政策の反動ってヤツか…………今の世代の餓鬼は苦労するよな、マジで」
「あはは…………」
何時もの明るい表情は引っ込み、呆れたような表情で皮肉を言う達哉に、沙織は苦笑を浮かべる。
そうして暫く歩いていると…………
「お疲れ様でーす」
学園艦の運航係なのであろう船舶科の生徒達と出会した。
「あ、あの!戦車知りませんか?」
擦れ違いかけていた生徒に、沙織が声を掛ける。
「戦車かどうかは分からないけど、何かソレっぽいのあったよね?何処だっけ?」
「ああ、それなら、もっと奥の方じゃないかな?」
そう言って片方の船舶科の生徒が、普段は使われていないのか電気が消え、暗闇になっている通路の方を指差して言った。
「よし、行ってみよう!」
「そうすっか。ありがとな」
歩き出した沙織に続きながら、達哉は船舶科の生徒に礼を述べた。
そして、奥へ奥へと向かっていくのであった。
その頃生徒会室では、杏、桃、柚子と言った生徒会メンバーに加え、華、翔の5人が待機していた。
杏が生徒会長の椅子をリクライニングさせてリラックスし、桃がソファーに座って机の上に置かれている携帯とにらめっこしている中、華と柚子、そして翔は資料を調べていた。
「戦車道って、随分と昔からやっていたのですね」
「そうね、1920年代頃からやってたらしいから…………」
「それ戦時中とかの辺りじゃないっすか」
そんな会話が交わされる中…………
「…………ッ!未だか!?未だ見つからんのか!?」
貧乏揺すりをしながら桃が大声を上げ、携帯を睨み付けている。
「まあまあ河嶋さん、少しは落ち着きましょうぜ。つーか、未だとか言ったって、1時間ぐらい前に始めたばっかじゃないですか」
「そ、それもそうだが…………」
翔が宥めるものの、桃はイマイチ腑に落ちないような表情で返す。
「う~ん…………捨てられちゃったかなあ?」
「いや、それならその書類も残されるでしょうよ…………つーか、資料少なすぎだろコレ。大洗が戦車道やってたのが20年前とか…………笑えねえよ…………」
「果報は寝て待てだよ~」
柚子と翔が呟くと、まるで他人事のように杏が言う。
「つーか先ずは角谷さん、アンタも働けや。何自分だけのんびりしてやがんだ」
翔のツッコミが炸裂したのは、そんなに間は空かなかったんだとか…………
捜索開始から数時間後、日は西へと傾き始め、学園艦の町並みをオレンジ色の光が照らす。
そんな中、みほ達一行は旧部室棟の捜索を続けていた。
「さて、此処が最後の建物か…………結局手がかりになりそうなのは出なかったな」
紅夜がそう呟く傍らで、みほは最後の建物のドアを開けようとする。
「~~~~ッ!」
「ん?どうした?」
必死にドアを開けようとしているみほに気づいた紅夜が、そう声を掛ける。
「こ、このドア…………開かないよ…………」
かなり奮闘したようで、みほは苦しそうに、肩で息をしながら言う。
そう言われた紅夜はドアの前に立ち、軽く横へと引くがビクともしない。
「あ~あ、長い間使われてないから、手入れとかもロクにされてねえんだな、コレ」
そう言って紅夜はドアから離れると、みほに向き直って言った。
「どうする西住さん?必要とあらば蹴破るけど」
「な、長門先輩、ソレは流石に無理があるのでは…………?」
心配そうな表情を浮かべたあけびが言うが、紅夜は尚も、表情を変えなかった。
「大丈夫だろ、これぐらいは…………んで、どうする?」
淡々とあけびに言うと、紅夜はみほに聞き直す。それを見たみほは、何も言わずに頷いた。
「許可戴きました~。つー訳で紅夜君キーック」
何とも間延びした声を出しながら、紅夜は回し蹴りでドアを蹴飛ばし、中へと吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされたドアは、勢い良く壁に叩きつけられ、ガシャン!と音を立てながら床に倒れる。
「…………な?出来たろ?」
「は、はい」
満足そうな表情で言う紅夜に、あけびは苦笑を浮かべながら言った。
そして中に入った一行は、最後の捜索に乗り出すのだが…………
「手掛かりになりそうな物は…………出てきませんね…………」
「コレはもう、御手上げかなあ?」
部屋の中を粗方探し終えたものの、典子の言う通り、これと言って注目出来そうな物が出てこない状況に、忍も諦め気味の声を上げる。
「あ、ちょっと待って!」
突然、みほが声を張り上げ、埃まみれの棚に近づく。その棚の上には、何やら書類の束らしき物が積まれていた。
「うーん、うーん!」
みほは棚の出っ張りに足をかけ、取ろうとする。
すると…………
--カサッ--
「…………?」
突然聞こえた、何やら小さい物が移動するような音に、みほは書類の束を取ろうとしていた手を止め、他のメンバーも首を傾げる。
みほがゆっくりと、視線を音の主の方へと向けると…………
非常に細い2本の触角をユラユラと揺らし、窓から射し込む夕日の光に照らされ、反射して一部が艶っぽく輝いている、平べったいイキモノが居た。
「~~ッ!?キャァァァアアアアアアアアアッ!!!?」
数秒の沈黙の末、そのイキモノの正体に気づいたみほは、部屋の窓全てを割らん限りの悲鳴を上げ、激しく体を揺らし、足をジタバタと暴れさせる。
それが他のメンバーにも飛び火し、紅夜と麻子を除いたメンバーがパニックに陥る。
その大声に驚いたのか、そのイキモノは飛び立つ。だが、飛んでいった方向が悪く、バレーボール部のメンバーの元へと飛んでいってしまったのだ。
当然、バレーボール部のメンバーは悲鳴を上げながら逃げ回る。だが、メンバー4人揃って運悪く、未だにみほがしがみついている棚へと激突してしまったのだ。
バランスを崩した棚は、みほがしがみついたまま倒れ、バレーボール部のメンバーと紅夜をも下敷きにしようとばかりに襲い掛かる。
その拍子にみほは手を離し、地面に尻餅をついてしまう。慌てながら麻子が近づくものの、もう間に合わないだろう。
もうダメだとばかりに、みほ達は頭を抱えて蹲る。
そして棚が倒れかかり、彼女等を下敷きにしようとした瞬間…………
「コラァ、なァに人の仲間を踏み潰そうとしてやがんだ、このボケナス」
荒々しい口調と共に、棚に乱暴に足がぶつけられ、それに支えられて棚の動きが止まる。
みほ達がゆっくりと顔を上げると、動きが止められた棚と、その棚を支えるジャーマングレーのズボンが見えた。
「こ、紅夜君…………」
みほが弱々しく声を出すと、鋭い目で棚を睨み付けていた紅夜が視線を落とす。
「…………怪我は?」
「う、ううん…………私は大丈夫」
「そっか…………そっちはどうだ?」
みほの無事を確認した紅夜は、バレーボール部のメンバーにも声を掛ける。
「わ、私は大丈夫ですが…………忍が…………」
「イタタ…………」
紅夜の呼び掛けに典子が答え、足を抑えている忍を見る。
「挫いたのか…………分かった、取り敢えず全員、其所から離れろ」
紅夜が言うと、バレーボール部の3人が忍を引っ張って移動させ、みほも建物の外に出る。
「あらよっと」
紅夜は片足で棚を押し、元に戻す。ドスンと音を立て、埃を巻き上げながら、棚は元の場所に戻る。
それを見てから、紅夜は床に散乱した書類をかき集め、一通り目を通す。
「チッ!戦車の事なんて1個も載ってねえのかよ」
荒々しく吐き捨てると、紅夜は書類の束を棚の上に戻して外に出る。
「…………残念ながら、あの書類の中に戦車の事なんて書いてなかったよ…………骨折り損のくたびれ儲けとは、正しくこの事だな」
皮肉るように言うと、紅夜は忍に近づく。
「ちょっと挫いただけだから1日もすりゃ動けるだろうが、今のところは下手に動かさない方が良いな…………ちょっと失礼」
「え?…………きゃっ!?」
紅夜は断りを入れると、忍を横抱きに持ち上げる。
「悪いが、ちょっとばかり我慢してくれ」
「は、はい…………」
忍は顔を赤くしながら答え、それを見たみほが、複雑そうな表情を浮かべる。
「…………何処の部だ?こんな所に洗濯物干したのは?」
帰ろうとした際、麻子がそんな事をぼやく。その声に一行が目を向けると、其所には…………
「戦車の…………砲身…………?」
物干し竿になってしまっている、戦車の砲身らしき物を視界に捉えるのであった。