大洗側で、其々が勝利へ向けて行動を開始している頃、とある地点の草影には、アンチョビのP-40に、セモヴェンテ、そしてカルロベローチェが控えていた。
キューボラから上半身を覗かせて周囲の様子を窺っていたアンチョビは、ペパロニ率いるカルロベローチェのグループからの通信が一向に来ない事を疑問に思い、インカムに呼び掛けた。
「おいペパロニ、作戦開始から全く通信が無かったが、《マカロニ作戦》はどうなっているんだ?上手くいってるのか?」
『すんませーん、今アタシ等それどころじゃないんで後にしてもらえますかー?』
インカム越しにペパロニから返された返事は、アンチョビが期待した《マカロニ作戦》の進み具合についての返答ではなく、『それどころではないから後にしろ』との返答だった。
その返答に、アンチョビはますます首を傾げた。
「なんで?」
『いやぁ~、実は今、アタシ等ティープ89と交戦中なんですよ~。ど~してバレちゃったのかなぁ~?絵はちゃんとしてるからバレないって思ってたのに~』
「お前等、ちゃんと十字路にデコイ置いたんだろうな!?不備なく置いたんだろうな!?」
適当な調子で状況を説明してくるペパロニに、アンチョビは声を荒くして言った。
『勿論、ちゃんと置きましたよ?全部!』
「そっか全部か~……………って、はあ!?全部!?あるだけ全部置いてきたのか!?」
『そっスよ?』
「『そっスよ?』じゃない!全部置いたら試合に参加する戦車のレギュレーションと数合わないから、ソッコーでバレるだろうが!おまけにインチキしてるとかで疑われるかもしれんのだぞ!」
そう、大洗チームに作戦の内容を知られたのは、試合開始直後に先行したペパロニ達カルロベローチェグループが、各十字路にカモフラージュとして置いた偽物のカルロベローチェやセモヴェンテを描いた看板を置く数を間違えたからなのだ。
その看板で相手を騙し、怯んでいる隙に包囲して攻撃を仕掛けると言う作戦は、何とも間抜けなミスで儚く散った。
だが、ミスを仕出かした当のペパロニ本人は……………
『あー、確かに言われりゃそっか!流石は姉さん、賢いッスね~♪』
この反応である。
どうやらペパロニは、良くも悪くも、アンツィオ高校の生徒の特徴を表している人物であるようだ。
「適当に言うな!それと私が賢いんじゃなくて、お前がアホなだけだ!この大馬鹿者!!」
そう怒鳴り散らすと、アンチョビは通信を切った。
「全く彼奴は、こう言う肝心なところで適当なんだから……………こうなったら仕方無い、私達も行くぞ、敵は直ぐ其所まで来ている筈だ!」
「はい!」
隣のセモヴェンテに乗る金髪の女子生徒に言うと、その女子生徒の返事を返す。そして、3輌が一斉に動き出した。
「それにしても彼奴等、『2枚は予備だ』ってあれ程言ったのに、なんで忘れちゃうかなぁ、もう!」
そう愚痴を溢していると、アンチョビ達は前方からやって来るみほ達の戦車と擦れ違う。
「全車停止!敵フラッグ車と隊長車発見!」
アンチョビが声を張り上げると、3輌は急停車する。
大洗の戦車も同じくであり、達哉の駆るIS-2は、速度を落としながら信地転回し、スライドしながら向きを180度後ろへ向ける。
「あのパーソナルマーク……………まさか、タカちゃんが!?」
その時、セモヴェンテのハッチから様子を窺っていた金髪の女子生徒は、ゆっくりと向きを変えるⅢ突の側面に描かれているカバさんチームのマークを見て何かを感じ取ったのか、Ⅲ突に狙いを定める。
「総師、あの75mm長砲身の戦車は、私に任せてください!」
『ああ、頼んだ!』
そしてセモヴェンテも向きを変えてⅢ突と対峙し、その間にP-40とカルロベローチェは坂を下り始めた。
「あの2輌を追います!全車前進!」
みほが言うと、麻子はアクセルペダルを踏み込んでⅣ号を急発進させ、カメさんチームの38tやIS-2も後に続く。
それからは並走して坂を下りながらの砲撃戦が始まった。カルロベローチェはP-40のシャーシ部分を守るように進み、カメさんチームの38tは、その直ぐ横を走るIS-2が、その巨体で隠す。
「こうなったら、せめてIS-2だけでも……………Fuoco(撃て)!」
大洗のフラッグ車を撃破するには、まずはそれを覆い隠すIS-2を排除しなければならないため、アンチョビは車内に引っ込むと、照準をIS-2に向けて引き金を引くが、そもそもIS-2の装甲は、現在参戦しているどの戦車よりも分厚い。P-40から放たれた砲弾は、IS-2の車体側面の装甲に当たって弾かれるだけに終わった。
「くっ!……………やはりウチの戦車じゃ火力不足………じゃなかった、限界があったか……………ッ!」
そうしているうちにも、両チームの撃ち合いは続く。坂を下り終え、開けた場所に出た両チームは、そのまま別々の方に別れた。
その頃、擦れ違った場所に残ったⅢ突とセモヴェンテは、車体をぶつけ合ったりと、殴り合いとも言えるような砲撃戦を繰り広げていた。
「向こうは側面は晒さない筈、正面なら防循を狙って!」
「何処でも良いから、兎に角当てろ!Ⅲ突の主砲なら何処でも抜ける!」
互いに装填手であるセモヴェンテの金髪の女子生徒とⅢ突のカエサルは、其々の砲手に言う。
2輌の車体や砲身が何度もぶつかり合い、激しい金属音と火花を散らす。
そして互いに撃ち合うが、ぶつけ合っている時に砲身が別方向を向き、そのまま砲弾が放たれ、其々の天板を掠れていくだけに終わる。
履帯同士も接触させ、それで切れないのが不思議なぐらいに、何度も車体のあちこちをぶつけ合い、撃ち合うのであった。
そして視点を移し、アヒルさんチームの八九式。
其所では、翔からの伝言を紅夜から受け取り、あけびはスコープ越しに前方を走るカルロベローチェのエンジン冷却部を睨み付ける。
「発射!」
その声と共に、あけびは引き金を引く。
すると、その砲弾は見事にエンジン部分に叩き込まれ、砲撃を受けたカルロベローチェは土手に乗り上げ、そのまま横転して止まり、車体側面から撃破を示す白旗が飛び出す。
「良し、次!バックライト!」
「はい!」
あけびが引き金を引き、薬莢が排出される度に、典子は次々に砲弾を放り込んでいく。
砲弾が当たる度に、あるカルロベローチェはスリップして止まり、またあるカルロベローチェは横向きにゴロゴロと転がって止まる。
そして瞬く間に、残ったカルロベローチェはペパロニの乗るものだけとなった。
「くっそー、彼奴等調子に乗りやがって!」
車内後部の窓から八九式を睨みながら、ペパロニはそう悪態をつく。
《カルロベローチェ4輌、走行不能!》
その後観客席では、そんなアナウンスが響き渡っていた。
《カルロベローチェ4輌、走行不能!》
「な、何だってー!?」
車内でアナウンスを聞いていたアンチョビは、予想だにしない事態に焦りを見せていた。
「包囲戦は中止だ!……………とか言ってる内にCVがやられた!?」
再び鉢合わせとなった大洗チームからの砲撃の中、インカムに向かって叫んでいたアンチョビは、IS-2からの砲撃をモロに受けて派手に吹っ飛ばされるCVを見て声を上げた。
「敵フラッグ車が単独になりましたので、そろそろ仕上げに掛かります」
焦っているのか、挙動が覚束なくなったP-40を視界に捉えたみほは言った。
「あいよ~、どうすんの?」
『取り敢えず、この決着は先にある崖の上から着けます。ライトニングチーム、お願い出来ますか?』
「All right,commander.Leave it to us(了解、隊長。任せろ)」
「おい紅夜、その英語使う癖は何とかならねえんか?」
「ならん!」
「即答かよ……………まあ、それがお前ってのは知ってんだけどな……………」
翔は、紅夜に英語を使う癖を何とかするように言うものの、即答で拒否される。
それを聞いていた勘助は、ヤレヤレとばかりに言いながら苦笑する。
「んじゃ、俺等は先に行っとくか……………達哉!」
「言われずとも分かってるって!そんじゃ、全速前進!」
紅夜の指示を受け、達哉はギアを入れてアクセルペダルを思い切り踏み込む。
IS-2は車体後部の両サイドに備えられた排気口から白い煙を吹き上げ、急な加速に車体前部を若干浮き上がらせながら、森林地帯を爆走し始めた。
「IS-2が離れていく……………なら、今しかない!」
そう呟き、アンチョビはインカムを握りしめて叫んだ。
「全車両に告ぐ!大至急フラッグの元に集まれ!戦力の立て直しを図るぞ!これより《分度器作戦》を発動する!」
『『了解!』』
ペパロニのカルロベローチェや、ウサギさんチームを追っていた2輌のセモヴェンテから返事が返され、其々がP-40の元へと向かい始めた。
決着の時は近い。
「ところでペパロニ姉さん、《分度器作戦》って何でしたっけ?」
「あー、知らん」
カルロベローチェ車内では、アンチョビに聞かれたら直ぐ様説教を喰らうような会話が交わされていたのは余談である。