ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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勢い任せに書いたらスゴい事になった( ̄▽ ̄;)
だが、反省も後悔もしていない!(←しろよ!)

それと、西さんのキャラ崩壊に注意!


第47話~紅夜君と絹代さんの過去話です!~

「本当にすみませんでした」

紅夜の大発狂から約30分。漸く気がついた紅夜は、格納庫ごと飛び上がり、扉を閉ざしても声が聞こえる程に発狂していたと言う事を達哉から知らされ、今現在、全力で土下座中である。

 

「い、いやいや、別に良いって。ホラ、顔上げなよ」

 

まさか土下座されるとは思わなかったのか、杏は苦笑いしながら言った。

 

「それにしても、紅夜君があんなにも発狂するなんて……………一体何があったのさ?」

 

そう言って、杏は興味津々な視線を向ける。

 

「あーっとですね……………それは……………」

「紅夜、止めとけ。また発狂する事になる」

 

達哉は、説明しようとしたものの、また震え始めた紅夜を落ち着かせようとする。

そして、レッド・フラッグのメンバーの方を向いて呼び掛けた。

 

「オーイ紅夜係、取り敢えずコイツ落ち着かせてくれ」

「誰が紅夜係よ」

 

達哉がメンバーの方に呼び掛けると、呆れたような表情を浮かべた静馬が歩いてくる。

 

「紅夜、取り敢えずは格納庫の方に行きましょう?」

「……………うん」

 

最早その表情には、試合中の凛々しさの欠片も無い。静馬は幼児退行しかけている紅夜を宥めながら、格納庫の方へと連れていった。

 

「……………それで、何があったのか、説明してくれるかな?」

 

紅夜が連れていかれるのを見届け、杏は達哉の方を見て言った。

 

「あれは、俺等が未だ現役だった頃の話なんですけど……………」

 

その言葉を前置きに、達哉は当時の事について話を始めた。

 

 

 

 

 

 

それは、今から約4年前-----まだ、紅夜達レッド・フラッグが現役だった頃にまで遡る……………

 

「ウーンッ!いやぁ、テスト明けの試合はやっぱ格別だな!鈍ってた感覚が戻ってくるような感じがするぜ」

「そりゃ同感だな。それで、テストはどうだったよ?」

「平均86点だ。90以上にならなかったのが残念だがな」

「そういや紅夜、今回の英語じゃ100点取ってたっけな」

 

その頃、未だ中学2年生だった紅夜率いるレッド・フラッグは、期末試験を経て直ぐ、絹代が隊長を勤めている、知波単学園--と戦車道での関わりが深い中学校--の戦車道同好会チームとの試合に挑んでいた。

 

『此方レイガン、敵フラッグ車を発見』

「はいよ。どっちに向かってる?」

『北よ。F26地点に向かってる』

「マジかよ、あの辺って下手したら、結構下までずり落ちるような土手沿いの道だぜ?否、傾斜も結構あるし、土手と言うよりかは崖だな」

 

彼等の試合の舞台は、アンツィオ戦の時よりも若干緩いものの、それでも凹凸の激しい山岳地帯。

大河が車長を勤めるスモーキーチームの戦車--シャーマン・イージーエイト--が撃破されたが、相手のチームはフラッグ車を残して全滅し、2対1の試合となっていた。

 

2輌が縦1列になって、フラッグ車である九七式戦車チハを追う中、双眼鏡で相手の様子を窺っていた紅夜は、その場で不思議な光景を目にする。

 

「ん?向こうの親玉さん、崖を背にして此方向いてから動かなくなったぞ?」

「はあ?マジで?」

 

車内からそんな声が上がり、砲手の翔がスコープを覗いてチハの様子を見る。

 

「ホントだ、此方向いてから全く動いてねえな……………何のつもりだ?」

 

スコープを覗いていた翔が、スコープから目を離して首を傾げる。

そんな時、同じように双眼鏡で見ていた静馬が通信を入れた。

 

『もしかして、フラッグ車同士の一騎討ちをご所望なんじゃない?いえ、それしか考えられないわ』

「マジかよ、チャレンジ精神の塊だな向こうは……………」

 

静馬に言われた紅夜は、一向に動く気配を見せないチハを見ながら呟いた。

 

「どうした?」

「静馬がさあ、向こうが一騎討ちを望んでるんじゃないかって言ってきたんだよ」

「一騎討ち?チハとIS-2(コイツ)でか?」

 

翔の質問に紅夜が答えると、勘助は驚いたような表情を浮かべる。

 

「まぁ、要はあれだろ。一応火力や防護力は俺等が勝ってるけど、起動面で言えばほぼ互角だし、コイツの弱点の砲塔リングを狙い撃ち出来れば一撃でノックアウト出来る。それが無理なら、コイツの履帯を先にぶっ壊してから後ろに回り込むなりしてエンジンに撃ったり、砲塔を旋回させてる間にありったけ撃ちまくって撃破しちまえ……………みたいな」

 

操縦席で話を聞いていた達哉が呟くと、メンバー全員が成る程とばかりに頷く。

 

『会議の方は終わったかしら?』

 

紅夜が通信を切り忘れていたため、話を徹頭徹尾聞いていた静馬が話し掛ける。

 

「ああ、終わったよ静馬。向こうの申し込み、受ける事にしたぜ」

『そう……………なら私達は、適当な場所で停車して遊んでても良いかしら?』

「遊ぶってお前……………観戦するって選択肢はねえのかよ?」

『冗談よ、冗談。ちゃんと観戦してるから、思いっきり暴れてきなさい』

「はいはい……………んじゃ、行ってくるぜ」

 

紅夜はそう言うと、今度こそ通信を切る。

 

「達哉、コイツをブッ飛ばせ。さっさとこの勝負にカタを着けようぜ。それから決戦の時は頼むぜ?」

「Yes,sir!」

「翔、何時でも狙えるようにしとけ!勘助は装填早めにな!」

「「Yes,sir!」」

 

紅夜は、自車の乗員達其々に指示を出し、決戦に備える。

達哉はIS-2のギアを上げてアクセルペダルを思い切り踏み込む。すると、IS-2は車体前部を軽く浮き上がらせ、速度を上げて突っ走っていった。

 

「……………やっぱり、こう言う時って一番元気が良いのよね、ライトニングの面々は」

 

自車を置いてきぼりにして突き進んでいくIS-2を見届けながら、静馬はそう呟く。

 

「そう言っておきながら、内心ではこう思ってるんでしょ?『そんな紅夜も大好き』ってね♪」

「ヒュウッ♪我が車長は恋する乙女だねぇ~。こりゃあ面白くなってきたぜ、Yeah!」

 

装填手の亜子がからかうように言うと、それを聞いていた操縦手の雅は男口調で良いながら、パンターA型をスタントカーの如く360度回転させ、静馬は危うく、車外に放り出されそうになった。

 

「亜子は変な事言わないで!それから雅!そんなスタントカーみたいな危険走行は、私がやれって言わない限りやっちゃ駄目って言ったでしょう!?放り出されそうになったじゃない!」

「ゴメンゴメン」

 

顔を真っ赤にして怒る静馬に、亜子と雅はニヤニヤしながら謝る。

そうして、丘を上りきった一行はパンターを停めて車外に出ると、ちょうど決戦の場に到着した2チームのフラッグ車へと目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

静馬達が向けている視線の先では、絹代の九七式戦車チハと紅夜のIS-2が対峙していた。

 

「改めまして、隊長の西 絹代です。今回はよろしくお願いします」

 

チハのキューボラから身を乗り出した絹代は、紅夜に挨拶する。

 

「《RED FLAG》隊長、長門紅夜です。此方こそよろしく」

 

そう言って、紅夜も挨拶を返す。

そして、両者共に不適な笑みを浮かべて相手を見る。

 

「いざ……………」

「尋常に……………」

「「勝負!」」

 

そして、両方の操縦手がアクセルペダルを思い切り踏み込み、互いの獲物へと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………とまぁ、そんな感じで、俺等ライトニングと向こうのチハとの一騎討ちが始まったんですよ」

「ほほぉ~、そんな事があったんだねぇ~」

 

達哉は話を一旦区切ると、両腕を上に上げて伸びをして、首を左右に倒してポキポキと音を鳴らす。

そんな達哉を見て、杏は何時も通りに干し芋を頬張りながら感嘆の声を溢していた。

 

「それで、どうなったの?」

 

早く続きが聞きたいのか、急かすようにみほが訊ねる。他のメンバーも、早く続きを話せと言わんばかりの表情だ。

 

「恐らく、お前等が予想しているような戦いだと思うぜ?」

「と言う事は、それはもう激戦に?」

 

そう訊ねた優香里に、達哉は頷いた。

 

「そうだよ秋山さん。主砲、機銃を撃ちまくってのドンパチ戦だ。相手の砲弾がウィークポイントに当たったら敵わんから、IS-2をブン回す羽目になったな」

「履帯が切れたりはしなかったのか?ただでさえ重戦車だし、足回りには気を付けなければならんだろ」

 

何時もの無関心そうな麻子だが、今回ばかりは興味津々だ。

 

「いや、それがな?不思議な事にIS-2(彼奴)、今まで俺の走り方が理由で、と言うかだな……………試合中に履帯が切れた事なんて、1回も無かったんだよ」

『『『『『『『ええっ!?』』』』』』』

 

達哉から放たれた驚きの発言に、レッド・フラッグのメンバーを除いた一同が騒然となった。

 

「そんな事って有り得るんですか!?」

「普通、試合中に履帯が切れるなんてちょくちょくある事だし、そんなに言う程の危険走行してたなら、上手くやらないと履帯なんて直ぐ外れたり切れたりちゃうのに……………」

「よ、余程上手い具合に運転していたんだな……………」

 

優香里、ナカジマ、桃の順番に驚いた声を出す。

其所へ麻子が近寄り、達哉の肩に手を置いて言った。

 

「やっぱりそど子に教えるのはお前に丸投げする」

「ダメッ!ダァーメッ!」

 

納得してしまいそうな程に清々しい笑顔で麻子は言うが、達哉にあっさりと断られてむくれる。

 

「それで?その後の結末は?」

「ああ、そうでしたね」

 

話の続きを聞きたいのか、催促する杏に達哉は答え、また話を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勘助!残りの砲弾は!?」

「今装填したのを除いて、後5発だ!」

「紅夜!車体の機銃はもう駄目だ!弾切れしちまった!」

「翔!ソッチの機銃は!?」

「もう直ぐ弾切れになる。長くは撃てねえ」

 

其々に状況を確認した紅夜は歯軋りする。

相手の戦車の操縦はかなり上手く、達哉でさえ、内心で舌を巻く程だ。

 

そうしているうちに、最初に対峙していた時とは場所が逆になり、IS-2が崖を背に追い詰められたような状況になった。

 

「これで止めだ、突貫!」

 

絹代は操縦手に指示を出し、チハが物凄い勢いで突撃してくる。

それを睨み付けながら、紅夜は言った。

「達哉、車体だけを横に向けろ。翔は何時でも砲塔を回せるようにしとけ。合図で全速後退、そして射撃だ」

「随分とギリギリな距離での射撃で勝負を着けるつもりなんだな……………んで、勝算は?あるんだな?」

 

そう言う達哉に、紅夜は不適に笑って言った。

 

「お前等の腕次第だぜ……………」

「あいよっと!」

 

達哉と翔はIS-2の車体のみを転回させ、砲塔だけがチハを睨む。

そして、翔は砲塔をゆっくりと回し、車体に合わせようとする。

 

「良し、やれ!」

「「Yes,sir!!」」

 

 紅夜の合図で、達哉はIS-2を後退させ、チハの突進をすんでのところでかわす。

それに間髪入れず、翔は引き金を引いた。

ゼロ距離からの砲撃をモロに喰らったチハは派手に吹き飛ばされ、地面に何度も車体を打ち付けながら転がる。

だが、幸運にも車体は元に戻り、そのまま後ろ向きで惰力走行に入るのだが、其所で不運が待ち構えていた。

先述にもあったように、彼等の決戦の舞台は、崖のような急勾配の土手を背にした場所。

 そんな危険地帯を操作の効かない乗り物が惰力走行などしたらどうなるか?答えは単純明快……………そのまま落ちるだけだ。

 

「「「「きゃぁぁぁあああああっ!!!」」」」

 

 ズルズルと落ちていくチハからは、乗員の悲鳴が上がる。

 

「ヤバい……………やっちまった」

 

 それを見た紅夜は、達哉に怒鳴った。

 

「全速前進!チハが落ちた土手の方まで急げ!」

「あいよ!」

 

 達哉がIS-2を急発進させる中、紅夜は車外へ出ると、エンジン部分へと乗り移り、装備されているワイヤー取り外し、再び砲塔へと移動すると、急停車の反動に備えてキューボラハッチにしがみつく。

 

「おら、停車だ!」

 

 達哉は紅夜が予想した通りに荒っぽい停車をする。

 だが、そのお陰でIS-2の車体は、土手を下るスレスレの位置で止まっていた。

 紅夜はワイヤーを片手に、そのまま砲塔を越えて砲身に掴まりながら、傾斜装甲となっている車体を伝って前部まで移動する。

 

「ふむ……………幸運にも止まっているか」

 

 出っ張っている何かに運良く当たったのか、土手の中腹辺りで動きを止めているチハを見た紅夜は、一先ず安堵の溜め息をつく。

 その後、紅夜はIS-2の車体下部にあるフックにワイヤーを引っ掻けると、一旦車内に戻って静馬に通信を入れた。

 

「静馬、今直ぐ来てくれ。緊急事態だ」

『ん?どうかしたの?』

 

 そう聞いてくる静馬に、紅夜は今の状況を説明する。

 

『分かったわ。直ぐに向かう』

 

 そうして通信は切れ、紅夜は数百メートル後方で、大急ぎでパンターに乗り込んで準備をするレイガンの面々を見た。

 程無くしてパンターが到着し、静馬がパンターから降りてワイヤーを持ってくる。

 静馬がパンターから持ってきたワイヤーをIS-2に繋いでいる間に、雅はパンターを信地転回させ、IS-2と背中合わせになるような配置にする。

 そして、パンターにもワイヤーが繋がれ、その間にIS-2の車体全部に移動し、其所のワイヤーを握って降りる準備を整えていた紅夜に、静馬が合図を送る。

 

「紅夜!繋ぎ終わったわよ!」

「了解!」

 

 紅夜はそう返事を返し、慎重にワイヤーを伸ばしながら土手を降り、チハの方へと近づいていく。

 

 車内からは、乗員達と思われる悲痛な泣き声が聞こえてきていた。恐らく、何時チハを支えているのものが持たなくなり、そのまま土手を滑り落ちるのか分からないと言う状況に怯えているのだろう。

 チハの車体下部にあったフックにワイヤーを引っ掻けた紅夜は、前面装甲を叩いて車内に呼び掛けた。

 

「おい!全員無事か!?」

 

 その呼び掛けに、車内は一旦静かになる。そして、キューボラから顔を出した絹代が、紅夜の姿を捉える。

 

「紅夜さん!?ど、どうして此処へ!?」

「そんなモン決まってんだろ、助けに来たんだよ」

 

 そう言って、紅夜は車体下部に引っ掻けたワイヤーを見せ、次に上を指差して言った。

 

「チハと俺等のIS-2をワイヤーで繋いだ。1人ずつ車外に出て、ワイヤーを使って上れ!残ったチハは、上に居る俺のチームの連中が引っ張り上げてくれるさ……………ホラ、急げ!時間はあまり残されてねえんだぞ!」

「は、はい!」

 

 絹代はそう答えると、車内に顔を入れて乗員に助けが来た事を伝え、紅夜が話した内容を伝える。その後、チハの乗員がゆっくりと、車外に這い出てくる。車体前部で待機している紅夜が乗員を引っ張って移動させ、後は乗員達がワイヤーを伝って上っていくのを見届ける。

 

「良し、最後はお前だな西さん。急いで上れ!」

「はい!」

 

 絹代は紅夜の手を借りる事無く車体前部へと移動し、ワイヤーを伝って上っていく。

 そして、紅夜は車内に誰も居ない事を確認し、スマホで達哉に連絡を入れる。

 

「良し……………達哉、チハの乗員は全員脱出した!引っ張ってくれ!」

『あいよ!』

 

 そうして通話が切れ、程無くして、チハがズルズルと音を立てながら、上で待機しているIS-2とパンターによって引っ張り上げられる。

 そして土手の稜線を越え、前部が地に着き、そのまま安全な場所まで引っ張られると、チハの乗員は安心したのか、涙線が崩壊して泣き叫ぶ。

 車外に出て、良くやったとばかりに親指を立てる仲間に、紅夜も親指を立てた。

 その後、ワイヤーを付けた救援車が駆けつけたが、既に終わっていたため、場の雰囲気が微妙なものになった。

 

 

 

 

 

 

 

「……………とまあ、そんな感じかな」

「成る程な……………だが、それじゃあ長門が知波単との試合を拒む理由が分からんぞ?」

「確かに。さっきの話だけでは、ただ長門君がチハの乗員を全員救出して、さらにチハも引っ張り上げたって事しか分かりませんね……………」

 

 言い切ったような表情の達哉に、桃と柚子が、いまいち腑に落ちないと言わんばかりの表情で言う。

「まあまあ、河嶋さんに小山さん。話は最後まで聞くものですぜ?」

「ま、未だ続きがあるのか!?」

 ニヤリとしながら言う達哉に、桃は大声を出す。

 

「当たり前でしょうが。でなきゃ、さっき小山さんが言ったような展開だけで終わっちまうからな………………んで、そんな出来事もあって試合が終わって、そこからが本題なんですけど……………」

 

 そう言葉を切り出し、達哉は話の続きを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「時間良し、そして忘れ物無し………………良し、それじゃあ俺等も撤収すっか!試合のDVDは今度送られてくるらしいから、その時に皆で見ようぜ!」

『『『『『おー!』』』』』

 

 帰り際の最終チェックを終えた紅夜が言うと、レッド・フラッグのメンバーはそう返事を返して移動用のバスに乗り込んでいく。

 試合後、紅夜は試合を見に来ていたと言う知波単中等部チームの通う学校の教員やチームメイトに囲まれて礼を言われ、あるチームの1人には握手を求められ、またある者には抱きつかれたりと、かなりもみくちゃにされたのか、髪の毛がボサボサになっていた。

 

「あ~あ、ボッサボサになっちまった」

 

 頭に軽く手を当てながら言うと、紅夜はバスに向かって歩みを進めていくが……………

 

「待ってください、紅夜さん」

 

 後ろから絹代に呼び止められ、紅夜はその歩みを止めて振り向いた。

 

「おお、西さん。チハの乗員はどうだった?怪我とかは?」

 

 紅夜は心配そうな表情で訊ねるが、絹代は笑みを浮かべ、首を横に振った。

 

「いえ。幸運にも、全員怪我はありません」

「おー、そりゃ良かった。誰か怪我してたらどうしようかと思ってたから安心したぜ」

 

 紅夜はそう言うと、搬送車で運ばれていく愛車を見た。

 

「IS-2のワイヤー、新しいのに換えといてくれるかなぁ?あのワイヤー、チハを引っ張り上げた際に切れかけてたらしいし………………」

 

 実はあの後、紅夜はワイヤーを回収していた際、IS-2とチハを繋いだワイヤーが切れそうになっていた事に気づいたのだ。

 その損傷具合からすれば、絹代が安全な場所へ到達してから切れ目が入り始めていたのだろう。

 そして、後少し引き上げるのが遅ければ、紅夜はチハ諸共その場に止まるか、足場がもたなくなって土手をずり落ちるかのどちらかの運命を辿る事になっただろう。

 

「あの……………」

 

 そんな物思いに耽っていると、絹代が近づいてきていた。

 

「ワイヤー、切れそうになっていたんですよね……………?」

「ん?………ああ、まあそうだな。やっぱ、あんな急勾配の土手の中腹辺りから戦車引き上げるのは、ちょっとばかりハードだったか……………」

 

 紅夜が言うと、絹代は顔を俯けた。

 それを見かねたのか、紅夜は絹代の肩に手を置いた。

 

「おいおい、そんなに気にする事はねぇよ。ワイヤーが切れかけてたとは言え、最終的にはお前の戦車も乗員も、そして俺も無事だったんだ。『終わり良ければ全て良し』、これで良いじゃねえか」

 

 そう言って、ゆっくりと頭を上げた絹代に、紅夜は微笑みかける。

 

「ッ!」

 

 その瞬間、絹代の顔が真っ赤に染まり上がった。もう既に夕方になっているが、それでも分かる程だ。

 

「あ、ありがとう……………ございます」

「そんなに何度も礼言わなくても良いって。もう何回も言われたんだかさ……………って、なァ~に何時までもシケた面してんだよ?ホラ、笑え笑え!美人さんに似合うのは笑顔だからな!」

 

 そう言って、紅夜は豪快に笑った。

 それを見た絹代も安心したのか、その表情に笑みを浮かべる。

 不意に、紅夜の耳にはバスのエンジンがかかる音が聞こえ、腕時計を見る。

 

「おっと、そろそろ行かねえと……………それじゃな西さん、また勝負しようぜ」

 

 紅夜はそう言って踵を返し、バスに向かって歩こうとするが、その瞬間、絹代は紅夜に駆け寄っていた。

 

「紅夜さん!」

「ん?未だ何か---ッ!?」

 

 

 未だ何かあるのかと言おうとした紅夜の口は、突然視界一杯に顔を映した絹代の口によって塞がれた。

 そして口に感じる、柔らかくてしっとりした感触……………

 

……………そう、キスである。

 

「ちょっと紅夜、さっきから何してるのよ?もう皆バスに……………乗っ……………て……………」

「おーい静馬、ドアの近くで何固まって……………ん……………だ……?」

 

 紅夜が中々来ない事に痺れを切らした静馬や、そんな静馬を追って達哉が出てきたが、その光景を見て、達哉は顎が外れそうな気分だった。

 

「あっ……………あぁぁ……………」

 

 静馬は言葉にならないような声を発し、遂には達哉に倒れ込んだ。

 

「んっ……………んぅ……ぷはっ」

 

 長い口づけを終え、絹代の唇が紅夜の唇から離れる。

 

「……………ッ!?」

 

 最初、自分に何が起こったのかを理解出来なかった紅夜は、目の前で妖艶な笑みを浮かべる絹代を視界に捉えた瞬間、顔が真っ赤になった。

 これを見た達哉曰く、『紅夜の赤面なんて、これ以外では見た事無い』とすら言わしめる程に。

 

「ちょ……………ちょっとちょっと!何してんだ西さん!?」

 

 状況を理解した紅夜は、顔が真っ赤になったまま絹代に詰め寄って両肩を掴んで揺さぶる。

 だが、絹代は妖艶な笑みを崩さぬまま、両腕を紅夜の首の後ろに回してしなだれ掛かる。

 紅夜は戸惑いつつも抵抗しようとするが、相手が女で、自分に敵意がある訳ではない手前、振り払うなどと言った手荒な真似は出来ない。

 

「ンフフッ♪離しはしません。このまま私と、ずっと一緒に居てください……………旦那様♪」

「……………えっ?……………えええぇぇぇぇえええええっ!!!?」

 

 その瞬間、紅夜の大絶叫が響き渡った。

 

「オイちょっと待てや西さん!アンタどうしたんだよ!?熱でもあんのか!?だったら今直ぐ病院に!」

 

慌てふためきながら、紅夜は徐々に、絹代から距離を取り始める。

「私は正常ですよ?旦那様……………」

「ちょっ!?ちょっと待とうぜ!?落ち着け……………って、なんで上着脱いでんだお前!?」

 

距離を埋めようと近づきながら、上着のボタンを外して脱いだ絹代に、紅夜は焦りながら言う。

 

「何故って……………男と女、やるなら伽以外に無いでしょう?」

「~~~ッ!!?」

 

そのまま近づいてくる絹代に、紅夜の頭の中で危険を知らせるアラームがけたたましく鳴り響く。

 

--ヤバい、何か知らんがやられる!--

 

 戦車道一筋でやってきた紅夜は、メンバーの中で一番、性的事情には疎い。そのため、今の絹代のような状態の女性への耐性は皆無。ましてや今の絹代のような女には会った事すら無い。

 そのため、紅夜の心に沸き上がってきたのは……………突然の状況への《困惑》と、絹代に『何かをされる』と言う《恐怖》だ。

 

「さぁ、私の元へいらっしゃい、旦那様……………」

「うわぁぁぁぁぁああああああっ!!?助けてくれェェェエエエエエッ!!!」

 

 阿鼻驚嘆の悲鳴を上げながら、紅夜は何処ぞの黄色いタコ型超生物顔負けの速度でバスに駆け込み、自分の席に座ってガクガクと震え出す。

 だが、中々バスが出発しない状態が続き、紅夜の精神は崩壊寸前にまで追い込まれていた。

 紅夜の性的事情への疎さと、それ故に妖艶な誘惑などに対する免疫が皆無な紅夜を誘惑した絹代で招いた結果がこれである。

 そして紅夜は、バスが中々出発しない事に焦れ、精神が崩壊寸前であるのもあってか、運転手に向かって大声を張り上げた。

 

「は、早く!早くバス出してくれ!!でねえと俺、彼奴(西絹代)に何かやられちまう!早くしてくれ!つーか今直ぐバス出せ!」

「は、はいぃぃぃぃいいいいいっ!」

 

 その気迫に押され、運転手はバスを発進させた。

 そうして港に着くまでの間、席で震えている紅夜を、静馬は膨れっ面で睨んでいたとか……………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………とまぁ、そう言う事があって、紅夜は西さんがマジで苦手って訳なのさ……………まぁ、あれであんだけ怯えまくるのはどうなんだよって思うけどな」

 

 達哉は今度こそとばかりに言い終えると、またしても腕を上に上げて伸びをする。

 

「傍から聞いてると、かぁ~なりオイシイ話にしか聞こえないんだけどねぇ……………」

 

 杏の言葉に、大洗のメンバー全員が声を揃えて頷く。

 

「まあ、そうでしょうな……………取り敢えずはそう言う訳だから、紅夜の過去話は、これでおしまい」

 

 そうして、今日の活動は終了となった。

 それから、達哉が紅夜の過去について話している間、結局メンバーの元へは戻ってこなかった紅夜は、静馬に連れられて帰宅し、その日、静馬は長門家に泊まる事になったとか違うとか……………

 

 そして紅夜は、精神回復のために、次の日の練習を欠席したらしい。

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