プラウダ高校や西住家、島田家で紅夜の話題が持ち上がる中、準決勝を間近に控えた大洗チームでは……………
「もう直ぐ準決勝だね~」
「うん。まさか此処まで来られるなんて思わなかったよ~」
その日の練習を終え、戦車の整備を行おうとしていた。
1年生が気の抜けたような会話を交わす中、紅夜達レッド・フラッグでは……………
「えー、知ってるとは思うが、準決勝では俺等全3チームの中から2チーム参加出来るようになってる訳だが、その2チームを決めようと思う」
IS-2、パンター、シャーマン・イージーエイトが横1列に並び、その前に立つ紅夜が話し合いの司会を勤める形で、準決勝に出る2チームを決めようとしていた。
「俺等スモーキーは、祖父さん達ライトニングとレイガンに5票だな。つーか、そもそもライトニングが出るのは決定事項だろうよ」
大河がそう言うと、スモーキーのメンバーが一斉に頷く。
「マジか………まぁ、お前等がそうしろってんなら、俺もそうするつもりで居るが……………レイガン、お前等はどうなんだ?」
「私は構わないわよ?寧ろ、推薦されたんならトコトン暴れるつもりよ」
紅夜が問うと、静馬が開口一番に答える。
「そうだね~。まぁスモーキーが出ても良いとは思うけど、出来るなら私達が出たいわね」
亜子がそう言うと、雅や紀子、和美からも同様な意見が出る。
「プラウダってロシア戦車使ってくるトコでしょ?パンターってT-34にそこそこ近い形してるから、ちょっと色塗って砲塔にプラウダの校章描いて、彼奴等の列に紛れ込んでやるわ。そんでもって見方に砲撃したら、彼奴等絶対にパニクるわよ?そっからは大暴れね!くぅーっ!武者震いしてきたぜ!Hallelujah!」
女としての口調を保ちつつも、達哉と同じように危険走行を好む程に血の気盛んな雅はそう言って、右手に握り拳を作って左手に打ち付ける。
それを見た達哉は、興奮気味に雅に近づいて言った。
「分かる!分かるぜぇ、雅!やっぱ戦車と来たら!」
「ドンパチ撃ちまくりながらぶつかり合って……………」
「「大乱闘だぜ!」」
声を揃えてそう言うと、2人はハイタッチを交わす。
見慣れた光景なのか、メンバーは微笑ましそうに見ていた。
「達哉君って、草薙さんと付き合ってるのかな……………」
だが、2回戦アンツィオ高校との試合の前、戦車を探すために船の底まで行った際、不安がっていたところを励ましてもらってから、達哉の事を意識している沙織からすれば気が気でなく、複雑そうな表情で達哉を見ていた。
「それもそうだがスモーキーの皆、ホントに良いのか?今なら未だ変更出来るぜ?」
紅夜はそう聞くが、スモーキーのメンバーは首を横に振った。
「まぁ欲を言えば出たいけど、隊長と副隊長を参加させた方が良いに決まってるし、そうなれば、ライトニングとレイガンが参加するべきだと思うわ」
「それに、決勝まで進んだら、俺等も参加出来るようになるんだ。それまでのんびり待たせてもらうさ」
深雪の言葉に煌牙が続き、千早や新羅、大河も同様の意見を述べる。
「そっか。まぁ、お前等がそうしろってんなら、俺もそうするつもりで居るが……………そんじゃあスモーキーの皆、応援頼むぜ?」
「「「「Yes,sir!!」」」」
その場を纏めようとした紅夜が言うと、スモーキーのメンバーが一斉に返事を返す。
「良し……………んじゃ、会議は終了!戦車の整備を始めるぞ!」
『『『『『『『Yes,sir!!』』』』』』』
そうして、メンバーは其々の戦車の整備に取りかかった。
「にしても、連盟もケチだよな~。1回戦と2回戦は1チームだけ参加で、準決勝で2チーム参加。それから決勝戦でやっと全チーム参加出来るようにするなんてさ……………」
「ああ、全くもって同感だ。連盟の連中が俺等をどう見てるのかは知らねえが、流石に試合に参加できるチーム数に制限付けるのは止めてほしいぜ」
イージーエイトに凭れた大河が呟くと、煌牙が続けて言う。
其所へ、イージーエイトのエンジン部分のハッチを開け、其所から降りようとしていた深雪が話に入ってきた。
「まぁ、私達女子陣だけなら兎も角、全体としては男子も参加してるチームだから、その辺りは仕方無いんじゃない?体力的な差もある訳だし」
「そんなモンかぁ?」
深雪の言葉に、今度は新羅が聞き返す。
「あくまでも予想だけどね……………ホラ、貴方達もサボってないで、整備しなさいよ。私達女子にばっかやらせてるんじゃないわよ?」
「あいよ、直ぐ始める」
そうして、大河達スモーキーの男子陣も、重い腰を上げるが如く整備に取りかかるのであった。
その頃、紅夜達ライトニングでは……………
「にしても、俺等を追い出しやがった連中だが、ちゃんと戦車の改修はするんだな」
知波単との試合で、車体や砲塔に多数の小さな傷がついていたのにも関わらず、今となっては無傷のまま格納庫に鎮座しているIS-2に触れながら、翔がそう呟く。
「まぁ、今の俺等は大洗チームとして活動してるから、逆に修理しなかったら苦情出るからだろうよ」
履帯等の足回りをチェックしながら、勘助がそう言った。
「それもそうだが、試合会場ってどんなトコだっけ?」
砲身の内部をブラシで掃除していた達哉が、その手を止めて言った。
「分からん。だが、多分相手が有利な場所になると思う。ホラ、時々あるだろ?そう言うの」
紅夜がそう返すと、翔が言った。
「あー、あるある。何の嫌がらせかと思うぐらいに敵が有利な場所に当たるってヤツだよな?それ」
「それに、試合会場って毎回ルーレットで決めるんだろ?細工とかしてたりしてな」
「流石にそりゃねーだろ」
勘助の一言に、紅夜が苦笑しながらツッコミを入れる。
そんな時、突如として紅夜の携帯から、重厚感溢れる管楽器や男声、そして女声によるロシア語の勇ましい曲--《ソビエトマーチ》--が流れ始めた。
紅夜のスマホの着メロだった。
「ああ、電話だ……………すまん、ちょっとの間頼む」
そう断りを入れて持ち場を離れると、紅夜はスマホの通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
『よぉ、ナガ坊。元気にしてるか?俺だよ、輝夫』
「おおっ!輝夫のおっちゃん!久し振りだな!」
電話の向こうに居る人物に、紅夜は嬉しそうな声を上げる。
紅夜に電話をかけてきた人物が、穂積 輝夫(ほづみ てるお)。紅夜の叔父的存在であり、未だ発足してから間も無く、当時、異端として見られていたレッド・フラッグの最初の理解者的存在である、筋骨隆々とした男である。
整備士等の資格を持ち、戦車の扱いもそれなりに心得ており、エンジンのオーバーホールやちょっとした改造などにも手を貸している。現に、レッド・フラッグの戦車の共通点である長めのフェンダーを取り付けたのは彼である。
『相変わらず元気そうだなぁ、ナガ坊』
「おうよ、おっちゃん。まぁ、次の試合会場は極寒地獄かもしれねーけどさ」
そう言って、紅夜は苦笑を浮かべる。
『ほほぉ~~?お前がそんなにも言うなら、お前等の次の対戦相手はプラウダとかだったりしてな!ガッハッハッハッハッ!』
そう言って、輝夫は豪快に笑い出した。だが、紅夜の表情は優れなかった。
「……………当たりだよ、おっちゃん」
『おう?』
「いや、その……………次の対戦相手プラウダなんだよ」
『マジか……………』
紅夜が言うと、予想外だとばかりに、先程まで豪快に笑っていた輝夫の笑い声が止む。
『ソイツぁ、ちと厳しい戦いになりそうだな。何せプラウダは、去年の全国大会で黒森峰破って優勝したトコだからなぁ……………なぁナガ坊。その辺考えたら、そろそろ《アレ》を付けるのはどうだ?もう直ぐ出来るぜ?』
輝夫は言うが、紅夜は首を横に振った。
「いや、未だ止めとくよ。アレは決勝戦まで置いといてくれ。時期が来たら取り付けてもらいに行くからさ」
『あいよ。ちゃんと代金持って来いよ?』
「金取るのかよ……………」
『ジョーダンだ、ジョーダン。んじゃ、そろそろ切るぜ。綾ちゃんやレッド・フラッグの皆にも、よろしく伝えといてくれや。また何時でも遊びに来い。美味いモン食わせてやっからよ』
「そりゃ楽しみだ」
そう言って、紅夜は軽く微笑んだ。
『またツラ見せに来いよ?じゃあな!』
そうして電話が切れ、紅夜は持ち場へと戻っていった。
「悪いな、お前等に整備全部押し付けちまって……………」
あれから持ち場に戻ったものの、その頃には既に整備が終わっており紅夜はライトニングのチームメイトに謝っていた。
「気にすんなよ。それよかお前、結構盛り上がってたじゃねえか。誰からだったんだ?」
手をヒラヒラと振りながら流した達哉は、紅夜に電話をかけてきた人物について訊ねる。
「ああ、輝夫のおっちゃんだよ」
「え、あの人か?うわぁー、良いな~」
「おい達哉、ちょっと退いてくれ……………それで紅夜、おっちゃんは何て言ってた?」
達哉を押し退けてきた勘助が、興味津々に訊ねる。
「『よろしく』だとさ。後それから、『また何時でも遊びに来い。美味いモン食わせてやっからよ』だとさ」
「そりゃ良いや、今度行こうぜ」
「おっちゃんのラーメンは絶品だからな!」
紅夜が答えると、達哉や勘助が嬉しそうに言い、翔もウンウンと頷いている。
「良し、そうと決まれば早速静馬達にも………「静かに!」……あれま、こりゃ伝えるのは後だな」
突然、桃からの一言が飛び、一同の視線が生徒会メンバーの3人に集まった。
「えー、本日の訓練、ご苦労であった。明後日遂に、プラウダ高校との試合がある。相手は昨年度の戦車道全国大会における優勝校だ。心してかかれ!」
『『『『『『『『『『はい!!!』』』』』』』』』』
すっかり士気が上がっており、メンバーから威勢の良い返事が返される。
「それと、長門!そっちはどのチームが出る?」
「俺等ライトニングと、静馬達レイガンが出ます」
「了解した!」
そう答えると、桃は再び、メンバー全員へと向き直った。
「良いか?お前達、この準決勝も必ず勝てよ?負けたら、我々はその時点で終わりなんだからな!」
もう次は無いんだと言わんばかりに、桃は言った。
「どうしてですか?」
其所へ、ウサギさんチームの梓からの質問が飛ぶ。
それを皮切りに、他の1年生からも声が上がり始めた。
「もし負けても、私達には来年があるじゃないですか」
「やるからには勝ちたいですけど、相手は去年の優勝校なんだし」
「来年に向けて、胸を借りるつもりで……「それでは駄目なんだッ!!!我々には勝つ以外の選択肢は無いんだッ!!!!」……ッ!?」
『『『『『『『『『『ッ!!?』』』』』』』』』』
次があると言うような言葉を遮るかのように、桃は怒鳴った。
すると、メンバーは一瞬ながら、ビクリと体を震わせる。
「……………勝たなきゃ、駄目なんだよね……………」
『『『『『『『『『『……………』』』』』』』』』』
何時もは陽気な杏も、この時ばかりは神妙な表情で言い、その格納庫内を静寂が支配する。
「……………すまん、取り乱した」
落ち着いたのか、桃はそう言い、みほの方へと向いた。
「西住、指揮を……と言っても、今日の練習は終わったがな」
「は、はい!では、解散します!」
その号令と共に、メンバーはそろそろと帰り始める。
「そんじゃな、紅夜」
「おやすみ、また明日ね」
「あいよ、Good night」
紅夜に挨拶をして行くレッド・フラッグのメンバーを見届け、紅夜も帰り支度を始めようとした時だった。
「紅夜君、ちょっと良い?」
「ん?」
帰り支度を始めようとしたところへ、杏とみほ、そして柚子と桃がやって来た。
「どうしました?」
「いや、その……………これから暇?」
珍しく歯切れを悪くしながら、杏はそう訊ねる。
「ええ、暇ですが……………何か?」
「君と西住ちゃんに伝えておきたい、大事な話があるんだ……………悪いけど、今から一緒に、生徒会室に行ってくれない?」
「……………?別に良いですよ」
そう言うと、紅夜は荷物を持って杏達に続き、来客用のスリッパに履き替え、生徒会室へと向かった。
「(なぁ、西住さんよ。大事な話って何だと思う?)」
「(どうだろう?私もさっき、『紅夜君にも伝えておきたい、大事な話があるから生徒会室に一緒に来て』としか言われてないから、よく分からないんだ)」
「(マジか……………)」
小声でそんな会話を交わしながら、紅夜とみほは、生徒会メンバー3人に続く。
その3人の顔が、あたかも余命3日を宣告しなければならない医師のように、辛そうな表情にになっている事にも気づかぬまま……………