「廃校になるって……………どう言う事なんですか?」
錯乱した桃によって、杏が秘密にしていた事実が……………桃達がやけに勝ちに拘る理由--今年度の戦車道全国大会で優勝出来なければ、大洗女子学園の廃校が決まる--が、遂に露見してしまった今、大洗チームのメンバーの中で静寂が訪れている中、みほは訊ねた。
「言葉通りの意味だよ、西住ちゃん……………」
杏は、何時ものふざけたような雰囲気を潜め、いつになく真面目な面持ちで答えた。
「言葉通りの意味って……………」
みほがさらに問い詰めようとしたが、それを杏が止めた。
「先ず……………レッド・フラッグの皆を呼ぼう」
『『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』』
杏の言った事に、メンバーは目を見開いた。
「な、何故彼等を呼ぶんですか!?彼等は本来、無関係では!?」
「確かにそうだけど、レッド・フラッグのメンバーの中には、この学校の生徒も居る。須藤ちゃんとかね」
声を張り上げた梓に、杏は淡々と答える。そして、みほの方へと振り返って言った。
「西住ちゃん、紅夜君達に連絡入れてくれる?」
「は、はい!」
そう返事を返し、みほは付けっぱなしだった喉頭マイクを使って紅夜達に通信を入れた。
「此方、あんこうチーム。ライトニング、応答願います」
『……………』
だが、反応は無い。
戦車から降りて気づいていないのか、それとも……………
「西住ちゃん、取り敢えず出てくれるまで何度でもやって」
杏がそう言い、みほは必死に呼び掛けた。
「(お願い、紅夜君……………出て……………)」
何度も呼び掛けながら、みほは紅夜が通信に応答する事を願った。
すると……………
『此方、ライトニング』
「ッ!」
遂に、紅夜が応答した。
喜びのあまりに彼の名を叫びたくなるみほだが、それを何とか堪えた。
『何か用か?』
通信機の向こうから、紅夜の気だるげな声が聞こえる。
声色からして怒ってはいないようだ。
「うん……………紅夜君達って、今何処に居るの?」
『お前等が突っ込んでった稜線のエリアだ。此処からお前等の様子も見れる……………教会みたいな建物の中に居るんだろ?』
そう言われ、みほは頷いた。
「そう。プラウダの罠だったみたい……………」
『はぁ……………だから下手に突っ込みすぎるなって言ったんだよ』
紅夜は、盛大に溜め息をつきながら言った。
「ゴメンね。止めてくれたのに」
『もう良いよ、過ぎた事は変えられねえんだ。今此処でお前等に説教しても仕方ねぇしな』
そう言うと、紅夜は少しの間を空けてから続けた。
『んで?俺に通信入れてきたのは何故だ?あのガキ共の集団に突撃して暴れろってか?』
「ううん、そうじゃないの……………」
そう言って、みほは首を横に振ってから言葉を続けた。
「今、此処まで来れない?大事な話があるの……………」
『其所から言うのは無理なのか?』
紅夜が聞き返すと、みほは頷いた。
「うん。レッド・フラッグの皆に聞いてほしい事だから」
『……………分かった、今からそっちに行く』
そうして通信が切れ、みほはメンバーへと振り向いた。
「来てくれるそうです」
「了解。ありがとね、西住ちゃん」
杏は、弱々しい笑みを浮かべながら礼を言うのであった。
視点を移し、此処は廃村手前の稜線エリア。
其所では、今回の準決勝に参加している、紅夜達レッド・フラッグのメンバーが集まっており、紅夜はみほ達が居る建物に全員で行く事を伝えた。
「あの建物に行く?マジで言ってんのか?」
そう訊ねる達哉に、紅夜は頷いた。
「ああ……………何でも、俺等にも伝えておきたい、大事な話があるんだそうだ」
「その話の内容って、何か聞いてる?」
静馬がそう訊ねるが、紅夜は首を横に振った。
「悪い、其処までは聞いてない。だが、余裕こいて聞くような話じゃねえってのは確かだな」
「そう、分かったわ……………皆、移動の準備を済ませなさい。30秒以内よ!」
静馬がそう言うと、紅夜と彼女を除いた残りの7人が戦車へと向かい、其々が持参したリュックサックを持って戻ってくる。
そして、プラウダのメンバーに見つからないように気を付けながら、みほ達が居る建物への移動を始めた。
「待たせたな」
移動開始から15分後、紅夜達は建物に到着した。
流石に正面から入る訳にはいかなかったので、紅夜が横にあった、非常口と思わしきドアを蹴破って入ってきた。
「いやぁ紅夜君達、態々ゴメンね」
なるべく何時も通りのペースで振る舞いながら、杏が出てくる。
「別に良いよ。俺等が動いた方が良さそうだしな……………そんで、大事な話ってのは?」
「うん、それがね……………」
「大洗女子学園が廃校になる?マジっすか?」
杏から話を聞いたレッド・フラッグのメンバーは、驚愕のあまりに目を見開き、紅夜も驚きを隠せない様子で言った。
「うん、そう。まぁ、『この全国大会で優勝出来なければ』の話だけどね」
「でも、どうしてそんな話が?」
そう訊ねる静馬に、杏はポツリポツリと話を始めた。
事の始まりは、今から数ヵ月前。みほが黒森峰から大洗へ転校してくる事が、杏達生徒会メンバーに伝えられてから間も無い頃、文科省や戦車道連盟の役人に呼び出された杏達は、次のような事を言われたのだ。
『県立大洗女子学園は、近年の生徒数減少や、部活動やそれ以外の活動において、目立つような実績が挙げられていないため、今年度一杯での廃校が決定した』と……………
「『生徒数は減少の一途を辿るばかりで、おまけに目立つような実績が挙げらないような学校に出すお金は無い』って、文科省や連盟の役人さんがねぇ……………」
他人事のようにそう言って、杏は溜め息をついた。
「それでね、連盟の役人さんがこう言ったんだ。『戦車道の全国大会で優勝するような実績があれば』ってね」
「それで、今年度の戦車道全国大会で優勝出来れば、廃校の件は、取り敢えずは取り下げてもらえるって密約を結んでたの」
杏の言葉を柚子が補足する。
「成る程、だから戦車道を復活させて、人員を確保しようとしてたって訳なのね……………あんなにも滅茶苦茶な待遇も用意して」
その言葉を聞いた静馬が、納得したように呟く。
「そう。戦車道をやれば、助成金も出るって聞いてたし、何よりも、学園艦の運営費にも回せるからね」
「じゃあ、世界大会がどうとか言うのは嘘だったんですか!?」
「そ、それは本当だ。嘘ではない」
杏に梓が詰め寄ろうとすると、桃が割り込んで答える。
「でも、そんなのでいきなり優勝しろとか無理ですよぉ!」
桃が答えると、梓が声を上げる。
「いやぁ~、昔は結構盛んだったらしいから、もうちょっと良さそうな戦車があるかと思ってたんだけど……………予算が無くて、良いのは皆売っちゃったらしいんだよねぇ~」
杏からの衝撃的発言に、一同が一瞬押し黙る。
「じゃあ、今此処にあるのは!?」
「そう、全部売れ残ったヤツ」
典子が訊ねると、杏はしれっとした調子で答える。
「そんな……………ん?なら、ジェノサイドのは?」
そう言って、エルヴィンが紅夜の方を向いて訊ねた。
「相変わらずジェノサイド呼びは変わらねえのな……………」
そう苦笑いしながら言うと、紅夜は口を開いた。
「俺等、静馬達が高校に入るまでは、当然ながら陸に住んでてな。俺が小学校の中高学年辺りの頃に、山ン中で戦車見つけて、知り合いのおっちゃんと整備して、そっから達哉達に話して仲間に引き入れたんだよ」
紅夜は、昔を懐かしむような声色で言った。
「成る程な……………だが、ジェノサイド達が居るとは言え、そんなので優勝など、到底不可能では?」
「だが、そうするしか無かったんだ……………古くて何の実績も無い、平凡な学校が生き残るには……………」
エルヴィンが言うと、桃が肩を落として言う。
「無謀だったかもしれないけどさぁ……………後1年、泣いて学校生活送るよりも、希望を持ちたかったんだよ」
桃に続いて、杏も弱々しい笑みを浮かべながら言う。
「皆……………黙ってて、ごめんなさい」
そう言って、柚子が頭を下げた。
「そんな……………じゃあ、西住さんや私達が勧誘されたのって……………」
「ただ、全国大会で優勝するための戦力となる存在が欲しかったから……………って事?」
静馬と亜子が呟くと、レッド・フラッグのメンバーの視線が複雑なものへと変わる。
それを見た杏が、珍しく狼狽えているような表情を浮かべた。どうやら当たっていたようだ。
「お、オイお前等。んな縁起でもねえ事言うのは止めようぜ。あん時俺を説得してた角谷さん、そんな下心あるようなツラしてなかったんだぜ?」
そう言って、紅夜は杏達の方を向いた。
「なあ、そうだろ?」
杏達が、その問いに頷いてくれる事を願いながら、紅夜は言った。
だが、杏と柚子は何も言わず、ただ気まずそうな表情で目を逸らし、桃は俯いて肩を震わせるだけだった。
「……かた………ったんだ……………」
そんな時、桃が何やら呟く。
「え?今何て…「仕方が無かったんだ!!」ッ!?」
突然、桃が大声を張り上げ、紅夜は驚いて動きを止める。
そして振り向いた桃の目からは、大粒の涙が溢れていた。
「私だって、こんな形でお前等を入れたくなかった!利用なんてしたくなかった!だがッ……………あんな話を聞かされたら、もう……………お前等を利用するしか、方法は無かったんだッ!!」
桃の悲痛な叫び声が、建物内に響き渡る。
一頻り叫んだ桃は泣き崩れてしまい、同じように涙を流している柚子に抱かれ、その胸で嗚咽を漏らしている。
「……………」
その様子を、紅夜は何とも言えない気持ちで見ていたが、其処へ杏が近づいてきた。
「……………ゴメンね、紅夜君」
そう言って、杏は深々と頭を下げた。
「弁明するような言い方になるけど……………河嶋の言った事は、私達生徒会メンバーの本心なんだ。君等を利用なんてしたくなかったし、一緒に戦車道をする仲間として、チームに入れたかったんだ……………」
「……………なら、あの時俺に言ったのは……………俺等を騙して、お前のチームに入れるための嘘だったってのか……………?」
「そんな事はない!断じて!」
何時も以上に低い声で言う紅夜に、杏が珍しく声を荒げる。
必死な様子の杏を、紅夜は何も言わずに見つめていたが、やがて踵を返して静馬の方へと歩いていった。
「紅夜……………」
意気消沈しているような雰囲気で歩いてくる想い人に、静馬は何と声を掛けてやれば良いのか分からず、ただ名を呼ぶ事しか出来なかった。
「……俺なら………平気だ……………」
そう言って、紅夜は壁に凭れると、其処から何も言わなくなり、メンバーの中に気まずい沈黙が訪れてしまうのであった。