紅夜がレッド・フラッグの戦車3輌を秘密裏に改造し、それを持ってくる頃、大洗女子学園戦車道チームに、三式中戦車とポルシェティーガーが新たな戦力として加わった。
オンラインの戦車ゲームをしていたと言う3人--ねこにゃー、ももがー、ぴよたん--が三式中戦車に、そして自動車部の4人--ナカジマ、ホシノ、ツチヤ、スズキ--がポルシェティーガーを駆り、決勝戦に参加する事が決まった。
そんな時、紅夜が改造を終えた戦車を引っ提げて帰還してくるのであった。
「お、おい……あれ、俺等のISー2だよな?…………何か、エンジン音がエライ事になってんだけど………………」
「それを言うなら、私達のパンターだって同じよ。前よりもエンジン音が大きいけど、何馬力にまで引っ張り上げたのかしら」
達哉は、今までとは比べ物にならない程の大きなエンジン音を響かせて走ってくるISー2に怯み、静馬も唖然とした表情を浮かべている。
そんな2人の会話を他所に、3輌の戦車は1列横隊の隊列を組み、大洗チームのメンバーの真ん前で止まった。
『よぉ!待たせたな!』
紅夜はそう言って、ISー2の砲塔から飛び降りる。
2,7メートルと言う高さから飛び降りても平然とした様子で、紅夜は大洗の面々に歩み寄る。
すると、パンターやイージーエイトのハッチも開き、他の4人が次々に降りてくる。
「おおっ!照夫のオッチャン!ひっさしぶりー!」
パンターから降りてきた輝夫を視界に捉えると、達哉は嬉しそうに言いながら向かっていった。
「達哉か!久し振りだなぁ!」
輝夫はそう言いながら、達哉の頭をクシャクシャと撫で回す。
他にも、次郎や祐介、そして神子も降りてきて、レッド・フラッグのメンバーが彼等に群がり、久々の再開を喜ぶ。
「えー、ちょっと良いですかね?」
だが、何時までもそうしてはいられない訳で、杏がすまなさそうに声を掛けた。
輝夫達4人やレッド・フラッグのメンバーはハッと我に返り、杏の方を見る。
「再開を喜んでる所に悪いんですけど………………どちら様ですかね?」
杏がそう訊ねると、輝夫が4人を代表するかのように前に出て言った。
「俺は穂積輝夫。長坊達レッド・フラッグの連中が、未だ現役だった頃に整備士をしていたモンだ」
そう言うと、他の3人も前に出て名乗りを上げる。
「ワシは山岡次郎。同じようにレッド・フラッグの戦車の整備士をしておったよ。今では解体所の主任だ」
「俺は沖海祐介。この近くのコンビニでバイトしてる」
「その妹の沖海神子。今は浪人生よ」
4人が名乗ると、今度は杏が前に出た。
「大洗女子学園生徒会長、角谷杏です。それで、アッチに居るのが、私達大洗女子学園戦車道チームの隊長、西住みほです」
杏がそう言うと、紹介されたみほは慌てながら頭を下げた。
「おう。長坊が何時も世話になってるな!」
「いえいえ、紅夜く………もとい、長門君達は、試合の時には何時も頑張ってくれてますからお互い様です」
輝夫が親しみやすい性格だからか、杏は敬語を使いながらも、すっかり何時もの調子を取り戻していた。
4人の中では唯一の女性である神子には沙織が真っ先に近づき、やれ『男にはモテるのか』などの質問をしていた。
「すっかり打ち解けちまったな」
そんな様子を見ながら、紅夜はISー2に凭れ掛かって呟いた。
『それで良いと思うよ?仲良くなるに越した事は無いもの』
「言われりゃそうだな」
返してきた黒姫に、紅夜も頷く。
すると、不意に杏が紅夜に言った。
「そういや紅夜君、君のISー2運転してきたのは誰なの?」
その質問に、大洗チームや紅夜以外のレッド・フラッグのメンバーの視線が集中する。
「(ヤバッ!そういや俺、あの時砲塔の上に乗ってたんだった!)」
紅夜は冷や汗を流しながら、作り笑いを浮かべて言った。
「お………………自動操縦(オートパイロット)です」
『『『『『『『『『『『嘘つけ!』』』』』』』』』』』
苦し紛れの言葉に、メンバー全員からのツッコミが炸裂した。
「紅夜ぁ~、お前何か隠しちゃいねえか?」
「(ギクッ!)い、イヤイヤイヤ、そんな訳無いじゃん?」
「ふーん?」
達哉に言い寄られ、紅夜の額からは冷や汗が滝のように溢れてくる。
そんな時………………
「隙あり!」
「あっ!?」
達哉が紅夜の気を引いている内に上ったのであろう、翔がISー2のキューポラを開けて車内に入ったのだ。
「………………」
『『『『『『『『『『『………………』』』』』』』』』』』
翔が車内に入ったきり、何の反応も返されない。
輝夫達4人が笑いを堪えている中で、大洗チームの面々には緊張が走っていた。
やがて、ISー2のキューポラがゆっくりと開かれ、其所から翔が出てきた。
翔は地面に降り立つと、体をガタガタと震わせながら言った。
「む………………無人だった………………」
『『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』
そのコメントに、大洗の面々は凍りつき、紅夜は駄目だったかとばかりに、額に手を当てて溜め息をついた。
『失礼ねぇ、6年以上一緒に戦ってきた相棒が見えないって言うの?』
そんな声がすると、大洗の面々は辺りを見渡すが、何処にも声の主らしき姿は見当たらない。
「やれやれ………………黒姫、もうそろそろ出てきて良いぞ」
紅夜がそう言うと、ISー2のエンジンが独りでに掛かり、動き出す。
「うわぁぁぁぁあああああっ!!?幽霊戦車ぁぁああああっ!!!」
「いや、幽霊じゃねえよ!?」
幽霊などのオカルトチックなものが大嫌いな麻子は阿鼻叫喚の叫び声を上げながら、近くに居た達哉に抱きつく。
紅夜がすかさずツッコミを入れるが、パニック状態に陥った麻子は聞く耳を持たない。
「柚子ちゃぁぁあん!長門の戦車には戦死者の魂が取りついてるんだぁぁああっ!!」
桃でさえパニックを起こし、柚子に抱きついている。
因みに、それを見ている輝夫達4人は腹を抱えて大爆笑していた。
そんな傍らで、ISー2が紅夜に寄り添うようにして止まる。
『賑やかな所だよね、ご主人様♪』
「そんな呑気な事言ってる場合じゃねえよ黒姫!つーかマジで!誰かこの状況をどうにかしてくれやァァァァアアアアアッ!!」
そんな4人と黒姫に、紅夜はそう叫んだと言う。
『『『『『『『『『『『付喪神?』』』』』』』』』』』
「そう。俺のISー2に、結構前から取りついてたみたいなんだよ」
あれから数分程経ち、パニックが何とか収まり、紅夜は黒姫の説明をしていた。
「凄いねぇ~、そんなオカルトチックな話が実在するなんて」
杏はそう言いながら、黒姫を物珍しそうに見ながら周りを歩き回る。
「そういや、この子に名前ってあるの?」
「ええ。黒姫って名付けてもらったわ。ご主人様にね♪」
名前はあるのかと質問した杏にそう答えると、黒姫は紅夜の右腕に抱きつく。
「戦車にも好かれるなんて………………どれだけ女を増やせば気が済むのよ、あのバカ紅夜は………………」
そう言って、静馬は不満げに頬を膨らませる。
「つくづく、祖父さんって何者なんだよって思っちまうよなぁ~。あんなの見せられたら」
後頭部で両手を組み、大河はそう言って、煌牙と新羅は同感だとばかりに頷いている。
そんな事もありつつ、紅夜はパワーアップした戦車の説明を始めるのであった。
「えーっとだ、先ず俺等ライトニングのISー2だが、見ての通り、両サイドに厚さ10ミリの装甲スカートを取り付けてる。それから、増加装甲による重量増加で低下する機動力を補うため、エンジンを改造して、615馬力にまで引っ張り上げた」
「大体、プラス100馬力にしたって訳か………………結構な事になったな」
ISー2のエンジングリルに触れながら、勘助がそう呟いた。
「それで、次はレイガンのパンターだが、先ずは俺等のISー2と同様、両サイドに装甲スカートを取り付けた。コイツの厚さは5ミリだ。それから砲塔に発煙弾発射器を付けて、馬力も730馬力に引き上げた。それから言い忘れたが、ISー2とパンターのフェンダーも少しばかり長くしてる。スモーキーのイージーエイトは、残念ながら増加装甲を付けれそうになかったから、フェンダーを新しいのに取り替えるだけになった。そんで、エンジンは440馬力にまで上げといたぜ」
「それを3日でやったの?凄いわね」
和美が言うと、紅夜は黒姫の頭に手を置いて言った。
「まぁ、それについてはコイツの知識を借りたって感じだな。オーバーホールの時なんてホントに助かったぜ」
そう言って、紅夜は黒姫の頭を撫で回し、黒姫は気持ち良さそうに紅夜に擦り寄った。
「とまあ、こんな感じで俺等の戦車のパワーアップは出来たって訳なんだが………………如何でしょう?」
「十分すぎるね」
紅夜の質問に、杏は即答で返した。
「でも、どうして其処までしてくれるの?一応私達、君等を利用してたんだよ?」
杏がそう訊ねると、雅と亜子の表情が険しくなる。準決勝の時の事を思い出したからだろう。
「どうして其処まで、か………そう聞かれると、答えるのが難しいな……コイツ等を改造するのは、プラウダとやり合う前から計画してたモンだし………………」
そう呟きながら、紅夜は後頭部を掻いた。
「まぁ強いて言えば、『この試合に勝ちたいから』………だな………」
「それだけなの?」
紅夜の答えに、静馬は怪訝そうに訊ねる。
紅夜は、そんな静馬を横目に見て言った。
「静馬よ。『それだか』とか言ってやがるが、そもそも良く考えたら、この学校が全国大会で優勝出来なかったら、此処は廃校になる。そうなれば、此処に居るメンバー全員がバラバラの学校に転入させられちまう」
「ッ!」
その言葉に、静馬や他のメンバーもハッとした表情を浮かべた。
「俺や達哉とかみてぇに学校に通ってねぇ奴なら、未だどうにかなったかもしれん。だがな静馬、お前等みてぇに学校に通ってたなら話は別だ。其々に新しい転入先が紹介されるとは思うが、その際に皆、同じ学校に転入出来る訳がねぇ。必ず誰かは、別の学校に転入する事になる。そうとなれば、俺等レッド・フラッグも解散って事になっちまう」
そう言い終えると、紅夜は深く溜め息をついてから言った。
「結局の所、どっちもどっちなんだよ。角谷さん等が廃校阻止のために俺等を利用してたなら、俺等はチーム解散阻止のために此処を利用してたって言っても過言じゃねぇ」
『『『『『『『『『『『………………』』』』』』』』』』』
紅夜がそう言うと、メンバー全員が目を伏せる。先程まで大爆笑していた4人も、こればかりには何も言わず、神妙な面持ちで聞いていた。
「………………なんて、これはちょっと前に気づいた事なんだけどな」
そう言って、紅夜は苦笑を浮かべながら後頭部を掻く。
「だからさ、角谷さん」
「な、何?」
突然声を掛けられ、杏はビクリと反応して、上ずった声で返事を返し、紅夜の方を向いた。
「もう、俺等を利用してたとか言って気にするのは止めてくれ。俺等だって知らん間に同じような事をしてたんだ、これで相子だ。謝るのも謝られるのもナシだ………………これで、どうだ?」
「………………ッ!うん!」
杏は目尻に涙を浮かべながら頷く。
紅夜も頷くと、雅と亜子に向かって言った。
「お前等も、これで文句はねぇな?」
「う、うん………………」
「あんなの聞かされたら、もう文句は言えないわよ」
2人の納得も得て、紅夜は再び頷いた。
他のメンバーも方を向いて視線で問いかけると、全員が頷いていた。
「そんじゃ………………此処に、大洗女子学園戦車道チームと、レッド・フラッグの和解を宣言する!」
『『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』』
かくして、2つのチームにあった微妙な空気は取り払われた。
そうして関係を結び直した両チームは、来る決勝戦に向けての準備を始めるのであった。