遂に幕を開けた、第63回戦車道全国大会決勝戦。
大洗チームの戦車11輌VS黒森峰チームの戦車20輌と言う、大洗チームが2倍近くの戦力のハンデを抱えた状態で始まったこの試合。
目的地まで慎重に歩みを進めていた大洗チームは、森の中をショートカットして来た黒森峰の戦車隊による待ち伏せ攻撃を受け、激しい集中砲火に晒される。
アリクイさんチームの三式が撃破されながらも何とか逃げ延びた一行は、目的地への移動を続行。
そんな中で発動された、みほの《もくもく作戦》によって黒森峰の戦車隊に目眩ましを仕掛けたり、一旦チームから外れて単独行動を行っていた、カメさんチームによる足止めを喰らわせつつ、大洗チームは目的地へ向けて進んでいく。
急勾配の坂道で、あんこう、ウサギさん、カバさんチーム。そしてレッド・フラッグの戦車3輌で協力してポルシェティーガーを引っ張っていく。
ここまでする彼女等の目的とは一体………………?
「もう直ぐ坂を上り終えます。アヒルさんチーム、カモさんチームの皆さん、準備は良いですか?」
『此方アヒルさんチーム。準備オッケーです!』
『カモチームも同じく、準備完了しました!』
典子、みどり子からの返事が返されると、みほは指示を出した。
「では、これより《パラリラ作戦》を開始します!アヒルさんチーム、カモさんチーム。始めてください!」
『『了解!』』
その指示と共に、ポルシェティーガーの牽引には当たらなかった八九式とルノーが、再び煙を噴き上げながら散開し、やがて並列して走ると、そのまま蛇行運転を始める。
「何なのよ、この作戦は!?まるで不良になったみたいじゃない!」
風紀委員の中でも厳格なみどり子は、ゴモヨによる蛇行運転で、パゾ美と共に右へ左へと激しく揺られながら言う。
「終わったら手が腫れてそう~」
忙しそうにハンドルを切るゴモヨも気が気ではなく、そんな事を呟いていた。
「お尻が痛い……腕が、つるゥ………!」
八九式の車内でも、操縦手の忍がやりにくそうに呟いていた。
他のチームはポルシェティーガーを引っ張った状態で、蛇行する2輌の間を進んでいく。
「こんな広範囲に煙が広がるとは………………ッ!」
カメさんチームによる足止めを切り抜けた黒森峰チームの一行では、双眼鏡で様子を見ていたエリカがそう呟く。
「成る程、ああやって自分達の詳しい位置を特定されないようにしているのか………………西住流のやり方ではないにしても、中々に考えたじゃないか………………」
同じように、双眼鏡で様子を見ていた要は感心したように呟いた。
『全車、榴弾装填!』
其処へまほからの指示が飛び、各戦車の装填手が榴弾を装填する。
『目標は、あの山の頂上だ。撃て!』
その指示と共に、黒森峰の戦車の主砲が一斉に火を噴く。
飛んでいった砲弾は山の頂上近くに着弾し、土煙を巻き上げた。
「アレが、西住みほのやり方………………プラウダとの時から思っていたけど、やはり黒森峰でのやり方とは違っているのね」
その頃観客席では、愛里寿と共に試合を見に来た千代がそんな事を呟いていた。
西住流をライバル視している彼女からすれば、ライバルの家元の娘の1人が、流派とは全く異なったやり方をしているとなれば、やはり違和感を抱くものなのであろう。
「………………」
対する愛里寿は、ただ無言で千代の隣にちょこんと腰掛けており、持ってきていたボコのぬいぐるみを膝の上に置いていた。
「愛里寿はホントに、そのボコが好きなのね」
流派の後継者となる存在とは言え、娘は可愛いと言う考えを振り払えない千代は、そう言いながら愛里寿の頭を優しく撫でた。
「うん………お兄ちゃんがくれた、大事なものだから………」
「あらあら」
顔を赤くしながら頷く娘の姿に、千代は現島田流師範の肩書きなど放り捨ててでも娘を抱きしめたくなるような衝動に駆られそうになるものの、それを何とか抑えて微笑む程度で済ませた。
「よぉ、また会ったな」
「「?」」
その時、突然後ろから声を掛けられ、何事かと振り向くと、其所には蓮斗が立っていた。
「貴方は確か………………」
「蓮斗だ。八雲蓮斗」
蓮斗はそう名乗ると、かぶっていた帽子を一旦脱いで会釈すると、再びかぶり直す。
「お二人さんも、決勝の観戦か?」
「ええ。この子が行きたいって聞かなくて」
千代と少しの間を空けて腰掛けながら訊ねてきた蓮斗に、千代はそう答える。
「へぇ~、紅夜はモテモテだねぇ。マジで羨ましいぜ」
蓮斗はそう言いながら、軽く笑う。
それを千代は笑わず、蓮斗が着ているパンツァージャケットに目を向けていた。
「………………ん?どったよ?」
ジッと見られている事に気づいたのか、蓮斗は不思議そうに首を傾げながら訊ねた。
「前から気になっていたのだけど………………貴方の着ている、そのパンツァージャケットは何なの?」
そう訊ねられ、蓮斗は自分が着ているパンツァージャケットをまじまじと見た。
「それに貴方、プラウダ戦で会った時に『戦車乗りだ』って言っていたわよね?私が知る限りでは、少なくとも男で戦車道をしているのは、レッド・フラッグの子達だけだと思うのだけど………………」
「………………」
怪訝そうな表情を浮かべた千代がそう言うと、愛里寿もこの話には興味を持ったのか、観戦を中断して蓮斗の方へと顔を向ける。
蓮斗は暫く黙って横顔を向けていたが、やがて、ポツリと口を開いた。
「《白虎(ホワイトタイガー)》」
「「?」」
淡々とした単語に、2人は首を傾げる。
「俺が隊長を務めてたチームだよ。因みに戦車は5輌だ」
「………………どんな戦車を、使ってたの?」
「先ずはティーガーⅠ、それからⅣ号H型、パンターG型、ラング、そしてファイアフライだ」
「1輌だけ、ドイツ戦車ではなかったのね………………」
愛里寿にあっさりと教えた、かつての蓮斗のチームの編成に、千代は苦笑を浮かべながら言った。
「まあな………………まぁ、俺等は見つけた戦車を直して使ってたから、仕方ねぇわな」
「そう…………でも、白虎なんてチームは聞いた事が無いわよ?何時出来たの?」
「………………」
そう千代が訊ねると、蓮斗は言いにくそうにしながらも言った。
「…………それがもう、半世紀以上昔の話なんだよな、コレが……つーか俺、もう既に『死んでる』し………………」
「「え?」」
蓮斗からの返答に、2人の間の抜けた声が重なった。
その頃、《パラリラ作戦》によって、黒森峰からの砲撃による被害を無傷で済ませた大洗チームは、火山らしき山の頂上に到着した。
足止めを切り抜けた黒森峰チームも麓に到着し、大洗チームに山の上から見下ろされるような配置についていた。
「思ったよりも早く、陣地を確保したと言う事か………………全車、散開しろ。横に広がれ」
まほの指示を受け、他の戦車が移動を開始する。
「黒森峰の戦車が行動を始めました、砲撃を開始してください!」
その指示と共に、大洗の戦車が立て続けに発砲する。
それに負けじと、黒森峰の戦車も攻撃を開始するが、そんな中で、1輌のパンターG型の車体上部にⅢ突の砲弾が命中し、黒煙を上げているパンターから、行動不能を示す白旗が飛び出した。
「よォーし!先ずは1輌撃破だ!」
一番最初に敵の戦車を撃破した事に喜びつつ、エルヴィンは次の目標(ターゲット)を定めた。
「良し、それじゃあ次!1時のラングだ!」
「ラングって何れだ!?」
「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなヤツ!」
ラングが何れなのか分からず、訊ねる左衛門佐に、エルヴィンは強ち間違ってはいないものの、何とも言えないような返答を返す。
「あ~あ、俺も主砲撃ちてぇなぁ~」
「翔、気持ちは分かるが我慢しろ。此方は携行弾数が28発しか無いんだ、無駄弾は撃てねぇんだよ」
砲手の席に凭れ掛かってボヤく翔を勘助が宥める。
『グスンッ……ヒック……ゴメンね、翔………………』
「おいコラ翔、テメェ何ウチの黒姫泣かせてやがんだゴルァ。試合終わったら《Hell Brast(ヘル・ブラスト)》喰らわせてやるから覚悟しとけよ?」
涙声で黒姫が謝ると、紅夜が口汚く翔に言う。
「ああ否!違うんだよ黒姫!別にお前を責めてる訳じゃねぇかんな!?つーか紅夜、お前マジ恐ェよ!?大体何だよヘル・ブラストって!?俺を殺すつもりかよお前は!?」
「此処がお前の死に場所だぁ!」
「達哉!勘助!助けてくれ!」
「「無理」」
「見捨てるなよテメェ等!」
顔面蒼白で達哉と勘助に助けを求める翔だが、2人からはあっさりと見捨てられる。
「グスンッ……ご主人様ぁ………………」
「あいよ黒姫。あのバカタレは後でぶち殺して大阪湾に捨てたるから安心しろ」
「何時の間に出てきたんだよ黒姫!?つーか紅夜!お前チームメイトにそんな扱いするのかよ!?大体どうやって大阪まで行くってんだよ!?」
翔は、紅夜の膝に跨がって抱きつく黒姫にツッコミを入れながら、物騒極まりない事を言う紅夜にもツッコミを入れる。
「え?瞬間移動するんだけど?」
「ドラ○ンボ○ルじゃねえんだぞ!」
「言い争ってるなら私が砲撃仕掛けちゃうよ~」
「言い争ってんのはお前のせいだよ黒姫!?」
最早言いたい放題にされている翔が叫ぶのを無視して、黒姫は光を放ってIS-2に戻ると、砲塔を回転させる。
「レッド・フラッグ隊長車、砲塔を此方に向けています!って来たァーッ!」
黒森峰のラングの車長が叫ぶや否や、黒姫の操作で独りでに砲撃を仕掛けたIS-2の122㎜砲弾の直撃を受け、ラングは撃破される。
「あら………………」
「コレは、先を越されましたね」
同じくラングに狙いを定めていたⅣ号では、スコープを覗いていた華に優花里が言う。
「死んだ?それってどう言う………………」
「おっ!それよか見てみろよ!彼奴やりやがったぜ!」
蓮斗が放った、『自分は既に死んだ』と言う言葉への疑問を投げ掛けようとした千代の言葉を遮り、蓮斗は言った。
その視線の先では、砲撃を仕掛けたIS-2によってラングが撃破される場面がスクリーンに映し出されていた。
「流石は紅夜のチームだ、砲撃スキルも馬鹿に出来ねえな」
黒煙を上げているラングを見ながら、蓮斗はそう呟くのであった。
「ヤークトティーガー、正面へ」
その頃、2輌撃破された黒森峰では、まほがヤークトティーガーを前に出した。
淡々とした指示の後に、あんこうチームのⅣ号よりも赤みのあるレッドブラウンの巨体が、ガラガラと音を立てながらやって来て、大洗チームの前に出てくると、そのまま巨体を揺らしながら近づいてくる。
このヤークトティーガーは、車体の前面装甲150㎜、戦闘室の前面装甲250㎜と言われている。
まほは、反則級の装甲を持つこの戦車を盾にしつつ、大洗チームに近づいていくつもりなのだろう。
おまけに、その戦車の主砲は128㎜とあるので、下手に撃破しようと近づいて、撃たれたら人溜まりもない怪物だ。
尤も、大洗チームの戦車でそんな肉薄攻撃を仕掛けるようなチームはライトニングぐらいしか居ないが、試合開始から大して時間は経っていない上に、紅夜は未だ、そんな肉薄攻撃を仕掛けるつもりは無い。
そのため、IS-2は未だに、頂上に留まっていた。
ラングを撃破した後からは、何の攻撃も仕掛けぬまま………………
「ッ!試しに1発!」
そう言った和美が攻撃を仕掛けるものの、その強固な装甲にあっさりと弾かれてしまう。
イージーエイトの攻撃も当然ながら弾かれ、他の大洗の戦車が攻撃しても同じ結果である。
大洗チームの注意がヤークトティーガーに向いている内にも、斜面を上ってくる黒森峰の戦車隊からの、容赦無い攻撃は続く。
試合開始早々の強敵に、大洗チームはどう出るのか……………?
此処で思った。
付喪神によって勝手に砲撃する戦車は恐い。
それから紅夜、カワイコちゃんに抱きつかれやがって………………リア充爆発しろ!
カーッ(゜Д゜Ξ゜д゜)、ペッ
その後、作者は紅夜に《宿命の砲火》をくらいますた(´・ω・`)
全治半年(笑)