ガールズ&パンツァー~RED FLAG~   作:弐式水戦

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第94話~おちょくってやります!~

大洗女子学園と黒森峰女学園による、第63回戦車道全国大会は、奇襲攻撃を仕掛けてきた黒森峰チームにより、大洗チームのアリクイさんチームの三式が撃破されると言う事からスタートを切った。

 

黒森峰の戦車隊の目眩ましのため、最初に《もくもく作戦》が決行され、大洗チームは煙幕を張って無闇に砲撃出来ないようにする。

さらに本隊から一時的に離れ、単独行動を行っていたカメさんチームが、パンターとヤークトパンターの其々1輌ずつに砲撃を仕掛けて履帯を破壊して、黒森峰本隊も一時的に足止めする事に成功。

その隙にポルシェティーガーを牽引して丘を上り、今度は《パラリラ作戦》を決行。

広範囲に煙幕を撒きながら進み、火山のような山の頂上に陣取って攻撃を仕掛ける。

 

その最中でパンターとラング撃破し、大洗チームの反撃が始まるのかと思われたところで、まほは大洗チームの正面にヤークトティーガーを投入、それを盾にしつつ、じわじわと本隊を迫らせていく。

 

大洗チームの運命や如何に………………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっと、此処で黒森峰がヤークトティーガーを真っ正面に投入です!」

 

実況席では、香住がマイク片手に興奮して叫んでいた。

 

「まさか、あの場で重戦車を盾に使うとは………………」

隣に座るカレンも、口許に手を当てて驚愕の表情を浮かべている。

 

「ヤークトティーガーの砲塔は回転式ではないので、その分より高い火力と防護力を得られる………無砲塔戦車の利点の典型例ですね………………」

「そうですね。それに黒森峰には、ヤークトティーガーの他にも、エレファントやパンターG型、ティーガーⅡやヤークトパンター、さらにはラングと言った強敵が居ますから、大洗側からすれば絶体絶命ですね………………ただでさえ、黒森峰フラッグ車であるティーガーⅠも強力なのに」

 

そんな会話を交わしながら、2人はモニターへと視線を移すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「黒森峰って、ホントに容赦ねぇのな」

「西住流の家元の学校だもの、ああなるのは誰でも考え付くわ」

 

観客席では、黒森峰チームの猛攻を見た蓮斗が唖然としながら呟き、それに千代が答えていた。

 

「やられる前に、有利な場所に逃げた方が良い………………」

 

持参したボコのぬいぐるみを抱き締めながら、愛里寿はそう言った。

 

「あの状態で逃げる、か………………因みに愛里寿ちゃんよ、お前さんならどうすんだ?」

 

蓮斗がそう訊ねると、愛里寿はモニターに映る黄色の軽戦車――ヘッツァー――を視界に捉えて言った。

 

「単独で行動してるあの戦車を、黒森峰の集団に突っ込ませて場を掻き乱す」

「ほぅ?その心は?」

「黒森峰は、隊列で行動する訓練はかなり積んでるけど、突発的な行動をとるチームには弱いから………………現に、紅夜お兄ちゃんのチームと戦った時は、それで圧倒されてた」

「へぇ~。レッド・フラッグって、同好会チームとしての編成なら黒森峰でも潰せるのか」

 

蓮斗がそう呟くと、愛里寿は頷いてから蓮斗の方を向いた。

 

「そっちはどうだったの?」

「………と言いますと?」

「………蓮斗お爺ちゃんの現役の頃」

「はいちょっと待とうか愛里寿ちゃん、今『お爺ちゃん』って聞こえたんだけど?」

 

お爺ちゃん呼ばわりされた事に反応した蓮斗は、愛里寿の話に待ったを掛けた。

 

「………………?」

 

だが、当の愛里寿は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「お爺ちゃんは大昔の人。ならお爺ちゃん」

「そう言う問題なのだろうか………………」

 

そう呟き、蓮斗はガックリと項垂れた。

 

「そりゃあ、さっき言った通りに、俺は既に死んだ存在だし、もうこの世に留まって半世紀以上経つけどさぁ………………流石にお爺ちゃんはねぇわ。紅夜みてぇに………「それは無理。紅夜お兄ちゃんは紅夜お兄ちゃんだから」……………さいでっか」

 

提案をあっさりと却下され、蓮斗はまたしても、ガックリと項垂れた。

 

 

「そう言えば蓮斗………さん………」

「妙な間が気になるが………………何だね、お袋さん?」

 

ゆっくりと顔を上げながら訊ねる蓮斗に、千代は言いにくそうにしながら聞いた。

 

「貴方、紅夜君とは親しいの?」

「俺と彼奴か?まぁな、ちょっと前に一緒に遊んだが………………なんで?」

「いや、その………………彼に恋人とかは、居ないのかしら?」

「彼奴に恋人か………………どうだろうな。プラウダ戦の前に、Ⅳ号の車長さんと一緒に帰ってたのを見たが、別に付き合ってるって訳ではなさそうだし………………それに、この前見せてくれやがったあの鈍感ぶりだ、恐らく居ねえな」

「何があったのかは知らないけど………………良かったわね、愛里寿」

 

そう言うと、千代はからかうような表情で愛里寿を見る。

蓮斗もつられて愛里寿を見ると、その顔は真っ赤になっていた。

 

「成る程な………………紅夜、お前、早く鈍感を直さねえと、何時かマジで大変な事になるぞ」

 

そう呟くと、蓮斗はヤレヤレと言わんばかりの表情を浮かべながら、澄み切った青い空を見上げた。

 

尤も、彼のティーガーの操縦手である拓海からは、『鈍感な奴だった』と言われていた蓮斗が言っても、説得力は皆無に等しいのだが………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぇぇえええっくしょいッ!!」

「うわビックリした!いきなり何てクシャミしてんだよ紅夜!?」

 

その頃、噂されているのを悟ったのか、紅夜が盛大なクシャミをした。

あまりにも声が大きすぎたからか、勘助が驚きのあまりに跳ね上がって、弾薬庫から引っ張り出しかけていた砲弾を落としそうになる。

 

「ウィ~ッ………ズズッ………あ~いや、すまねえな勘助。何か、誰かに噂されてるような気がしてさ………」

 

声の大きさに文句をつけてきた勘助に、紅夜は鼻を啜りながら謝る。

 

「風邪じゃなけりゃ良いんだがな………………おっ、何だかんだやってる内に相手の隊列乱れてきてるなぁ」

そうボヤきながら車外に上半身を乗り出した紅夜は、此方側の反撃もあってか、上ってきている隊列に若干の乱れを見せている黒森峰の戦車隊を視界に捉えた。

 

 

 

 

 

 

「今の向こうと此方の差は18対10。それと、所々に列の乱れがある。これだけ崩せれば………………」

 

Ⅳ号のペリスコープから外の様子を窺っていたみほは、そう呟いた。

 

「良し、此処から撤退します!」

「ええっ!?ですが西住殿、前方から黒森峰が上ってきていて、退路は塞がれてます!」

 

撤退を決めたみほに、優花里がそう言う。

 

「大丈夫。黒森峰の列が乱れてきてるから、其処を突けば………………」

『西住ちゃん!例の《アレ》、そろそろ始める?』

 

そう言いかけた時、突然通信が入ってきた。

単独行動を行っていたカメさんチームだった。

 

「はい!」

 

杏からの問いに、みほは力強く答えた。

 

「《おちょくり作戦》、始めてください!」

『あいよ!お任せあれ!』

 

そうして、杏からの通信は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ~し………………小山、河嶋。準備は良い?」

「「はい!」」

「良し、それじゃあ………………おちょくり開始!」

 

杏の指示で、柚子はヘッツァーを発進させて作戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、杏達の前を1輌のヤークトパンターが走っていた。そのヤークトパンターは、先程の杏からの待ち伏せ攻撃を喰らって本隊から置いていかれたものだった。

 

「ふぅ、何とか修理が間に合った~…………さて、早く本体と合流しなきゃ!」

 

キューポラから目の前に広がる戦場を見て安堵の溜め息をつくが、その後ろから聞き慣れない音が聞こえてくる。

 

「ん?何の戦車………………ってああ!?」

 

その視線の先に居た戦車は、先程自分の戦車の履帯を破壊した、大洗チームのヘッツァーだった。

 

「またあんな所から出てくるなんて………………7時の方向に例のヘッツァーよ!方向転換を急いで!」

「ほいっ」

 

ヤークトパンター車長の少女は操縦手にそう命じ、操縦手が大急ぎで方向転換しようとするものの、それも虚しく杏から砲撃を喰らい、再び行動不能に陥れられるのであった。

 

「うわぁーっ!コレさっき直したばっかなのにぃーッ!」

 

履帯を破壊されたヤークトパンターに、車長の少女は悲鳴を上げる。

 

「おのれェーッ、ウチの履帯は重いんだぞォーーッ!!」

 

その横を涼しげに通り過ぎていくヘッツァーに、車長の少女は腕を振り回しながら叫んだ。

 

「へっへーんだ、そんなの知ったこっちゃないね………………そんじゃ、突撃ィーッ!」

 

悲鳴をあげる少女をからかいながら、杏は相変わらず車内に持ち込んでいる干し芋片手に前方を指差して叫ぶ。

彼女等が向かっているのは、大洗チームに迫ろうとしている黒森峰の本隊。其所に乗り込んで隊列を徹底的に乱すのが、《おちょくり作戦》の内容なのだ。

 

「それにしても、あんな凄い戦車の軍団に単身で乗り込むなんて………………」

「長門達じゃあるまいし………今更ながら、無謀な作戦だな………………」

 

自分達偽を向けている黒森峰の戦車を前にして、柚子と桃の2人は若干の怯みを見せている。

 

「こう言うのって、敢えて突っ込んでいった方が安全なんだってよォ~?」

 

杏は何処からか持ち出した雑誌を片手に摘まんでみせた。

 

「それは後にしましょうか………………」

 

掴み所の無い会長に呆れながら、柚子はパンターとエレファントの間にヘッツァーを停めた。

 

「んなっ!?」

 

それを見ていた他のパンターの車長は、突然現れたヘッツァーに驚く。

 

「11号車、15号車!脇にヘッツァーが居るぞ!」

 

その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。

 

「くっ!相討ちになるから撃てない!」

 

流石に同士討ち出来ない一行は、まるでプラウダ戦や知波単との練習試合で、相手の本隊に殴り込みを仕掛けて、その後はハリケーンの如く暴れまわったIS-2のように走り回る。

 

『此方17号車!自分がやりま…………ッ!』

 

1輌のラングがヘッツァーを狙おうと方向転換するものの、大洗チームからの砲撃を側面に受けて呆気なく撃破される。

 

『申し訳ありません!やられました!』

『な、なら私が………!』

『待て!Ⅲ突が向かってくるぞ!』

 

そう言い合っている間に、大洗チームの戦車が少しずつ前進しながら砲撃を仕掛け、黒森峰チームはパニックに陥る。

 

 

 

 

 

 

「面白~い!」

 

その頃、観戦しているプラウダの3人では、ノンナに肩車されたカチューシャがそう言った。

 

「次から次へと、よくこんな作戦考えるわね!」

 

興奮しながら言うカチューシャだが、肩車されている状態で動きすぎたのか、一瞬バランスを崩して落ちそうになるが、何とかノンナの頭にしがみつく。

 

「これで、17対10ですね」

 

そんな事があっても、慣れているのか微動だにしないノンナはそう言った。

 

「ええ…………」

 

短く答え、クラーラはモニターに視線を戻した。

モニターには、場を掻き乱されて撤退を始める黒森峰の戦車隊が映っていた。

 

「この場では、紅夜達の出番は無かったわね…………ん?そう言えば大洗って、ヘッツァーなんか持ってたっけ?」

「決勝前に改造キットを購入し、38tに取り付けたそうです」

 

何処からそんな情報を手に入れたのか、ノンナがそう答えた。

2人の会話を聞き流しながら、クラーラはモニターに映る紅夜を見ていた。

 

「(紅夜さん…………頑張って……)」

 

胸の前で手を組み、クラーラはそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、黒森峰の連中が下がり始めたぞ。おまけに隊列も滅茶苦茶だ」

 

IS-2の操縦席から様子を見ていた達哉がそう言う。

 

「まぁ、黒森峰ってのは隊列で進んでくるけど、突発的な行動を取るような連中には弱いんだよ」

「成る程な………………マニュアルが崩れて対処しきれなくなるって事か」

「その辺りは、西住さんの方が一枚上手だな」

 

達哉の呟きに紅夜が返すと、翔や勘助も言葉を続ける。

 

『右方向に突っ込みます!全車両、全速前進!』

 

みほからの指示が飛び、大洗チームの戦車は一斉に坂を下り始める。

 

『レオポンさん、先行してください!』

『あいよ!盾ならお任せってね!』

 

みほの指示で、レオポンチームのポルシェティーガーがⅣ号の前に出て突き進む。

方向転換したラングが発砲するものの、前面100㎜と言う分厚い装甲によって弾かれ、砲弾は明後日の方向に飛んでいく。

 

そうして、大洗の戦車は続々と下ってきて、そのまま立ち尽くす2輌のラングの間を通過していく。

極め付きに、最後部のルノーが煙幕を撒き散らしながら進んでいくため、大急ぎで方向転換して後ろを狙おうとしても煙幕で阻まれて砲撃は出来ず終いに終わる。

紅夜達レッド・フラッグは、大洗の列には加わらなかったものの、暴走族のような運転をする達哉と雅、そして彼等2人程にはならないが、相手からの砲撃を見切った運転をする千早の操縦技術によって無傷で突破し、大洗本隊に合流する。

 

「いやっほー!」

「ヤレヤレ、アレはスリル満点だな」

 

ポルシェティーガー操縦手であるツチヤは歓声を上げ、麻子は無表情ながらもそんなコメントを呟く。

 

「Whoo-hoo!見ろよ亜子!彼奴等あたふたしてやがるぜ!」

「雅、ちょっとは落ち着きなさいよ」

「と言うか、雅って興奮したらホントに男口調になるのよね………………」

 

ハイテンションな雅に、亜子は落ち着くように宥め、それを横目に見ていた紀子は他人事のように呟いた。

 

 

 

 

『大洗戦車、全車両に逃げられました!』

『何やってるのよ!?せめて1輌ぐらいはやりなさい!』

 

その頃黒森峰では、カモさんチームのルノーが張った煙幕で視界を遮られ、上手く動けずにいた。

段々と晴れつつある煙幕から遠ざかっていく大洗の戦車隊を見たパンターの車長が言うと、エリカはそんな声を上げる。

 

『体制を立て直して追え、此方も直ぐに向かう』

 

エリカが叫ぶ中で、1人冷静なまほはそう言うが、エリカが先行すると言い出し、そのままティーガーⅡを向かわせる。

 

「ふむ、副隊長が向かったか………………それにしても、あんな道で無茶な走り方をすれば、ティーガーⅡが悲鳴を上げるぞ」

「副隊長、短気ですからね………………」

 

それを見ていた要や彼女のティーガーⅡの乗員達は、その後エリカ達のティーガーⅡが耐えきれなくなるだろうと予想する。

すると正に的中。真っ平らな道ではなく、多少の凹凸がある道を走り回っていたエリカのティーガーⅡは、ガクンと揺れたかと思った次の瞬間には、履帯が外れて、その拍子で転輪も外れて転がっていき、動きを止めてしまう。

その後、エリカ達はティーガーⅡから降りてきて、壊れた部分の修理を始める。

それを見ていたエリカは地団駄を踏みながら何か喚いている。

 

それを見た要や、彼女のティーガーⅡの乗員達は、皆してこう思ったと言う。

 

 

 

 

『やっぱりね』と………………

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