「フッ!」
『ギィェエッ!?』
【アラゲメント】での勝利もあり、僕のステイタスは一段と伸びていた。今では前まで苦戦していた【ベアー・ザック】程度なら余裕があるほどだ。
でもここで気を抜いてはいけないことはよくわかっている。セフィアさんからの教え通り視野を広く使う。そのためもう一体のモンスターの攻撃にも対応することができた。
強化されたスピードで疾走する。目の前に出現したのは五体の【シャドー・ザック】。名前の通り、まるで影のようなその体からは手と足がしっかりと付いている。そしてその両手は鋭く、刃物同然の切れ味だ。そんなモンスターの集団に突っ込んだサクは、手に持つ【ウルスラグナ】を右腰へと溜める。そして加速。
『ギィェエッ!』
「ーっ!」
サク同様攻撃に移った【シャドー・ザック】。その二本の鎌を振り上げる。その動きにサクは目を見開いた。
遅い…っ!?
以前と違う動きに感じる相手に対しそんな感想を抱いた。
いや、僕が早くなってるのか…っ?
直後、一体目を一撃で仕留める。そしてまた一体、一体と、サクはまさに高速で相手を斬り伏せ、時に殴り、蹴り飛ばした。
「おーっ、すっげー」
そんなサクの戦いぶりに感嘆の声を上げる人物。数日前に派閥へと入ったルーカスは、両手に持つ大剣を振り抜く。
ランクは同じだと言っていたが、その攻撃力は高い。ステイタスの差でサクのように一撃とはいかないが、決して遅れをとらない様子だ。
初めてのパーティは想像以上に対処がしやすい。今までソロでやってきたサクは敵を切り裂きながら感激するのだった。
出現したモンスターを全部倒すのは、そう時間はかからなかった。
「いやーっ、アマリア隊長もすぐに刻印刻んでくれて安心したぜー!」
「むしろアルバネルさんを大歓迎って感じでしたよね」
岩に腰をかけたルーカスの言葉にサクが笑いながら返す。
そんなサクに目を向けたルーカスは頭をかいた。
「なぁ、サク」
「はい?」
「その、なんだ。まだ仲間になって数日だけどよ…」
目をそらすルーカスにサクは首を傾げていると、再びその瞳がこちらを向いた。
「もっと仲間っぽく話さねぇか?」
僅かにサクは目を見開く。しかし次にはルーカスを見ながら微笑んでいた。
「わかった。ルーカス」
その言葉を聞きルーカスがにしっと笑う。サクは少し照れくささを感じながらも一緒に笑った。
* * *
「ほ、宝玉がこんなにたくさん…」
「いやー、戦った戦った!」
モンスターを以前より効率よく倒せていたのはわかっていたが、気づけば今までの中で最も多く集まった宝玉に、サクは呆然とした。今までの倍はある量だ。もうこれ以上持てないほどになっているくらいだ。
「パーティを組むとこんなに違うんだ…」
「そりゃそうだろ。一人と二人だったら範囲も安全も大違いだ。まぁホントは魔術師とか荷物持ち。前衛、後衛がいるのが一般的らしいがな」
「そ、そんなに!?」
二人でも驚きなのにさらに配置やらを決めたりするのか…と、ルーカスの言葉に感動しっぱなしの副隊長に、ルーカスは苦笑いを浮かべた。
「ま、それは置いといて。入れ物が満タンならもう帰るか。隊長を待たせても悪いからな」
「そ、そうだね。じゃあ帰ろうか」
未だに宝玉をまじまじと見ていたサクにルーカスが提案すると、やっと我に帰ったサクは頷くのだった。
「ここここれは…!?」
ドッサリと袋に入った光り輝くコインにアマリアは後ずさる。その光が眩しすぎるというように「ぐわぁっ」と腕で顔を覆った。
「見てくださいアマリアっ、こんなにお金が!」
「うぅぅ…。私は夢を見ているのか…っ」
興奮するサクに、泣き出しそうなアマリア。そんな二人の隊長と副隊長に、ルーカスは汗を流した。
「あ、あのよぉ。言っちゃ悪いが、これくらいの量は壁外に出れば普通だと思うんだが…?」
「「な…っ!?」」
その言葉に二人が同時にガバッと振り向く。そして信じられないというように再度金貨を見つめた。
あまりにも常識知らずというか、小規模な派閥だということが感じられる光景にルーカスはだいたいの状況が理解できた。といってもホームが風車小屋の廃墟だということからでも察することはできたが…。「こりゃ忙しくなりそうだな…」とルーカスはため息まじりに呟くのだった。
「そういや隊長。眷属集めはどうなってんだ?」
「う…っ、そ、それはー…」
ルーカスの質問に、今までのテンションがガタ落ちしょんぼりするアマリア。そんな彼女を心配しながら、サクは恐る恐る口を開いた。
「その、ルーカスはアマリアのこと知らないの…?」
「うん?そんなに有名人なのか?」
首をかしげるルーカスにサクは驚く。すると隣で落ち込んでいたアマリアがルーカスに視線を向けた。
「今までどこにいたんだい?」
「ん、ああ。多分知らないとは思うがルークの街だ」
「というわけだサク」
あたかも答えは知っていたかのようにサクを見るアマリア。サクもやっと合点がいった。そんな二人にルーカスは首をかしげる。
「一体なんなんだ?」
「そ、それは…」
この質問にサクは言葉を詰まらせる。
「私はここじゃ物凄い嫌われ者なんだよ」
「あ、アマリア!?」
質問に戸惑うサクは、あっさり言ってしまったアマリアに驚いた。そんなサクに彼女は腕を組み顔を向けた。
「彼は私達の派閥に入ったんだ。仲間に隠すこともないじゃないか」
そう伝えるアマリアに目を向けるルーカスは、まるで己の隊長として認められるかを見極めるかのようにその目を細めた。
「なんで、嫌われてんだ?」
ルーカスの低い声にサクは汗を流す。対してアマリアは、逸らさずに相手の目を見つめた。
「……私は全滅した一族の生き残りで、この通り隊長の器を持っている。街のみんなはそんな私を嫌っているのさ」
「なぜ嫌うんだ?」
「みんな死んでしまったのに、幼い私だけ帰ってきたら。それは訝しがるだろうよ」
アマリアの言葉にルーカスは言葉を失った。開いていた口が閉まる。おそらく、これ以上は詮索してはならないと感じたのだろう。辺りを沈黙が包んだ。
「そ、それでもっ!」
それを破ったのはサクだった。
「僕はアマリアを嫌ったりなんかしません!絶対に!」
叫ぶサクに二人は目を丸くする。そしてルーカスは吹き出し、アマリアは顔を赤らめながらサクに迫った。
「サク!嫌いじゃないということはつまりどういうとことだい!?」
「……へっ?」
「ぷはははっ!サクっ、顔真っ赤だぞ!」
「なななな…っ!?」
「どうなんだいサク!?好き、好きということかい!?」
どうしても好きと言いたがらせたがるアマリアに涙目で赤面するサク。そんな光景を笑いながら眺めるルーカス。いつの間にかホームの中は騒がしくなっているのだった。
* * *
街が暗闇に染まる頃。月明かりが照らす一室。都市の中で最も高い建物、【ルンベルク】の最上階。壁一面のガラス張りの向こうには、今も宴が行われ、光が溢れかえっていた。部屋そのものも広い。そんな部屋にはどれも高級な家具類が申し訳程度に置かれていた。
そんな開放感のある小ざっぱりした部屋に、彼女はいた。
サラサラとストレートに流れる白い髪は長く、美しい。その美しさは髪にとどまらず全体から醸し出していた。
そのシルバーの瞳も、色っぽい唇も、黒いドレスから大胆に出される大きな胸も。何もかもが整っているその姿は多くの者を魅了し尽くす。
そんな彼女は何度目か笑みを顔に浮かべ、クスッと笑った。
「最近は随分とご機嫌がよろしいですね。フローラ様」
すると、彼女の座る椅子の後ろから男性の声が響いた。
「あら、そうかしら」
その言葉に、フローラと呼ばれた彼女は再度微笑む。
「どうかなさいましたか」
「分かってるでしょう?ゼアノス」
男の質問にそう伝えながら、その髪を煌めかせ振り返る。そこに立っているゼアノスと呼ばれた男は、鍛え抜かれた体は大きく、百九十を軽く超えている。黒髪は短く切られ、その見た目はとても迫力のあるものだった。そんな無表情な男は口を開いた。
「お気に召した人物が見つかりましたか」
「ええ。しかも何か裏がありそうな子なの」
目を細め、少年を思い浮かべる。
純粋で、透き通ったような心の持ち主である彼は、どこか、心の奥深くに、深い深い何かが埋まっている。
「どうしてもこの手で確かめてみたい」
その美しい滑らかな手を伸ばす。
あの赤髪が愛おしい。あの金色の瞳が愛おしい。
何もかもが、愛おしい。
「ああ。今すぐにでも手に入れたい」
でも、まだ。まだいけない。
時が満ちるまで見守るのだ。あの赤いリンゴが最も美味しく実るまで…。
「もっと私を楽しませて。サク・ティネル」