ディメント   作:もやしメンタル

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第11話《嫌われ者》

「はあぁぁ…。今日もダメだったな…」

夕暮れの中をアマリアはトボトボと歩く。毎日頑張って派閥勧誘をしているが、全く見つけることができずにいた。

周りからの視線に慣れてはいるが、やはり心苦しく俯き歩く。前のように道が開いたりというほどのことは無くなったが、距離を取り歩いていることはわかった。

そんな時、子供の笑い声が聞こえてきた。なんとなく顔を上げると男の子が母親に手を振っていた。少し離れたところにいる母親も笑顔で手を振り返している。その光景をなんとなく見つめていたアマリアは、目を見開いた。

男の子の後ろにある、積み重なった樽を縛っているロープが切れ始めたのだ。それに誰も気がついていないようだ。下手をすれば命が危ない事態に、

アマリアは駆け出していた。

その数瞬後に、完全にロープが切れる。樽が崩れる音で、周りの人々は振り返る。少年は只々上を見上げているだけで動けない。いくつもの樽が少年にへと降り注いだ。

瞬間

激しく叩きつけるような音が響き渡る。それにより母親の出した悲鳴がかき消される。砂煙が立ち込め、辺りは静まり返った。

煙が晴れてゆく。

そこにあったのは、うずくまり少年を抱きしめる少女の姿だった。

やがてその体がピクリと動く。数秒後に地面に手をつき上半身を起こしたアマリアは頭から血を流していたが、ディメンターの彼女はこの程度では持ちこたえられた。

震える手で必死に体を支え、自らが庇った少年を見る。少年はアマリアよりは少量の血が滲み、気絶していたが、命に別状はなさそうだった。

そのことに安堵を浮かべるアマリアは、次の瞬間、今の状況に気がついた。

只々夢中で駆け出していたが、今多くの人から視線を浴びせられていることに気づく。しまったと顔を上げた時にはもう遅かった。

「きゃぁああああああああっっ!?」

悲鳴が響き渡る。それが始まりとなり、その場は一気に騒ぎ出した。

「男の子を襲いやがった!」

「死んでしまったのか!?」

「だから言ったろうっ、このまま野放しは危険だと!」

周りからの罵声に汗を流した。

まずい…っ!

説明したって伝わらないことは承知していた。ならばと逃げるため、ふらつく体を起こそうとした時。

「この、化け物っ!」

「ーっ!?」

一人の男性が投げた石が命中した。起こそうとした体が揺らぐ。それが合図だったかのように、人々が動き出した。

「消えろっ、女!」

「お前がいると碌なことがないのよ!」

「この【汚れた能力者】がっ!」

次々と石が投げ込まれる。我を忘れ、少年がいるのにも関わらず行う行動に、アマリアは只々少年に覆いかぶさりうずくまった。

全身を痛みが襲う。痛くてしょうがないはずなのに、周りからの罵声ははっきりと聞こえてくる。

今まで溜め込んでいた物が弾けたかのような人々。アマリアは瞳をきつく結んだ。

そんな時に頭に浮かぶのは、赤髪の少年の笑顔。アマリアは瞳に涙を浮かべた。

 

 

サク…っ

 

 

瞬間。熱を感じた。

暖かい、優しい熱が体を包み込む。それと同時に痛みも消えていた。

「ぐ…っ、だ、大丈夫ですかアマリア!?」

すぐ側から世界で最も愛おしくなった声が聞こえる。少年がアマリアの体を包み込んだのだ。瞬間アマリアの体からは、力が抜けていった。

「おらお前らっ!何やってやがる!!」

そのすぐ後に、別の声が叫んだ。それと同時に罵声がおさまり、あたりが静まり返る。

意識がどんどんと遠のく。やがてアマリアは、その温もりの中で意識が遠ざかっていった。

 

* * *

 

「……リアっ、アマリア!」

必死そうな叫び声に意識が引き戻される。ゆっくりと持ち上げたまぶたの先には、半泣きのサクが映っていた。

「アマリア!僕の声が聞こえますか!?」

「ああ…、耳がキンキンしているよ」

瞬間、脱力したサクとルーカスは床にへたり込んだ。

「こんなに焦ったのは久しぶりだ…」

「よかったぁ〜」

力なく言う二人の声を聞きながら、体を持ち上げる。案の定そこは風車小屋だった。

「アマリアっ、まだ起きちゃ危ないですよっ!」

「いや、もう大丈夫だ。ありがとう」

そこまで言って俯いたアマリアは、弱々しく震えた声で言った。

「悪かったね。迷惑をかけて…」

「そ、そんなこと!」

「俺たち仲間だろう隊長」

身を乗り出すサクの隣で真剣な表情で言うルーカス。そんな二人に涙が出そうになるのをアマリアは必死で堪え、再度俯いた。

長い沈黙の後、躊躇いの混じる声でサクはアマリアに尋ねる。

「……アマリア。教えてくれませんか…?一体、過去に何があったのか…」

ルーカスも、ただジッと彼女を見つめていた。

「君たちには、話しておかないといけないね…」

膝の上に乗せた両手をきつく握りしめたアマリアは、一度息を吐き出し、サクとルーカスに顔を向けた。

 

* * *

 

「もう、またそんなに汚れてっ」

「えへへ」

母親に呆れられているのも気づかず、にしっと笑う泥んこのアマリアは、当時十歳だった。

「いつまでも小さい子じゃないのよ?」

そう告げながら自分の手を繋いでくれることが大好きで、アマリアは再度笑う。

「おかえりなさいませ、アマリア様」

玄関に入ると、召使いがお辞儀をする。そう、アマリアの家は位の高い一族だった。その理由は、一族で代々受け継がれてゆく隊長の器。毎回とはいかないものの、高い確率でその人材が生まれていた。そのためもあってアマリアが初めて家を見た時はお城だとはしゃいでいたほどの大きさの建物は今も健在だ。召使いを何人も雇い、この村一番の金持ちとなっていた。

「おお、戻ったかアマリア」

その声に、アマリアは一層笑みを深める。声の主である父親は、穏やかな表情で階段から降りてきた。

「貴方。あまりアマリアを甘やかさないでください」

「まぁそう言うな。元気で何よりだろう」

わっはっはと笑う父親の真似をして笑うアマリア。そんな二人に周りの召使いもクスクスと笑いだし、母親は溜息をつきながらも笑うのだった。

ここにいる召使いも含めて、全員が同じ一族だ。誰でも差別なく支えあってきた家族だ。アマリアはそんな暖かいみんなが大好きだった。

 

 

そんな時だった

 

 

「ば、化け物だぁああああっ!?」

その声が響き渡ったのは夜中だった。ものすごい騒音で目が覚めたアマリアは、火の海と化す村を見た。一族の悲鳴が次々と聞こえてくる。窓の外からは、数体のモンスターの姿があった。その光景にアマリアは目を見開き、飛び起きる。初めに浮かんだのは家族の顔だった。

瞬間、駆け出す。

家は荒れ果てていた。今まで無事だったのは、自分の部屋が一番奥だからだろうか。とにかく奇跡だ。

今にもモンスターと遭遇するのではないかという恐怖をかなぐり捨てる。それよりも、一人になりたくなかった。

お父さん…っ、お母さん…っ

焦りが募る。どこからか聞こえてきたモンスターの雄叫びに怯える。その瞳には涙が滲んでいた。

息も絶え絶えになりながら走る。混乱する頭で蘇るのは、過去の記憶。

『アマリア。隊長の器は同時に、モンスターに狙われやすい体質なの。だから絶対に一人で村を出てはダメよ』

それは昔、母親が教えてくれた言葉だった。理由はハッキリとしていないが、その教えは本当だ。そのために刻印を授ける力が生まれたとさえ言われている。

今までも村にモンスターが来たことはあった。しかし一体、二体だったので、処理することは可能だったのだ。だが今回の数は尋常ではない。

両親の寝室が見えてきた。アマリアは必死に走り、そのドアを開けた。

「ひ…っ!?」

アマリアは小さな悲鳴をあげる。目の前の光景は、地獄だった。

部屋全体は血で染め上げられていた。体を上半身と、下半身が切り離された状態で倒れる母親。中央には父親が、

モンスターによって腹を貫かれる瞬間だった。

瞬間父親は口から血を噴き出す。そして、アマリアに気がつき、わずかにこちらに顔を抜け、安堵と恐怖の混じった瞳を向けた。モンスターは2Mはいくという巨体で、なんといってもその爪が長い。1Mに届きそうなその爪は、深々と父親を貫いていた。

「隊長っ!!」

瞬間、部屋に一つの人影が入ってきた。

緑のショートヘヤーは返り血で染まり、表情は間に合わなかったことへの様々な感情が浮かぶ。そんな己の眷属に気づいた父親は、突如、叫んだ。

「クレ、ア…っ!アマリアを連れて…、こ、この村から…逃げろ…っ!!」

「ーっ!?では隊長も共に…っ!」

「逃げるんだ!!」

二度目の叫び声に顔を歪めたクレア。直後、アマリアの前に一瞬で移動した彼女は、放心状態のアマリアを抱き上げ。疾走した。

「い、いや…だ…」

乾ききった喉で、アマリアは掠れる声を漏らした。その瞳からは止めどなく涙が溢れ出る。その音を、その光景を妨げるように、アマリアは強く瞳を閉じ、耳を塞いだ。

 

 

「一人に…しないで…」

 

 

* * *

 

「クレアは抜け道を知っていてね。そのランクもあって逃げることができたんだ…」

「…その、クレアさんって…」

「ああ、この前サクがあったあのクレアだよ」

そのあとは何を言うこともできなかった。只々放心し、隣のルーカスも言葉を失っているようだった。

「……最後に私は。あの場の何もかもから逃れたくて、その瞳を、耳を塞いだ。死にゆく仲間を見捨てたんだ…」

両手をきつく握り、アマリアは震える声で、弱々しく告げた。そして歪んだ顔で必死に笑う。

「だから、周りから嫌われるのは当然のことなんだよ。すまないね、こんなこと話して」

僕は目頭が熱くなるのを必死に堪える。

辛かったんだ。悲しかったんだ。ずっと…。

その痛みに、僕は何もできていない。眷属として何もできていない。

知っている。

その痛みを僕は知っている。

目の前に一人の少女が浮かび上がる。

過去の記憶。その記憶を僕は無理やりかき消した。

「いいんだ。こんなことに首を突っ込んでいたら、派閥どころではないからね。さっきは助けてくれてありがとう」

最後にそう言い、立ち上がったアマリアに、僕は何も言うことができなかった。

* * *

 

「クックック」

壁外の洞窟の中に、笑い声が響く。笑い続ける一人の男は、そのたれ目気味の瞳を不気味に細めた。細身の体は長身で百九十はいく。黒髪は肩までつくほどの長さだ。岩に座る男はやがて笑いを止め、両手を開く。

 

「さぁ、もうそろそろだ」

 

* * *

 

次の日、アマリアは昨日のが別人だったかのようにいつも通りだった。それには僕たちは驚いたが安堵し、すぐにもとの風景が戻っていた。

「あ、そうだっ。サク、ルーカスっ。【クエスト】がきているよ!」

「【クエスト】って…」

「【マテリアル】からの依頼で報酬もついてるんだ。成功したらだけどな」

どの派閥にも、そのレベルに合わせたクエストが届くらしい。ルーカスの説明に「へぇ〜っ」とサクは感心するのだった。

「おっ?これ期限が明日までじゃねぇかっ?」

「え?期限とかあるの?」

「ああ。だいたいは一週間そこらなんだが、随分と小規模派閥には扱いが荒いらしいな」

それを聞いていたアマリアは頷いた。

「じゃあ今日はクエスト頑張ってくれ。これも派閥の役目の一部だからね、頼むよ」

「はい!」

「おうっ」

そうして僕らは別れ、それぞれの目的地へと進むのだった。

 

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