「ーっ」
気絶しているサクにポーションを飲ませるルーカスの隣で、クレアは目を見開いた。その反応にルーカスが首をかしげる。
「?、どうしたんだ?」
「何かが、来る」
その瞬間
『ギュルァアアアアアアアアアッッ!!』
「「ーっ!?」」
あたり一帯がその雄叫びで激しく揺れた。そして、ビキッ、ビキッと。壁から突如現れるものがいた。
言ってしまえば【フラワー・ザック】の進化系のようなモンスター。ゆうに十Mにとどく巨体。どす黒い一つ一つの花びらの大きさも五M程ありそうだ。大きく開かれる巨大な口。そして牙。この洞窟に現れるはずのないランクCに匹敵する中級モンスター、【フラワー・バレクス】。その姿にルーカスは顔を歪め、クレアは汗を流す。ランクC、つまりクレアより上。そう、このモンスターはクレア以上の実力を持つ。
「これはさすがにマズイわね…」
「おいサク!起きろっ!」
「ぅ、うん…?」
ポーションによって回復したサクは、ルーカスに激しく揺らされたことで目を覚ます。そして目の前の光景に青ざめた。
「ど、どういう状況なんですか!?」
「見ての通りよ」
再びモンスターの雄叫びがあたり一帯を揺らした。
「来る…っ」
クレアが叫んだと同時
フラワー・バレクスが己の触覚を放った。
サクとルーカスは大きく転がるようにして回避し、クレアは地を蹴り避けながらモンスターへと迫る。圧倒的なそのスピードにサクとルーカスは目を見開いた。その直後、クレアは相手の懐にへと入り込んでいた。
太刀を振り抜く
『ギュルァアアアアアアアッッ!?』
激しい絶叫が響き渡り、大きく仰け反るモンスター。やはりクレアの攻撃ともなれば効果があるようだ。
その状況を見つめていたサク達は地を蹴る。サクは長剣を、ルーカスは大剣を引き抜き疾走する。ステイタスがルーカスより上回るサクは、先に相手へと行き着いた。
ここでのディメンターは自分一人、ならば
「【フレイム・ウィンド】!!」
僕が決めなくてどうする…!
激しく唸りを上げ放たれた紅蓮の炎はモンスターにへと迫る。しかしモンスターは、さすがの反応速度で出したツルで防御した。爆発する炎、モンスターは防ぎきった。しかしツルの一本が使い物にならなくなっている。
「よしサク!全部焼いてやれ!」
「うん!」
叫んだルーカスにサクが頷く、瞬間
フラワー・バレクスはそのツルを切り離した。
「な…っ!?」
サクが驚愕の声を上げる中、切り離された部分がグネグネとうごめく。そして次には
新たな触覚が生えていた。
「ーっ、トカゲかよ…っ」
顔を歪めるルーカス、そしてクレアも目を細めた。
「これは相当まずいわね」
* * *
意識が覚醒してゆく。周りの声、音が聞こえてくる。アマリアはくらつく頭を無視し、起き上がった。
自分にはまだやるべきことがある…っ!
「い…っ」
体を起こすと、あちこちからの痛みが襲ってくる。大きく体を曲げ痛みに堪え、それでも立ち上がろうとする。
「えっ?あ!まだ安静にしてないといけませんよ!」
起き上がろうとするアマリアに気がついたマヤ・カルヴァートは驚きながら止めようとした。マヤは派閥の幹部で1人代表として、セフィア達が帰った後、他の団員とこの場の回復に協力していたのだ。
治療はしたが、完全には治りきっていない少女に走り寄る。また傷口が開いてしまう可能性もある体を動かすのは危険だ。
止めようとするマヤにアマリアはそのまっすぐな瞳を向けた。
「私には…っ、まだやることがあるんだ…っ!」
「ーっ」
その瞳、言葉にマヤは目を見開いた。その目は、覚悟のあるものの目だということをマヤは知っていた。
気づけばマヤはその体を離していた。
アマリアはふらつきながらも立ち上がる。そして破壊された瓦礫の上に登る。その姿に多くの視線を浴び、そして
叫んだ。
「どうかっ、力を貸して欲しい!!第二エリアで、きっと何かが起きているんだ!そこにいる私の仲間を助けてくれないかい!?」
今回モンスター達が来た時から、何かを感じていた。いや、その以前。サク達が壁外に出てから。
そして先程ので確信した。
いや、そんなものではないが、思ったのだ。己の眷属が危ないと。
必死に叫ぶ。自分が周りから受けている扱いは知っている。でも、こうしなくちゃ始まらない!私は…私は…っ
「私は!みんなを助けたいんだ!!」
もう守られているばかりは嫌だ。自分には力もない、隊長としての資格もない。自分は薄情者だ。それでも構わない。あの少年を、あの笑顔をもう一度見られるのなら…
私は戦うっ!!
あたりは静まり返り、人々は呆然とする。そんな中、アマリアは地面に手をつき
「どうか助けてはくれないか!!」
頭を打ち付け、土下座をした。
その姿に皆が目を見開く。
仲間のため頭をさげる一人の少女に罵声は浴びせなれなかった。
「俺は刻印を授けられてるぞ」
「ランクはFだが俺もだ」
土下座を続けるアマリアは目を見開いた。一人、また一人と前に踏み出す人々。そんなみんなにアマリアの声は震えた。それでも伝える。
「ありがとうっ!!」
* * *
「クソッ、ラチがあかねぇ…っ」
息を切らしながら悪態を吐くルーカスは顔を歪めた。クレアの実力のおかげで助かっているが、決定的な攻撃が与えられない。
今もクレアによる目にも留まらぬ攻撃がフラワー・バレクスに降り注いでいるが、モンスターの特性なのか、地面からのエネルギー吸収で傷も回復してしまう。サクも何度もディメントを使ったことにより体力の消耗が激しかった。
「ポーションももう残っちゃいねぇし。どうするっ」
解決策も見つからず、モンスターに応戦する。三人がかりでやっと持ちこたえられる相手は考える余裕など与えなかった。
「ディメントの威力を溜められれば、仕留めます…!」
そんな中、サクは触覚を弾き、叫んだ。
今まで試したことはあるが、せいぜい数秒の間だ。これが長時間貯められるとするのならば、それは膨大な力へと変わるはずだ。
その言葉に目を見開いたルーカスとクレアは、すぐに表情を険しくした。
「貯めてる間は戦えないのよね」
「……はい」
「ならやろうにもやれねぇぞっ」
長時間二人で相手をするなど、いくらクレアがいるといっても不可能だ。この中の一人でも抜ければ、それは敗北と等しい。自分が動きながら実行することができないことに唇を噛む。
その時
相手は大きく口を開いた。三人が目を見開く中、その口には光が輝きだす。
「ーっ!?二人とも避けなさい!」
クレアが叫ぶのと同時、もう遅いというかのように、モンスターは、その口の中の光を撃ち放った。
凄まじい音、威力をたてながらその咆哮は三人にへと迫る。驚愕するサク、そしてルーカスは動けずにいた。
「させないっ!」
そして二人をかばうように前に出たクレアは、太刀を握りしめ、咆哮を両断した。
大爆発が巻き起こる。
「「ーっ!」」
その爆風でサクとルーカスは吹き飛んだ。何度も地面を転がり、やっとの事で体制を整える。そして
目の前で見るのは、未だ立ち続けるモンスターと、咆哮を防いだクレアが倒れる光景だった。
「ーっ!?クレアさん!!」
「…っ」
サクが悲鳴混じりの叫び声をあげ、ルーカスが顔を歪める。場の状況は、一気に最悪となった。
モンスターが向き直る。二人は一歩後ずさった。
殺される…っ!?
体に冷たいものが走る。未だかつて味わったことのない、確信に近い死の恐怖。
モンスターは再びその口を開け、光を集める。
絶体絶命。まさにその言葉が当てはまるような状況。
フラワー・バレクスは、二度目の咆哮を、放った。
洞窟の中を光が覆い尽くす。耳を塞ぎたくなるほどの音が反響した。
サクは目を見開き、ルーカスは歯を食いしばった。
瞬間
「【ヴェロス・エストレア】!!」
流星の矢が降り注いだ。
幾多の矢が咆哮を飲み込み、爆発する。その流星は、全弾命中した。
あたりに、煙が立ち込める。先ほどまでの音は止み、岩が崩れ落ちるような音へと変わった。
「と、止まった…」
サクは唖然とその光景を見つめながら呟いた。
「大丈夫ですか!?」
新たな声が響き渡る。その声は、以前にも一度聞いた声だった。
マヤ・カルヴァートは、金髪のポニーテールを揺らしながら走っていく。それに気づいたサクは片手を上げた。
「な、なん…」
「お怪我はありませんか!?」
「お、おお」
「とか…」
サクの言葉をよそに、マヤはルーカスに走り寄る。完全無視され視線のやり場がなくなるサク。そんな少年と少女に汗を流しながらルーカスは言葉を返した。
何故か嫌われてしまっていることにションボリとするサクは、次には目を見開いていた。
「サクーっ!!」
「ア、アマリア!?ってうわっ!?」
凄まじい速度で迫ってきた少女に仰天するのもつかの間、そのまま抱きしめられる。地面に勢いよく転倒し、訳が分からなくなっている中、アマリアは号泣しながら頰ずりを繰り返す。
「無事でよがっだー!!」
その言葉にサクも泣きそうになるが、まずはそれどころではないと切り替える。
「何でアマリアがこんなところにいるんですか!?」
その質問に、鼻をすすっていたアマリアはにしっと笑った。
「君達を助けに来たんだ!」
「……えっ」
その言葉と同時に、足音が響き渡り始めた。その数は、一つ二つどころではない。何十という数の足音…
「行くぞお前らぁあああっ!!」
『おぉおおおおおおおおおおっっ!!』
たくさんの眷属者が向かってきていた。その光景にサクとルーカスは目を見開く。そして次には、フラワー・バレクスとの戦闘が始まっていた。
「これは一体、どういうことですか…?」
「みんなに頼んだんだよ!君たちを救うために!」
「ア、アマリアが、ですか…?」
「おうともさっ!」
胸を張るアマリアに、サクとルーカスは驚愕する。今までの人々がとるアマリアへの態度。あれからこの状況はとても信じられなかった。
アマリアは、放心するサクの目の前で、笑った。
その笑顔だけで、何もかもがサクにはわかった。
「やったんですね」
「うん!」
そのまま二人は見つめあった。
「今回はお姉ちゃん来ないので!もう帰っちゃったので!」
「えっ」
そんなサクに初めて言葉を発したマヤは、プイッと顔を背ける。その言葉に素っ頓狂な声を出したサクをよそに、モンスターへと体を向けた。
「ここからは、来るか来ないか。ご自由にどうぞ」
「ーっ」
「では」
そう言い残したマヤはモンスターへと走って行った。戦うのか、逃げるのか。そう問うているようだった。
「…アマリア」
「…うん」
「行ってきます」
「ああ、行っておいで」
迷いはなかった。
立ち上がると、すでにルーカスはサクを待っていた。
「ったく、仲のよろしい隊長、副隊長だ」
「へっ?いやっ、これはっ、そのっ!」
「ははっ…。じゃあ命令を、副隊長っ」
その言葉にもう一度ろうばいする。そうだ、自分は副隊長だ。しっかりしなくてはっ。
「……た、倒そう!!」
「おしきた!!」
あまりにもそのままな言葉に赤面しながら、サクは地を蹴った。
「あ、そういえばサクっ」
「えっ?」
「さっき、ディメントを貯めることができれば倒せるって言ってなかったか?」
「あ!!」
走りながら言われた言葉に声を上げる。そんな副隊長に、ルーカスは苦笑いした。
「今なら、やれるんじゃないのか」
「うんっ!わかった!」
「頼んだぜ!副隊長!」
一度背中を叩き、ルーカスはそのままモンスターへと向かって行った。サクは急停止する。
深呼吸をする。自分の体を考えると、このディメントが最後の一回となるだろう。
最大の力で、決めてみせる!!
炎を纏う。
アマリアは、己の過去と向き合い、戦ってくれた。僕たちを助けるため、戦ってくれた。隊長としての役目を果たしてくれた。ルーカスも自分を信じてくれている。
「私も、手を貸します」
サクは体を揺らし、目を開いた。するとすぐ横には、杖を構える少女の姿が。
「聞きました。あのモンスターを倒せる方法があると。私だって魔導士ですから」
まるでサクに対抗するかのように現れたマヤは、そう言い魔力を込め始める。
「あなたには、負けませんから」
「へっ?」
最後にそう言い放ち、詠唱を開始した。サクは訳がわからなかったが、己も集中する。
「【自らの道を切り開く】」
サクの炎が膨れ上がるのと同様、マヤの足元に魔法円が浮かび上がり光り出す。
「【その誇りは我が同胞のため】」
目の前では多くの者たちが戦っている。魔導士の私ができることは、その人々を一度の力で救うことだ。
「【その勇姿は高みへの希望のため】
こんなランクFの僕にできることを考えろ。自分の持つすべてを出せ。ディメンターである僕にしかできないことを。
隣に並ぶ、二人の少年、少女はそれぞれの思いを込めて、魔力を、ディメントを込める。
「【導け。一点のツルギ】!」
少年と少女は同時に目を見開く。あたり一帯には二人の力で起こった光によって輝いていた。その変化に誰もが気がつく。そしてアマリアは叫んだ。
「みんな引いてくれっっ!!」
それぞれの力が最高潮へとたったする。二人の眷属者は叫んだ。
「【ソード・フォース】!!」
「【フレイム・ウィンド】!!」
解き放たれる、ツルギと炎。その二つは交わり、より一層輝きを増す。
フラワー・バレクスは驚愕し、すぐに咆哮を放った。激突する二つの光。力を込めるサクとマヤは顔を歪める。しかし、一歩
「「い…っけぇえええええっっ!!」」
踏み出す。
相手の咆哮を撃ち抜き、進む。フラワー・バレクスは地面から大量のツルによって壁を作り出す。瞬間
激突
凄まじい力が洞窟を揺らす。大量の体力を放出し続けるマヤは歯をくいしばる。しかし
サクは堪えきれずに、崩れ落ち…
「しっかりしてください…っ!!」
「い…っ!?」
寸前、マヤによる渾身の蹴りが命中し、正気に戻る。
「まだここからです!甘ったれないでください!!」
少女はふらつく意識の中、叫けぶ。少年にたいして、そして、自分に対して言葉を放った。
「そんなんじゃ、お姉ちゃんには追いつけませんから!!」
「ーっ!!」
目を見開く。そして、踏ん張る。目の前には、ランクBとなり、さらに距離を開かれてしまった人物、セフィアが浮かび上がる。その金色に輝く三つ編みに、僕は自分でもわからない感情が渦巻いている。その瞬間悟る。これは…
生意気なプライド。そして、憧れだ。
歯を食いしばる。僕は…僕は…。
この場にいる人達の命を背負っている。ルーカスの信頼を無駄にしちゃいけない。セフィアさんのあの背中に追いついてみせる。それに…
アマリアと、あの時約束した
「おぉおおおおおおおおっっ!!」
雄叫びをあげる。さらに炎を出す。そして
ビキッ、ビキッと。少しずつ、相手の壁が崩れてゆく。その光景に、人々は立ち上がった。
アマリアは、その光景をある風景と重ねていた。
昔、父に読んでもらった一つのお話。その主人公である少年は、弱虫で、みんなから蔑まれていた。それでも立ち上がり、強くなりたいと戦い続ける。
『ねぇ、お父さん。この子なんでこんなに頑張るの?』
幼かった自分は、そう、父に尋ねた。すると父はアマリアの頭を撫で、笑い、言っていた。
『それは、アマリアがこれから見つけていくんだよ』
その主人公と、サクがかさなり合わさる。どんなに弱いと思われようと、戦い続ける。そんな少年の気持ちが、今ならわかる。
胸に手を置き、アマリアは涙を流した。
「守りたい、また見たい笑顔があるんだね。サク…」
瞬間
壁が崩れ去る。そしてその光は、モンスターを飲み込んだ。フラワー・バレクスの宝玉にヒビが入る。そして
くだけ散る。
『ギュルァアアアアアアアアアッッ!?』
宝玉を失ったそれは、激しく呻き。そして…
崩れ落ちた。
「やりやがった…」
ルーカスが呟く。
人々が目を向ける場所には、少年と少女がいた。そして、次の瞬間には
『おぉおおおおおおおおおおっっ!!』
大歓声が響き渡っていた。
サクはその光景に一度笑い、意識を手放した。