ディメント   作:もやしメンタル

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第14話《一歩前進》

「いや〜しっかし助かったぜ。なんだよっ、あんなことできるんなら初めっからやっとけよな」

「だ、だから時間がかかるからできなかったんだよっ」

サク達一同は、今回の事件を【マテリアル】に報告したのち、ラノスに戻ってきていた。

「ん、ぅん…」

「あっ!アマリア起きましたか!」

「えっ、サク…?」

目の前に赤髪の少年が見え声を出す。すると少年は大きく頷いた。

「うぅ、また気を失ったのか…。最近多いな」

そう呟きながら起き上がる、ここはどうやら外のようだ。怪我もきっちり治療されている。

「ありがとうサク。また治療してくれて」

「あ、いえ。今回は街の人たちがしてくれたんです」

「……えっ?」

一瞬言葉の意味がわからなかった。

私を、街のみんなが?

そしてその時やっと気がつく、アマリアの周りには多くの人々が集まっていた。

そんな光景を唖然と見つめるアマリアの前に一人の男性が前に出る。そして

 

「今まで、本当に申し訳なかった」

 

深々と頭を下げた。

それに続き、誰もが頭をさげる。

その光景に、アマリアは放心した。

「あなたは、汚れてなど微塵もなかった」

目を見開く。

違う、自分はそんな綺麗な人間ではない。何もかもから逃げ、背き、怖がり続けていただけだ。

「私なんて…、あの時死ぬべきだったんだ…」

先の見えない暗闇に落ちるべきは自分だった。

今までの日々は地獄だった。

苦しかった。

悲しかった。

惨めだった。

そんな自分が、大っ嫌いなんだ。

いっそこのまま深い暗闇に入ってしまえばいいんだ…。

 

 

「そんなことありません」

 

 

でも私は、光と出会ってしまっていた。

 

「僕は知ってます、アマリアはとても優しいこと。どれだけかかろうと構わない、だからどうか許してあげてください。自分自身を」

暖かさと出会ってしまっていた。

「あなたの痛みは、必ず僕が支えます。何年でも、何十年でも、いつまでも支えるから。だから」

もう私は知ってしまったんだ。

 

 

「ずっとそばにいてください」

 

 

何とも変えられない、この愛しい人への感情を。

 

目頭が熱くなるのを必死で堪える。すると、誰かに指をつながれた。振り返ると、そこには男の子が立っていた。昨日あった樽騒動での男の子だ。その隣には母親らしき女性が立っている。それに呆然とするアマリアに、女性は深々と頭を下げた。

 

 

「先日は、この子を助けていただき本当にありがとうございました」

 

 

「え…」

そんな目の前の女性を見つめ、アマリアは放心した。そんな中、頭を下げ続けていた女性は顔を上げ、口を開く。その瞳には涙がたまっていた。

「あなたには、感謝しても仕切れない…。本当にありがとう」

瞬間、アマリアは目を見開く。胸のうちから、何かがこみ上げてくる。

すると、ずっと指を握っていた男の子は無邪気に笑った。

 

 

「お姉ちゃん。助けてくれてありがとう」

 

 

「ーぁ」

頬に涙がつたる。後から後から流れ落ちる。

ずっと一人だった。

寂しかった

苦しかった

悲しかった。

それでも歯を食いしばり、生き続けた。

意味なんてありはしなかった。

でも、今は違う。

少年が笑う。

私はその笑顔が見たくて、今を生き抜く。

生きる理由。

自分があるべき理由。

それを見つけた今は

 

 

こんなにも、心が温かい。

 

 

* * *

 

今回の事件は、【マテリアル】によって捜査が行われていた内容だった。犯行を重ねていたという人物は、今回は男一人だけということらしい。今は意識が戻り次第、取り調べを行うという段階だ。男の名前はザスマ。やはり男はテイマーなようで、このような事件は数回あったという。

「というわけで本当にごめんねっ。こんなことに巻き込ませちゃって」

「いえいえっ、ニールさんが謝ることじゃないですよっ」

ロビーでは頭をさげるニールと、それに戸惑うサクの姿があった。やがて頭を下げていたニールは、勢いよく顔を上げる。それにサクはビクッと肩を揺らした。

「でもっ、今回のことで【アマリア派】は結構名が広まると思うわ!一気にお金も手に入るかも!大出世じゃないかしら!」

「二、ニールさん声が大きいです!落ち着いてください!」

一気に興奮気味になるニールにサクがシーッと口に指を当てる。それにニールは慌てて口を押さえた。

「そ、それとニールさん…」

「うん?何?」

そんなニールにモジモジにながら切り出すサクは、首をかしげる彼女と目を合わせた。

 

 

「僕、ランクが上がったみたいです」

 

 

「………へ?」

一瞬にして固まるニール。あははと苦笑いし、頭に手を置くサク。

「えぇえええええええええええええ!?」

今年一番の大絶叫が【マテリアル】、ラノスに響き渡ったのだった。

「らららランクアップって、Eになったってこと!?」

「は、はい…」

「この短期間で!?」

「はい…」

「そんな馬鹿な!?」

どこかの悪者が言いそうなセリフを叫ぶニールは、周りの視線なんてもう気にしていなかった。そんなニールを止めるべく、「とりあえず面談室に行きませんかっ?」と慌ててサクはその背中を押してゆくのだった。

 

 

「えっと…。こういう例ってあったことあるんですか?」

「うーん。確かにランクアップの期間はその人のいろいろなことから関係していくことではあるわ」

「いろいろ?」

「例えば血筋とか遺伝、それこそ才能もね。…でも今までは早いって言っても年単位はかかることだったわ。それがたったの三ヶ月だなんて…、ありえないと思うんだけどなー」

首をかしげて唸りだすニール。そんな彼女に、サクは気になっていたことを尋ねた。

「あの…、セフィアさんはEになるのにどのくらいかかったんですか?」

「うん?セフィア・カルヴァート?えーと確か…。一年だったわ。その早さに町中大盛り上がりだったはずだけど…」

「一年…、それは才能が関係してるんですかね?」

「ええ。カルヴァート一家はごく普通の血筋だからね。…でもサク君の場合はハッキリ言うと家族が普通じゃないのかもね。それも相当よ、三ヶ月なんだから」

「家族、ですか…」

「あっごめんサク君!今の忘れて!」

ポツリと呟いたサクに気づき、ニールは「はっ」とし手を合わせる。それにサクは「いえ」と笑った。

「大丈夫です。別に僕にはガンダルフさんがいましたし、家族って言っても実感がないので寂しいのも違うんです」

「そ、そう…?」

ニールの問いかけに、「はい」と笑ったサクは次に

その顔に曇りを見せた。

「ただ…」

「ただ?」

「あ、いえ。なんでもないです」

俯いてから、すぐに元の笑顔に戻る。そんな少年に、ニールは胸が苦しくなるのを感じた。自分がサクのアドバイザーになる前のことでそこまで詳しくはないが、今の少年が何を考えているのか、ニールにはわかった。そして、気づけばその赤髪へ手を伸ばし、自分の胸に抱き寄せていた。

「に、ニールさんっ?」

その行動に慌てだす少年をより強く抱きしめ、その頭を撫でる。

 

 

「フィリナさんのこと、思い出してたの?」

 

 

「ーっ!?」

「いつまで君は、自分を責め続けるの?」

優しく告げるニールの言葉に、サクの体が大きく揺れる。そしてソファーに置いたままの手を握りしめ、只々押し黙った。

そんな少年に、ニールは胸が締め付けられる。自分には、この少年に何も言う資格などないことは知っていた。でも、これだけは伝えたかった。

「あれは…、サク君のせいじゃないよ…」

届くはずのない言葉、それでも伝えたかった。

僅かな静寂の後、やがてサクは立ち上がりドアへと向かった。

「……すみません。もう、帰ります」

 

* * *

 

荒れ果てた部屋、血で染まった部屋。血だらけで倒れている父と母、その中央に姉が立っている。姉は笑っている。お腹を抱えて、笑っている。その手に握られているのは何だ?

『あー、ルーちゃん。今ね、パパとママをお料理してるんだ〜。あははははっ』

姉さん。何を持っているの?

『うん?これは、お料理に必要な道具だよ〜。あははははっ』

そう言って姉さんは愉快そうに、笑う、わらう、ワラウ。血にまみれたその姿で楽しそうに。

 

『ルーちゃんも、やってみる?』

 

 

「起きるんだルーカース!!」

「ぐふぇっ!?」

アマリアの跳び蹴りによって覚醒する。すっかり怪我は大丈夫な隊長は、サクがまだ帰ってこないことに駄々をこね中だ。

「君が寝てしまったらつまらないじゃないか!あーもうっ!またあの子はアドバイザーとイチャイチャして〜!!」

「だからって俺に八つ当たりしないでもらいたいな隊長」

「うるさーい!!」

蹴られた腹をさすりながら悪態を吐く。んがーと怒っているアマリアを無視し、頭をかいた。

久しぶりに見たな、あの夢。

無性にため息がつきたくなるのを堪える。そうしていると、ガチャッとドアが開くのが聞こえた。

「ただいま」

その瞬間、突風が吹いた。

「おっかえりー!サクーっ!!」

「えっ?うわぁあっ!?」

猛烈な突進をかまし抱きついたアマリア。そんな彼女に顔を真っ赤にするサクは勢いよく倒れこんだ。

バッシャーン!!とやかましい騒音が鳴り響く中、ルーカスは苦笑いする。

「相変わらずやかましいこって」

そう呟きながら立ち上がり、ルーカスもそちらへ歩み寄った。抱きつかれたまま仰向けに倒れているサクの隣でしゃがみ込む。

「おかえり。で、どーだった?」

「え、えーっと。やっぱりこんな例はないって…。あと、今回のことで、【アマリア派】は広まるかもって言ってた」

「おーっ、それじゃあ構成員も来てくれるかもしれないね!」

「苦労した甲斐はあったみたいだな」

そう言ってはしゃぎ、すぐにアマリアは、「で」と切り出した。

「サクのランクアップは嬉しいことだけど、やっぱり気になるなー」

「えっと、ランクアップのスピードは、才能以外にも血筋とか遺伝も関係しているって言ってました」

「つーことは、サクの親は凄い人ってことか?」

「ど、どうだろう。両親とも顔知らないから」

うーんと三人揃って唸る。そうしていると、やがてアマリアが立ち上がった。

「さーて、そろそろ時間だなっ」

「?、時間って、どこか行くんですか?」

サクが首をかしげて問うと、アマリアは何故か胸を張り誇らしげに笑った。

「ふっふーん!聞いて驚いてくれっ、なんとバイトに行くことになったんだ!」

「「えっ!?」」

その言葉に二人は目を見開く。そしてすぐに笑顔になった。

「わーっ、ということはバイト先が決まったんですねっ」

「おうともさ!」

「やったな隊長!で、どこのバイトなんだっ?」

「蜂蜜パイが美味しいお店さっ。もしかしたら持って帰ることもできるかもしれないぜっ」

「凄いですアマリアっ」

そうして再び大はしゃぎした後、「じゃあ行ってくるね」と、アマリアはホームを出て行った。

「最近街の人と仲よさそうだよな、隊長」

「うん。本当に良かったよ」

己の言葉に頷きニコニコするサクを見つめ、ルーカスはつられて微笑んだ。

「ホント、優しいなサクは」

「えっ?何か言った?」

「いや、別に。さーて、これで構成員が来てくれれば最高だな。サクは足が速いから中衛がいいかもな。俺はどちらかといえば前衛だ。これに後衛がいてくれればな」

「えっと、後衛だと魔導師の人が入るんだよね」

「ああ。それに荷物持ちもホントは欲しいよなー」

まだまだこっからってことだ、とルーカスは苦笑いを浮かべる。サクもそれには汗を流した。その時

「入るよー」

ドアが開く。その声には聞き覚えがありサクとルーカスは顔を向けた。大きく胸の開かれたシャツに緑色の髪。

「クレアさん!」

この前の事件では散々お世話になった人物にサクは声にあげた。

「アンタ、怪我はもういいのか?」

「ええ、だてにランクDじゃないってことね。治るスピードも早かったわ」

ルーカスの問いに笑顔を向けるクレア。その様子に二人は安堵を見せるのだった。

「クレアさん。本当にこの前はありがとうございましたっ」

「お礼ならアマリアに言いなさい。あの子がお願いに来たんだから」

サクのお礼にクレアはそう言うと、「無事でなりよりよ」と笑った。

「?、アマリアはいないの?」

やがてクレアは辺りを見渡す。そんな彼女にサクが口を開いた。

「アマリアならバイトに行きました」

「えっ、アマリアがっ?」

それにクレアは、サク達同様驚きを見せる。それにサクが頷くと、クレアは微笑みを漏らした。

「そう。あの子が…」

きっと様々なことを思っているのだろう彼女は、サク達に向き直り、頭を下げた。それに二人は驚く。

「おいおい、なんで俺たちに頭下げるんだよっ?」

「そうですよっ、顔をあげてくださいっ」

「いえ、言わせて。アマリアの一応保護者代理として」

そう言い、クレアは続けた。

「あの子のこと、これからもよろしくお願いね」

その言葉にサク達は目を見開き、やがて顔を引き締めた。

「もちろんです。この派閥の隊長、仲間ですから」

「だから顔を上げてくれ」

そう言われ、クレアは瞳を再び合わせ、笑った。

「アマリアにこんな仲間ができて、本当に良かったわ、ありがとう」

その後は少しの間中に入ってもらい、サク達も今日は壁外へは行かないと決めていたので、いろいろと話をした。

「そういえばクレアさん。刻印って今どうなってるんですか?」

いつかの質問をサクが尋ねると、クレアは頷いた。

「確かにアマリアの父からもらった刻印は消えたわ。今は別の派閥にいるの。て言ってもほとんど顔出さないけどね」

その答えにサク達は少しばかり驚きながら聞いていた。

「さて、そろそろ帰りましょうか。これでもお店があるからね」

「あ、すみませんいつまでもっ」

「いいのよべつに。あっ、そうだ」

サクが頭を下げるのを片手で制したクレアは、思い出したように声を上げた。それにサク達は首をかしげる。そんな中、クレアはドアを開けながら振り返った。

「サク君。ランクアップおめでとう」

「「ブッ!?」」

「じゃあねー」

「あの!ちょ…っ」

バタン

伸ばした手が行き場をなくし固まる。後ろのルーカスも唖然としていた。

「「なんで知ってるんだ?」」

 

 

 

 

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