ディメント   作:もやしメンタル

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第15話《街の闇》

「えーっ!?もうランクが公開されたんですか!?」

「まだ一日経ってねぇのに、随分とだな」

「そんなにサクのランクアップが嬉しいのかいアドバイザー!」

【マテリアル】の応接室にてギャーギャーと騒ぐ三人に、ニールは溜息をつく。今は、ニールの座るソファーの向かいに、右からルーカス、アマリア、サクが座っている状況だ。目の前でその光景を見るニールは、堪えきれず立ち上がって、ピンと指を立てた。

「いいですかっ?今回の快挙は前代未聞の事態なんです!そりゃー【マテリアル】だって大騒ぎしますよっ」

その答えに納得したのか静まる三人。ニールはもう一度溜息をつき再びソファーに座った。

「間違いじゃないのか、いったい何者か、今までどんな経験を積んできたのか。上層部に散々聞かれてもうヘトヘトよ」

「な、なんかすみません…」

脱力するニールにサクは申し訳なさそうに謝る。そんな中、今度はアマリアが立ち上り手を腰に当てた。

「まーようするに、最強とうたわれるあのカルヴァートとかいう子よりサクが凄いことを認めたくないってわけかい」

「…まぁ、簡単に言うと…」

以外と鋭いアマリアにニールは汗を流しながら頷いた。それを確認したアマリアは「よしっ」と手を合わせる。

「今回呼んだのは別のことだろう?本題に入ろうじゃないか。まークエストだと思うけどね」

「……」

「うん?どうしたんだい?サク。そんな目を輝かせて」

アマリアが小首をかしげると、言われた通り目をキラキラと輝かせるサクは、興奮気味にアマリアを見上げる。

「なんだかアマリア、隊長みたいですっ!」

「な…っ、そうかい!?」

「プッ!いやそこは怒るとこだろっ」

初めて見るアマリアの場の仕切りに感動したらしいサクに、怒ると思いきや素直に喜ぶアマリア。そんな二人を見て腹を抱えて笑っているルーカス。そんな光景にニールは汗をながすのだった。

「で、では本題へ。話はアマリア様の言われた通りクエストです」

そういってテーブルに一枚の紙を置く。その紙を三人揃ってサク達は覗き込んだ。

「人身売買…?」

ルーカスの言葉にニールは頷く。それにサクは首を傾げた。

「えっと…、それってモンスターと関係があるんですか?」

「ううん、ないよ。派閥に送られるクエストは、何も壁外だけじゃないの。街での騒動や手助け、そして黒い部分だったりも任せる。前回の事件でアマリア派閥の評価が上がったから、今回は薬草集めとはいかないみたいね」

「で今回は、その黒い部分ってやつか」

眼を細めるルーカスにニールは頷く。そのやりとりについていけていないサクは、オドオドと口を開いた。

「あ、あの…。黒いって…」

「サクにはまだ早くはないかい?」

サクの質問が終わらないうちに身を乗り出したアマリア。その様子は険しいものだった。それに俯くニールの顔も同じだ。そして彼女はこくりと頷いた。

「私もそう思って上層部に抗議したんですが、取り合ってもらえませんでした…。早いうちから経験を積ませる必要があるだろうと…」

「な…っ!あのストーンヘッドズめぇ…っ」

「隊長。そこは普通に石頭達でいいんじゃないか?」

「それじゃあもう従うしかないじゃないか…っ」

「無視か?」

ぐぬぬ〜と頭を抱えるアマリア。周りに完全に取り残されているサクは、再び紙を見つめた。

人身売買。裏街で行われていることらしい。奴隷としての身分で生まれた人間を、【マテリアル】に、街に隠れて売っているという。それを読んだサクはやっと合点がいくのだった。

「ようするに、これを止めるっていうことですか?」

「え、えーっと…」

そのサクの言葉にニールはなぜか眼を泳がせる。何か言いたくないことがあるようなそぶりだ。それにサクは首をかしげる。

静寂の中、初めに口を開いたのはアマリアだった。

「消すことが不可能なんだよ。サク」

「…え?」

「この国、いやこの世界がある以上。人身売買だってその一部なんだ。それで回っていることもあるってことさ。酷なことを言うけど、助かっていることだってある」

アマリアはそう言って顔を歪める。ルーカスも沈黙を貫いていた。その言葉にサクは只々唖然とする。そんな少年に、純粋なままでいて欲しいと、どこかわがままを思っているニールは俯き続ける。

「だから今回のクエストは、ただの現状況を確認してもらうことだけなの…」

「なっ、そんなのって…っ」

「サク君」

身を乗り出すサクにニールは視線を合わせた。それにサクの動きは止まる。

「お願い。君はよく面倒ごとに巻き込まれちゃうけど。今回は深く関わっちゃ駄目。どうにもならないこともあるって、サク君も知らなきゃならない。だからくれぐれも、クエスト以外での行動はしないで欲しい」

サクは眼を見開く。彼女の言っていることはよくわかる。ただ自分の心配をしてくれているだけなんだ。

しかしサクは、俯いたまま、どうしても頷くことができないままだった。

 

 

 

「また面倒なことを押し付けられたなぁ」

頭で手を組んだルーカスは、溜息交じりにそう嘆いた。依頼日は明日。それまでに色々と準備をすることになっている。

今はお昼前だ。アマリアはバイトに行かなくてはいけないと手を合わせて謝罪し、行ってしまった。

人々が行き交う通りをサクとルーカスは歩く。一方的にルーカスが話し続けることになっている。サクはただボーッと俯いていた。

そんな少年にルーカスは溜息をつき、隣で歩くサクの両頬を引っ張った。それに少年は正気に戻る。

「イダだだだっ!ひょっ、はにふーはふ!?」

立ち止まるサクの両頬を掴んだまま、ルーカスは少年の顔を覗き込んだ。

「そんなションボリすんな副隊長っ。そんなんじゃこれからもたないぜ?」

やっと離された頬をさするサクの頭にポンっと手を乗せルーカスは笑う。その光景は、落ち込む弟をあやす兄のようだ。

クシャクシャと頭を撫でられるサクは、自分がこんなんじゃ迷惑をかけると思い直した。

そして

今の場所と状況に気がつき顔を赤らめた。

「あ、ありがとうルーカス。でも恥ずかしいからっ」

「んー?あ、わりーわりー。一回この赤髪触ってみたかったんだよなー。はっはっはっ」

そう言って笑うルーカスをすり抜け、サクは逃げるように歩き出すのだった。

『兄弟愛ねっ』

『微笑ましいことだわ〜』

周りからの声に耐えきれず、サクはルーカスに切り出した。

「そ、装備ってルーカスは大剣だけ?」

「ん?おう。てか他の買う余裕ないしなっ」

「あ、あはは…」

にしっと笑うルーカスにサクは苦笑いする。前を向いたままだったルーカスはサクへと顔を向けた。

「サクは片手剣と、あとは短剣だな」

「うん。そうだね」

ニールから貰った短剣は今も大事に使っている。思いの外馴染んでいるので、今では結構使うようになっているのだ。

「あとはー…。街中だからどうすればいいかわかんないな」

「ポーションとかどうする?」

「まぁ、持ってくか?」

慣れないことにしどろもどろで、つい苦笑いしてしまう。改めて派閥の人たちの凄さを実感する。

「じゃあ俺ちょっくらポーション見てくるわ、サクはべつの頼む」

「うん」

そうして一度、サク達は別れることとなった。

その時

「あ!!」

「……へっ?」

聞き覚えのある声が響いた。道を歩く人々も驚き、叫んだ本人を見る。サクもその視線を追い、恐る恐る振り返ると…。

「ま、マヤさん!?」

「サク・ティネル!」

まさかの再会だった。しかもその隣には

「うん?どーしたのマヤ、知り合い?」

サクが一瞬で赤面するような露出の多い少女、そして…。

最後に目に入った金色に、サクは一瞬にして硬直した。それは相手も同じらしく、眼を見開いて固まっている。二人はそのまま見つめ合い…

「そーはいくものですか!!」

マヤに妨害された。やっと正気に戻ったサクに、マヤはビシッと指をさす。

「言っておきますが!この前手伝ったのは異常事態だったからです!べつにあなたと仲良しこよしとなったわけではないので!!」

「は、はいぃぃっ!?」

まくしたてるマヤに怯えるサク。そんな二人にセフィアは呆然とするのだった。

息を荒げるマヤは、今度は俯き、目線をそらした。

「まぁでも、あの時は助かりました…。どうも…」

「へっ、あ、いや!お礼を言うのはこっちの方です!助けていただいてありがとうございました!!」

恥ずかしがるマヤに、サクはオドオドと頭を下げた。

そんな中、風が吹いた。

そう思った途端。サクの目の前には、ルシアが現れていた。

ランク上位者のスピードについてこれなかったサクは仰天する。そんな少年をまじまじと見つめたルシアは

「んー!この子かっわいいー!!」

「ブグ…っ!?」

その大きな丸出しの胸にサクを抱きしめた。

「赤髪だっ、すごーっい!!」

「〜〜〜っ!?」

「る、ルシアさん!なにやってるんですか!?」

「……」

大騒ぎになっているこの状況に、セフィアは表情の乏しいながら、焦りの顔をみせる。それにいち早く気がついたマヤは、抱きつかれているサク共々人気のない場所まで猛ダッシュしたのだった。

 

 

「ハァっ、ハァ…。全く、こんな騒ぎカラムさんにでもばれたら大目玉ですよ…」

「え〜っ、最初に大声出したのマヤじゃん!」

「うぐ…っ、そ、それは…つい…」

久しぶりの休みに三人で買い物に来たのはいいものの、早々に目の前でダウンしている赤髪の少年にあってしまうとは思いもしなかった。

「でも、サクも一緒に連れてきて大丈夫?」

「あ、あれは仕方なく…」

眉を下げるセフィアにもごもごと言い訳するマヤ。ルシアはさっきのでなぜかショートしてしまったサクの頬をつついて、「わ〜、プヨプヨ〜っ」と、まるでオモチャを買ってもらった子供のように楽しんでいた。

「う、うぅ…」

「おっ、起きた!」

頬を突かれるサクは寝苦しそうに顔を歪め、次にはゆっくりと眼を開けた。ムクッと上半身を起こし、辺りを見渡す。そして目の前にいるルシアと数秒見つめ合い…

「うわぁああっ!?」

「おっはよー!」

跳ねるように飛び起きた。再び辺りをキョロキョロと見渡す。そして一気に青ざめた。

「ここ、どこですか…?」

「誘拐とかそういうのじゃないので!」

完全に取り乱しているサクにマヤは抗議する。隣でセフィアもこくこくと何度も頷いた。

「セフィアもマヤも知ってるみたいだけど、知り合いの子?」

「わ、私は知り合いというか…」

「……っ」

モジモジとするマヤに、稽古のことは言えず固まるセフィア。そんな二人から目線を外し、「まーいいやっ」とルシアは座り込むサクと眼を合わせ、ニッと笑った。

「私はルシア!君は、サクだよねっ、マヤが叫んでたし」

「あ、は、はい。サク・ティネルです…。というかあの…」

「うん?」

「なんで頭撫でてるんですか…?」

「赤髪だしフワフワだから!」

「答えになってないです…」

今日二度目の状況に溜息がつきたくなる。それにまず目の前のルシアへの目のやり場に困った。

「あー!」

「ー!?」

その瞬間に叫んだルシアにサクは大きく肩を揺らす。

そんなサクに再びグイッと詰め寄ったルシアは、その瞳を輝かせた。

「思い出した!君ってアラゲメントの時の子でしょ!?やたらとセフィアが気にかけてた!いやぁーあの試合面白かったなぁ!」

「は、はぁ」

すっかり自分ワールドへ入ってしまったルシアにサクが苦笑いしていると、不意にセフィアと目が合った。

「…サクは今日壁外に行かなかったんだね」

「へっ?あ、はい。クエストのことでバタバタしてて…」

戸惑いながらも口を開いたセフィアにサクは頷いた。

「そっか…。あ、それとサク」

「?、はい?」

「ランクアップ、おめでとう」

「ーっ」

微笑みとともに告げられた言葉に、サクは眼を見開いた。

「はっ、そうだ!そのことについて詳しく聞きたかったんです!たった三ヶ月でランクアップするなんてどうなってるんですか!?」

「えーっ!三ヶ月で!?すごーい!!」

セフィアの言葉で思い出したようにサクに迫るマヤ。ルシアもそれを聞き、心底驚いたようにサクを見つめた。

「秘訣とかあるんですか!?」

「えっ、そ、それは…っ」

詰め寄るマヤにおどおどするサク。その状況に、何気にセフィアも全神経を研ぎ澄まし聞き耳を立てていた。

「原因は、僕にもわからなくて…、親が関係してるんじゃないかって…」

「っ、その親とは!?」

「あ、その。物心つく前から親がいなかったので、どこの誰かもわからないんです…」

「へっ?」

詰め寄っていたマヤは素っ頓狂な声を上げる。それを聞いたセフィアとルシアも静まった。

「ご、ごめんなさい。嫌なこと聞いてしまって…」

「あ、いえっ。べつに気にしてませんから」

落ち込むマヤにサクは汗をながす。静寂に耐えきれず、サクは話題を変えた。

「そうだっ、あの、みなさん人身売買って知ってますか?」

「?、それがどうか?」

サクの質問にマヤは尋ねる。それにサクは午前中までの出来事を説明した。

「…君がそれを?」

「はい。でも、いまいちわからなくて」

どこか悲しそうに言うセフィアに頷き頭をかく。それにルシアは「うーん」と唸った。

「私達も前に一回それ関係で行ったことあるけど、半端な覚悟じゃダメだったなー」

「そ、そうですか…」

きっと自分の予想より遥かに酷い場所なのだとは思いながら、サクは俯く。そんな少年を見つめるマヤは、その顔を引き締めた。

「あなたにとっては、最も苦手なものでしょうね。私は下っ端なのでそこまで深くは関わりませんでしたが、これだけは言えます」

息を飲むサクをまっすぐに見つめ、はっきりとマヤは言う。

「決して、情けなどかけないでください。あそこのことに、無駄な深入りをしては絶対に駄目です」

ニールにも言われた言葉を、再び突きつけられる。サクは俯き、顔を歪めた。

「僕、もうそろそろ準備に戻らないといけないので、失礼します…」

「サク…」

立ち上がるサクにセフィアは呟く。しかしこういったことにはとことん鈍い彼女は、何も言うことができなかった。

 

 

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