ディメント   作:もやしメンタル

18 / 46
第18話《頑固者》

「グェエーっ!」

「あ、アマリア!?」

「隊長!?」

僕達を抜かす勢いだったアマリアが突然つまずく。そして派手に床に倒れこんだ。

悲鳴に近い叫び声をあげる僕達。後ろからはどんどん人数を増やしていった人達が迫ってきている。

「ルーカスは先に行って!」

「お、おう!」

そんな状況にサクは叫ぶ。それにルーカスは迷わず頷いた。

「失礼しますアマリアっ」

「えっ、ふぁ!?」

緊急事態の今は四の五の言ってられない。

一度謝罪を叫んだ後、僕はアマリアを横抱きに持ち上げた。

持ち上げた体は軽い。しかしそれに対してコメントを取れるほどの余裕は持ち合わせていない。

全力で走る。

お姫様抱っこをしながら疾走する姿は、はたから見たら物凄い絵だろうが、そんなことにかまっていられなかった。

やがて前方を走っていたルーカスに追いつく。

見事に場をかいくぐった。

「ってまだ現状変わってないけどね…っ!?」

「おー…サク。お姫様抱っことはお前なかなかやるな。」

「サクがここまでする子だとは…。私は今心から感激してしまっている…っ」

「二人ともふざけてる場合じゃ…」

サクが言葉を言い切らないうちに

「うわぁ!?」

「ーっ!?」

廊下の角から現れた姿に衝突しそうになる。

それをなんとかかわしたサクは、デジャブを感じる。

そして次にはその目を見開いた。

 

 

「シルアさんっ!?」

 

 

「…っ」

それは相手も同じことだった。

揺れる青い髪。音を鳴らす鎖、そして103と刻まれる首輪。その姿は紛れもないシルアさんだった。

自分同様驚きを滲ませる彼女はボロボロだった。

大量の汗が滴り落ち、疲労感が見て取れる。それに何より酷いのが、その足だ。短いワンピースから晒け出されるスラリとした美しい両足は、幾つもの傷やアザが痛々しい。右足首に至っては腫れ上がっている。

そんなシルアの様子にサクは足を止め、シルアもいるはずのない少年の登場に停止する。

「ぅおいサク!私を担いだまま何見つめあってるんだ!?」

「よくわからんが今は走れ!捕まるぞ!!」

その時、アマリアに頬を引っ張られ我に帰る。同時にルーカスの叫び声に振り返り頷きながらアマリアを下す。

「ーっ、ご、ごめん…!シルアさんっ、行きましょう!!」

「な、何であなたがここに…」

「それは後で!」

自分とは違い、まだ放心状態のシルアさんの手を握る。「なっ!サクなんで下すんだー!?」と叫ぶアマリアに構う余裕もなく、僕達は再び駆け出した。

「とにかく目的は果たしたのか!?」

ルーカスの言葉に僕は考え込む。

目的はシルアさんをここから助けること。そして今の現状は…。

「駄目だっ、いくら逃げても鎖が、奴隷の立場があっちゃ意味がないよ!」

「ーっ!?」

瞬間、その言葉を聞いたシルアは目を見開いた。

「止めてくださいっ!!」

そしてサクの手を振りほどいた。

「あなたに助けを求めた覚えはありません!何でいるかと思えばそういう事ですか!!」

まくしたてる。

確かに自分は外に出るのが夢だ、願望だ。けれど他の人を巻き込むつもりはもうとうない。ましてやまだ子供の少年など。

「何言ってんだ!さっさと来い!!」

足を止めたシルアにルーカスが叫ぶ。しかしシルアは動かない。

「ぐぬぬ〜っ。仕方ない、サク!無理やり連れてくんだ!!」

「えっ?いや、でも…」

「四の五の言ってる場合かー!!」

アマリアの指示に、シルアの言葉に放心していたサクが狼狽える。

その時

 

「騒がしいと思えば、どうやって出てきた」

 

「「「「ーっ!?」」」」

目の前に突如現れた金髪の少年に全員が目を見開く。そうして目を向けられたシルアは顔を歪めた。

瞬間

「ぐ…っ!?」

「「サク!?」」

少年の獲物がサクに向けられた。咄嗟に防いだものの勢いよく吹き飛ぶ。

圧倒的な力負け。

叫ぶアマリアとルーカスは目で追う事もできずにいた。

シルアもその光景に目を見開く。

「…。まだ意識があるようだな」

暫くしてからピクッと体を動かしたサクは大きく咳き込む。そんな相手にイコルは一歩踏み出し…

 

「待ってください!!」

 

足を止める。

そして声の張本人、シルアにイコルは目を向けた。

「なんだ」

一言そう問うイコル。その言葉にシルアは一度俯き手を握りしめる。そして顔を上げ、吹き飛んで行ったサクの方へ視線を向けた。

少年の目的は、自分を助け出す事だろう。たった一度の出会いだけでそこまで踏み切るというのは驚いたが、間違いなく嬉しいと思ってしまった。しかしあくまで自分は誰も巻き込まない。こんな身分の自分のために誰かが怪我を負うなんて馬鹿げてる。

私は奴隷だ。

人々に蹴られ、殴られ、もの同然のクズだ。そんな私なんか、助けてはいけない。

「…彼らには手を出さないでください」

「それはお前次第だと思うが」

冷徹な表情でイコルはシルアを見つめる。少年の言葉にシルアはさらに手をきつく握った。

「……わかりました。従います」

「し…、シルアさん…っ」

そんな彼女に、やっと起き上がったサクが声を絞り出す。そんな少年にシルアは一度視線を向けた。

「助けに来ていただいて、本当にありがとうございました。ですが、”あなた達は私に関わるべきじゃない”」

「ーっ!?」

「な、何を言ってるんだ君は!?」

「おい!戻ってこい!!」

歩き出すシルアにアマリアとルーカスは叫ぶ。サクはただただ硬直しながら少女を見つめる。

「お前達、その三人を追い出しておけ」

「はい!」

「うわっ!?こら離せ!!」

「クソッ、どうするんだサク!おいサク!!」

イコルの命令でサク達を取り押さえる団員達。

ルーカスがサクに呼びかけるが、サクは呆然としたまま抵抗すらしなかった。

どんどんとシルアが遠くなっていく。

彼女は一度視線を送った後、背を向け歩き出す。

遠く、遠くなっていく。

大きく自分達を分ける境界線のようなものを、サクは深々と感じる。

奴隷と市民。

その差があまりにも遠すぎる。

 

 

僕は、また守れないのか…?

 

 

そんな間にも彼女の背中はどんどん小さくなっていった。

 

* * *

 

「今度来たらただじゃすまねぇぞ!!」

「グフッ!?」

「あだ!?」

男性の罵声とともに放り出された三人。アマリアとルーカスが間抜けな声を発する中、そこはもう西エリアではなかった。

といっても人気のある場所ではない。路地裏の西エリアとの境界線部分だ。

顔面を地面に埋めていたアマリア達は顔を上げる。しかしサクだけはその格好のまま動こうとしなかった。

「……サク、どうするんだ?」

そんな少年にルーカスは声をかける。暫くしてから顔を上げたサクはそのまま座り込んだ。

「………」

そうして俯いたサクは拳を握り締める。

セフィアさんの言葉が頭を流れる。

それが善になり得るのか、それが大切だと彼女は言っていた。

ならば、今回はどうなのだろうか。

ずっと善だと思い込んでいたのは自分だけだったのだろうか。本当にこれは正しいのだろうか。

救う事、それがなすべき事のはずだ。でも…

 

 

『あなた達は私に関わるべきじゃない』

 

 

先ほどのシルアさんのセリフが響く。

こんな常識知らずの自分には、その意味はよくわからない。逃げようとしている事だ。でも知らなきゃいけない。この国、この世界での理を。

あの首輪一つにどうしようもない壁がある。それを断ち切る事ができない。

改めて自分の無力さを思い知る。

強さも、決断力も、勇気も、今の僕には何一つない。

 

 

でも

 

 

「僕の答えはもう出てるから」

 

 

たとえそれが間違っていたとしても、国における善じゃなくても、僕は決めたはずだ、助けるって。一度決めた事は曲げない。これでも意地っぱりなのは生まれつきだ。

「もう一度、僕は行きます」

立ち上がる。

アマリアは呆れ、ルーカスは苦笑いしながら見上げられる。それでも二人は立ち上がってくれた。

勝機なんてほぼない、それでも僕らは

「君がそんなに頑固だなんて知らなかったよ」

「まったくだ。もっとアドバイザーに聞いとくべきだったな」

「…二人とも、ありがとう」

もう一度、踏み出す。

 

* * *

 

「少しお前の力を侮っていたようだ」

オークション終了時刻。

イコルの後ろを歩くシルアは汗を流す。

あの時はこうするしかなかったが、諦める気などはない。しかしこの派閥の副隊長であるランクCのイコルから逃げられるとは考えられなかった。

そうこうしている間に、隊長室が見えてくる。長い廊下を歩き続ける中、シルアは顔を歪めた。

 

「失礼します、隊長」

イコルがドアを開けた先には、こちらに背を向け立っているダウスの姿があった。

「さっきの騒動はなんだった」

「他派閥が入り込んでいたようで。ですが相手は小規模派閥のようだったので、問題はないと思います」

淡々と告げるイコルの言葉を背を向け続け聞いていたダウスは、やがて振り返った。

「大人しくはしていなかったようだな、シルア」

「……」

まるで何もかも知っているかのように告げてくるダウスに汗を流す。大規模派閥の隊長なだけはあるようだ。

そんなシルアから再びダウスは視線を外した。

「儀式はいつもやる場所が決まっている。では行くか」

そう言って歩き出す背中にシルアは拳を握り締める。後ろからはイコルが見張っている様子だった。

「さっさと行け」

投げかけられる言葉に、シルアは一度間をおいて、歩き出した。

 

 

 

「ここだ」

ようやく足を止めたダウスと同時に立ち止まるシルアは焦っていた。

逃げられる隙がない。刻印の刻まれていない自分が突破できる状況ではないのは一目瞭然だった。

その場所は外だった。ホームの裏側のようだが、目の前には大理石で作られた空間がある。端に四つ漆黒の柱が立ち、こちらも同じ色をしたステージがあった。周りにはすでに十数人の眷属がいる。

「上がれ」

イコルの命令にシルアの焦りが増していく。そんな間にも、動こうとしないシルアを下っ端である団員が強制的に歩かせる。

壇上に上がる。中央には、この派閥の刻印のマークである、鎖に繋がれるドクロが刻まれていた。

シルアはそこに座らせられる。それと同時に拘束される。

「ーっ!?」

抵抗も虚しく、刻印を刻まれた人間にはかなわない。身動きが取れなくなったシルアは歯を食いしばった。

団員に強制的に背中を晒される。状況は最悪だ。

一歩、また一歩とダウスは大理石の上を歩く。

音がだんだんと大きくなっていく。

カツン、カツンと。靴が鳴らす足音が近づいてくる。

次の瞬間

シルアは拘束する団員を蹴り上げていた。

「ガハ…っ!?」

「な!?やりやがった!!」

「ってコイツ刻印はないんじゃねぇのか!?」

一般人の怪力とは思えない力で団員は吹き飛ぶ。

ランクFの相手だとしても、その光景に周りは目を見開いた。

シルアはすぐに進路を変え、地面を蹴る。

諦めるわけにはいかない…っ!

こんなところで、私は!!

飛びかかってくる相手を間一髪で避ける。無理やりその場を押し切る。

しかし

「大人しくしろ」

「ぐ…っ!?」

突如現れたイコルに、再び行く手を阻まれる。

頭を押さえつけられ、シルアは勢いよく地面に顔を突っ込ませた。

激しい痛みが突き抜ける。直撃した鼻はみるみる熱くなってゆく。鼻血が流れ出す。

「イコル。あまり乱暴にしてくれるな」

背後から声が聞こえる。

嫌だ。自分はこんなところで…。

背中に手を当てられる。大きくて、硬い。残酷な手が。

終わるのか…?

こんなところで。ずっと夢見てきた憧れが、崩れていくというのか…?

嫌だ…

『コイツ…ッ、さっさと歩けッ!クソガキが!!』

嫌だ…

『テメェは逃げられなんかしねぇ永遠にクズなんだよォッ!』

嫌だ…っ

殴られ、蹴られ、それでも歯を食いしばってきたのは、正気が保てたのは。たった一つの夢があったから。

外に出たい。

美しい世界を、この目で見てみたい。

薄暗く、汚れたこの場所から一歩。踏み出したい。

こんなところで、こんなところで…っ

 

 

「誰か…、助けて…っ」

 

 

瞬間

炎が、舞い上がった。

 

 

「シルアさぁあああああああんっ!!」

 

 

「ーっ!?」

聞き覚えのある声。

綺麗だった。透き通っていた。自分が憧れる人間が、そこにいた。

赤髪が揺れる。

「……サク・ティネル」

そこには、三度目の少年の姿があった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。