「よしサクっ、ルーカス!作戦を実行する!」
一同がシルアの場所にたどり着く前、僕とルーカスはアマリアに連れられて建物の屋上にいた。
「あ、あのアマリア…」
「うん?なんだい?」
ここに立った瞬間、僕は過去の記憶が蘇る。
それはアマリアと初めて会った時。そう、三階から飛び降りた時…。
ルーカスも薄々感じているようで、その表情は厳しい。
アマリアを除いて僕らはダラダラと汗を流していた。
「隊長…。作戦っつーのは…」
僕の後に続いたルーカスの言葉を聞き、アマリアは「ふっふーん!」と小さな胸を張る。その時にはもう僕は項垂れ諦めていた。
もうダメだ…。アマリアがこうなっては誰にも止められっこない…。
それと同時にアマリアはビシッと指をさす。その方向は前方のダウス派閥のホーム…。
「強行突破だ!!」
「「ハァ…」」
己の隊長の破天荒ぶりに溜息をつく。毎度のことだが、やはり振り回される方は楽ではない…。
「じゃあいっくぞー!せーっの!!」
「え!?」
「もうか!?」
脱力する僕らの手を掴み、アマリアはその瞬間。
「ジャーンプっ!!」
屋上からホームまで真っ逆さま。
「「い、いやぁああああああッッ!?」」
まさに逆の立場で、男二人が悲鳴をあげる。
その先には多くの人々が。
そして僕らは、勢いよくそこに突っ込んだ。
* * *
「な、なんとか侵入成功、だな…」
「おうともさっ!さすが私!」
周りが混乱に包まれる中、ルーカスは汗を流し、アマリアはにしっと笑う。
「こ、こいつら…っ」
周りの団員がやっと場に追いつき獲物を構えだした。
「止めろ」
『ーっ!?』
そんな中、僕たちを見つめるダウス様は静止をかける。
初めにディメントを繰り出した僕は、前を見据え【ウルスラグナ】を構える。そして見る先には、ついさっき会った僕より少し上くらいの金髪の少年。そしてこちらを見ながら目を見開くシルアさんの姿があった。彼女は震える口を小さく開け、呟く。
「なんで、また…」
周りの喧騒でほとんど聞こえないその声に、僕はしっかりとシルアさんを見つめる。
「あなたを、助けるためです」
何度目かのこの言葉にシルアさんの目が更に見開かれた。
「お前達か。先ほどの騒ぎは」
そんな中、一歩前に出たダウス様は、隣に金髪の少年をつけ口を開いた。
「悪いがお引き取り願おう。これは私達の派閥の問題だ。手を出されては困る」
「おおっと。何が派閥の問題だって?」
その時、僕の隣に来たアマリアは腕を組む。
大規模派閥にも動じず堂々とする彼女は、そう言ってダウス様を睨みつけた。
「その子はまだ君の派閥に入ってはいないはずだぜ?」
「これからそうなる」
「本人は嫌がっているようだが?無理やりの勧誘は禁止事項なはずだ」
一歩も引かないアマリアに、ダウス様は口を閉ざす。やがて目を細め、隊長だと判断したアマリアに対し問うた。
「何故そこまでする。潰されたいのか?」
僅かな沈黙。僕は隣のアマリアへ目を向ける。
すると彼女は初めと同じ表情のまま口を開いた。
「潰される気は無いね」
その威圧に、迫力に背中がゾクリとさせられた。
これがトップに立ち、隊長の器を持つ者の貫禄。
このたった一人の少女からそれが滲み出ている。初めて見るアマリアだ。
僕同様、ルーカスと、おそらく副隊長の少年、座り込んだままのシルアさん、そして周りの団員達は気圧された。相対するダウス様はアマリアと目線を逸らさない。
ピリピリとした空間が場を包んだ。
瞬間
激しい爆発音が響き渡った。
「「「ーーっ!?」」」
【ダウス派】の団員は目を見開く。それは隊長、副隊長も同じだ。
しかしそんな中、迅速に対応するする姿があった。
【アマリア派】。
まるでことが起こることを知っていたかのように動き出す。
サクとルーカスは己の大剣を抜き放ち、走り出す。向かうのは屋敷内の入り口だ。
その事態にダウスは初めて焦りの色を浮かべた。
「イコル!奴らを追え!!」
「ーっ、了解!」
隊長の指示に、一歩遅れてイコルが動き出す。
その後、ダウスは振り返り、一人の少女へと…。
「なーっ!?」
しかしそこに少女はいなかった。
「ほら早く来るんだ!」
「…!?」
そしてその先にはシルアの手を引き走るアマリア。彼女達も別の入り口から屋敷内へと向かっている。
「くそっ、いったいどうなっている…!」
再び響き渡る衝撃音に地面が揺れる。そしてあたりは、みるみるうちに炎がつき、崩壊が始まっていた。
* * *
「う、撃て撃てぇええええっ!!」
『おぉおおおおおおおおおおっ!!』
【ダウス派】ホーム前。
そこには多くの人だかり、一つの派閥が詰め寄っていた。
大砲を持ち運ぶという大胆な団員に指示を出し、金髪をなびかせる一人の男ヨダンは、涙目になりながら叫び続ける。
「撃て撃てぇ!クソッあの女ぁあッ」
それはつい先ほどの事。
「入るぞヨダン!」
「なっ、アマリア!?」
いきなりのアラゲメントで負けた相手の登場に、ヨダンは仰け反った。当のアマリアは急いでいるというようにヨダンへと迫る。
「君!この前の約束、忘れたわけじゃ無いだろうね!?」
「や、約束?なんのことかな…?」
「とぼけるな!!私達が勝ったらなんでも言うことを聞くと言っただろう!!」
そう、己に絶対的な自信を持っていたヨダンは言ったのだ。そのことを今のアマリアは言っている。
汗を流すヨダンはおそるおそるアマリアを見る。
「なにか用があるのか…?」
そう言うとアマリアはにしっと笑う。その怪しい笑みにヨダンは顔を引きつらせた。
「それが大規模派閥の【ダウス派】へいっせい攻撃なんて馬鹿げめてるだろう!?」
場は殆ど戦争状態だ。
しかも戦力はある【ヨダン派】とはいえ、ダウスを敵に回しては厳しい。名前は伏せていいと言われているが、それも誤魔化せるかどうか…。
「アマリアめ、覚えてろよぉおっ!!」
* * *
「ハックチョイっ!!む、誰か私を褒めているなっ」
その頃、アマリアとシルアは順調にホーム内を走っていた。
そう、順調に。
「くっ、どうなっているんだ!?」
裏庭では、未だに多くの団員達がそこにいた。
理由は簡単。動けないのだ。
「悪いわね。少し大人しくしてもらうわよ」
そう言って唯一使える技である重力魔法により、相手の動きを封じるクレアは汗を流す。
いきなり訪れたサクとルーカスによって頼まれたことに、クレアは付き合っていた。
重力魔法と言っても、魔導師の真似事に過ぎない。
使える時間はほぼ限られているし、現に今も相当きつい。ポタリと再び汗が流れた。
「あと2分が限界よ…。さっさと助けなさい」
* * *
「おっ、やっぱり合流できるものだね!」
「ブッツケでやろうってのが流石だよ!」
廊下にて合流したサク達は「お〜っ」と感激する。そんな中、余裕が無いように全力疾走しているのだが…。
「待てお前らぁあああああっ!!」
後ろから迫り来るイコル。その存在に止まれなどしなかった。
先程からされるがままのシルアは意味がわからない。体の痛みも忘れ、アマリアから手を引かれるままに走る。
しかし
「調子にのるなよ!」
「「「「ーっ!?」」」」
一瞬で追いついたイコルは剣を振り抜く。それにサクとルーカスは迎え撃った。
「「ぐーっ!?」」
しかし飛ばされる。
圧倒的な力にランクFとEではかなわない。
「だ、大丈夫ルーカス…っ」
「ま、まだまだぁあっ!」
それでも痛みを堪えすぐに起き上がった二人は、再び己の剣を引く抜く。
そして
「「はぁあああああああああっ!!」」
地面を蹴る。
衝突するたびに火花を散らしながら、サクとルーカスは今までの壁外でのコンビネーションを発揮する。
しかしイコルは全く引かない。逆に押している。
「遅い」
「「ぐーっ!?」」
次の瞬間、吹き飛ばされる。
勢いよく壁に突っ込んだサクとルーカス。その衝撃音が鳴り響いた。
まるで歯が立たない状況に、誰もが息を呑んだ。
そしてイコルは振り返る。
近づいて来たイコルにアマリアは汗を流す。
「どけ」
「…断る」
しかし引かない。
シルアを庇うように、前に立ち手を広げる。
その状況にやっとの事でシルアは我に返った。
「な、何をしているんですか!?逃げてください!私なんていいで…」
「いいわけ無いだろう!!」
言葉を遮り、アマリアは叫んだ。その声にシルアは目を見開く。
少しずつ迫る相手に対し、明らかに少女は怯えていた。
広げる手は震え、気を抜いたらカタカタと歯がなりそうだ。
そんなアマリアにシルアは心底不思議に思う。
あったこともなかった自分のために、普通ここまでしてくれるだろうか。こんな奴隷の自分に…。
「なんで、そこまで…」
漏らした言葉にアマリアは汗を流しながら笑う。
「頑固な部下には世話がやけるよ。でも、仲間の願いだ。隊長の私が逃げてどうする。あの子はね…」
距離約五M。
その瞬間イコルは地を蹴った。
目の前に現れる相手。
引き抜かれる片手剣。
その牙がアマリアに迫る。
それでもアマリアは信じる。
世話の焼ける部下たちを。
「「はぁあああああああああっ!!」」
目の前で起こる光景は。
驚愕するイコル。
そして
獲物を振り抜くサクとルーカスだった。
飛ばされる。
不意の攻撃にイコルは、崩れはしないものの数M離された。
「させない!」
「させねぇ!」
呆然とする。
前を向き続ける目の前の三人。
その一人一人、決して諦めの色など無い瞳を向けている。
そんな中、ふいっとこちらを振り返った少女は、にしっと笑った。
「絶対に君を助ける気だよ」
何度めかの言葉。
その言葉に、つい涙が浮かびそうになる。
ずっと一人だった。
己はクズ以下だと教えられてきた。
自分に幸せなど必要無い。暖かさなど必要無い。
はずだった。
「シルアさん!!」
「ーっ」
サクが叫ぶ。
イコルに剣を構えながら、息を荒げながら、血を流しながら、それでも力強く
「あなたの望みは何ですか!!」
叫んだ。
手を握りしめる。
ずっと願ってきた。望みだった。
そう、私は…。私は…っ。
「助けてください…!」
外の世界を見てみたい。
サク達はそれを聞き、三人揃ってニッと笑った。
「「「おしきた!」」」
* * *
辺りに喧騒が響き、建物が傷つく中、戦闘は続く。
「調子にのるなぁああ!」
イコルの叫びが轟き、サクとルーカスを吹き飛ばす。
二人は床を転がり、壁にぶち当たる。
「…なぜだっ」
それでも立ち上がる。
何度弾き飛ばそうとも食らいついてくる二人に、イコルは顔を歪めた。
そしてやがて前を見据える。
「仕方が無い」
そうして
目つきを変えた。
「ーっ」
その変化にシルアは気付く。そしてその理由にも。
「ディメントです!!」
「「「なっ!?」」」
忘れていた。そう、この目の前の男はランクCというだけでなく副隊長。つまり
「ディメンター…っ」
一気にとどめを刺そうと決断したイコルは己の剣を放り捨てる。その行動に、一同は息を飲む。そしてサクはチラリとシルアを見た。
「シルアさんっ、どんなディメントかわかりますか!?」
「はい、彼のディメントは…。【衝撃】です」
「?、何だそりゃ」
彼女の説明に首を傾げたルーカスに対し、険しい表情で前方を眺めるシルアは口を開く。
「つまりは、今までの衝撃を蓄積しています」
目を見開く。ということは、今まで戦った間の力を固体化し、一気に出せる。そういうことなのだろうか。
目の前の少年は、その場を動こうとしない。ただじっと…
その時
「「「「ーっ!?」」」」
イコルの周りがいきなり光り輝く。大量の風が吹き、サク達は顔を覆った。そんな中サクは瞳を開き、イコルの足元を見つめ、驚愕した。
そこには紫に輝く魔法円。その輪がみるみるうちに巨大化する。そしてイコルは目を細めた。
「アマリア達は逃げ…っ」
「【フォース・インパクト】!!」
サクの言葉を遮りイコルが叫ぶ。
その瞬間、大量の光に包まれ一気に光線が打ち放たれた。
「ーっ、【フレイム・ウィンド】!!」
咄嗟にサクは炎を放つ。
激突する二つの力。
しかし
「威力が違いすぎる…っ」
アマリアはそう言い顔を歪める。
その直後、炎は弾かれた。
光が辺りを覆い、凄まじい破壊音を上げる。
サク達はあらん限り目を見開いた。
「おぉおおおおおおおおおおおっ!!」
「「「ーっ!?」」」
サクを追い越し、駆け抜ける影は、そのまま己の大剣を振り抜いた。
爆発
激しく弾けた光は一気に広がる。
どうやら光は、個体に、標的に当たると暴発するようだ。
煙が立ち込めるあたりで、ただ一人目を開いていたサクは固まる。そしてその顔は青ざめた。
「ルーカス…っ!?」
悲鳴が響く。
やがて消えていった煙の奥に現れる姿。
全身に今までのダメージをすべて受けたルーカスは、プスプスと煙を上げ、丸焦げになっている。動く気配が無い。全身の火傷は酷いもので、その状態は、早急に治療が必要なレベルだ。
己の身をていして守った青年は意識を失っていた。
「外したか…っ」
そう言い顔を歪めたイコルは一歩、歩み出す。
先ほどの技は体力を大きく消耗するのだろう。その歩みはフラフラとしたものだ。
放心する三人の元へ、一度しか使えないディメントはもうあてにならないと、イコルは剣を拾った。
「そこまでだ」
その時
崩れるホーム内に声が響き渡る。
芯のあるバリトンの声からして男性だろう。
その声に目を向けたイコルは目を見開いた。
その体は逞しく、大きい。ゆうに2Mはいくという巨体を、イコルは、いやサク以外はよく知っていた。
「ゼアノス…っ」
都市最強の【ラミス派】。彼らは目まぐるしい活躍を街に与えている。まさに最強の派閥だ。
しかしそんな中【フローラ派】は、おそらく【ラミス派】と互角の力を持っていると言われているが、あまり表立った行動はしないため、派閥としてのランクは高く無い。
しかしその副隊長であるゼアノスは街の人間ならば誰もが知る人物だ。理由は
ランクAの人物だから。
セフィア・カルヴァートでさえまだ到達していない領域に、彼はいるのだ。その圧倒的な力は凄まじいものだと聞く。
そんな人物は、その場にとどまりながらイコルと目を合わせた。
「もうじき我らの派閥がここを落としに来るぞ」
「なーっ!?」
いきなりの衝撃発言にイコルは驚愕する。そんな中、無表情のゼアノスは淡々と告げる。
「いずれここは崩壊する」
場においていかれるサク以外の全員は固まる。
あまり行動をおかさない派閥が急にどういう狙いなのか、訳がわからない。しかし、見る限りそれは本当のようだ。
最後にゼアノスは少年を見つめた。
目があったサクは汗を流す。
そうしているとゼアノスは踵を返した。
「フローラ様に感謝するんだな」
「えっ?」
最後にそう告げた相手は、次にはいなくなっていた。
そしてイコルは焦りの表情がにじむ。
「ーっ、ダウス様…っ!」
今はシルアより団長を選んだイコルは、瞬間方向を変え地を蹴った。
遠くから喧騒が、破壊音が聞こえる中、サク達は数秒呆然としていたが、すぐに正気に戻る。
「ぼ、僕はルーカスを運びます!」
「あ、ああっ、いくぞシルア君!!」
「ーっ」
危険な状態の建物から逃げるように、サク達は走り出した。