ディメント   作:もやしメンタル

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第2話《派閥進出》

「もう体の方は大丈夫?サク君」

「はい、迷惑かけてすみませんでした」

ロビーに行くと声をかけてきたニールさんに頭をさげる。

慣れないディメントを最大の力で出してしまった僕は、あれから三日、ろくに動くことができなかった。

「本当に無茶するんだから…」

溜息交じりに言われる言葉に僕は謝ることしかできなかった。

「サクはいるか」

そんな中、低い声が背後からした。それに気づいたニールさんは「やばっ」と汗をながす。振り返ってみると、上層部の一人であり、僕を十歳までの間面倒を見てくれていたガンダルフさんがいた。白髪の混じる短髪の姿はずっと変わらない。顎に生えている髭もだんだんと白くなってきていた。その顔は一見怖そうで、ガタイもガッチリとしている。

僕たちに気づいたガンダルフさんは、ニールさんを見ると目を細めた。

「また仕事をサボっているのか?ニール」

「いえいえっそのようなことは」

「だったらすぐ持ち場へ戻れ」

「は、はいっ」

上司であるガンダルフさんの言葉にニールさんは「じゃあまたね」と仕事場にかけて行った。

「久しぶりだなサク」

ニールさんがいなくなると、ガンダルフさんは表情を変え、僕の頭に手を乗せた。その言葉に僕も笑う。

「三ヶ月ぶりくらいですね」

「ああ、もうそんなにか。いやー最近は時間の流れが早く感じてかなわん」

がっはっはっと元気よく笑うガンダルフさんは、見た目と違って愉快な人だ。

するとガンダルフさんは、今度は呆れたような表情となった。

「そういえばこの間ディメントを使ったらしいな。まったく慣れないことをしおって」

「あはは…ごめんなさい…」

ニールさん同様に溜息をつくガンダルフさんに、僕は苦笑いしかできなかった。

「おっといかん、本題に入らんとな」

「本題?」

そこで何かを思い出したようにガンダルフさんが声を上げる。僕は何のことだかわからずに首を傾げた。

「ああ、わしがここに来たのはお前を連れて来るよう言われたからなんでな」

「僕を?」

僕の問いに頷いたガンダルフさんは「ついてこい」と、僕に背を向け歩き出した。

あれ?僕なんかしちゃったっけ?と汗をかき、緊張しながらサクはガンダルフについて行くのだった。

 

* * *

 

「入れ」

ガンダルフさんがノックしたのは、僕が来たことのあるはずがない場所だった。

声がした後にガンダルフさんが「失礼します」とドアを開けた。

中は執務室だと気付き一層汗が流れてくる。

豪華な家具が置かれる部屋の床には、真っ赤な絨毯が敷かれ、より一層高級感を漂わせてきた。

そして僕たちの前方、一つだけある机の向こうには、椅子に座る男性がいた。

この【ディメント養成所】にて、すべての決定権を持つ存在。執務長ファルディニル。

黒髪を一つにきっちりと束ね、他の場所もまったくの乱れがない彼はその凛々しい顔の前で手を組んだ。

「君がサク・ティネル君だね」

「は、はいっ」

部屋に入ると同時に掛けられた言葉に、バリッバリに緊張しながら答える。

するとファルディニルさんは一度目を閉じ、再び口を開いた。

 

「君に来て欲しいという派閥がいる」

 

「……へっ?」

いきなりの衝撃発言に頭がついていかない。

派閥?こんなランクもろくに高くないこの僕に?

こんな前例聞いたことがない。

本来派閥進出が可能なのはこの施設での上位者のみだ。

それなのにディメントを一度使ったくらいでへばる僕が派閥進出?わけがわからない。

「直接出迎えに来ると言われたから、もう準備を整えておけ」

「ちょ…っ」

「以上だ」

あまりにもあっけなく、そしてピシャリと決められてしまったことに僕は呆然とするしかなかった。

 

* * *

 

「サク君が派閥進出!?」

「これっ、声がでかいぞニール」

「す、すみません…」

再び訪れたガンダルフに話を聞いたニールは、サクと同様、唖然とするしかなかった。

たとえ派閥進出をしたとしても、ここのロビーには毎日のように赴くことになるだろうから会えなくなるということではない。この大都市ラノスでの最高管理所というのも、この施設の役割なのだ。サクのアドバイザーとなるのも、彼が派閥へ行ったとしても進行形のままとなる。

しかしまだ危なっかしい彼が、いきなり派閥だなんて危険すぎる。

確かに今回、あのザリュウス君を倒したという実力は認めるが、あれだって相当な無理をしてでの結果だ。

しかし、こんな下っ端の自分にはどうすることもできないということは分かりきっていることだった。これが現実というものだ。無駄に抗議してもマイナスなことしか起こらない…。

はあぁ…と、ニールは堪えきれない彼に対しての何度目かの溜息をつくのだった。

 

* * *

 

カーテン越しに月明かりに照らされながら、明かりをつけず作業する。

部屋には僕以外誰もいず、静けさがあたり一帯を支配していた。

いきなり告げられたあの言葉が再度耳をかすめる。

他とは違い、派閥へ行くということが夢ではなかった僕がこの状況に陥っていることがまだ理解できなかった。

別にニールさんやガンダルフさん、友達とサヨナラということではないので寂しくはないが、自分とはかけ離れた世界に行こうとしていることへ頭の整理がまったくできない。

派閥には、あのザリュウスさんよりも強い人たちがゴロゴロいるらしい。

なぜか派閥でのことは一切教えられないので、自らが入ってから学ぶことなのだろうけど。

 

 

「やあやあやあ、そこの少年」

 

 

「えっ?」

突然声をかけられ顔を上げる。それと同時に先程より強くなった風が頬を撫でた。

大きく揺れる白いカーテン。

開けはなたれる大きな窓。

月明かりをバックとし、風になびく漆黒の髪。

足を開き腰に手を当て立っている一人の少女は、僕を見下ろしていた。

身長は僕と同じくらいだろうか、いきなり窓から現れた少女はスカイブルーの瞳を輝かせていた。

僕が口を開けながら停止していると、少女は「よっと」と床に飛び降り笑顔で僕を見つめた。

向かい合っている幼い顔は紛れもない美少女だ。月明かりに映るツヤのある漆黒の髪は腰に届くほど伸ばされている。袖のない真っ白なシャツを着て、シャツに付いているリボンと同じ色の赤いミニスカートを履いている。殆どが露わになっている両足は透き通るように白く、細く美しい。

しなやかな肢体、華奢な体。僕は驚きをも凌駕し、目の前に立つ少女に見惚れていた。

しかしすぐ正気に戻り立ち上がる。

「だ、誰ですか!ていうかここ何階だと…!?」

「はっはっはっ、細かいことは気にするな少年!」

動揺しまくりの僕に笑顔で親指を立てる少女からは、先ほど感じた神秘的な雰囲気は一瞬で吹き飛ばされた。

未だにアタフタする僕の目の前に、スッと手が差し出された。

「じゃあ行こうか!」

「………はい?」

僕が口を開いた瞬間腕を掴まれ…

少女は窓から飛び降りた。

「へっ?」

一瞬思考が停止する。目の前に広がる街の景色。そして…

「うわぁああああああああ!?」

「いやっほーい!」

三階から落下していく。

ダメだ!ダメだ!ダメだ!ダメだ!?

あらん限り見開いた目からは、乾いたからか恐怖だからか涙が噴き出す。それとは対照的に少女は笑顔で両手を挙げていた。

そして

バッシャーンと、

勢いよく街の店にへと突っ込んでいった。

やっぱり落ちるのかよ!?

落下中に少女が超能力を使ったり、何かが助けてくれるのかということをどこか期待していた僕は、激しい痛みに耐えながら涙を滲ませツッコんだ。

そしてその時、自分は三階から飛び降りたぐらいじゃ大丈夫なことを学習したのだった…。

そこは果物のお店だったようで、多くの果物が吹っ飛び、そして僕たちに浴びせられた。店を崩壊させながら落下した衝撃に悶えていると、少しの間目を回していた少女がバッと立ち上がり、何個か果物を手に取ると…

「よしっ、逃げるぞ少年!」

「えっ?」

猛ダッシュで行ったしまった。

いやおかしいでしょっ!?

「だ〜れ〜だ〜い?空から降ってきた輩は〜」

「えぅっ!?」

それと同時に背後から禍々しいオーラを感じ取る、恐る恐る振り返るとそこには…

「またあの小娘かぁああいっっ!?」

「ギャアアアアアアアアアッッ!?」

大きな大きなおば様が…

じゃなーーーーい!!

木箱を振り上げる女性に背を向け、未だわずかに見える少女の背中を追い、僕は自己最高のスピードで砂煙を立てながら猛ダッシュするのだった。

 

* * *

 

「ゼェ…ゼェ…おー、ち、チワおばさんに…見つかってから…逃げ切るなんて、な、なかなかやるじゃないかっ」

「だ…誰の…せいだと…っ!ゼェ…ゼェ…」

二人して荒い呼吸の中会話をする。店を破壊した挙句、果物を盗んだ少女への印象は今のところ

天から舞い降りた天使→元気な少女→果物泥棒

というわけの分からないことになっていた。

すると、両手を膝に置いてゼェゼェ言っていた少女は体を立たせ、未だに荒い息のまま笑い再び手を差し出した。

「ようこそっ、私の派閥へ!」

「派閥…って、なっ!まさか!?」

「?まさかってなんだい?」

「いやっ、そのっ…、僕を呼んだのってあなたなんですか…?」

「呼んだ?」

「覚えがないんですか…」

「ああ、これは完璧に独断だぜっ」

瞬間に僕は地面に膝をつけ、項垂れる。

完全に無断欠席。これではただの逃亡劇だ…。呼んでもらった別の派閥があるのにこれじゃ逃げ出したってことになってしまっている。

「えっ?どうしたんだよ?おーい!」

僕が悪いのか?これからどうなるんだ?ここどこだ?

頭の中がもうゴチャゴチャでショートしそう…。

さっきからバシバシ頭を叩いてくる少女にバッと顔を上げ向き合った。

「どうしてくれるんですかーっ!!」

「えっ?私のせいかい!?」

こうして僕は、謎だらけの少女、派閥の隊長と出会ったのだった…ではなく誘拐されたのだった…。

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