ディメント   作:もやしメンタル

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第20話《幸せ》

現在、サク達はマテリアルの医務室にいた。

ルーカスの重傷を負った体を大急ぎで運んできたのは、もう三十分前のことだ。

応接室で待たされることになったサク達の前に、ニールが現れた途端、勢いよく立ち上がる。

「ニールさんっ、ルーカスは!?」

詰め寄ったサクの質問に、ニールは落ち着かせるように微笑んだ。

「大丈夫よ。外傷はひどかったけど、ポーションで治る程度だから」

その言葉を聞いた途端、サクとアマリアはへたり込む。背中を合わせるようにして脱力した二人はほぼ半泣き状態だ。

「「よかったぁ…」」

心からのその言葉にニールは微笑ましそうに笑う。

そして次に、そんな二人の隣で、こちらもホッとしたような様子を見せるシルアを見つめた。

「あなたがシルアさんですね」

その言葉に彼女が目を合わせる。

一目でわかったのは、その鎖だ。

そのせいで先ほどは、周りから視線を浴びていたのを見ている。

美しい少女だ。

もしやそれで助けたわけじゃ無いかと、サクをじーっと見つめるが、今もなおへたり込んでいる様子からしてまず無いだろうと思い直した。

 

 

あれから【ダウス派】は崩壊。

それによってまだ派閥内にいた奴隷の身分の人々は、解放されることとなった。しかし、すでに売り出されてしまった人々は、手の出しようがないようだ。

それでも、今回の【ダウス派】崩壊をきっかけに、奴隷制度の廃止に向けて、街は動き出していくということがマテリアルで決定されたという。

派閥同士の争いということで収めるらしいが、今回の騒動にはマテリアルも苦労させられているようだ。

【ヨダン派】、【フローラ派】の二派閥によっての襲撃は大規模なものだ。

全く表立って行動しない【フローラ派】が動くことがまず一番の疑問となったが、そのとき西エリアにいた者が一度聞いた【フローラ派】の団員のセリフは

『あの方の邪魔はさせない』

とのことだったそうだ。

「一体何のことかね」

そうポツリと呟いたニールは思考を止めた。

「ほら、アルバネル君ならもう見に行ってもいいと思うよ。そろそろ治療も終わるだろうし」

 

* * *

 

「おーお前ら」

そう言って呑気に手を振ってくるルーカスに、僕とアマリアはグィっと詰め寄った。

「ルーカスっ、怪我はもう平気なの!?」

「一時はどうなるかと思ったよ!」

それに苦笑いした後、ルーカスは入り口でたたずむシルアさんに目を向けた。

「どうやら、成功みたいだな」

そう言って笑う彼に、シルアさんは表情を暗くし、次には

「本当にすみませんでした…。私のせいで、そんな怪我を…」

土下座をしていた…。

「や、やめてくれって!?別にアンタのせいじゃなくて、俺の力が足りなかっただけだから!そう思い込むなっ、なっ?」

それに「しかし…」と納得しないシルアさんにルーカスは「いいからっ」と必死だ。正直僕達もアタフタしてしまっていたが、元気そうなルーカスにホッとし、微笑んだ。

「さーて!おそらくこの件で、あの堅苦しい執務長から何かありそうだねー」

そう言って背伸びしたアマリアに苦笑いする。

そんな中、彼女はにしっと笑った。

「でも、その前にシルア君の鎖だ!ほら君もこっちに来て!」

「え、あの…っ」

グイグイとシルアさんの手を引っ張ってきたアマリアに驚く。

「隊長、鍵持ってるのかっ?」

「いつの間に!?」

するとアマリアは得意げに己のポケットに手を突っ込んだ。

「ふっふーん!隊長たるものこのくらいのことは…。ん、あれ?」

未だにポケットを弄るアマリアに首をかしげる。

やがてアマリアはダラダラと汗を流し始めた。

その反応に嫌な空気に包まれ沈黙する。

「もしかして、隊長、鍵落としたのか?」

「な…っ、そ、そんなことは!」

ルーカスの指摘にアマリアは焦りまくる。

そんな時

 

「ホントにしょうがないね、アンタは」

 

その声に一斉に振り返る。そこには入り口にもたれかかった呆れ顔のクレアさんがいた。

今回のことでまた助けて貰ってから、ヨダン様ともども引き上げてもらっていたはずだ。

「クレア!」

「急に頼まれたときは驚いたわよ。まったく人使いが荒いわね」

そう言って手から放ったものを、アマリアはなんとかキャッチする。それをみんなが覗き込むと、そこには一本の鍵が。

「こ、これって!?」

「今ちょうど騒いでた鍵よ」

「さっすが!隊長とは違うねぇっ」

「うぐ…っ、ルーカスのアホー!」

ルーカスに痛いところを突かれたアマリアは、ベットにいるルーカスの頬を引っ張る。

「い、イテテてて!ちょっ、怪我人だぞ!?」

「そんなもん知るかー!」

すっかり賑やかな光景に苦笑いしていると、クスッと、隣から一瞬笑い声がした。

顔を向けると、隣にいるシルアさんが笑っている。

初めて見た表情に、僕は目を見開いた。

そんな僕に気づいたシルアさんは、なぜだか慌て始める。

「そ、そのっ、これは…っ、あの…」

「プッ」

「え?」

我慢できなかった。

お腹を抱えて笑ってしまう。

笑ったり、アタフタしたりするシルアさんなんて初めて見た。

なんだろう、暖かい。

そのことがどうしようもなく、嬉しい。

僕を見て唖然としていたシルアさんは、すぐに顔を赤らめる。

大人びた人だと思っていたが、以外と可愛らしい一面があることを知った。

「す、すみません。笑ってしまい…」

「いや、そういうことじゃないですよ」

俯く彼女に、なんとか笑いを抑え抗議する。

すると後ろからアマリアが、やっとルーカスを解放しやってきた。

「よーし!鍵もきたわけでサク、ほいっ」

そう言って僕の手に、アマリアは鍵を乗せた。

それに今度は僕がアタフタしてしまう。

「えっ、僕ですかっ?」

「あたりまえさっ、サクの役目だ!」

「そうだぞ副隊長っ、落とし前つけろ」

「シャキっとしなさい」

三人から一斉に声を浴びせられる。

それに緊張を覚えながら、僕はシルアさんに向き合った。

呆然と立ち尽くす彼女に、僕は目を合わせる。

そして

その首輪へ、足枷の鍵穴へ、鍵を通した。

カチャリ

 

* * *

 

「あー!!」

「ルシア、大声出すな。迷惑だろ」

カラムの注意を聞きもせず、ルシアはその豊かな胸を揺らしながら身を乗り出した。

《ダウス派、壊滅に追いやられる》

そう見出しに乗った一文。

マテリアルの掲示板に載ったそれに、多くの人々が集まっていた。

たまたまその場に居合わせたルシアとカラムは、同じくその情報に目を通していた。

一人はしゃぐルシアに、カラムはわけがわからない。

そんな中、あの可愛らしい赤髪の少年を思い出し、ルシアはにしっと笑った。

「やったね!サっちー!」

 

* * *

 

「よーし!ルーカスも復活したことだしっ、今日はパーティだ!!」

そう言って両手を上げるアマリアの後ろを、多くの蜂蜜パイを持つ僕たちは歩く。

初めてのメインストリートに、隣のシルアさんは興味津々のようだった。

そんな彼女に、おずおずと尋ねる。

「あの、ほんとにいいんですか?」

「逆にしていただかないと怒ります」

「……」

そいうのも、あれから数日経ち、自分とはタメ口で話してくれと、シルアさんに頼まれたのだ。

まだ迷っている僕に言い放ったシルアさんの言葉に心底怯える。そんな様子にルーカスは隣で笑った。

「いいじゃねぇかっ、仲間なんだからよ!」

そう、あれからというもの。散々マテリアルに呼び出され、執務長からこっぴどく小言を言われた後、この後どうするかと話すシルアさんに、アマリアにグイグイと押されながら、僕は切り出したのだ。

「アマリア派に入りませんか」と

シルアさんは心底驚いていたが、やがて、笑顔で頷いてくれたのだ。

「おっ、アマリアちゃん!これ持ってきな!」

「おー!ありがとう叔母ちゃん!」

そんな中、何度目かの差し入れが僕たちに渡される。

街の人たちと、アマリアは少しずつ馴染んでいるようだった。

はじめほど少なかったが、バイトを始めたのもあり、一人、また一人とアマリアに笑顔を向ける人は増えてきた。

今では街のみなさんに可愛がられているところをよく見るようになっていた。

少しずつ、アマリアは認められるために頑張っている。

そんな光景に僕とルーカスは微笑んだ。

そんなことをしていると、やがて風車小屋に近づいていった。

 

 

 

「せーのっ」

「「「かんぱ〜い!!」」」

大量のパイ、そして行きにもらったおすそ分けでテーブルを埋め、僕たちは盛大にコップを打ち付けた。

そんな僕達にポカンとするシルアさんに、僕はつい先ほど言われた慣れないタメ口で尋ねる。

「シルアさん、こういうのってわかる?」

「…こういうのとは…?」

小首を傾げるシルアさんに、一人本物のお酒を飲んでいたルーカスが入ってくる。

「ずっと西エリアにいたんだし、知らないのも無理ねぇよ。出てくるのも初めてだったんだろ?」

「はい…。でも」

ルーカスの質問に頷いた後、シルアさんは一度、窓の外を眺める。

それにつられ、僕達もそちらに目を向けた。

太陽が輝き、鳥の鳴き声がする。外からは賑やかな声は場所からして聞こえはしないが、静かながらに、いいことのたくさんある所でもあるのだ。

「でも」

そんなことを考えていると、再びシルアさんが口を開く。

彼女は手に持つコップに視線を向けると、次には微笑んでいた。

 

 

「とても、幸せです」

 

 

その一言にアマリアは優しい瞳を送り、ルーカスはにしっと笑う。そして僕は、目頭が熱くなるのがわかった。

「?、サクさん?」

それに気付き、首をかしげるシルアさんに、僕はあわてて「な、なんでもないよ!?」と、必死に堪える。

「おーおー、どーしたよサクっ」

「うんうんっ、泣きそうなサクもいいなー!」

「もーうるさーい!!」

おちょくってくる二人の声を、とにかく声でかき消す。そんな光景を見ていたシルアは、再び笑う。

そして、騒ぐ三人を眺めながら、誰に言うにもなく、呟いた。

 

「ありがとうございます」

 

* * *

 

「今日来てもらったのはわかるね?」

「……ハイ」

マテリアルのロビー。

そこで僕は、ニールさんと向かい合ってソファーに座っていた。

用件はおそらく、いや必ず今回の件だろう。

覚悟はしていたが、どんな罰が来るのか。

こういうのは普通、一定期間行動を制限されたりするものだが、何も知識のない僕には予想がつかない。

前でペラペラと紙をめくっていたニールさんは、やがてその中の一枚をこちらの前に置いた。

「…これは?」

それは手紙のようだった。

というより、報告書のようなものだろう。

首をかしげてニールさんを見ると、彼女は脱力しながら瞳を閉じた。

「まー見てみて」

「は、はい」

言われて内容を読む、するとそこには、大量の依頼の数々があった。

滅多に出ない種類【ディア・ザック】のツノの回収や、十体の【ラビット・ザック】の確保など様々だ。その数は約10個以上。

「ど、どういう…?」

「そのクエストを、この一週間で終わらせなさいだとのことよ」

「え」

言葉の意味を理解するまで時間がかかる、そうして硬直し続ける僕は次には

「えぇえええええええええええええ!?」

悲鳴に近い叫び声をあげていた。

 

* * *

 

「あ、アマリア!って、え…」

勢いよくドアを開け中に入る。全力ダッシュしてきたおかげでゼェゼェと荒い息遣いをしながら、僕は呆然とした。

「あ、サク遅いじゃないかっ。見てくれこれを!」

その原因は、目の前にいるシルアさんだ。

アマリアにグイグイと押され、僕と同様ポカンとしていた彼女は、振り向きアマリアに尋ねた。

「あの、これは?」

「みればわかるだろうっ」

確かにわかるのだが…。

目の前のシルアさんは、先ほどの布一枚の姿ではなくなっていた。

鎖の痣を隠すため、シッカリと上までシャツのボタンが閉められ、下半身はぴったりしたレザーパンツに膝までのブーツ。そしてその体を腰近くまで覆う、暗赤色のフードつきケープを羽織っていた。

「いつまでもあのままってわけにもいかないからねっ、少し奮発したんだよ!」

えっへんと誇らしげなアマリアに感激した後、僕は照れ臭く頭をかきながら口を開いた。

「その…、すごく、似合ってるよ」

「…本当ですか?」

「?、うん?」

なぜか頬を膨らませ訪ねてきたシルアさんに頷く。

すると後ろを向き、しゃがみ込み、膨らませたまま、その頬をムーと言いながら両手でプニプニ回し始めてしまった。

どこか顔も赤かったような彼女に首をかしげていたが、すぐに本題を思い出す。

「そ、そうだ!大変なんですっ、クエストでっ、一週間で!」

「お、落ち着けサク。何があったんだ?」

慌てまくるサクに汗を流すルーカスの言葉で、一度深呼吸すると、僕はニールさんから貰った紙を出し、説明するのだった。

 

* * *

 

「シッ!」

『ギャアッ!』

壁外にて、僕達は、大量の【ラビット・ザック】の群れと戦っていた。

勢いよく地面を蹴り、一気に五匹を仕留める。

あれからまた上がったステイタスによって強化した俊敏な動きで、洞窟の中を疾走する。

「オラァアああああっ!」

前を進むルーカスは、その大剣を振り抜く。

そのパワーで、再び多くが吹き飛んだ。

今の陣形は、前衛にルーカス、中衛に僕、そして後衛がシルアさんだ。

「フッ!」

再びモンスターを切り裂き、後ろを振り返る、そこには凄まじい破壊力の蹴りを食らわせるシルアさんの姿があった。

「ははっ、スゲェな」

その常人離れした怪力に、ルーカスが苦笑いする。

確かに彼女の脚力は物凄いものだった。

 

 

 

「い、いきなり来てもらったけど、モンスターと戦えたんだね…?」

「はい、モンスターとの戦いは、何度か経験がありましたので」

「…そっ、か…」

それはつまり、奴隷に何らかの目的で戦わせていたということだろう。

聞いてはいけないことだったと気づき、謝ろうとすると、シルアさんは首を振った。

「いえ、いいんです。おかげで今こうして戦えていますから」

そうしてシルアさんは小さく微笑む。

その笑顔からは、その言葉は本心だとわかった。

「意外とポジティブなのな!」

「そうですか?」

ルーカスと話す彼女を見て、僕は頬をほころばせる。

その顔は生き生きとし、どこか楽しそうでもある。

壁外では油断は禁物だが、今は言う気にならなかった。

『私はね。街にとっての善が悪かの前に、”それは善になり得るのか”を考えるよ』

風車小屋の前でセフィアさんに教えてもらった言葉が頭をよぎる。

「また、助けられちゃったな…」

僕はそう言い、上を見上げた。

 

 

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