ディメント   作:もやしメンタル

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第21話《共同クエスト》

「も、もうダメだ…」

「体が、動かない…」

この一週間で、クエストを十以上こなすというハードはペナルティを受け、終わった時には僕達全員ボロボロになっていた。

「なんだダラシないぞ!ほれっ」

「いだだだだッ!?隊長、もっと優しくできねぇのかよっ」

「このくらいでいいんだよ!」

ルーカスの治療をするアマリアは、手荒に消毒をする。

何度目かの傷の手当に、いつものような会話が続くのだった。

もう手当てしたからと、シルアさんに消毒をしてもらいながら、僕達はそんな毎度のやり取りに苦笑いするのだった。

「シルアさん、派閥に入って早々こんな大変なことに巻き込んじゃってごめん」

流石に疲労の隠せない中、同じく疲れが滲んでいるシルアさんに謝罪する。

すると、こちらは優しく治療してくれるシルアさんはかぶりを振った。

「いえ、そもそもこの原因は私ですので。それに、案外楽しかったですから」

「楽しい?」

「はい。こうして冒険するのも、憧れの一つでした」

そうしてシルアさんは微笑む。

以前からは想像がつかない程、シルアさんの笑顔を見るようになっている。

そんな彼女を見ていると、心が温かくなる。

「そっか。それならよかった」

嬉しくなる。

 

* * *

 

只々ボーっと、アマリアは窓を叩く雨の水滴を眺めていた。

現在ラノスでは、約一ヶ月ぶりの雨が降っている最中だ。

「暇だ〜」

脱力し、座っていたソファーに寝転がる。

そしてアマリアは、反対側で武器の手入れをしているルーカスに不満をぶつける。

「ルーカスっ、何か面白いことはないのかい!」

「なんだその無茶振りは」

ワーワーと喚くアマリアに、ルーカスは苦笑いする。

そして再び大剣の手入れを始めた。

「サク達がいないからって、あんま絡まないでくれよ隊長ー」

そう、今はルーカスとアマリアの二人きり。サクとシルアは、朝からマテリアルに用があり、風車小屋にはいないのだ。

「ブー」と言いながら起き上がったアマリアは、再び外を見つめ、ポツリと呟いた。

「サク、早く帰ってこないかな〜」

「……」

そんなアマリアに目を向けていたルーカスの手が止まる。そしてルーカスは、変わりなく飄々と言った。

「隊長ってさ、サクが好きなんだよな」

「ブフッッ!?」

いきなりのことに吹き出す。そうして素っ気なくしているルーカスに、アマリアは顔を真っ赤にし、震える指で指差した。

「ななな何を言っているんだ君は!?」

そんなアマリアは無視し、ルーカスは手を頭にやる。

「でも、サクもずっと一緒にいてくれなんて、プロポーズしてるみたいなもんだけどな〜。ははは」

「…っ!?あ、あの子は純粋なんだっ。そんなことは、考えてないよ…」

最後の方は落ち込み気味に告げた言葉に、ルーカスは再び顔を上げ、問うた。

「隊長は、どうしたいんだ?」

 

* * *

 

「シルアさん、本当にいいの?」

ニールさんに言われ、【マテリアル】へシルアさんと向かっている僕は今、アマリアから買い物を頼まれているため、僕達のホームもある、東エリアのメインストリートへ、先に買い物に来ていた。

雨も降っているし、買う物も一人で持てる量だから先に行っていてと、シルアさんには言っておいたのだが、彼女は首を横に振った。

「お三方には尽くしても尽くしきれない恩があります。どうかお手伝いをさせてください」

そう言って微笑むシルアさんに、「いやそんなっ」などとアタフタしていると、再び彼女は口を開いた。

「それに…。こうして外に出て、人々が行き交う街を見られるのがとても嬉しいんです。小さい頃からの夢でしたので」

確かに、シルアさんのその表情は、とても柔らかいものだった。もちろん笑うことも増えたし、なにより、この国の一つ一つのものを、目を輝かせるようにしているのを知っていた。

そんな様子に僕はつい顔が緩んでしまう。

「じゃあ行こっか」

そう言って僕は、まず頼まれたキュウリを買いに行くのだった。

 

 

 

 

「よーしっ、これで申請は完了だよ」

そう言ってニールさんは机の上に一枚の紙を置き、ハンコを押した。

それはシルアさんの派閥への加入手続きだ。

朝からやってきていた僕とシルアさんは、その紙を眺め、顔を見合わせるのだった。

「ありがとうございますニールさん」

「これもアドバイザーの仕事だからね…って、サク君、それまだ持ってたんだ」

そう言って指差したのは、アラゲメントで活躍してくれた短刀だった。

「はい。そのまま使ってみたら、凄いシックリきたんです。アマリアも、護身用に持っていた方がいいって」

「そっか。じゃあ存分に使いなさいな」

どこかいたずらっぽく笑ったニールさんに、「はいっ」と僕は頷いた。

そこでニールさんは「そういえば」とシルアさんに目を向ける。今まで毅然と僕の隣で座っていたシルアさんは、小首を傾げた。

「シルアさんの武器って、何を?」

その質問にシルアさんは表情を変えないが、僕は苦笑いしてしまう。その反応にニールさんはわけが分からないというような様子だ。

そうしていると、シルアさんが口を開いた。

「武器は、今の所ありません」

「……え?」

あたりは賑やかな中、僕たちの空間だけ沈黙する。

固まるニールさん、未だ苦笑いの僕、そして無表情のシルアさん。

沈黙を破ったのは、ニールさんの叫び声だった。

「ぶぶぶ武器なしって、素手ってこと!?ついこの間までやらせてたクエストの山には出てないってこと!?」

身を乗り出すニールさんに、今度は僕が汗を流しながら口を開く。

「いや、バリバリ参加してました…」

「な…っ!怪我は!?」

「かすり傷程度です…」

再び停止するニールさん。

見るからに信じられないという顔をする彼女は、ゆっくりと問う。

「どゆこと…?」

目を合わせたシルアさんは、数秒黙っていたが、それに答えた。

「私は、カルトラの一族です」

カルトラ?と、僕は頭に?を浮かべるが、ニールさんには心当たりがあるようだ。

その目を見開き、次には汗を流しながら頷いた。

「なるほど。それなら理解できるわね…」

顎に指を当て、考え込んでしまったニールさんの前で、僕は隣のシルアさんに言った。

「カルトラって何ですか?」

単刀直入な言葉に、シルアさんは呆れた様子もなくこちらを向いた。

「私の故郷の人々です。よくは覚えていませんが、その一族は人類の中でも、ズバ向けて強い怪力を持っていたようです」

「そ、そうなんだ…」

その説明に僕は思いっきりビビってしまうのだった。

確かに、あのシルアさんの蹴りは半端じゃないよな…。

「よしっ。まぁ、この件は置いときましょう」

さっきまでのことを切り替えたニールさんは、パンッと手を叩き、ある紙をこちらに差し出した。

それを僕とシルアさんが覗き込む。

これはどうやら、依頼書のようだ。

「これは…、クエスト?」

「そう。数もこなしてきたしってことで、上層部からワンランク上のものが来たの」

僕の呟きに頷いたニールさんは、そう言って僕の手に持つ紙を見つめた。

「何でも壁外のクエストらしいわ。内容は見ればわかるだろうけど、第8エリアに行けってことよ」

「随分と大まかですね…」

僕の苦笑いにニールさんは「そうなのよねぇ」と溜息をつく。

「私もそう思ったんだけど、極秘だの一点張りよ。まぁ私の経験からして、この場合はモンスター関係だと思うけどね」

「モンスター、ですか」

「うん。イレギュラーで住み着いちゃったのとか。そういうので環境って大きく変わるものだからね」

「なるほど…」

説明に僕がコクコクと頷いていると、隣からシルアさんが口を開いた。

「あの、それは私達三人でのみの活動なんですか?」

「おーっ、いいところに目をつけるねシルアさん!」

質問されたニールさんは、ビシッと両手の人差し指をシルアさんに向けた。

「それがね。今回のクエストは苦労しそうだからって、他派閥との行動なの。初対面だと思うけどよろしくねっ」

 

* * *

 

「?、やっぱりどうかしましたかアマリア?」

「な、何のことだいっ?」

ホームに帰ってくると、何故だかいつものハグでのお出迎えがないことに首を傾げる。

中にいないのかと思えば、当の本人は僕と目があうと、顔を赤らめてしまった。

初めて見るそんなアマリアの姿に、熱ではないのかと心配するが、本人は大丈夫だと言い張るので、原因は分からずじまいだ。

そんな中、ルーカスが椅子から立ち上がりこちらに歩いてきた。

「で、申請は出来たのか?」

「うん。…それと、新しいクエストがきた」

「うへぇ」

派閥とは、クエストをこなし、その報酬で生活をする。つまりクエスト=仕事というわけではあるが、最近その頻度が上がってきている。

それもあって、ルーカスの言う通り、まさに「うへぇ」と言いたくなる状況だ。

そのあと僕は、ニールさんにされたように説明をした。最後まで話したあとに、アマリアが「うーん」と唸る。

「他派閥との共同のクエストはあるとは聞いていたけど…。そこにはどこの派閥かは書いてあるのかい?」

「えーと…」

自分の手に握るクエスト用紙にもう一度目を通す。

そしてそこには、もう一つ、派閥の名前が記してあった。

「【フィルス派】、ですね」

僕の言葉にアマリアとルーカスは首を傾げる。

「フィルスか、聞いたことないな…。隊長は?」

「ないね。そこも私達と一緒で、クエストを他と組むってことは小規模だろうし」

僕とシルアさんはもちろん知らず、四人で考え込むこと約五秒。

グゥゥ…

「「「「……」」」」

誰かの情けないお腹の虫が鳴った。

一瞬唖然としていたアマリアは、苦笑いし僕を見てくる。

「サク。君はよくお腹がなるねぇ」

「ぼ、僕じゃないですよっ!」

「え?」

確かに今まで二度もアマリアに聞かれてるけど、断じて食いしん坊になった覚えはない!はず…。

「じゃあルーカスかい?」

「違うって。そういう隊長じゃねえのか?」

「な!?私が嘘をついているだとー!!」」

気づくとギャーギャー騒がしくなるホームで、スッと。

「私です…」

シルアさんが手をあげるのだった。

 

 

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