ディメント   作:もやしメンタル

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第22話《副隊長》

『隊長はどうしたいんだ?』

 

ルーカスの言葉が頭をよぎる。

目の前には、明日の共同クエストのために備え、早く寝てしまったサクがいた。

自分も明日は、みんなを見送ってからバイトだ。

それなのにただ一人眠れずにいるのは、頭の中で繰り返される言葉のせいだ。

気持ちよさそうに眠る少年は、いつも以上に幼く見える。何気に毎日この寝顔を眺めているが、毎度母性本能を掻き立てられる寝顔だ。

「…ちょ、ちょっとくらいいいよね」

これくらいで起きないだろうと、ついつい頭を撫でてしまう。そのフワフワとした赤髪に触れていると、一日の疲れなどどこかへ行ってしまうくらいだ。しかしこれ以上続けると、今度はホッペなどに手が行ってしまいそうになるので、名残惜しいのをこらえ手を離す。

『隊長はどうしたいんだ?』

「うぐ…っ」

再び蘇る一言に汗を流す。

どうするもこうするも、自分達は派閥の隊長、副隊長だ。

それ以外になにがあるって…

 

『隊長ってサクが好きなんだよな』

 

「!?」

瞬間顔が真っ赤になる、そして…

「う、うるさぁああいっ!!」

「うわぁあ!?」

「な、何だ!?」

「あ、アマリア隊長っ?」

三人を一気に起こしてしまうほどの叫び声をあげていた。

 

* * *

 

「うー…、眠い…」

目の下にクマを作り、アマリアはダラダラと歩く。彼女の後ろを歩く三人も、大事なクエストにも関わらず同じ表情だ。そしてルーカスは溜息をつく。

「眠いって、隊長が騒ぐからだろ。なあサク」

「あ、あはは…」

力なく答えたサクに気づきシルアが目を向けると、見るからに体調の悪そうなサクが…。

「サクさん、顔色が悪いですが…」

「うおっ、ホントだな」

「す、すまないサクっ。まさかそれほどに眠いとは…っ」

「い、いや…。その…」

グウゥ…

「「「……」」」

心配が吹き飛び、すぐ黙り込む。

「…今回はシルア君じゃないんだよね」

「…はい」

一応確認をとり再びサクを見つめる。

「お腹すいた…」

そう言ってお腹を抑える少年に対し、やっぱり食いしん坊なのではないかと考える三人だった。

 

 

 

 

軽くジャンプし石段を上がり、広場中央の噴水まで来ると、隣にいたアマリアは「ほいっ」と壇上へ上がった。

「どれどれ、話によればこちらの顔は知ってるらしいけど、どこにいるんだ〜」

そうして辺りを見渡す彼女の隣で、同じように探すルーカス。密かに目を輝かせるシルアさん、そして僕。

シルアさんの次にこの街を知らない僕は、この街の中心地に存在する中央広場には来たことがなかったのだ。

綺麗なタイルが敷き詰められたこの広場は、転々と車輪のついた移動式クレープ屋やら花屋などまであり、朝にも関わらず賑やかだ。

人も賑わっていて、【フィルス派】を見つけられるのか心配になるが、それよりも感動が勝った。

「こんな所があったんだ!何で気づかなかったんだろう!!」

「サクさんっ、向こうに蜂蜜パイが売っていますっ」

「えっ、ホント!?」

「こらこら、目的を見失ってるぞ」

完全にテンションが上がっているサクと、こちらも興奮があらわになっているホクホク顏のシルアが歩き出すので、その襟をルーカスが掴む。

グイッと引き戻された二人は、ハッと我に帰り顔を赤らめ頭を下げた。

「ご、ごめんっ。つい…」

「す、すみませんっ。つい…」

「よし、まずついってのを止めてこうな」

頷く二人から視線を離したルーカスはアマリアに顔を向け…

「ほいっ、みんなの分も蜂蜜パイ!」

「…ダメだこりゃ」

あまりにも自由すぎる三人に、ルーカスは諦めの言葉を漏らすのだった。

そんな時

「随分と美味しそうっスね!」

「「「にえっ!?」」」

いきなりの登場に、シルア以外間抜けな声を上げてしまう。と言っても、シルアも小さく「ぐむっ」と声を上げていたのだが。

一歩下がった後、僕は顔を出してきた人物に目を向けた。

女性、というより少女はやがてこちらにピシッと敬礼する。

「あっ、自分はマキと言うっス。どうもどうも」

そんな彼女を呆然と見つめる。

背丈はサクより10Cは低い。ふんわりとした黒髪はボブで、肩につかない長さだ。

服装は、珍しい東洋の姿。言って仕舞えばジンベエのそれに近い。白と赤の組み合わせのもので、その童顔な顔を余計幼くしている。

「こらこらマキっ、勝手に言っちゃダメだろ」

そんな中、別の声にサク達は顔を向けた。

おそらく目の前の少女の知り合いだろう。数にして四人が走り寄ってきた。

「どうもウチのがすまないっ」

そうして言われているにマキさんという少女の頭を下げさせる長身の男性。

細身で、髪は肩まであるストレート。表情も穏やかそうで、顔つきは整っている、世に言う美男子だ。

その後ろから来た三人は、大きなリュックを背負い、困り顔の垂れ目からして気の弱そうな小柄の少女。トゲトゲと短い髪が立っている大柄の男性。すでに何か面倒くさそうにしている、大きめの帽子をかぶった少年だ。

全員髪は黒く、どこか統一感を感じてしまっていると、今まで頭を下げていた男性にアマリアが切り出した。

「えーと…。君は?」

その質問に顔を上げた男性は、「ああ」と頭に手を乗せる。

「申し遅れた。私はフィルスというものだ」

その紹介にルーカスが前に出る。

「ああっ、じゃあアンタらが共同クエストの」

「ああ、【フィルス派】だよ」

ルーカスと対して身長の変わらない隊長のフィルスさんを僕が見上げていると、つんつんと誰かに突かれ振り返る。

とそこには、先ほどまでフィルスさんの隣にいたマキさんがいた。

「それなんスかっ?」

「え?」

そう言われ指で刺されたところには、さっきアマリアがくれた蜂蜜パイが。

再びマキさんを見ると、その目はキラキラと輝いている。

自分と年は同じくらいだろう彼女と蜂蜜パイを交互に見合い。

「食べますか…?」

と蜂蜜パイを差し出すと…。

「まじっスかー!?」

と満面の笑みのマキさんに苦笑いしてしまった。

その時に、朝の七時を告げる鐘が響き、クエストの出発時間となった。

「おっと、それじゃあみんな。配置やらは行きながら決めてくれ。ぶっつけで悪いけどね、気をつけておくれよ」

アマリアの言葉に頷き、僕たちは急ぎ足で広場を出た。

 

* * *

 

「しっかし、こんな今日あった派閥といきなりクエスト行かせたりするんだなー」

行き道の中、そうルーカスが口を開くと、隣にいた、派閥の副隊長だという大柄の男性、ファルカーさんは頷いた。

「ああ。揉め事も起きるようだが、やはり死にたくはないからな。何かと成り立っているんだ。と言っても、小規模派閥のみのクエストだがな」

聞いてはいないが、その説明からして自分達より先輩だろう彼らは、どうやらこれが初めてではないようだ。

そんなことに感心していると、先ほどのマキさん。帽子の少年ハルさん。小柄な少女ユニスさんが僕とシルアさんの隣に並んだ。

「どうもどうも、なんかこいつがパイ貰ったみたいで」

そう言って口を開いたハルさんに僕はかぶりを振った。

「いいですよ。何度も食べたことありましたし。ハルさん達にあげれなくてすみません」

「あー、タメ口でいいよ。面倒くさいしね」

そう言ってどこかイタズラっぽく笑うハルさんにポカンとしたが、「じゃあ」とすぐに了承した。

そんな会話をしてる隣で、シルアは女子二人に挟まれていた。

「およ?武器持ってないっスけど。忘れたんスか?」

「いえ、元からです」

その答えに一度沈黙した後、初めて、オドオドとではあるがユニスが口を開く。

「あの…、それはどういう…」

「その、武器は使わないんです」

「おーっ、なんスかそれかっこいい!」

「マキちゃん、そこは感動するところじゃないよ…っ」

アタフタするユニスさんの言葉に「いやー」と笑うマキさん。

なんだかんだでいい派閥だなと思い、サクは微笑んだ。

「…ついたみたいだね」

そう言うハルさん、じゃなくてハルの言葉に頷く。

そこはもう壁から出た、クエストで指令があった第8エリアだ。

いつもの洞窟とは少し違い、地下に繋がっている。

もちろん人によって入り口は作られているが、それは地面にだ。

頑丈そうな二つに分かれている鉄のドアの片方をルーカスが開くと、下に続いて行く階段があった。

僕たちは表情を引き締め、頷きあい。先ほど決めた形態で進みだした。

前衛はルーカスとマキさん。中衛は僕とハル。そして後衛はファルカーさんとシルアさん、そしてサポーターだというユニスさんだ。

周りを警戒しながら、辺りは敷き詰められている光る石でよく見えるので、ランプはつけないでおく。

指定された場所は案外奥にあるので、ややスピードを上げ歩いた。

「…あの、ここのモンスターってどれくらいの強さなの?」

今更ながらそう小声で隣のハルに尋ねる。

すると彼は「えーと確か…」と顎に手を添えた。

「初級がほとんどだけど、中級もいないとは限らない、くらいだったかな」

「ちゅ…っ!?」

危うく叫びそうになり口を押さえる。

中級といえば、【フラワー・バレクス】が頭をよぎるが、正直きつかった思い出しかない…。

そんなことを考え、何度も食らった攻撃を思い出し汗を流す。

そんな僕に気づいたハルは苦笑いを浮かべた。

「別にいないとは限らないってだけで、本当に出てくるのは稀だから、そんな心配しなくてもいいと思うよ」

「ほ、本当…?」

「もし来ても私がぶっ飛ばすっスよ!!」

「「「こ…っ!?」」」

いきなり大声をあげたマキさんに、「声がでかい!」と全員が叫びそうになり、そして固まる。

動きを止め辺りをうかがう。

静寂が辺りを包み、ポチャンと水滴が落ちる音だけが響く。

どうやらモンスターには気づかれなかったようだと安心した、

瞬間

『ギュルァアアアアアアアアッッ!!』

「「「やっぱり来たぁああっ!!」」」

下級モンスター【バード・ザック】三体が現れた。

いきなり三体の出現にサク達【アマリア派】は驚かされる。そんな中…

 

「よいしょーっ!」

 

「え?」

『ギェ?』

凄まじいスピードで相手に突っ込んだマキは、腰にさしていた刀を両手で振り上げ

大切断

『ギュァアアッッ!?』

モンスターの絶叫に辺りが揺れる。

「おいマキっ、暴走するな!」

「おっス!」

いつものことのようにファルカーさんが注意し、マキさんが答える。

「ったく…。中衛も前に行ってくれっ、俺たち後衛は援護だ!」

「は、はい!」

テキパキとファルカーが出す指示に、サク達は自然と体が動いていた。

中衛であるサクとハルも前に出る。

もう一体がマキに攻撃を出す前にサクは疾走し、ウルスラグナを振り抜いた。

第8エリアのモンスターはランクが高いのか、下級といえど一撃では倒れない。

再び絶叫が響く中、間をおかずに攻撃を繰り出す。

その時、僕が後ろに飛ぶのと同時

「交代っ」

ハルが地を蹴った。

飄々とした表情を一瞬で鋭く変える。

そして抜き放ったのは、短刀だ。

勢いに乗せ、モンスターに三度目の攻撃を叩き込んだ。

 

 

 

現在、目的地まで約半分までの地点にたどり着いた。

それまでに何の支障もなく、順調に進めている。

あれからの【フィルス派】の戦いぶりは流石だった。

副隊長のファルカーさんの指示も的確で、他の人たちもそれを迅速にこなして行く。

サポーターのユニスさんも手馴れたもので、宝玉の回収もしなくていいことがこんなにもやりやすいとは思わなかった。

「皆さん、凄いですね」

「そっスかー?でもそういうシルアさんも半端じゃなかったっスよー!なんスかあの破壊りょ…」

「マキちゃん静かに…っ」

また声が大きいマキさんに、モンスターが来てしまうとユニスさんがアタフタする。

一見か弱そうに見えるが、リュックもかなり大きいのを背負っているし、今までの宝玉も全部持ってるわけだから、ただの少女というわけではないらしい。

「ハル達ってランクは?」

「ん?ファルカーとマキと俺はランクEの上」

「じゃあもう少しでDってこと?」

「そうなるね」

その言葉を聞き、副隊長であるファルカーさんに目を向ける。

自分と同じ副隊長のファルカーさんは、本当によく周りが見えている。

モンスターが来た時も指示は的確だし、自分とは大違いだと思った。

「なんか、僕にないもの全部持ってるよな…」

もっと頑張らなくちゃと思う反面、やっぱりへこむ。

副隊長としていつもオドオドとしてしまい、指示らしいことなどからっきしだ。

「…サクさん」

「っ、なんですか?」

そんなサクの様子に気づいたシルアが、「えっと…」と一度サクから視線を外す。

「こう言ったことは、正直なんと言ったらいいか分からないのですが…」

そう言って一生懸命言葉を探す彼女に、サクは首を傾げていると、やがてシルアは視線をサクに向ける。

「確かに、サクさんは少し気弱なところがあるかもしれませんっ」

「うぐ…っ」

シルアさんの言葉が大幅にメンタルにダメージを与える。

そんな僕に構わず、前を歩いていたルーカスは笑い出す。

「ハハッ、確かに頼りないかもなっ」

「うぐ…っ!」

さらにダメージを食らう僕に、【フィルス派】の面々は汗を流す。

二人が言ってることは正しい。

僕は力もなければ、みんなをまとめられる能力もない。

自分は副隊長のようなものに向いて…

「それでも…っ、私を助けてくださいました!」

「…えっ?」

顔を上げる。

目があったシルアさんは、なんとか伝えようとするように僕から瞳をそらさない。

「私を外の世界に導いてくれた、何度も手を差し伸べてくれたっ。だから、その…」

「俺達はサクについていく、そういうこった。なっ!」

「は、はい!」

「……」

唖然としてしまう。

思ってもみなかった言葉。

誰かに必要とされる、そんな言葉、何年頭から抜けていただろうか…。

自分には、その資格なんかない。

そう言いたかった。

自分は何も守れなかったと…。

でも、今は…

 

「うん…、ありがと」

 

正直に、喜んでしまう。

 

* * *

 

「な…っ、それは本当なのか!?」

現在マテリアルの執務室で、アマリアは目を見開き前に乗り出した。

その隣に立つフィルスもその表情は晴れない。

「…なんでそんなクエストを、小規模派閥の私たちに任せたんですか…?」

そんな二人に対して、正面に座る執務室ファルディニルはその表情を崩さずに答える。

「今までのことから、貴方方には可能なクエストだと判断したまでです。それに、そちらの【アマリア派】はペナルティもありますしね」

「そ、それはこの前終わらせただろう!?」

「最後だとは一言も」

「な…っ!?」

瞬殺されてしまい、ピクピクと痙攣する。

そんなアマリアに構わず、ファルディニルは両手を顔の前で組み、口を開いた。

「命を落とすことはないと思いますし、落としたらそこまでだったということです。派閥の世界、甘く見てもらっては困ります」

「「なぐ…っ!?」」

鋭い視線を向けられ、アマリアとフィルスは奇妙な声を上げてしまう。

そうしているとファルディニルは視線をそらし、淡々と述べた。

「では、もう用がないのならお引き取りください」

その言葉にフィルスは顔を引きつらせ、アマリアは

「お、鬼だぁああああああ!!」

そう言ってマテリアル中に声を響かせるのだった。

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