ディメント   作:もやしメンタル

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第23話《仲間》

「まだつかねぇのかー?」

そう言ったルーカスの声が辺りに響く。

またモンスターが来てしまうとみんなして「しーっ」のポーズをとる中、質問にファルカーさんが真面目に答える。

「指令ではもうすぐだ。こんなにモンスターの数が多いとは思わなかったがな」

そこで初めて「あ、そうなんだ」と気づく僕の横で、ふとシルアさんが立ち止まった。

「?、どうかした?シルアさん」

「……何か聞こえませんか…?」

「え?」

そう言われ僕達も耳をすます。

するとかすかではあるが、確かに聞こえた。

「水の音、なのか?」

「そう、みたいだね…」

ルーカスの言葉に頷き、第2エリアでのことが思い出されてしまうが、洞窟で目的地と言ったら湖ということは多いので、すぐに頭から除外した。

「一番乗りっスー!」

「あっ、マキちゃんダメだよーっ」

駆け出してしまったマキさんをユニスさんが止めようとオドオドとする。

しかしマキさんは行ってしまったので、僕たちもその後を追って駆け出した。

 

* * *

 

「…つまり、クエストの詳細はどういうことなんだい?」

そう言ってアマリアは、目の前にいるファルディニルに視線を送る。

当の本人は、やはり表情は変えず口を開いた。

「第8エリアでのことは、何も耳にしていないのですか?派閥の隊長であるなら、ご存知ですよね」

「へっ?あ、あー知ってるとも!えーっと…」

汗を流し、考え込むアマリアにファルディニルは溜息をつく。

すると、そんなアマリアの隣にいたフィルスが口を開いた。

「確か…。モンスターが異常発生している、とか」

「い、異常発生…?どういうことだ?」

彼の言葉に首をかしげるアマリアに、今度はファルディニルが答える。

「ここ最近。第8エリアのモンスターの出現率が、通常より遥かに高いのです」

「なんでだい?」

本当に何も知らないアマリアに、ファルディニルは眼を細める。

そんな彼の行動で、自分が完全に無知なのがバレたと気づき、アマリアはしまったと汗を流した。

「自然的、もしくは何者かが原因で、その地帯の法則が破られたのでは…?」

「え?」

隣でずっと考え込んでいたフィルスの言葉に、アマリアはキョトンとする。

対してファルディニルは、彼の意見に頷いた。

「原因はつかめています。どうやら、自然的なものではなさそうなのです。人でもないですがね」

「…よくわからないけど。その原因が、サク達を行かせた場所にあるってことかい?」

「おそらくは」

その言葉に、アマリアとフィルスは黙り込む。

「…その原因というのは、モンスターなのかい?」

「他に何がいますか」

「うぐ…っ」

「それで、相手は?」

フィルスが、今回のクエストで、最も重要な要点を尋ねる。

それにファルディニルは、一度二人を見つめ、答えた。

 

「【ドラゴン・ザック】。その名の通り竜のモンスターです」

 

* * *

 

「これは…」

僕たちは只々立ち尽くす。

なぜならそこには、大きな壁が存在するからだ。

といっても、周りの岩でできた壁とは別物で、まるで何かを溶かしたかのようにドロッとした状態で固まったものが、隙間なく覆い尽くしているのだ。

「…これ、自然現象じゃなさそうだね」

ハルの言葉に頷くファルカーさんは、眉間にしわを寄せた。

「我々もこれを見るのが初めてとなると、ここ最近のものだな。おそらく、これがモンスターの数が増えた理由だ。居場所を制限され、ここ一帯に群がったんだろう」

「マジかよ、どうすんだ?このままじゃ通れないぞ」

ルーカスの質問に、押し黙ってしまうファルカーさん。

場を沈黙が包んだ。

「…シルアさんはどう…って」

完全に止まってしまったことに、隣にいるシルアさんに尋ねようとし、顔を向け、固まる。

最近やっと彼女のことを知ってきたが、今目の前にいるシルアさんの瞳は、完全な戦闘体制のそれだった…。

「し、シルアさん…?」

「みなさん。退いていてください」

「「「えっ?」」」

シルアが地を蹴りつけた。

瞬間

 

とてつもない衝撃音と砂埃が辺りを包む。

 

「ゴホッゴホッ!な、なんだ!?」

状況についていけていないみんなを置いて、僕はハァ…と額に手を当てた。

徐々に晴れてゆく砂埃の先には、目の前の巨大な壁。

しかし、中央には巨大な穴が空いていた。

 

シルアさんが壁を破壊したのだ。

 

蹴りでここまで普通いくか…。

あまりに常人離れした少女に顔が引きつる。

当の本人は、表情を変えず、再び僕の隣に戻ってきた。

「壁、壊せましたよ」

そんな彼女に僕は向き直り、ルーカスは「あちゃー」と顔に手をやる。

周りは僕達のような余裕はなく、只々唖然としていた。

僕の表情から何か読み取ったのか、シルアさんはこくりと首をかしげる。

「どうか、なさいましたか?」

全く自覚ないよ…。と思いながら、僕はグイッと彼女に詰め寄った。

「シルアさん。得体の知れないものにいきなり突撃はだめ!」

「…え、何故ですか…?」

「危ないから!」

めったに叱らないサクの言葉に、シルアは僅かに目を見開いた。

そんな僕達に、今度はルーカスが口を開く。

「そうだぞ。わからんのかもしれんが、もう止めろ。お前が怪我したら元も子もねぇかんな。ま、今回は助かったぜ!サンキューなっ」

「…ルーカス、それ矛盾してるよ…」

「おっそうか。わりーわりー」

笑うルーカスと溜息をつく僕を見つめ、シルアさんはポカンとしていた。

そして目線を下に移し、やがて小さく頷いた。

「そんなこと、初めて言われました…」

「これからだって言うよ」

「おうよ!俺たちは、仲間だからなっ」

「ーっ」

その言葉に、数秒固まっていたシルアさんは、次には小さく微笑んだ。

「…はい」

危険地帯にもかかわらず、周りが温かくなる。

そんな中、僕達を後半は見守っていたファルカーさんは、パンっと手を叩いた。

「何はともあれ、道は開いた。目的地はもうすぐだ、行こう」

「おー!!」

「マキちゃん、だから大声…っ」

拳を上げるマキさんにみんなが苦笑いした。

その時

「…っ。全員避けろ!!」

「「「!?」」」

 

爆発

 

凄まじい火力の炎が、咄嗟に横に飛んだ僕達の間を突き抜けた。

『グルァアアアアアアアアッッ!!』

その雄叫びに全員が耳をふさぎ、辺りが揺れた。

この感覚は、この空気感は…。間違いない。

 

このモンスター、かなりヤバイ…ッ

 

姿は見えなくともそう悟る。

先程の攻撃は、シルアさんが破壊した謎の壁の向こうからだった。

つまりはこの原因の確率が高いということ。

「く…っ。壁を突破されて、攻撃を仕掛けてきやがったか!?」

「まったく、面倒なことになったよ…」

奥からは絶えず雄叫びが響いてくる。

その迫力に、目にもしていない時点で、体に力が入る。

「この鳴き声、ドラゴン・ザックっスね。ランクはD」

「え、わかるんですかっ?」

「耳の良さは自信あるっス!」

「ってちょっと待て。ランクDって言ったか?初球モンスターなのに!?」

「どういう事ですかっ?」

「あーまーモンスターも種類ごとにいろいろあるっスからねぇ〜。深く考えない方がいいってスよ」

こんな状況でもマイペースなマキさんに心底感心する。

しかし、彼女もそれなりに本気のようだ。

一瞬で目つきを変える。

「どうするっスか、ファルカー」

「…まず、俺が仕掛ける。指示を出した瞬間、全員突っ込め」

「なっ、大丈夫なのかよ!?」

「心配無用だ…っ」

言葉とともに、ファルカーさんが地を蹴った。

それと同時に、僕らも戦闘体制に入り、初めて敵を目視する。

それはマキさんの言った通り、ドラゴン・ザックそのものだった。

実際に見るのは初めてだが、やはりとてつもない威圧感だ。

鱗は赤く。全長は8Mにとどく。

爪と牙は鋭く、目はギョロっとした金色。まさに、ドラゴンだ。

「ファルカーさんは、大丈夫なの!?」

「まー、見ててよ」

尋ねたハルにそう言われ、視線を戻した時、僕は目を見開いた。

 

「あれはっ、虎!?」

 

「正解。これがファルカーのディメント。《形態変化、タイプはタイガー》」

ハルの言葉どおり、ファルカーさんの今の姿は、明らかに人間ではなかった。

しま模様になびく毛並み、一層大きくなった体。

それは紛れもなく、虎のものだ。

瞬間

「ガルァアアアッ!!」

ドラゴン・ザックに迫る。

襲いかかる攻撃からも避けきり、高く飛び上がると、勢いに乗せ相手の懐に突っ込んだ。

「今だ!マキ!!」

「おっス!!」

合図にワンテンポ早くマキが疾走する。

「はぁあああああああああっ!!」

ひるんだ相手に向かって、マキは一瞬で到達すると、すでに抜かれていた刀を振り抜いた。

だが

『グルァアアアアアアアアッ!!』

「く…っ」

体制を崩したのにもかかわらず、ドラゴン・ザックは自らのヒヅメを振り抜いた。

火花が散る。

「ユニスっ、大剣!」

「うんっ」

自分の短剣をしまい、サポーターであるユニスに武器をもらうと、衝撃に耐えきれず後ろに吹き飛んだマキと入れ替わるように、今度はハルが前へ出た。

大剣は、彼の装備する短剣よりも明らかに攻撃力、リーチの広さが違う。

ハルが大剣を気合いで振り上げる。

「やっぱこれ、疲れるな…っ!」

間髪を入れない攻撃で、見事命中した獲物は、ドラゴンの鱗さえも大きく切り裂いた。

「おいシルア!あれ頼む!!」

「はい」

「え、あれ?」

ルーカスの提案に即答するシルア。そんな二人にサクは一瞬ポカンとする。

「お、らぁっ!」

その瞬間、ルーカスが飛び上がる、そしてその先はシルアさんが…。

自分の上に落ちてきたルーカスを、瞬間回転蹴りをかますシルアさんが足に乗せる。

「ま、まさか…」

「はぁあああああああああっ!!」

吹き飛ばす。

凄まじい破壊力を持つシルアさんの蹴りを使い、ルーカスが猛スピードで飛んでいき

「く…っ、らっ、ぇええええっ!!」

回転切りをお見舞いした。

ハルを弾き飛ばしていたドラゴン・ザックが雄叫びをあげる。

「サクさん、行きます」

「え?ちょ、ま…っ!?」

そう言って抵抗すること虚しく、シルアさんに抱えられると…

投げ飛ばされた。

「うわぁああああああああああっ!?」

や、やるしかない!?

半端開き直りで剣を左腰に引き絞る。

無駄に力を入れちゃダメだ。

流れに逆らわず、型を守り…。

切り裂く!!

思いっきり振り抜いたウルスラグナは、火花をチラシ、次には

大きく弾かれた。

「カッタ…っ」

鱗の頑丈さに腕が痺れ、歯をくいしばる。

大きく隙を作ったサクめがけ、ドラゴンは間髪を入れずに襲いかかった。

「サクさん!」

瞬間

激しい衝撃音と連なり、辺りに砂埃が立ち上がった。

シルアが叫ぶ声がかき消され、全員が目を見開く。

そしてその先には

ヒヅメを繰り出すドラゴンと

 

それを受け止めるサク。

 

「こんっの…っ!!」

その手に握る短剣、ニールからの貰い物であるそれで、今度は勢いに乗せ

 

攻撃を逸らした。

 

「おぉおお…っ!」

左手で掴んだ短剣を後方に受け流し、次には先ほど弾かれたウルスラグナを構え

 

振り抜く。

 

攻撃が完璧に入り、相手にめり込む。

そしてそのまま、サクは叫んだ。

「【フレイム・ウィンド】!!」

凄まじい爆炎が、相手体内で膨張し

膨れ上がった。

 

爆発

 

炎がはちきれあたりが赤く染まり、激しい爆風が襲った。

岩が崩れる音が響く。

やがて、静まり返った空間で、みんな荒い息遣いを繰り返す。

「…やったか…?」

そう呟いたルーカスだったが。

次の瞬間

煙の向こうに、一点の明かりが灯され

「どうやら、まだみたいだな…っ」

 

放射される。

 

「〜〜〜〜〜っ!?」

間近を過ぎてゆく炎の熱さに歯を食いしばり、全員後ろに飛んだ。

「マジかよ。不死身かアイツ」

「ダメージはあるはずですが…」

体制を立て直し、身構える中、ルーカスとシルアの次にハルが溜息をついた。

「こりゃとんだクエストを押し付けられたね」

明らかに強い相手に顔を歪める。

そんな中、虎となったファルカーさんは前方を見つめたまま切り出した。

「このままやっていても、こっちが殺られるだけだ」

そう言って、【フィルス派】副隊長は振り返る。

「だったら、宝玉を狙う!」

その言葉に全員が目を見開く。

するとファルカーさんは、何故か僕と視線を合わせた。

「サク・ティネル。力を借りたい」

「え?僕ですか…?」

動揺する僕は、背中をルーカスとシルアさんに思いっきり叩かれ背筋を伸ばす。

「しっかりしろ副隊長!」

「あなたしかいません」

その時、再びドラゴン・ザックが咆哮をあげる。

そんな相手に向き直ると、ファルカーさんが叫んだ。

「自分がサク・ティネルを宝玉まで連れて行く!他は援護を頼む!!」

「「「了解!!」」」

「りょ、了解…っ!」

「行くぞ!!」

掛け声と同時に、ドラゴンが炎を上げた。

「乗れっ」

「は、はい!」

僕はファルカーさんの上に跨り、他のみんなは一斉に地を蹴ると、モンスターへと向かっていった。

「しっかりつかまっていろ!」

僕たちも突撃する。

凄まじい速度に度肝を抜かれる中、僕もディメントを発動し、溜め始める。

そんな僕の力を感じ取ったように、ドラゴンはこちらに標準を合わせてきた。

「させないよっ」

「させないっスよ!」

しかしそれをハルとマキが遮る。

それぞれが大剣を、刀を振りかざし、狙ったのは

「「足元一点集中っっ!!」」

二人同時に技を繰り出した。

一瞬の隙を突かれ、負わされた傷にドラゴンはもがき、足だったことで、耐えきれずに勢いよく地面に倒れこむ。

「「はぁあああああああああっ!!」」

間をおかず、今度はルーカスとシルアが突っ込む。

だが

「ーっ!?」

一瞬で視界にドラゴン・ザックの尾が入ってきた。

ランクFではとても反応できる速さではない攻撃が、二人を襲った。

瞬間

「させないっ」

一つの弓矢が放たれ、命中する。

「2人とも離れてください…!」

それ一つでは大したダメージはないが、次の瞬間。

 

爆発。

 

攻撃を免れルーカス達は勢いよく地面を転がり、すぐに起き上がる。

「い、今のは!?」

「…ユニスさんですね」

「ユニスでかしたっス!!」

先ほどの攻撃で放った矢は、中に火薬が仕込まれていたのだ。

言うなれば爆弾の矢。

1人ひとりが凄い【フィルス派】に、サクは1人口元を緩めた。

「みんな、ありがとう」

ディメントが、膨れ上がる。

それと同時、サクは顔を上げた。

「ファルカーさん行けます!!」

「了解した!!」

ウルスラグナから赤々と炎が燃え盛る。

ミスは許されないっ、一度きりの大勝負。

「いけ!サク・ティネル!!」

絶対成功させる!!

驚異的なジャンプ力で、相手の上に飛び上がり、僕はファルカーさんの背中から飛び降りる。

さらに膨張する炎に相手が気づき、自らの炎を口から…

「させないっスよ!!」

マキが繰り出した上段蹴りが炸裂する。

ドラゴン・ザックの顎に命中し、瞬間

爆発

己の口の中で膨れ上がった炎に、モンスターは煙を上げ、白目を剥いた。

「おぉおおおおおおおおおおおっっ!!」

大きく後ろにウルスラグナを振り絞る。そして

「【フレイム・ウィンド】!!」

放つ。

以前よりもパワーアップした炎がドラゴン・ザックに迫る。

その時

『グル…ッァアアアアアアアア!!』

「ーっ」

底力を見せた相手は、渾身の火炎放射を繰り出した。

激突する炎。

凄まじい力に歯をくいしばる。

あの時とは違う。

以前の状況、フラワー・バレクスの時と似ているようだが、決定的に違うことがある。

あの時は、ほぼマヤ・カルヴァートさんのおかげだった。

最強派閥である彼女の力あってこその勝利だった。

僕が膝をつきかけた時、渾身の蹴りと一緒に、彼女に言われた。

 

『そんなんじゃ、お姉ちゃんには追いつけませんから!!』

 

そう、こんなんじゃ、こんなんじゃダメなんだ!

僕が、強くならなきゃ…

 

「「邪魔をするなぁああああッッ!!」」

 

視界に新たに二人の姿が映り、あらん限り目を見開く。

「ーっ!?ルーカス、シルアさんっ」

サクとの攻防で、無防備な相手に対して、二人の渾身の一撃が入った。

「一人でなんて無茶すんじゃねーよ!!」

「私達は、仲間ですから!!」

「ーっ」

まるで心を読まれたかのような二人の言葉に、つい口元が緩んでしまう。

そうだ。一人で強くなろうと焦っちゃダメだ。

僕らは。みんなで…。

「はぁあああああああああああっ!!」

強くなる!!

瞬間、弱まった相手の炎を断ち切る。

そして

宝玉を、貫通した。

 

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