ディメント   作:もやしメンタル

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第26話《少女》

「ねぇサク。生きるのには、命と同じくらいに何が必要かわかる?」

「うん?何急に」

桜の木下、そう彼女は言う。

桜を見つめるその背中に、僕はそう尋ねる。

風が吹き、彼女の髪が揺れる。

とても綺麗な黒髪だ。

「いいから答えなさいっ」

そうイタズラっぽく笑う彼女に、僕は少し考える。

「うーん…。才能?」

「ブッブー!!」

頭の上にバツを作る彼女は、ピョンと跳ね、こちらを振り向いた。

 

 

「…ク、…いサク。おいサク!!」

「ーっ」

荒い呼吸を繰り返す。

視線には目を見開くルーカス、そしてシルアさん。

「…夢、か」

「何が夢だ馬鹿野郎!心配かけんじゃねぇよ!」

「落ち着いてくださいルーカスさんっ」

未だボーっとする頭に二人の声が響く。

そんな中、僕は上体を起こした。

「……モンスターは」

「一応、追い払いました。というか、途中でモンスター達が逃げ帰っていったのですが…」

顔に手を当て、目をつむる。

どうやらここは小屋の中のようだ。といっても、壁の外ではあるのだが。

そうか、自分は気を失って…。

「なぁ、サク」

「…?」

記憶を思い出すのを止め、声をかけられたルーカスを見る。

ルーカスはあぐらをかきながら真剣な表情になった。

 

「教えてくれないのか…?」

 

彼にしては弱々しいその言葉に目を見開く。

確かに。巻き込みたくないという理由で隠していたはずが、すっかり巻き込んでしまったようだ。

それに…。

シルアさんも、過去と向き合い生きている。

ルーカスだって、この前自ら切り出してくれた。

……言う時なのかもしれない。

「ーっ、サク!!」

その時、勢いよく開いたドアからアマリアが駆け込んできた。

どうやら事情は聞いているようで、とても険しい表情になっている。

「過呼吸は大丈夫かいっ?それにみんな怪我は!?」

「私は大丈夫ですが、ルーカスさんが怪我を」

「こんぐらいどうってことねぇよ。治療も済んだし、大丈夫だ」

「そ、そうか…」

無事を確認すると、アマリアは脱力し、へたり込んだ。

本当に心配していたんだと、僅かに頬が緩みそうになる。

こんな大切な人達に、これ以上、迷惑をかけたくない。

覚悟を決める。

「アマリア、ルーカス、シルアさん。話があるんだ」

声が震えてしまうが、そんな事構わない。

「? なんだいサク」

首をかしげるアマリアに、僕は目を向けた。

「僕の事について、今回の原因について、説明しておきたい」

三人が目を見開く。

やがて、静かにアマリアに問われる。

「…本当に、いいんだね?」

「はい。僕の、過去についてです」

そこまで言い、一度瞳を閉じる。

そこには桜の木下の無邪気な笑顔。

目を開ける。

「一人の、女の子の話です」

 

* * *

 

「ねぇねぇ!」

声をかけられた。

他のみんなが遊ぶ中、同じ班らしいその子は笑う。

肩にかかる程度のストレートな黒髪を揺らし、こちらを覗いてきていた。

当時八歳の僕は、本格的にディメントを学ぶため、班に分かれ、様々な授業を行っていたのだ。

そんな中、僕は両親がいず。それに何といってもこの髪の毛なので、誰とも会話はしなかった。

というより、したくなかった。

「なんでキミって笑わないのっ?」

「え」

思考を遮られ、いきなり聞かれた質問に固まる。

同い年の少女はじーっとこちらを見たまま動かない。

僕は俯きがちで答える。

「…つ」

「つ?」

「つまらない、から…」

久しぶりに出す声は、小さく力無い。

自分で恥ずかしくなりながら、こんな自分といてもつまらないだろうとさらに俯いた。

「じゃあ楽しくしようよ!」

「………は?」

「楽しくかー、うーんそうだなー」

なぜか勝手に決定し勝手に悩む少女に汗を流す。

「あーっ!!」

「な、なに…っ」

いきなりの大声に僕は肩を揺らせ小さい声で尋ねる。

するとバッとこちらを向いた女の子はにしっと笑い、手を差し出してきた。

「私と友達になろうよ!」

「………は?」

「そうと決まれば!見せたいものがあるから付いて来て!!」

腕を掴まれる。

一見華奢そうに見える手からは、想像以上の力で引っ張ってきた。

「あ、ちょ…っ」

「ダッシュー!!」

非力な僕はなされるがまま引かれてゆく。

周りがこちらに視線を向ける。

恥ずかしくて、顔が赤くなってしまう。

あ、今絶対髪の毛と同じになってる…。

笑われる…。

余計に恥ずかしくて俯いてしまう。

そんな事は構わず、むしろ気づかず、少女は地を蹴る。

思いっきり引っ張られながら、僕はこの少女と出会い、初めに抱いたのは…

 

「なんだこの生き物は…」

 

という事だった。

 

 

 

「あ、あの…。帰らないとまずいんじゃ…」

「わーっ、昨日より咲いてる!!」

僕の言葉を完全無視、むしろ気づいていない少女は、そう言って目を輝かせる。

連れてこられたのは裏庭のようだ。

こんな所、初めて来た。

「じゃなくて、怒られちゃ…」

「前見て!」

「へ?」

風が吹く。

少女の髪が揺れ、何故か顔が赤くなる。

それを紛らわし、僕は言われた通り前を見た。

「ーぁ」

目を見開く。

満開の桜だった。

風に揺られ、花びらが舞う。

薄いピンクが太陽の光で輝いている。

だいぶ古い木なのだろう、それは大きく逞しい。

僕らの前で静かに音を立てている様子は優しく…

「きれい…」

気づけばそう呟いていた。

こんなものが、ここにあっただなんて…。

気づきもしなかったな…。

「周りのいろんなのを見るとね!キラキラで楽しいんだー!」

「え」

「だって、足元見ててもつまんないじゃん!」

へへっと少女は笑う。

会話は意味不明で、全くまとまっていないのにな…。

なんだろう…。

「…君は僕の髪の毛、変だと思わないの…」

「へ?なんで?キラキラしててすっごいキレイじゃん!あっ、運命の赤い糸てきなっ!」

本当に楽しそうに笑う少女の顔に光が当たる。

カラフルだった。

まだ幼い表情は、全てが光に見えた。

「やっぱり…」

なんなんだ、この生き物は…

少女は手を差し出し、笑った。

 

「私はフィリナ・ティネル!よろしくっ」

 

* * *

 

中に戻ると、大体の人が部屋に入っていた。

確かこれから…

「実技だー!!」

「フィリナうるさいぞ」

教官に怒られても、騒ぐのをやめない彼女に溜息をつく。

なんでそうも嬉しそうなんだ…。

「よし。では今からディメントを出してもらうぞ。まずタオスから」

「はい!」

始まってしまったと、もう一度溜息が出そうになる。

一列に並び、順番にディメントを出す。

これは一ヶ月に一度の実技だ。

「いやだなぁ」

騒がしいフィリナを置いてそっと呟く。

何故かといえば…

「よし、じゃあ次サク。やってみろ」

「……ハイ」

手のひらを向かいあわせる。

集中、集中、集中…

「…っ」

力を一点集中!

 

ヘニョン

 

「……」

沈黙する。

目の前には約2センチ浮き出た地面…。

「ブハハハハ!なんだそれ!ヘッポコすぎだろ!」

「頭がヘッポコなやつはディメントもヘッポコだ!」

「お前たちうるさいぞ」

「……」

そう、僕は平均よりも、遥かにディメントが弱いのだ。

他のみんなは地面から1メートルは浮き出ている。

ヘッポコという言葉は、耳がタコになるほど聞いてきた。

馬鹿にされるのには、もう慣れてる…。

俯き、ふと隣を見る。

隣で並ぶフィリナは、こちらを見ていた。

周りが笑う中、フィリナは…

「ブハハハハッ!お、お腹痛い!!」

誰よりも笑っていた…。

いや、そんなに笑う事ないだろ。逆に笑いすぎて周りが引いてるぞ…。

何故だか今までに感じた事がないくせに、なんだこれ

少しムカッとする。

「そんなに笑うことない…」

「おっ、怒った?初めて見たなー!」

言われてから気づき、顔がまた赤くなる。

そんな事は気にせず、気づかず、フィリナは両手を添える。

「ふっふーん!そんなに見たければ見せてやろうっ、ハァァ!」

 

ポンッ

 

「…ん?もうしたのか?」

「え?なんか変わった?」

「どこどこ?」

…あった。

屈み込み、顔を近づける。

「約2ミリってところか…」

異変にすら気づかなかったよ…。

「アハハハハッ!なんだそりゃ!」

「さっきポンッていったぞ!」

再び笑いに包まれる。

そんな中フィリナは

「いやーまいったなー!あははははっ」

愉快そうに笑っていた。

ポカンとしてしまう。

周りが輝きだす、それはとても暖かい。

なんだよ、馬鹿にされてるんだぞ…。なのに…

「プ…っ」

なんだこれ、ヘッポコすぎる。

「あははははっ」

初めて笑えたかもしれないな。

笑うって、案外悪くないかも。

フィリナと目があう。

にしっと少女は笑った。

 

* * *

 

サクは溜息をつく。

その隣には、フィリナがいる。

二人は今、教官の前に立っていた。

「というわけでお前たちは補習だ。約五十センチに届くようにしてもらうぞ」

「おっす!」

目標も平均以下。やっぱり才能が…

「できるまで。これから毎日補習だからな」

「え」

「おーす!」

ああ、もう嫌だ…。

言いつけておきながら、教官は部屋を出てしまった。用事があるんだとか

「じゃあ頑張ろうねサク!」

フィリナはにしっと笑う。

そんな彼女と目があい、僕は俯いた。

「…僕に、関わらないほうがいい」

「へ?なんで?」

「なんでって、君もからかわれるよ…」

「なんで?」

「だ、だから。僕がそうだから…」

「なんで?」

「……はぁ。君といると疲れる…」

こうしていつも僕は押し負けてしまうのだ。

どうしてもいなくならない。この子は一体なんなんだ…。なんでそんなに僕に構う。

「私ねっ」

「え?」

「サクといると、楽しい!」

「…っ」

どうしても、視線が引き込まれてしまう。

そう、いつも輝くのだ。

いつもそうやって…

「…君はいつも、笑ってるね」

「うん?そうかなっ」

「…うん」

「へへっ。笑ってるとね、パーってなるんだー!」

「…何、それ」

「ゔー。サクはもっと笑わなきゃ!いっつもふくれっ面してるよ!ほらっ、にー!!」

「は、はめめほ…っ」

頬っぺたを引っ張られる。

それが痛くて、僕は手を離そうとし

「うわぁ!?」

ずっこける。

仰向けに倒れた僕の上に、フィリナが落ち、頭同士がぶつかった。

「い…っ」

「たー!!」

二人悶える。

どれくらいかそうして地面を転がっていると、不意にフィリナが笑う。

「あははははっ、痛かったー!」

「い、痛いならなんで笑うの…?意味わからない…」

「サク!」

名前を呼ばれ、額をさすりながら顔を向けると。あぐらをかき、同じく額をさするフィリナは無邪気に歯を見せる。

「楽しいね!」

「……」

これだ。

いつも僕を困らせる。

フィリナと会ってから、彼女の存在に悩まされるようになった。

「何が楽しいだ…」

でも

 

悪い気は、しないかもしれない。

 

* * *

 

それからは、上達するのか見当がつかなかったが。

周りから見れば笑いものでも、明らかに変形できる地面の長さが伸びている。

ほんの僅かだけど…。

今日で一週間。僕はすっかりフィリナと一緒にいるのが多くなった。いや、なってしまった。

「あちょーっ!!」

「それ意味あるの…」

「気分だよ気分!ほらサクもやってみっ。あちょーっ!!」

「……」

自由すぎるフィリナは置いといて、僕も手を添える。

集中、集中…。

力を一点に…!

 

ヘナン

 

「おー!今ヘニョンからヘナンになった!!」

「……」

「サク!そこはツッコミ!全くこれだから素人はっ」

「……」

ツッコミとかわかんないし。

なんだかこのままフィリナといると、いつかツッコミ芸が身につきそうで怖くなるな…。

そう思いながら地面を見る。

突き出した地面は、約5センチ。

かなりの進歩。

僕の中ではだけど…。

「私も負けてらんないぞー!」

低レベルな戦いの中、フィリナは再び力を入れる。

「あちょーっ!!」

 

パンッ

 

「お!今ポンッからパンッになったよ!」

「……」

約5ミリ。

成長速度は、ある意味同じだな。

単位が違うけど…。

「はぁ…」

つい出てしまった溜息に顔をしかめる。

でも仕方ない…。

だって

「この子と、だいぶ付き合うことになりそう…」

「ん?なんか言ったっ?」

「…別に」

一刻も早く目標を達成しなければ。

そうしないと、なんだか僕が変になってしまいそうだ。

 

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