ディメント   作:もやしメンタル

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第29話《未知の世界》

顔を洗う。

現在午前五時。

部屋のみんなはまだ寝ているし、起きてるのもほんの数人だろう。

「眠い…」

いつもより暗い空が眠気を誘ってくる。

そんな睡魔を、僕はもう一度顔を洗い切り離した。

今日は寝てるわけにはいかないんだよ。

だって今日は…

 

「ついにクエストか…」

「ふわぁあ…」

隣ではフィリナが大きくあくびをする。

流石に目は覚めたし、何より緊張してきたし。よくあくびできるよな…

先ほど用紙はもらい、改めての説明も受けた。

内容はというと、正直よくわからないのだが…

「あたしは今回の依頼者リル。今からじゃんじゃん働いてもらうから覚悟しておけ!」

うん、わからない…

目の前には僕達より年下だろう(おそらく二、三歳)少女。

ショートの髪はクリクリと癖っ毛で、目はパッチリだ。

見るからにヤンチャそうで、やけに偉そうにする様子には、微笑ましさが感じられる。

クエストでなければ…

「えっと…、君が依頼者?」

「そうだ!」

「本当に…?」

「報酬だって用意した!」

そう言ってバッと首にかけてあったガマを突き出す。

「いくらで…」

「五十ベリー!」

してやられた…。

おそらくこれは、まんまと押し付けられたパターンだ。

経験値をだなんだ言っていたが、要は面倒ごとの処理に使われたということだ。

僕がチーンと立ち尽くしている中、フィリナが膝に手を置き、女の子と目線を合わせる。

「リルちゃんは、何を依頼したの?」

「シラユリの花だ!」

「シラユリ?シラユリって、あの薬でよく使われる?」

「そうだ!」

フィリナがこちらに顔を向けてくる。どうやら助けを求めているらしい。

僕は大きく深呼吸し、気持ちを切り替えてから口を開いた。

「じゃあ、詳しい話を聞かせてくれる?」

 

 

「ただいま」

そう言いながらドアを開いた少女に続き、僕達は辺りを見渡しながら、おそるおそる「お邪魔します…」と上がっていった。

ここはリルの家だ。

説明は来てもらったほうが早いと言われ、迷ったが、時間制限もないしということでついてきたのだ。

「お母さん帰ったよ」

そう言って入っていった部屋は、どうやら寝室だ。

ベットだけがある中、そこに誰かがいる。

少女について行くがままだった僕らは、やがて足を止めた。

そこには一人の女性がいた。

眠っていたようだが、うっすらと目が開けられる。

そうして彼女は小さく微笑んだ。

「おかえりリル、今日は早かったじゃない。また汚れてない?」

一目で優しい人だとわかる話し方だ。

しかしその声にも力が入っておらず、見るからに健康ではなさそうだ。顔色も悪い、唇も薄く、起き上がれるのような体ではないだろう。

そんな彼女の隣の椅子に座るリルは、先ほどの気の強い姿はどこえやらの様子だ。

「これって…」

フィリナが僕にだけ聞こえる声で呟く。

それを僕は小さく頷いた。

おそらくこの人のために、リルは薬が欲しいのだ。

でも売っているのは買えないのだろう。

かといって壁外に行くのには無理がある。

だからクエスト。

「そんなに軽いクエストじゃ、なかったみたいだ…」

その呟きに、フィリナはこくりと頷いた。

 

 

 

「でも、壁外だなんて。良いのかな、私たちだけで行っても」

「まぁ、任したのはマテリアルだし…」

正直言って未知の世界。

話によれば、壁の外にはモンスターがいるとか何とかと聞いたことがある。

正直ものすごく嫌な予感はするが、少女の頼みを断るわけにもいかないし…

「それにしても、ホントに大丈夫なのかっ?」

その時、その問題の少女にジトッとした目で見つめられる。

「なんか弱そうだし、頼り無さそうだし」

「あ、あはは…」

確かに、ヒョロッこい僕なんか頼りないよな…

「まあまあ。こう見えても、このお兄ちゃんやる時はやるのよ〜」

「ほう。フィリナちゃんが言うんだったらそうなのか?」

「無駄にハードル上げないでよ…」

どうやらフィリナには懐いた様子に、僕はうなだれていると、気づけば壁の前だ。

「じゃあ、君は家で待っていてね」

「リルでいい」

「あ、そう?じゃあリル。多分夕方には戻れる、はずだから…」

「夕方?そんなにかかるのか?」

「お、大きく見積もってだよっ」

まさか初めて来た、だなんて言えるわけないし…

フィリナに視線を送る。ポタリと汗が流れた。

フィリナも表情が硬い中こくりと頷く。

「…いくよ」

「うん…」

フィリナと同時に息を吸い、同時に踏み出す。

「頼んだぞー!!」

リルの声に一度振り返り手を振った後、一瞬で前を向く。

ばくばくと心臓がいう中、僕達は早足で進みだした。

「えっと、シラユリの花ってどこにあるの?」

「大概は洞窟って聞くけど…」

周りをキョロキョロ見渡しながら歩く。というかほぼ小走りに近い早歩き。

今まで一緒にやってきただけあって、足の動きもスピードも息ぴったりで進んでいく。

僅かな音でもビクビクしながら歩く。

そんな時、ふとフィリナが立ち止まった。

「っ? ど、どうかした…?」

完全に怯えながら尋ねた僕に、フィリナは顔を向ける。

その顔は眉がより、顔色も悪い。

「ねぇ、何か聞こえなかった…?」

「な、何かって…。もしや…」

 

ガサガサガサッ

 

「「ひいぃぃぃ!?」」

草が揺れた。

僕たちは高速で後ずさりし、その揺れた草を眺める。

ガサガサガサッ

「「!?」」

その時何かが飛び出した。

それは…

 

「「う、ウサギ…?」」

 

いたって普通の可愛らしいウサギが、僕たちの前を走り去っていった…。

僕たちは大きく息を吐く。

「もぉなんだ。ビックリさせない…」

 

 

『グルァアアアアアアアアアアッッ!!』

「「ぎゃぁああああああああああ!?」」

 

 

不意打ちなんて卑怯だぞ!?

いきなり現れたのは、巨大な熊だ。

何だかただの熊じゃなさそうで、普通のよりでかいし、額に何か玉がついている。おそらくこれがモンスター。

ってそんなの見てる場合じゃないよ!?

「い、行こうフィリナ!!」

「う、うん…!!」

まず勝てない、勝てるわけがない。

フィリナの手を掴み、全速力で逃げる。

明らかに後ろから追いかけてくる相手に、狭い道を通り逃げる逃げる逃げる。

「ってサク…!今場所わかってる!?」

「へ!?あぁああ!!」

フィリナの指摘で気づく、やばいわかんない!?戻らなきゃ…!いやでも後ろにはモンスターがっ、今そんな余裕ないし…!?

パニックになりながら、とにかく逃げるしかできない。

でもこのままじゃ…っ

「うわっ!?」

「へ、フィリナ…ってうわぁああ!?」

手に重みが増したので振り返ろうとした時、更に重みが増し、体制が崩れる。

どうやらフィリナは足を滑らせたらしい。結構急な下り坂を転がる。ほとんど衝撃は転落に近かった。

やっと止まった体はあちこちが痛い。

まわりは静かで、鳥の鳴き声が響くだけだ。

「うぅ…、イッタ…」

フラフラと上半身を起こし、頭を抑える。

ぼんやりする頭を振る。どうやら額から血が出ているようだ。

「ふぃ、フィリナは…っ」

辺りを見渡すと、いた。

急いで駆け寄って、倒れているフィリナの肩を揺すった。

「フィリナ!フィリナ!」

「う…ん…」

薄く瞼を開いたフィリナは、次に「いたっ」と顔を歪めた。

「大丈夫!?」

「大丈夫、じゃあないよね。ていうかサクも血、出てるし」

苦笑いのつもりが、それすらも出来ないでいると、フィリナが「ん?」と足を見つめた。

「どうかした?」

「まずい…。サク。私足が、折れてるかも…」

「えぇっ!?」

本当にまずい!?

外に出てこんなすぐにこんなことになるなんて…っ。

どうする。フィリナを背負うのは簡単だ。でもここの場所がわからないっ。誰か通ったりしないのかっ?いや、その可能性は低いし、それより先にモンスターが来て…

『グルァアアア…』

「「っ!?」」

ドシンと音がした。

喉のなる声、現れる大きな体。

「匂いを、辿ってきたんだ…」

心臓の音も聞こえない。やばい…

”殺される”

「サク逃げて…っ」

「じゃ、じゃあ背中に…っ」

「私なんて背負ったら逃げれるのも逃げられない!」

歯をくいしばる。

大熊のモンスターが近づいてくる中、僕は手を握りしめる。

「また、そうやって君は…っ」

「サク…?」

「まだわからないのか!!あの時も…っ、君はいつも自分勝手だっ。嫌に決まってるだろ!逃げろ?嫌だね!絶対嫌だ!!僕は絶対…っ、逃げたりしない!!」

飛び出す。

「サク!!」

あの時もそうだ。4年前も、そうやって自分のことなんかどうでもいいみたいに…っ。

なんで、何でそんなに死を受け入れているんだよ…!?

 

 

炎を纏う。

 

 

僕が走り出すと同時に、大熊も向かってきた。

今の僕は、自分の武器なんか持っていない。

本物の剣でなんてまだ一年後の訓練だ。

でも今回はクエストとだけあって片手剣を持っている。

いいものとは言えないけど、心強いことはある。

炎を剣に集中させ、膨張させる。

大量の汗をかく。

慣れてないんだよなこれ…っ

間合いが約3Mで、ディメントを解き放つ。

しっかり攻撃は当たった。

けど…

「きいてない…っ」

「威力が弱いのか…!」

『グルァアアアアアアッッ!』

「うわぁっ」

振り下ろされたヒヅメを転がり避ける。

それでもまだ攻撃してくる相手に焦りが増してきた。

「やばい…っ」

今自分は、せいぜい炎を出せても三回。ていうかもうだいぶキツイ…。

今は炎を収めている中で、慣れない中剣を振り回す。

やっぱ、無理…っ!?

一歩、後ずさる。

その時

 

 

「こらサクーーーーっ!!」

 

 

「むぐ!?」

後ろから声が響き渡り、反射的に前に出る。

「さっき言ってたことは口だけかー!」

「そ、そんなこと言われた…って!?」

攻撃を危うく弾き損ねそうになり声を上げる。

「勝手なのはどっちだ!何が何もわかってないだ?そんなこと、わかってるに決まってるだろ!!ただ、私にはもう…」

「っ!? フィリナ!?うお…っ!」

「とにかく!一人で戦うな!私だってディメンターだ!足が動かなくったって戦える!」

「ーっ」

前言撤回、あの時と同じなんかじゃない…!

 

今は、力がある。

 

「わかった、頼む!」

一旦間合いを置き、横へ駆け出す。

大熊も僕を追って横へ…

「今!」

「はぁああ!!」

フィリナが地面に手を当てる。

瞬間地面が、突き出す。

大熊のいる場所だけの地面が

それと同時に、一瞬で方向転換。

上へ放り上げられた大熊に向かって

炎を食らわす。

地面へ着地し、荒い息遣いをする。

「倒した?」

「いや、まだ弱い…」

大熊が立ち上がる。

「フィリナ!大熊の全方位に壁!」

「りょ、了解!」

次に地面で大熊は囲われる。

しかし

『グルァアアアアアアッッ!』

破壊される。

「うそ…っ!?」

「くーっ」

迫ってくる大熊に、僕は剣を構える。

いや、駄目だ。受け止めきれない。

でも、避けられない…!?

その時、再び地面が飛び出し、今度は僕を上にあげた。

大熊は勢いをつけたまま、その壁に衝突。

「うわっ」

地面が揺れ、バランスを崩しそうになった。

「た、助かった!」

「おうよ!」

大熊は、結構強くぶつけたのだろう。ダメージはあるようだ。

もう一度!

飛び降りると同時に炎を纏う。

「はぁああああああ!!」

三度目の攻撃。

「はいった!」

「くーっ」

フィリナが声を上げる中、サクは膝をつく。

ほぼ連続でディメントを使うと、想像以上にキツイ…。

もう、動けないぞ。

どうだ、やったか。

お願いだから倒れててくれ。

『グルァアアア…』

「「っ!?」」

嘘、だろ…

完全な力負け、やばい、もう動けない…。

「サク!」

大熊が近づいてくる。

傷はおっているが、どうやら機嫌を悪くした程度だったようだ。

終わるのか…?

もう二Mもない間合い。体も動かない。

フィリナの叫び声が聞こえる。

フィリナ…。

彼女だけは、彼女だけは…

「っ!!」

どうしてでも!!

炎を纏う。

「な!?これ以上やったら!!」

フィリナの悲鳴が聞こえる。

でも僕は炎を放った。

四度目の爆発。

限界までフィリナが目を見開く。

サクは、その場に倒れこんだ。

立ち込める煙。

「サク…、サク!!」

足を引きずりながら、フィリナは前に進もうとする。

でも、間に合わない。

大熊は、まだ倒れていない。

モンスターは、大きくヒヅメを振り上げた。

「やめてぇええええええ!!」

振り下ろされる。

 

 

その時

 

 

大熊の腕が舞い上がった。

「え…」

振り下ろされたはずのヒヅメが、宙を舞っている。

大熊の腕が綺麗に切られている。

「うそ…」

フィリナは目をあらん限り見開き、固まる。

『グルァアアアアアアッッ!?』

もがく大熊、そしてその前には意識を失ったサク。

 

 

そして金髪の三つ編み。

 

 

「頑張ったね。もう、大丈夫」

こちらは向かずにそう言った少女は、次の瞬間、地を蹴った。

「…っ。速い…!」

一瞬で間合いを詰めた少女は、相手が動くことも許さず。

 

 

切り刻んだ。

 

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