ディメント   作:もやしメンタル

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第30話《別れ》

瞬きする暇もなく、相手はバラバラになる。

ものすごく残虐なのに、美しいと感じてしまうほど見事だった。

剣を鞘に収めた少女は、こちらを振り返る。

唖然としていたフィリナは、我に帰りバッと頭を下げた。

「あ、ありがとう!助けてくれて…っ」

「いいよ、無事でよかった」

鈴のように透き通った声でそう言われ、顔を上げる。

彼女は、自分たちと同じくらいに見える。

大きな瞳はサファイヤのようで、肌は透き通るように白い。サラサラとした金髪を三つ編みでまとめている。

綺麗だ。

三秒ほどの間でそんなことを考えたが、すぐに正気に戻る。

彼に目を向ける。

「あの…っ、サクは…!?」

「サク?」

「あ、えっと…っ。今あなたが頭を撫でている子で…ってなんで撫でてるの!?」

「気持ちよかったから」

「理由になってないし!いいから離れ…いっ!」

やっぱり骨折しているのか、どうしても足が痛い。

そんなフィリナに、少女は歩み寄った。

「あの子は大丈夫みたいだったよ。あなたも怪我してるの?」

「えっと、足が…」

「見せて」

右足首辺りを触れられる。とても優しく、痛みはない。

「骨は、折れてないみたい。捻ったのか、打撲か」

「えっ、そうなの?」

「うん」

「はぁあ…。なんだ、よかったぁ」

骨が折れていたら、サクを運べない。

この子は大丈夫っていったけど、それは命に別条はないということで、別に無傷じゃないんだ。

「でも、まだ立てないと思うよ。結構強くぶつけたみたいだから」

「え、嘘!?ど、どうしよう。それじゃあサクを…ってあぁあ!まず道がわからないんだった!」

アタフタするフィリナをボーッと見つめていた少女は、小首を傾げた。

「私、今から帰るとこだけど…」

「おーここにおったか、まったく、勝手に走り出しおって」

「え?」

その時、太い声が響いた。

振り返ると、そこには…

「また大熊!?」

「ん?誰が大熊だって?わしはジンラスだ」

「えっ、あ。すみません…!?」

「ジンラス」

フィリナが頭をさげる中、少女は口を開く。どうやら知り合いのようだ。

「この人達を、街まで送りたいんだけど」

「見たとこ、どちらも歩けそうにないな。わかった、送ろう」

「えっ、いいんですか!?ありがとうござい…わぁあ!?」

お礼を言う前に右腕でヒョイと担がれる。サクも左腕で持ち上げられた。

「じゃあ、行くか」

「すみませんジンラスさん。それに…えっと?」

金髪の少女に視線を送る。

彼女は初めよくわからなかったようだが、すぐに理解し右手を差し出してきた。

「私は、セフィア・カルヴァート」

「そっか。よろしくセフィア。私はフィリナ・ティネル」

左手で握り返す。

何だかとても良い人だとわかった。

この子になら、セフィアになら任せても良いだろう。

「ではいいか?」

「はい、お願い…ってぁあ!!」

そこで思い出す。ここへ来た理由を…

「あ、あのっ。本当に図々しいんですけど、お願いが…っ」

「「?」」

 

* * *

 

「ほう。ならばお前たちは派閥に入っていないのか」

「はい。まだ見習いで…」

運ばれながら事情を説明し、無事に?シラユリの花を持って帰ることができた。

そうして、色々と話をしていると、気づけば街が見えてきた。

とても懐かしく感じ、つい涙が出そうになる。

「? フィリナどうしたの?」

「ゔゔ、だんでぼだい…っ」

「がっはっは!全然なんでもなくないな」

フィリナの足には治療がされてある。運ぶ前にジンラスがしてくれたのだ。

それのおかげで、何とか立てるようになっていた。

壁に入ったところで下ろしてもらう。

「本当にいいの?マテリアルまで送ってくのに」

「ううん。まだクエストが残ってるから」

帰り道の間にすっかり仲良くなったセフィアは、その整った眉を下げて訪ねてくるが、フィリナはそう言って笑った。

「こらセフィア。お前はそんなこと言ってる場合じゃないだろう。今から用があるんだろ?」

「あ、そうだった」

「え?用って?」

「ああ、まぁ仕事だ仕事。ほれっ、さっさと行かんか」

ジンラスに背を押され、またセフィアは眉を下げる。

そんな彼女にフィリナは微笑んだ。

「ありがとねセフィア、あなたは命の恩人だよ。またいつか、今度は同じ立場で会えたらいいねっ」

「フィリナ…。私、あなたの力にいつでもなるから」

ほんの少し照れくさがりながら言うセフィアに、フィリナはクスッと笑い。「じゃあ〜」と顎に手を添え、視線をセフィアから外し、赤髪の少年を見つめた。

「じゃあ、もしまたサクに会ったら、サクが危険な目にあっていたら、助けてやってくれないかな」

「この子を?」

「うん。私の、一番大切な人なんだ」

「…わかった。約束する」

優しく微笑んだセフィアは、またジンラスに急かされ行ってしまった。

その背中を見つめ、フィリナは手を振り続けた。

「本当にありがとうございました。じゃあ、ここからは私がサク持ちますから」

「ん?大丈夫か?」

「はい。訓練してますので!」

そうしてジンラスは頷き、サクを下ろそうとした。

「う…ん…」

その時、ジンラスに担がれていたサクが、うっすらと瞼を開いた。

「あ!サク!!」

「ん?フィリ、ナ…?」

「お、これはたまげた。起きたのか」

そのあとは、サクがジンラスに驚いたり、今の状況についていけてなかったりと、バタバタしたが、何とか説明し、ジンラスとはここで別れることになった。

「では、またいつかな」

「はい。また」

手を振り、ジンラスを見送り、何とか立てるようになったサクと二人でリルの家に向かった。

「それで、僕たちを助けてくれたのは?」

「えっとねー。金髪美少女!」

「大まかすぎない?」

「だって、言ったってわかんないじゃん!」

 

* * *

 

リルの家に着き。僕たちは大きく息を吐いた。

途中から意識がなかったけど、フィリナ曰く、金髪美少女が助けてくれて助かった…。

そんなことを思いながら、すでに薬にしてもらったシラユリを持ち、僕はドアを叩いた。

「リル、帰った…」

「すぐに来て!!」

言い切る前に勢いよくドアが開き、リルがそう言って中に入っていった。

顔色が悪いようだったし、必死だった。

何かあったのか…?

フィリナと顔を見合わせ、頷き、僕らは中へ入った。

 

 

「これ、は…」

声が漏れる。

そこは寝室だ。

はじめに来た時と同じように、リルの母親が寝ている。

しかし、様子がおかしい。

「リルちゃん。これは一体!?」

「わかんない!急になったんだ!」

涙を浮かべるリルの前にいる母親は、呼吸が荒く、大量の汗をかいている。

心臓の辺りを押さえ、苦しそうだ。

「サク、フィリナ!お母さんを!」

そんな声に正気に戻る。

フィリナはこちらを向いている。顔色が悪い。

おそらく、死んでしまった両親を思い出してしまったのだろうか。

フィリナの両親は、病死だったのだ。

ここは、僕がやらなきゃ駄目だ…!

「フィリナは医者を呼んできて!さっきの薬屋の隣にあったはずだ!僕はその間やれることをしとく!」

「わ、わかった…!」

フィリナは頷き、走り出す。それと同時に僕は薬を取り出し、リルに水やタオルを頼んだりと、応急処置を施した。

 

 

でも…

 

 

「申し訳、ありませんでした…」

 

 

間に合わなかった。

いや、早く治療しても、助からなかっただろうと告げられた。

きてくれた医者はそうして深々と頭をさげる。

 

最後まで、リルの母親は、リルの母親だった。

「お母さん!!」

リルが泣き叫ぶ。

そんな少女の手を、意識が薄まる中、母親は握りしめていた。

「リ、ル…。ここに、いる…?」

「うん、いるよ!ここにいるよ!!」

「そう…。リル…」

「何!?」

「お父さんと、離れ、ばなれにして…、ごめんね…」

リルの母親は、顔を歪め、涙を流す。

それにリルも泣き叫ぶ。

「そんなのいいよ!お母さんがいればいいもん!行かないでよ!一人は嫌だ!!」

僕の隣には、すぐ隣にはフィリナがいる。触れ合う肩が揺れていた。

見ると口を両手で押さえ、見開いた瞳は固まっていた。

「リル…、一人でも…ご飯、ちゃんと…食べるの、よ…」

「嫌だ!お母さん!!」

「友達とは、仲良く…するのよ…」

「そんなの聞きたくないよ…っ!!」

次から次に、リルの瞳から涙が溢れ出す。

医者は手を止めた。

瞳を閉じる。

「っ!?ねぇなんでやめるの!?治してよ!お母さんを助けてよ!サク!フィリナ!」

何も言えない。

只々僕らは歯を食いしばり俯向くだけだ。

「リル…」

母親がリルと握る手を僅かに強めた気がした。

涙を流し続けながら、彼女は最後にこう言った。

 

 

「リル、大好き…」

 

 

* * *

 

今日は満月なようで、優しい光が僕たちを照らしている。

あの夜に見た桜の木とは違い、フィリナと出会った日に見たように、桜が満開になっていた。

あれから、いろいろ、本当にいろいろあって、僕らはリルと別れることになった。

何も言えず、只々頭をさげる僕らに、リルは最後に、真っ赤になった瞳のまま、かすれた声で、「ありがとう」と、言っていた。

先ほどから一言も話さない中、呆然と桜を見つめる。

でも、寄せ合っている肩だけは、離れない。

繋いだ手は離さない。

「リル、大丈夫かな」

フィリナがそう、ポツリとつぶやいた。それに僕は前を見据える。

「マテリアルが、いろいろ手助けしてくれるみたいだし、なによりリルの目には力があった。なんとかやっていけるよ。母親も、それを望んでた」

話す中、握る手が僅かに強まった。

「…ねぇ、サク」

「うん」

「私、失うのが怖い」

「うん」

「もう、あんな思いはしないって、思ってたの」

「…うん」

あんなとは、両親のことだろう。

いつも明るいフィリナだが、相当辛いに決まっている、と思う。

両親を知らない僕なんか、わかるわけないけど。

でも、これだけは伝えたかった。

 

「僕は、消えないよ」

 

「サク…」

「君と、フィリナと同じ景色を見ていきたいんだ。フィリナの力になりたいんだ。あの時に言った言葉は、本気だから」

僕は言った、四年前に、この場所で…

 

 

君のために進むと

 

 

「ずっと一緒にいる。僕は…」

今まで言うのを恐れていた、何かを失いそうで、怖かったんだ。

でも、今なら言える。

 

 

 

 

「君が好きだ」

 

 

 

 

「ーっ」

フィリナの瞳が見開かれる。

そして光るものがあった。

涙が、月明かりに照らされている。

フィリナは、泣いていた。

今日一日、いや、今までずっと、堪えていたんだろう。

一気に溢れ出す。

そんな彼女の小さな肩を、僕は引き寄せ

 

 

抱きしめた。

 

 

「サク…っ、私もね…。サクが大好きだよ」

「うん」

「ずっと一緒にいたいよ…っ」

「うん」

「サク…」

フィリナが顔を上げる。至近距離で見つめ合う僕らは

 

 

 

 

唇を、合わせていた。

 

 

 

 

さっき言って気づいたんだ。

今まで僕が何を思っていたのか。

そうか、そうだったんだ。

僕はただ、フィリナに救われたとか、そんなことで今まで一緒にいたわけじゃない。

恋をしていたんだ。

単純なことだったんだ。

知らなかった。

人を好きになるって…

 

 

 

 

 

とても、暖かいんだ。

 

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