瞬きする暇もなく、相手はバラバラになる。
ものすごく残虐なのに、美しいと感じてしまうほど見事だった。
剣を鞘に収めた少女は、こちらを振り返る。
唖然としていたフィリナは、我に帰りバッと頭を下げた。
「あ、ありがとう!助けてくれて…っ」
「いいよ、無事でよかった」
鈴のように透き通った声でそう言われ、顔を上げる。
彼女は、自分たちと同じくらいに見える。
大きな瞳はサファイヤのようで、肌は透き通るように白い。サラサラとした金髪を三つ編みでまとめている。
綺麗だ。
三秒ほどの間でそんなことを考えたが、すぐに正気に戻る。
彼に目を向ける。
「あの…っ、サクは…!?」
「サク?」
「あ、えっと…っ。今あなたが頭を撫でている子で…ってなんで撫でてるの!?」
「気持ちよかったから」
「理由になってないし!いいから離れ…いっ!」
やっぱり骨折しているのか、どうしても足が痛い。
そんなフィリナに、少女は歩み寄った。
「あの子は大丈夫みたいだったよ。あなたも怪我してるの?」
「えっと、足が…」
「見せて」
右足首辺りを触れられる。とても優しく、痛みはない。
「骨は、折れてないみたい。捻ったのか、打撲か」
「えっ、そうなの?」
「うん」
「はぁあ…。なんだ、よかったぁ」
骨が折れていたら、サクを運べない。
この子は大丈夫っていったけど、それは命に別条はないということで、別に無傷じゃないんだ。
「でも、まだ立てないと思うよ。結構強くぶつけたみたいだから」
「え、嘘!?ど、どうしよう。それじゃあサクを…ってあぁあ!まず道がわからないんだった!」
アタフタするフィリナをボーッと見つめていた少女は、小首を傾げた。
「私、今から帰るとこだけど…」
「おーここにおったか、まったく、勝手に走り出しおって」
「え?」
その時、太い声が響いた。
振り返ると、そこには…
「また大熊!?」
「ん?誰が大熊だって?わしはジンラスだ」
「えっ、あ。すみません…!?」
「ジンラス」
フィリナが頭をさげる中、少女は口を開く。どうやら知り合いのようだ。
「この人達を、街まで送りたいんだけど」
「見たとこ、どちらも歩けそうにないな。わかった、送ろう」
「えっ、いいんですか!?ありがとうござい…わぁあ!?」
お礼を言う前に右腕でヒョイと担がれる。サクも左腕で持ち上げられた。
「じゃあ、行くか」
「すみませんジンラスさん。それに…えっと?」
金髪の少女に視線を送る。
彼女は初めよくわからなかったようだが、すぐに理解し右手を差し出してきた。
「私は、セフィア・カルヴァート」
「そっか。よろしくセフィア。私はフィリナ・ティネル」
左手で握り返す。
何だかとても良い人だとわかった。
この子になら、セフィアになら任せても良いだろう。
「ではいいか?」
「はい、お願い…ってぁあ!!」
そこで思い出す。ここへ来た理由を…
「あ、あのっ。本当に図々しいんですけど、お願いが…っ」
「「?」」
* * *
「ほう。ならばお前たちは派閥に入っていないのか」
「はい。まだ見習いで…」
運ばれながら事情を説明し、無事に?シラユリの花を持って帰ることができた。
そうして、色々と話をしていると、気づけば街が見えてきた。
とても懐かしく感じ、つい涙が出そうになる。
「? フィリナどうしたの?」
「ゔゔ、だんでぼだい…っ」
「がっはっは!全然なんでもなくないな」
フィリナの足には治療がされてある。運ぶ前にジンラスがしてくれたのだ。
それのおかげで、何とか立てるようになっていた。
壁に入ったところで下ろしてもらう。
「本当にいいの?マテリアルまで送ってくのに」
「ううん。まだクエストが残ってるから」
帰り道の間にすっかり仲良くなったセフィアは、その整った眉を下げて訪ねてくるが、フィリナはそう言って笑った。
「こらセフィア。お前はそんなこと言ってる場合じゃないだろう。今から用があるんだろ?」
「あ、そうだった」
「え?用って?」
「ああ、まぁ仕事だ仕事。ほれっ、さっさと行かんか」
ジンラスに背を押され、またセフィアは眉を下げる。
そんな彼女にフィリナは微笑んだ。
「ありがとねセフィア、あなたは命の恩人だよ。またいつか、今度は同じ立場で会えたらいいねっ」
「フィリナ…。私、あなたの力にいつでもなるから」
ほんの少し照れくさがりながら言うセフィアに、フィリナはクスッと笑い。「じゃあ〜」と顎に手を添え、視線をセフィアから外し、赤髪の少年を見つめた。
「じゃあ、もしまたサクに会ったら、サクが危険な目にあっていたら、助けてやってくれないかな」
「この子を?」
「うん。私の、一番大切な人なんだ」
「…わかった。約束する」
優しく微笑んだセフィアは、またジンラスに急かされ行ってしまった。
その背中を見つめ、フィリナは手を振り続けた。
「本当にありがとうございました。じゃあ、ここからは私がサク持ちますから」
「ん?大丈夫か?」
「はい。訓練してますので!」
そうしてジンラスは頷き、サクを下ろそうとした。
「う…ん…」
その時、ジンラスに担がれていたサクが、うっすらと瞼を開いた。
「あ!サク!!」
「ん?フィリ、ナ…?」
「お、これはたまげた。起きたのか」
そのあとは、サクがジンラスに驚いたり、今の状況についていけてなかったりと、バタバタしたが、何とか説明し、ジンラスとはここで別れることになった。
「では、またいつかな」
「はい。また」
手を振り、ジンラスを見送り、何とか立てるようになったサクと二人でリルの家に向かった。
「それで、僕たちを助けてくれたのは?」
「えっとねー。金髪美少女!」
「大まかすぎない?」
「だって、言ったってわかんないじゃん!」
* * *
リルの家に着き。僕たちは大きく息を吐いた。
途中から意識がなかったけど、フィリナ曰く、金髪美少女が助けてくれて助かった…。
そんなことを思いながら、すでに薬にしてもらったシラユリを持ち、僕はドアを叩いた。
「リル、帰った…」
「すぐに来て!!」
言い切る前に勢いよくドアが開き、リルがそう言って中に入っていった。
顔色が悪いようだったし、必死だった。
何かあったのか…?
フィリナと顔を見合わせ、頷き、僕らは中へ入った。
「これ、は…」
声が漏れる。
そこは寝室だ。
はじめに来た時と同じように、リルの母親が寝ている。
しかし、様子がおかしい。
「リルちゃん。これは一体!?」
「わかんない!急になったんだ!」
涙を浮かべるリルの前にいる母親は、呼吸が荒く、大量の汗をかいている。
心臓の辺りを押さえ、苦しそうだ。
「サク、フィリナ!お母さんを!」
そんな声に正気に戻る。
フィリナはこちらを向いている。顔色が悪い。
おそらく、死んでしまった両親を思い出してしまったのだろうか。
フィリナの両親は、病死だったのだ。
ここは、僕がやらなきゃ駄目だ…!
「フィリナは医者を呼んできて!さっきの薬屋の隣にあったはずだ!僕はその間やれることをしとく!」
「わ、わかった…!」
フィリナは頷き、走り出す。それと同時に僕は薬を取り出し、リルに水やタオルを頼んだりと、応急処置を施した。
でも…
「申し訳、ありませんでした…」
間に合わなかった。
いや、早く治療しても、助からなかっただろうと告げられた。
きてくれた医者はそうして深々と頭をさげる。
最後まで、リルの母親は、リルの母親だった。
「お母さん!!」
リルが泣き叫ぶ。
そんな少女の手を、意識が薄まる中、母親は握りしめていた。
「リ、ル…。ここに、いる…?」
「うん、いるよ!ここにいるよ!!」
「そう…。リル…」
「何!?」
「お父さんと、離れ、ばなれにして…、ごめんね…」
リルの母親は、顔を歪め、涙を流す。
それにリルも泣き叫ぶ。
「そんなのいいよ!お母さんがいればいいもん!行かないでよ!一人は嫌だ!!」
僕の隣には、すぐ隣にはフィリナがいる。触れ合う肩が揺れていた。
見ると口を両手で押さえ、見開いた瞳は固まっていた。
「リル…、一人でも…ご飯、ちゃんと…食べるの、よ…」
「嫌だ!お母さん!!」
「友達とは、仲良く…するのよ…」
「そんなの聞きたくないよ…っ!!」
次から次に、リルの瞳から涙が溢れ出す。
医者は手を止めた。
瞳を閉じる。
「っ!?ねぇなんでやめるの!?治してよ!お母さんを助けてよ!サク!フィリナ!」
何も言えない。
只々僕らは歯を食いしばり俯向くだけだ。
「リル…」
母親がリルと握る手を僅かに強めた気がした。
涙を流し続けながら、彼女は最後にこう言った。
「リル、大好き…」
* * *
今日は満月なようで、優しい光が僕たちを照らしている。
あの夜に見た桜の木とは違い、フィリナと出会った日に見たように、桜が満開になっていた。
あれから、いろいろ、本当にいろいろあって、僕らはリルと別れることになった。
何も言えず、只々頭をさげる僕らに、リルは最後に、真っ赤になった瞳のまま、かすれた声で、「ありがとう」と、言っていた。
先ほどから一言も話さない中、呆然と桜を見つめる。
でも、寄せ合っている肩だけは、離れない。
繋いだ手は離さない。
「リル、大丈夫かな」
フィリナがそう、ポツリとつぶやいた。それに僕は前を見据える。
「マテリアルが、いろいろ手助けしてくれるみたいだし、なによりリルの目には力があった。なんとかやっていけるよ。母親も、それを望んでた」
話す中、握る手が僅かに強まった。
「…ねぇ、サク」
「うん」
「私、失うのが怖い」
「うん」
「もう、あんな思いはしないって、思ってたの」
「…うん」
あんなとは、両親のことだろう。
いつも明るいフィリナだが、相当辛いに決まっている、と思う。
両親を知らない僕なんか、わかるわけないけど。
でも、これだけは伝えたかった。
「僕は、消えないよ」
「サク…」
「君と、フィリナと同じ景色を見ていきたいんだ。フィリナの力になりたいんだ。あの時に言った言葉は、本気だから」
僕は言った、四年前に、この場所で…
君のために進むと
「ずっと一緒にいる。僕は…」
今まで言うのを恐れていた、何かを失いそうで、怖かったんだ。
でも、今なら言える。
「君が好きだ」
「ーっ」
フィリナの瞳が見開かれる。
そして光るものがあった。
涙が、月明かりに照らされている。
フィリナは、泣いていた。
今日一日、いや、今までずっと、堪えていたんだろう。
一気に溢れ出す。
そんな彼女の小さな肩を、僕は引き寄せ
抱きしめた。
「サク…っ、私もね…。サクが大好きだよ」
「うん」
「ずっと一緒にいたいよ…っ」
「うん」
「サク…」
フィリナが顔を上げる。至近距離で見つめ合う僕らは
唇を、合わせていた。
さっき言って気づいたんだ。
今まで僕が何を思っていたのか。
そうか、そうだったんだ。
僕はただ、フィリナに救われたとか、そんなことで今まで一緒にいたわけじゃない。
恋をしていたんだ。
単純なことだったんだ。
知らなかった。
人を好きになるって…
とても、暖かいんだ。