ディメント   作:もやしメンタル

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第31話《生きる理由》

「お、おはようフィリナ」

「おはようサク」

一日の訓練が始まる前、僕達は桜の木の前で合流し(男女の宿舎の中間地点)、いっしょに行くようにいつからかなっていた。

でも、今回はな…

「もうすっかり満開だねっ」

「へ?あ、そうだね」

昨日あんな事があったけど、どうやらフィリナはいつも通りだ。

なんだか僕だけ意識してないか?

そんな時だった。

 

 

「ねぇサク。生きるのには、命と同じくらいに何が必要かわかる?」

 

 

「うん?何急に」

桜の木下、そう彼女は言う。

桜を見つめるその背中に、僕はそう尋ねる。

風が吹き、彼女の髪が揺れる。

とても綺麗な黒髪だ。

「いいから答えなさいっ」

そうイタズラっぽく笑う彼女に、僕は少し考える。

「うーん…。才能?」

「ブッブー!!」

頭の上にバツを作る彼女は、ピョンと跳ね、こちらを振り向いた。

「…じゃあ何?」

朝からテンションの高い彼女に苦笑いし、僕は尋ねた。

すると彼女は一度微笑んだ後、僕をまっすぐに見つめた。

 

 

 

「生きる理由を見つける事」

 

 

 

「え?何それ」

「ふふん!べっつにー!」

言葉の意味がわからず首をかしげる僕に、フィリナは両手を広げ、歩き出してしまった。

「早く行こっ。遅刻しちゃうよ!」

 

* * *

 

「えーっと。今回の当番は…」

それぞれが席に座る中、教官は名簿を見つめる。

「サク・バーホップと、フィリナ・ティネルだな」

「あ!もう回ってきたのか!」

当番というのは、そのままの意味、今日一日雑用やらをやる係だ。

ペアでやるもので、いつもローテーションで回ってくる。

現在は12のペアがいるのだが、回ってくるのはあっという間だ。

「じゃあ訓練を始める。全員第3ルームへ集合だ」

 

 

 

ルームとは、全部で3つあり、要は広くて何もない頑丈な部屋だ。

僕達のような下級組がこのように使ったり、僕達もあと1年経ったらする事になる実技で使ったりするらしい。

1つの建物になんでこんな部屋が作れるんだろうか、それは謎である。

噂では、これもディメントが関係してるんだとかどうとか。

「では初めはそれぞれでディメントの訓練。それから実際に色々試してみるぞ」

「え!?試すって何をですかっ?」

「あとで分かる」

それでいいのか教官…

このおじさん、いやお兄さんがいつも適当なのはよくわかってる。

「行動はあくまでペアでするように」

「「「はい」」」

それぞれが散っていく中、僕は今回試したいものがあった。

「サク!やろっ」

「うん」

場所に移動し、フィリナが地面と睨めっこする中、僕は掌と睨めっこだ。

試したい事とは

集中、集中…

バチッ

「できた!」

「? なんか今静電気でも起きた?」

「せ…っ、一応雷ですけど…」

「えぇ!?何それもしかしてポポロちゃんの言ってた新しいディメントってそれの事だったの!?」

「い、いや、これは違うっぽい。あと…っ」

ヒュー

「っ、風が起こった!」

「うん」

最近気付いてきた事だが、僕の身につけたディメントは、なにも炎を出すだけのものではなさそうなのだ。

「まだありそうだけど、今出せるのはこれだけ…」

「? サク顔色悪いよ?」

「はは…っ。出せるって言っても、今のくらい弱くだし、なにより使ったあと…」

バタンっ

「へっ?サク!?」

「めっちゃ疲れる…」

あーダメだ。もう動けない。

「うーん。という事は、サクは炎が得意だったって事か」

「そうみたい…」

これが試したかった事、1つ目。

数分経ってから起き上がった僕は、考え込む。

さっきもフィリナが言っていた通り、僕にはもう1つのディメントがある、らしい。

それをなんとかできないだろうか。

「サクのもう1つのディメントってなんだろうねー」

流石は相棒。同じ事を考えていたらしい。

「ポポロちゃ…さんは、慎重にやれって言ってたけど…。そのうち出せるのかな?」

「うーん。炎の時はどうだったの?」

「へ?ああ。あの時は無我夢中で、気付いたら…」

「そっか…。じゃあ、自分が追い込まれた時とかにできるのかもね」

「…そうだね。でもあんな思いは二度とごめんだし。なにより、この前の大熊の時も、結構ヤバかったはずだけど…」

その時、教官の集合の指示がかかり、僕達はひとまず諦める事になったのだった。

 

* * *

 

「ぷはぁー。今日のは一段ときつかったねぇ」

「そうだね…」

両手に紙の束を持ちながら、訓練を思い出し苦笑いする。

ディメント、いつも以上に使った…

ヘトヘトになりながらも、今日は当番なのだからついていない。

そんな時、ふと頭をよぎる。

「ディメント、か…」

自分にもう1つあるというディメント。

それはどんなものなのか、気になるのは当たり前ではないだろうか。

でも、どうやって…

資料を届け、踵を返す。

これで仕事は最後のはずだ。

 

 

 

 

そんな時だった

 

 

 

 

「サク・バーホップ。お迎えにあがりました」

 

 

 

「「!?」」

いきなり、本当にいきなり現れた。

慎重は180ほどの男で、トゲトゲと立った短髪は銀色だ。そしてなにより、顔に目がいく。

額から右目を通り顎まで、大きな刺青が彫られている。

模様は、蝶なのか…?

「な、なんですかあなた…っ。サクに用ですか…?」

「ではともにきて頂こう」

フィリナの質問など聞きもせず、男は

消えた。

その瞬間、景色が変わった。

先ほどまでのマテリアルはなく、1つの街、いや村がそこにあった。

「な…っ」

「どうなってるの!?」

隣にはフィリナがいる。

彼女も辺りを見渡し混乱しているようだ。

これはまさか、ディメント…?

そういえば、あの男は初めいきなり現れた、そう

まるで瞬間移動のように…

もしかして、僕ら共々ここまで一瞬で…?

「おや、用のない女まで連れてきてしまったか」

「「…っ」」

案の定、男も現れた。

嫌な汗が頬を伝う。

これは、相当にやばいんじゃないか…?

「用があるとかないとか、何なんですか。聞くからしてフィリナには用がないんですよね、だったら彼女だけでも返してください」

「な…っ、サク!」

「流石の絆ですね。まぁ、恋人となればそうなるのかな」

「こ…!?」

いきなりの発言に仰け反りそうになる。

「こ、恋人じゃないです…っ」

「? そうなのかい?昨日は口付けまで交わしていたようだが?」

「「!?」」

「フフっ、なぜそれを、という顔だね」

目を限界まで見ひらく。

どういうことだ…?

この男は昨日のことを見ていたのか…?

「昨日と言わず、ずっとさ、サク・”ティネル”」

「「!?」」

「仲間にそういうディメンターがいてね。今まで君を見てきたんだよ」

ブルリと体が震えた。

何だコイツ…ッ

「何が目的だ」

今まで以上に伝わってくる異様な気配に、汗が滴る。

掠れた声で尋ねたことに、男はニヤリと唇を釣り上げた。

「いい機会だ。己が何者なのか、教えてあげよう。こい」

瞬間

『ブモァアアアアアアアアアッッ!!』

「「!?」」

いきなり化け物が現れた。

巨大な豚、いや猪

「モンスター!?」

「フィリナ走れ!!」

突っ込んでくる。

フィリナが驚く中、僕はその手を掴んで走り出す。

あたりの建物を蹴散らし、猪は突進をかました。

僅かにかする。

「ぐ…!?」

それだけでも相当な衝撃だ。

吹き飛ぶ。

フィリナを抱きしめ、地面に背を向け、彼女を庇う。

何度も転がり、背中から壁にぶち当たった。

「かは…っ」

一瞬意識が飛ぶ。

「さあさあ。どうにかしないと、村も、あなたも、愛しの恋人も消えますよ」

「遅いと思ったら、何を遊んでんだ」

「おや、ヴォルス。いやぁ、初めに見ておきたくてね。素晴らしいショーじゃないか」

「ププッ、隊長に知れたら大目玉だね〜」

「まぁそう言うなリネ」

他の声も聞こえる。

どうやら仲間のようだ。

でもその姿を見る余裕もない。

身体中に痛みが突き抜ける。

息ができない。

ヤバイって、死ぬよこれ。

「サク!くっ、この!!」

フィリナが地面を突き上げ、モンスターを狙う。

でもダメだ、弱い。

『ブルァアアアアアアアアッッ!!』

「な!?弾かれ…きゃぁああッ!?」

「フィリ、ナ…!」

二度目の突撃に、風圧で吹き飛ぶ中、フィリナを引き寄せる。

衝撃に庇う。

「フフっ、いつまでそうしていられますかねぇ。まだまだ来ますよー」

「いい加減やめろ。死ぬぞ」

「まぁまぁそう焦らずとも」

「てかあれ、相当ヤバイやつでしょ?あれ倒せるのって、世界にどれだけいるの〜?プクク」

村には人はいるみたいだ。遠くから悲鳴が聞こえる。

薄れる意識からその声が響く。

「く…、ぅ…っ」

手をつき震える腕で上体を起こす。フィリナは…、うん大丈夫、起きてる。

「な、なんなの一体…っ」

「フィリナ。あんなのに勝てるわけない…、逃げれる?」

「……たぶん、無理」

分かりきってる答えのはずだ、何聴いてるんだよ…っ

僕が囮に…なんて、フィリナは了解するわけがない。

じゃあ、どうやって…?

「戦うしか…ないじゃないか」

立ち上がる。

ああもう。僕の人生ってなんでこうなんだろう。

生まれ変わったら、もっとマシな生き方がしたいな…。

それに、フィリナとずっと、今度は家族になんかなりたいかも。

そうすれば、こんな気持ち味合わなくて済む。

「…っ、サ…」

「あぁああああああああああッ!!」

疾走する。

今使えるのは、今戦えるのは炎のみ。

「前よりは威力上がってくれよ…っ」

炎を放つ。

「おぉ〜焼き豚〜っ」

「いや、駄目だな」

振りはらわれる。

「く…っ」

迫ってくる相手を間一髪で転がり回避し、手を突き出す。

「何度だって…!」

その時

「…!?」

一瞬だった。

猪が、飛び込んできた。

凄まじい脚力。

こんなの、避けきれ…っ

『ブルァアアアアアアアアッッ!!』

はいった。

「サク!?」

意識が、ヤバイかも…

勢いよく地面におち、何度も転がる、跳ねる。

やっと止まった後には、もう感覚がなかった。

体、動かない…。

ドンッ、ドンッと足音が響く、相手が近づいてくるのだろう。

もう、潮時かな。

『生きる理由を見つける事』

そういえば、フィリナがこんなこと言ってたっけ。

はは…っ。生きる理由、か…

僕にとってそれは、間違いなく君だったよ。

落ちこぼれで、ヘッポコで、なんの面白みもない、そんな僕に、君が光をくれたんだ。

生きる理由を教えて、いや、押し付けてくれた。

フィリナ、君だけは、お願いだから生きてくれ…

猪が前足を振り上げる。踏み潰す気か。

体は動くはずもない。

そうして僕は、目を閉じた。

 

 

 

「させるかぁあああああッッ!!」

 

 

 

「え?」

目の前には一人の少女。

その体は傷つき、ボロボロだ。

それでも立っている。

信念を持って。

その瞬間、彼女の足元に、光が浮かび上がった。

 

 

「【ラディウス】!!」

 

 

目の前に、光の壁が現れる。

猪のヒヅメと衝突する。

「これって…!?」

魔法…!?

フィリナの足元には魔法円が浮かび上がっている。

どういうことだ。

魔法は一部のものが使えるディメント。

でも、こんなのは大量の力が必要。

もともと体が弱く、平均よりもディメントが劣るフィリナがなぜ…っ

理由はどうだとしても、このままでは…!

「やめるんだフィリナ!!これ以上続けたらっ、君の体が持たない!!」

激しく衝突する中、フィリナはこちらを振り返った。

微笑むその顔は、とても穏やかだった。

 

 

 

 

「私ね。もう長くないんだ」

 

 

 

 

「……へ」

何のことか、分からなかった。

一瞬は

「長くないって、何が…?」

分かってるくせに、そう尋ねる。

彼女はなおも微笑んでいる。

「もともと私、寿命が短いことは、分かってたんだ…。そう、サクと出会う少し前に知ったの」

「…っ」

本人の口から聞いた瞬間、全身が固まるのがわかった。

「短いって、あと、どれだけ…」

掠れてうまく出ない声に、フィリナは一度瞳を閉じ、開く。

 

 

「もって、後2ヶ月…」

 

 

「!?」

頭が真っ白になる。

その時に思い出されるのは、大熊に襲われた時、彼女が言っていた不可解な言葉

 

 

『私には、もう…っ』

 

 

その瞬間、すべてを悟る。

放心する僕を見つめ、なおもフィリナは口を開く。

「でもね。そんな時サクを見つけて、何だか、なんでかわからないけど…ほっとけなかった。サクと私って、なんか似てたから…」

フィリナが一度息を吐く。

僕は座り込んだまま、目を見開き、彼女を見つめていた。

フィリナの微笑みが僅かに歪む。

「君といて、私何だかすっごく楽しかった。それから毎日君といて、分かったんだ。私は、君に恋をしていた…。サクを、好きになってたんだって…」

その瞳からは、魔法の光で輝くものがあった。

彼女は泣いていた。

「君の笑顔が増えて、私すっごく嬉しくて、何があっても、笑おうって、そう思えたんだ」

その時に思い出す。

フィリナに背が高くなったことを言われ、僕が苦笑いした後、彼女が微笑んだこと。

あの時に答えた彼女の「別に」は、きっと、変わってきた僕に対しての喜びだったんだ。

「桜の木下で、あの時サクが好きって言ってくれた時、本当に嬉しかった。それに…」

彼女から完全に微笑みが消える。

顔を歪め、歯を食いしばっている。

 

 

 

「死にたくないって、思ったんだ…っ」

 

 

 

その時、壁が破れた。

 

 

 

次に映ったのは

宙を舞う少女

飛び散る赤い、血

フィリナが、地面にドサリと倒れこんだ。

ドクドクと血が流れている。

血だまりが彼女を染める。

 

「あ、ああ…っ。あ…」

 

ぼくは、頭を抱え、地面にうずめる。

 

 

 

瞬間

 

 

 

 

何故かそこからの意識はなかった。

 

 

 

 

でも、気がつくと

 

 

 

 

 

そこには何もかも存在しなくて

 

 

 

 

 

村も、モンスターも消えていて

 

 

 

 

そしてただ残ったのは、僕と

 

 

 

 

 

僕に首を絞められる彼女だけ

 

 

 

 

 

彼女は初め、驚愕していた。信じられないと

 

 

 

 

 

でもすぐに涙を流し、微笑んで

 

 

 

僕の頬に手を当て

 

 

 

「 」

 

 

 

口を開き、一言、僕に伝えた

 

 

 

 

 

 

そして次には

 

 

 

 

 

 

消えていた。

 

 

 

 

 

今の僕には

 

 

 

 

 

 

生きる理由など、もう何もない。

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