「やっほー!すぐ会えたね同士ちゃんっ」
丘の上でしゃがみ込み、こちらを向きながら笑っている少女は、サクの予想を確信にへと変えた。
「やっぱりあの時の…」
ならば知っているだけでもあと2人いる。隊長もどこかにいるはずだ。
「なるべく傷つけるなって言われてるからさ〜。一緒に来てくれない?人殺しのサク・ティメルくーん」
ピクッと片目が歪む。
やはり過去のことは筒抜けなわけだ。
胸を張る。
「嫌だ!」
僅かな沈黙、そして次には別の声が響いた。
「おい、さっさと連れてくぞ。時間の無駄だ」
現れたのは鎧姿の大柄の人物だ。カルトラの少女の隣に立つ。
そして
「相変わらずの頑固っぷりですね」
「…っ」
来た
「お久しぶりです、サク・ティネル」
怒りがこみ上げてくるが、なんとか堪え、睨むに止まる。
今回は仮面をつけているが、まず間違いなく、あの男だ。
仮面にはあの時の顔と同じく大きな蝶が彫られている。
「自分が何者なのか、あの時から少しは分かってもらえたかな?」
ギリっと歯から音がした。
「そう、君はこの世の異物。存在を消すという明らかに人知を超えたディメントを持っているのさ。そんな君が普通に暮らしていいはずがない」
そんな言葉に、僕は初めて口を開く。
「確かに、そうかもしれない」
自分は、あの時最も愛していた人を殺した。
この力は、本当に凄まじ過ぎるものだ。
こんな自分は、ここにいていいはずがない。
下手をすれば、二の舞だってあり得る。
自分には、生きる資格、生きる意味などは…
「あるぞ!」
「あります!」
その時
思いっきり背中を叩かれる。
「うぐぃ…っ!?」
なんとか座りこまずに痛みに悶え、後ろを振り返る。
そこにはいる。
僕とともに立ち、歩き、進むものが。
生きる理由が。
再び前を見据え、スッと息を吸う。
そうしないと、涙が溢れそうだった。
あの時と比べたら、僕は強くなった。
前とは違う。
「ルーカス、シルアさん。行くよ」
* * *
「さてっ」
モンスターとの戦いが続く中、アマリアは一人丘の上に立っていた。
あたりがよく見渡せるのを確認し、胸元から首に下げていた青い石を取り出す。
この【アマリア派】、そして自らの一族の証である太陽と月のシンボルの刻まれた石は、一族に代々伝わっていたものだ。そして唯一の形見でもある。
この石にはある瞳があった。
受け継がれてきたこの石。それには不思議な力が宿されている。
それは
人の心を読む能力。
それを今、使おうとしている。
なぜなら、これで相手の隊長を見つけ出すためだ。
サク達に別れる前に言ったのだ。
相手の隊長は任せておけ、と。
しかし問題がある。
それは、この石は一族の中でも選ばれし隊長の器の中で、さらに選ばれた者しか扱えないのだ。
また、人の心を読める範囲も、使用者によって随分と異なる。つまりは成功の確率は極端に低いということ。
更にもうひとつ。
この石は一度使うと、跡形もなく割れ、消えてしまうという話だ。
力を使ってしまえば、もうこの一族唯一の形見は無くなる。
父から、母からもらった宝物が…
しかし
「だからって諦めてたまるかッ!!」
石を胸に押し当てる。
大きくゆっくりと深呼吸し、瞳を閉じる。
「すまない、力を貸してくれ。ここで一族の形残る伝統を断ち切ることになってしまうが、正直、受け継いでくれる子供が作れるかも心配だしね」
ヘヘッと笑い、手で握る。
そして唱え始める。父から教えてもらった言葉を
「【それは光、暗闇を照らす力】」
遠い記憶。父の膝の上に乗り、まるで子守唄のように語り、教えてくれていた一つの詠唱。
使う気なんてなかった詠唱。
それを今、紡ぎだす。
「【それは風、送り届け心を満たす力】」
サクはずっと、あんな苦しみに耐えていたんだ。
自分は救われてばかりで、いつも君はこちらに道を教えてくれた。
「【それは大地、全てを受け止め支える力】」
でも、今回くらい。私にも背負わせてくれよ。
今度は私が君を助ける。
たとえ、君にはもう愛しい存在がいて、決して届かないことがわかっていても。
「【それは太陽。与え、恵み、包み込む暖かさ】」
私は、君が大好きだから。
目を開く。
「【ルナ・レディアント】!」
瞬間、石が勢いよく輝き始めた。
「うぐぐぐぐぐ…!」
そして一気に何十、何百の心がアマリアへ送られてくる。
それに身を丸めながらギュッと目を閉じ、探す。
ある一人の人物の心を。
どこだ、どこだ、どこだ、どこだ…!
「うぐぎぎぎぎぎ…!!」
その時
ある場所が見えた。
洞窟だ。何かを見上げる景色が頭に送られてくる。
こいつは…っ
「プハッ、いだーーーー!!」
目をバチッと開け、大声を上げる。
瞬間
石は砕け散り、跡形もなくなった。
しかし後悔はなかった。
「仲間を守る。そのための石だ…!」
身体中から汗が噴き出し、鼻血が出てきている。
しかしアマリアはそんなこと構いなしに駆け出した。
任せろと、そうサク達に言ったんだ。
隊長として、ただ指揮を出すだけなのは、自分には性に合わないんでな!
* * *
「ぐ…っ」
「プククっ、まだまだいっくよー!」
周りがモンスターとの戦闘をする中、サク達は別のものと戦う。
シルアは次々に迫るネルの攻撃を防ぐことしかできない。
相手は腰の短刀を使わず、素手できている。
同じ一族としてのプライドだろうか…いや。
「ほれほれほーれ!」
ただ面白がっているだけだ。
「く…!」
回し蹴りを腕で防ぐが、とんでもない威力だ。
痺れが広がり、踏ん張りきれず吹き飛ぶ。
何度も地面を転がり、なんとか体制を整え、相手を見る。
間合いは広がり約10M。
少女がニコニコと笑う中、シルアはギリっと歯をくいしばる。
こいつは、私がやらなきゃ…っ
私が…っ
私が…!!
「こらー!なに熱くなってんスかっ」
「…!?」
我に帰る。
驚き、振り返ると、そこにはいるはずのないマキとユニスがいた。
あまりの驚きに体が固まってしまう。
「な、何で貴方達がここに…っ」
「え、えっと…、すみません。会った時、様子がおかしかったから、その…来てみたんですけど…」
「案の定なんかやってるじゃないっスかー!あっ、異変に気付いたのユニスっスよー」
「ふぇえ…!?マキちゃんそれ言わないでよ…っ」
相変わらずのマイペースにシルアが唖然としてしまうが、すぐに気を取り直す。
「と、とにかく戻ってください!モンスターはまだ…」
「だーかーらー!熱くなっちゃだめって言ってるじゃないスかー!」
「…え?」
「自分達も手助けするって言ってるんスよ!今絶対、一人でどうにかしようと思ってたっスよね!?だめっスよ!こういうのは、過程より結果っス!」
「ま、マキちゃんがいいこと言ってる…」
ユニスと同じ驚きもあったが、それ以上に自分の失態に気づき固まる。
初めに言われたではないか。
サクさんに「今なすべき事は」と。
「…わかりました。お願いします」
「了解っス!!」
「は、はい…っ」
「な、んだよコイツ…ッ」
「あまいわ…ッ」
巨大な片手長剣を己の大剣で防ぐが、その威力にルーカスは顔を歪める。
そんな相手に鎧を着るヴォルスは腹めがけて蹴りを食らわした。
「ぐ…ッ!?」
踏ん張り持ちこたえるが、口から血が噴き出す。
「ンなろー…ッ」
ルーカスは大剣を振り抜き、相手の長剣と激しくぶつかる。しかし
「手応えなしかよ…ッ」
「貴様の様な若造には負けん」
振り払われる。
大きく弾かれ、両手もろとも上に投げ出される中、ガラ空きの体にへと、長剣が迫る。
しかし
「若造には若造なりのフレッシュさがあるんだよ」
「!?」
現れた第三者により防がれる。
「お前、ハル!!」
「久しぶりだね」
大きめの帽子をかぶる少年がニヤリと笑う。
それにはヴォルスも驚きを見せた。
「な、なんでお前…ッ」
「事情よりも、まずはやりやしょうぜ」
「教えて差し上げましょうかサク・ティネル」
迫る細い刃物、フェンサーを、擦りながらも必死でかわすサクは相手を睨みつけた。
「何をだ…ッ」
「それはもちろん、君のディメントについてだよ」
「…ッ」
顔を狙って突き出された攻撃を弾き、ウルスラグナを横払いする。
「なんでお前が…ッ、そんなこと知ってるんだ!!」
「全ては隊長の命令さ。まぁそんなことはどうだっていい。君が2年前に体験した通り、君のディメントは触れたものの存在を消すものだ。そしてそのランクは君の上をいった。当たり前だ。なんたって君の中に眠るディメントは、世界で伝説とされてきた…」
繰り出した攻撃を受け止められ、ガチガチと押し合いながら停止する。
キッと睨みつけるサクに。仮面の男は顔を近づけ、囁く様に言う。
「ランクSのディメントなんだよ」
その言葉に一瞬の隙を突かれ足を払われる。サクは体制を崩し、倒れこんだところへ仮面の男が乗りかかり、両手を地面に押し付けられる。
「はな…ッ」
「君はもっと自分を知らなければならない。どれほど特別で、恐ろしい存在か。おそらく君を狙う者は他にも出てくるだろうね。ディメントがバレれば、だがな」
再び顔を近づけ、そう告げる仮面の男は、サクごと足元に魔法円を作り出した。
「気づいていると思うが、私のディメントは瞬間移動。ともに来てもらうよ。サク・ティネル」
「い、や…だ!!」
瞬間
「グルァアアア!!」
「ーっ」
「な!?」
モンスター、いや、巨大なトラが現れた。
仮面の男に突撃する。
しかし男は飛び退き距離をとった。
解放されたサクは瞬時に起き上がり、目の前のトラを見る。
「ファルカーさん!?」
「すまない、遅くなった」
サクが驚く中、仮面の男はじっと見つめ、腰に手を当てた。
「邪魔してくれましたね。ただじゃ起きませんよ」
「それはあなたの方じゃない?」
「!?」
その時
一気に仮面の男の周りが歪む、というより下へ下へと落ちてゆく。
男は動けない。地面へ押し付けられそうになりながら踏ん張っている。
あれは確か、重力魔法。
「クレアさん…!」
「助太刀するわ」
緑のなびく髪の毛にサクは目を見開く。
彼女は前方を見つめ、目を細めた。
「モンスターの方は、ラミス派に任せるべきだわ。向こうは大丈夫よ」
「状況はよくわからんが、敵というのは、間違い無いようだ」
目つきを変える2人に、サクはやっと我に帰りグッと手を握った。
「すみません。手を貸してください」