「重力魔法はあとどれくらいできそうだっ?」
「もって10秒もないわ…!」
ファルカーの問いにもう相当キツそうなクレアが答える。
仮面の男も流石なもので、完全に動きを抑えることができない。せいぜい動きが鈍るくらいだ。
でも、それでも十分。
「所詮はディメンターの真似事だから、あまり期待しないでね…っ」
「行くぞサク!」
「はい!」
すでにトラの姿であるファルカーさんと同時に駆け出す。
相手は笑いこそしないが、取り乱している様子はない。その細長いフェンサーを顔の横に添え、こちらの出方を窺っている。
「グルァアアアアアアッッ!!」
ファルカーさんが仕掛ける。
獰猛な刃を剥き出しにし突っ込む彼に、仮面の男は避けるのは不可能と判断したのか、そのまま迎え撃つ。
激突。
キンっと鋭い音が響き、ファルカーさんの刃と仮面の男のフェンサーが弾きあった。
せば競り合いになる中、僕はウルスラグナを握り返す。
「【スコール】!」
風のディメント。
一気に速度が増す。
そしてそれは、ランクEでは更に速度が上がっている。
思いっきり地面を蹴り飛ばす。
ここからは、体力とか、そんなこと考えていられない!
「【エクレール】!」
ウルスラグナに雷を纏う。
「はぁああああああっっ!!」
振り向いたウルスラグナは、ズガンッと音を立て相手にめり込んだ。
ただでさえこの中では1、2をいく敏捷のサクの攻撃を、クレアの重力魔法で動きを鈍くされている仮面の男が避けられるわけがない。
あたりに雷を轟かせ、仮面の男は吹き飛んだ。
そしてそれと同時にクレアの魔法が解ける。
相手は倒れたまま動く様子もなかった。
あちこちでは激しい騒音で絶えないが、サク達の周りだけが沈黙で包まれる。
「やったか…?」
ファルカーさんの言葉に、僕は汗を流した。
まだだ。いくらなんでも、アッサリとし過ぎている。
何を考えているんだ…?
瞬間
男が消えた。
「な!?」
「どうなってるの!?」
2人が慌てている中、サクはギリっと歯を食いしばった。
「やられた…!」
相手のディメント、瞬間移動。
「2人とも!周りに警戒し…」
「残念でした」
「ガ…ッッ」
「ファルカーさん!?」
バッと振り返ると、そこには
フェンサーによって貫かれた姿があった。
その後ろには仮面の男。
「お前ッ!!」
地を蹴った時にはもう遅い。
また仮面は消える。
「これって…!」
「相手のディメントはっ、瞬間移動です…!」
「な!?」
ファルカーさんをなんとか支え、地面に下ろす。
急所は免れたようだが、軽傷とは言えない。流れる血の量が不味いんじゃないか…!?
「ハァッ…ハッ…グ」
「ち、治療しないと…っ」
苦しそうな呼吸に、体から嫌な汗が流れ出す。
どうすれば…!?ま、まず血を止めないと!何で!?ふ、服だ!いや駄目だ、この血の量は服じゃとても…っ
「自分のせいで、また誰かが死にそうですね」
「…!」
息が止まる。
頭が真っ白になる。
駄目だ。相手の罠だ。のまれるな。
目の前では正気を失いつつあるからかトラから戻り、人間の姿になったファルカーさん。
血が、広がってゆく。
別に恐怖症になったはずはないのに。
それを見て、呼吸が乱れる。
「な、サク!?しっかりしなさい!」
視界が、歪んでゆく、薄れてゆく。
蘇るフィリナの姿。
血溜まりが溜まって行く光景。
「…!?ヤバ…いっ」
右手を抑える。
この感覚は、決して忘れない。
ディメントの前触れの感覚
また、暴走が起こってしまう
不味い、まずい、マズイ…っ
止めないとと思うほど呼吸が荒くなる。
「サク!?」
クレアさんの声が遠くなって行く。
暗闇に、落ちてゆく…
俯き、己の掌が、どんどん薄れてゆく…
『足元見ててもつまんないじゃん!』
「ーっ」
その時になって、なんでこの言葉を思い出すんだろう。
そうだ…前を、見ろ
そこには…
『周りのいろんなのを見るとね!キラキラで楽しいんだー!』
「サクーーーーーーーーーッッ!!」
「サクさんッッ!!」
「ルーカス、シルアさん…」
顔の力が僅かに取れる。
楽しいかはともかく、確かにキラキラだ…。
フッと体の力が取れた気がした。
自然と先程の発作は止まっていた。
僕は再び
立ち上がる。
「ネルとヴォルスはやられたか…。それに、王子様も復活してしまったな」
「サク!ファルカーは私がなんとかするわ!」
「ーっ、お願いします!」
クレアさんに大きく頷き、2人と合流する。
この2人が来てくれなければ、状況は最悪になっていただろう。
「2人とも…ありがとう」
「今更なんだよ!」
「それにまだ、終わってません!」
「ーっ。……うん」
すぐさま帰ってきた言葉に、大きく頷く。
僕にはいる。
なんど迷おうと、これだけは絶対見失うもんか。
「ルーカスさん!!」
「おうよ!」
瞬間、シルアさんが回し蹴りを繰り出し。その足に、ルーカスが乗る。
「は…ぁああああああああああッッ!!」
吹き飛ばす。
「ぐぎぎぎ…っ、く…らぇええッッ!!」
風圧に耐えながら、ルーカスが大剣を引き絞る。
しかし
相手が消える。
が、しかし!
「ふんぬ!!」
「ぐ…!?」
思いっきり蹴った空間に手応えがあった。
次には相手が姿を表す。
サクの攻撃は命中していた。
「な、ぜ…っ!?」
「もう見切った!!」
「な!?」
今までの間、ただ見てきたわけではない。
だいたい一度見たら、色々見きれるっていう特技があるんだ!たまにだけど!
「瞬間移動の直後に足の向きが変わるし、腰をちょっと落としてた!つまり移動には踏ん張りがいる!だから、正確には自分以外は瞬間移動させられるけど、自分はただ高速で動いてるだけ!以上!!」
「さ、サク…お前頭良かったのか…?」
「今日は冴えてるんだ!」
「す、凄いです…」
2人からは、実は馬鹿にされていたことに気づくが、今は落ち込まない。
相手も唖然としていたのか、仮面でわからないが、やがてフェンサーを構えた。
ふーん!と胸を張り相手を指差す。
「もうディメントは効かないぞ!」
駆け出す。
もう高速移動はしない気なのか、相手はフェンサーを突き出してきた。
それをウルスラグナで迎え撃ち、次には
離れる。
「はぁああああああっっ!!」
「ー!?」
瞬間、シルアが凄まじい速度で突っ込んでくる。
ドゴォオオオオンッッ!!と大きく地面が揺れる。
「破壊力凄すぎだろ!?」
ルーカスの叫び全くの同感だが、仮面は、寸前で攻撃を回避していた。
でも、これでは終わらない。
砂けむりから、シルアさんが現れ蹴りを繰り出す。
それを横に飛び込み回避した相手にルーカスが…
『グルァアアアッッ!!』
「「「!?」」」
その瞬間。現れたモンスターに目を見開く。
戦闘から抜け出してきたのだろう。
辺りを見ると、数匹いるようだ。
まずい…っ
「まずくないっスよ!!」
「…え」
マキさん!?
突如現れた彼女は、思いっきり刀を振り抜きモンスターを吹き飛ばした。
あっけにとられている僕らに、次にはハルたちがやってくる。
「ごめん、遅くなった。モンスターがウヨウヨいてさっ」
「も、モンスターは気にしないでください…!ってファルカーさん!?」
「うお!どうしたんスかファルカー!!」
「ま、まぁファルカーはこんぐらいじゃ死なないでしょ」
そう言ってオドオドしだした2人を戻すハル。
彼は最後にこちらを向き、頷いた。
「次から次へと…!」
ルーカスの大剣を受け止める仮面は、今までには無かった苛立ちを見せている。
その様子に目を見開く。
今だ…っ
「シルアさん!!」
「ーっ、はい!」
「ごめんルーカス!持ち堪えて!!」
「無茶言うなよ!?ぐわっ!」
剣を弾かれるルーカスに、すぐさま仮面が迫る。
しかし
「させん!!」
「!?、 ファルカー!!」
「もー、どうなっても知らないわよっ」
さらに2人が応戦する。
そんな中、サクとシルアは丘を駆け上っていた。
直ぐに頂上に着き、1度目を合わせる。
「お願いシルアさん!」
「はい…サクさん」
「うん?」
逸らしかけていた視線を戻すと、シルアさんは、まっすぐにこちらを見つめていた。
「頼みます」
「ーっ」
息を飲む。そして直ぐに大きく頷いた。
「はい!」
繰り出される、シルアさんの蹴り。
サクはその蹴りに乗って
突っ込む。
「〜〜〜〜っ!!」
歯を食いしばり、ウルスラグナを構える。
「みなさん!離れてください!!」
シルアさんの声に、一瞬でみんなが避難する。
仮面も高速移動しようとする中、クレアさんが両手を前に突き出す。
重力魔法。
「ぐーっ!」
相手が動けない中
僕は叫んだ。
「【フレイム・ウィンド】!!」
2年前、いやついこの前までは、何も守れない、ちっぽけなディメントだった。
でも
今は違う…!
守ってみせる!!
相手に、直撃する。
辺りが炎一色となり、激しく爆発する。
その炎は、あの頃の何倍もの威力だった。