「ハァ…ハッ…ハァ」
森の中、モンスターが現れることなど考えず、アマリアは走っていた。
一族の形見であった石で発見した相手の隊長。それはある洞窟の中だった。
そこに向かって、走り続ける。
その時
『ギギィッッ!!』
「ー!?」
戦いから抜け出してきたモンスターが突っ込んできた。
大きさはそれほどでもない。ウサギのようなモンスター。
ラビット・ザック
眷属ならばランクFでも倒せる相手だ。
しかし
「ムリだぁああああああッッ!?」
さらに速度を上げる。
『ギギギッッ!!』
「うぉわ!?」
後ろから飛びかかってきたモンスターをしゃがんで避ける。
すると相手は勢いよく木にぶつかり激しく揺れた。
「お…おぉ」
予想外の展開にアマリアは声を漏らす。
「は…ははっ。予想どーり!みたかこの…」
『ギギギッッ!』
「ギャァアアアア!?」
いきなり起き上がったモンスターに再びアマリアは駆け出した。
「洞窟はどこだ!?…ぁあ!!」
見つけた。
頭にあった風景と一致している。
そこにアマリアは突っ込んだ。
「な」
中に入った瞬間、下に地面が見つからず、急な下り坂になっていた。
「うわわわわわわわ!?」
そのまま転げおちる。
「ブゲッ!?」
やがて地面に到達し、顔から突っ込む。
そのままおかしなポーズで停止していたアマリアは、なんとか顔を上げた。
どうやらモンスターは追ってきていないようだ。
安堵を覚えつつ起き上がり、辺りを見渡す。
あの時の風景と一致している。
「ここだ…」
息を飲む
額から汗が滲んだ
その時
「やってくれたな、お前たち」
「ーっ」
バッと振り返る。
そこには、いた
「お前が…ッ」
ギリっと歯をくいしばる。
サクを苦しめてきた人物。
今まさにサクを狙っている人物。
「まさか見つけられるとは思っていなかったな」
男だ。
長身で、年齢が読めないような見た目だが、三十路は言っているだろう。たぶん…
「サクを捕まえて何しようっていうんだ!」
声を上げると、相手は無表情だった顔を変え、僅かに唇を釣り上げた。
「世界だって狙えるぞ?あの子供を利用すれば」
「ーっ」
頭に血がのぼる。手がワナワナと震える。
コイツ…ッ
「正気か!?」
「当たり前だろ。逆に聞くが、お前はあの子供の力を軽く見ていないか?」
「ーっ、そんなこと…!」
「あるな。まず知りもしない」
「そ、それはお前だって!」
アマリアの言葉にニッと口を釣り上げる男。それに彼女は目を見開いた。
「ヴォルスはディメンターだ。いかなる映像も見られる」
「ヴォルス…?」
「まぁそんな事はいい」
両手を広げる男は、さらに笑みを浮かべる。
「あの子供を使えば、なんだって思いのままだ!やつが手を伸ばせば、何もかもが無となり消え失せる!土地も、建物も、命あるものだってだ!こんな力は無い!!それがあの子供の真の…」
「何も知らないのはお前のほうだ!!」
前に踏み出す。
「あの子は…あの子は臆病で、自分に自信がなくて、なんでも自分で抱え込もうとする…。でもっ優しくて、勇気があって、努力家で…ッ。サクは私にとっての光なんだよ!!」
ビシッと相手を指差す。
「もう好きにはさせない!!」
相手の顔は、再び無表情となる。
「ほう。ならどうするというんだ?小娘1人で何ができる?」
「私もいます」
「へ…?」
そこには…
揺れる金色の三つ編み
透き通るような肌
サファイアのような瞳
「せ、セフィア・カルヴァート!?」
「どうも」
あまりの驚きに腰が抜けそうになる。
そんなアマリアに彼女は表情の乏しいながら照れ臭そうに、ペコッと頭を下げた。
「な、なぜ【ラミス派】が!?」
男も相当驚いているようだ。
そんな2人の疑問に、セフィアは俯きながら答える。
「サクの隊長さんが見えたので、つけてきました…」
「え!?…あ!だからモンスターが追いかけてこなかったんだな!あのウサギ、君が倒したんだろ!?」
「…はい」
完全に取り乱すアマリア。そして男。
彼にセフィアが視線を向けると、男はジリッと後ずさる。
そんな様子に、アマリアは下手くそな笑みを浮かべた。
「は、はっはー!どうするよ!もうあとは無いぞ!!」
子分のようなセリフを言うアマリアに、男は汗を滲ませながらも笑みを浮かべる。
「仕方ない。奥の手だ…っ」
「奥の手!?」
瞬間
辺りが激しく揺れ、ガラガラと天井から瓦礫が落ちてくる。
「おいおいおい!これヤバイんじゃないのかい!?」
慌てるアマリアの前に、セフィアは出る。
「隊長さん。下がっててください」
スッと手を横に出しアマリアを下げさせる。
「ははっ、勘はいいようだな!」
そんな中、奥へと走ってゆく男にアマリアは「な!?」と声を上げる。
「待てこの…っ」
「逃げてください」
「へ?」
瞬間
『ギェァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
この世のものと思えない絶叫が轟いた。
それと同時、天井から降ってくるものがあった。
「も、モンスター!しかも…」
尋常じゃない。
その体には目も皮膚もない。カタカタと音を立てる体は不気味で、歯が剥き出しの顔はこちらを向いている。
剥き出しの骨、ガイコツ。
全長は約30Mは超えるだろう。
洞窟はだだっ広いが、それでも迫力は物凄い。
「こ、こんなもの…っ」
初級モンスターは【ザック】、中級は【バレクス】。
しかしこれはそんなものではない。
上級モンスター
「【ボーン・ディノス】だ!」
「ここって、上級のモンスターがいるエリアだったのか!?そんな危険地帯どうやって!?」
「別にここではない。飛ばしてきたんだ」
「ーっ、瞬間移動!」
猛ダッシュしながらアマリアは叫ぶ。
そして端まで来ると、振り返った。
「こんなの、やれるのか…?」
噂では散々聞いているが、実際にセフィア・カルヴァートがどれだけの強さか知らない。
死んでしまったり、しないだろうな…
その時
風が吹く。
セフィアが突っ込んだ。
「ま、真正面から!?」
「はっ、無駄だ!」
腰から銀色の剣、【ヴァイスリッター】を引き抜き、大きく地を蹴る。
地面を爆発させ、さらに加速されるその速度は、刻印を刻まれていないものには見えもしない。
相手との距離を詰め、一気に懐へ
相手の攻撃範囲外へ入り込む。
『ギェァアアッッ!?』
モンスターは一瞬セフィアを見失ったものの、即座に反応。
セフィアが狙うのはガラ空きである肋骨。
そこ目掛け左腰から空気も吹き飛ぶような威力の斬撃を繰り出す。
しかし相手の骨が、変形する。
ガバッと開き、丸腰だったはずが、約5本の刃がセフィアに向けられる。
両者、ぶつかる。
「ぐっ!なんだ!?当たったのか!?」
辺りに広がった風圧と衝撃にアマリアは手をつく。そうしなければ、飛ばされてしまいそうだ。
大きく後ろに退いたセフィアは、その冷徹な表情をピクリとも変えず、再び地を蹴る。
しかし
『ギェァアアアアッッ』
相手が思いっきり地面を叩いた。
大きく揺れる辺りは、ビキビキと崩れる。しかしそれだけでは終わらない。
突如鋭いものが地面から乗り上げてきた。
骨だ
間一髪で避けた後も次々に飛び出してくる。
その攻撃範囲はここ洞窟一帯
恐ろしい速度でセフィアに射出される剣山が、途切れることなく次々に襲いかかる。
すでに周りには何十本もの骨の柱が立っていた。
一瞬も気を抜けない。
そんな中、セフィアは前方へ迫る。
相手の形状は人間のそれと同じ、ならば。
まずは動きを奪う。
目指すは相手の足の関節。
そこを一気に破壊しようと、状態を前に傾ける。
飛び上がる。
そんなセフィアに、モンスターは平手打ちを繰り出す。
それをセフィアは、己のヴァイスリッターでギリギリまで引きつけた腕に擦れさせる。
受け流し
そのまま勢いが乗るままに相手の腕へ着地する。
疾走
一気に駆け下り、銀のサーベルをセフィアは敵の腰を駆け抜けると同時に振り抜いた。
『ギェァア!?』
凄まじい強打に相手が崩れ落ちる。
しかし
地面からの骨は収まらない。
「ーっ」
一気に10もの骨が突き上げられた。
それをセフィアは常人離れの反射速度でそれを回避する。
しかしいくらなんでもすべては不可能だった。
激突する。
「ーかはッ」
深く溝にめり込んだそれに、セフィアは一瞬意識が飛ぶ。
口から血を吐き
吹き飛ぶ。
「ー!?カルヴァートくん!?」
なんども地面を転がり削ってゆく。
そして約30Mいったあたりで、セフィアは歯を食いしばり己の両手で地面を押し上げた。
体に急ブレーキをかけ、なんとか体制を戻す。
しかし休むことなど許さず再び骨が突き上げられ始めた。
あまりにも高速な戦いが続く。
それを飛び、転がり、避けるセフィアは、その低い体勢のまま進路を変更。
だがそこにも骨が現れる。
その瞬間、セフィアは飛んだ。
骨が限界まで伸びきったのとほぼ同時に、そこの骨の壁に足をつく。
そして
「【エアレイド】」
風が、舞い上がる。
土台にしていた骨が、砕け散った。
相手との距離、約100M
一気に疾駆する。
辺り一帯に押し寄せる風圧、轟音。
風の雄叫びをあげながら、セフィアは加速する。
『ギェァアアアアッッ!』
相手の拳と衝突する。
戦闘の最中におった額の傷から血が飛び散る。
それでもセフィアの瞳には恐怖など微塵もない。
「あぁああ…!」
初めてサクたちにあった時は、もうだいぶ派閥での活動が増えてきた頃だった。
自分は生まれた時から【ラミス派】にいて、幾度と戦いに明け暮れていた。
常に強さを求めた。
もっと、もっと強くと、仲間に止められるのも無視し、戦った。
あまりにも無茶をするからと、ジンラスがある時クエストを持ちかけてきた。あるモンスターの撃退だった。
そしてその帰り道、ふと声がした。
気づけば足がそちらに向いていた。
茂みをくぐり抜け、岩を下り、そして見たものは、血を流しながらも炎をあげ、モンスターに突っ込んで行く少年だった。
あの顔は、あの雄叫びは、心から震えた。
そしてなにより、綺麗だった。その真紅の髪が。その強い眼差しが。
到着した時には、少年は倒れていて、そしてもう1人、女の子が座り込んでいた。
その時のことは、今でも鮮明に覚えている。
年の近い子は数人いたけど、友達ではなかった。
無理もない。自分に近寄ってくるは幹部の皆だけで、誰とも繋がりが持てなかったし。なにより戦いに明け暮れる自分なんかと、誰も話さないだろう。
けれどフィリナは手を差し出してくれた。
この瞳を見ても、何の恐怖も見せず。
一筋の光が見えた気がした。
あんなに楽しい会話は初めてだった。
本当に、楽しかった。
こういうのが友達というものなのだろうか。そう思った。
彼女が笑うたびに暖かくなる。
今までモンスターと戦い続けてきた。
そんな暗闇の中の私に、冷たい世界の外から光をくれた。
そして最後に彼女は言ってくれた。
『またいつか、今度は同じ立場で会おう』と
また会おうと
骨が砕け散る。
相手の絶叫が轟く中、さらに奥へ。
狙いは相手の宝玉。
己の体も、すでに限界を迎えている。
ここで仕留めるしか道はない。
「はぁあああああっっ」
最大質量で風が舞う。
辺りが大きく揺れ、光と風が辺りに反響する。
セフィアは己の獲物に何かが当たる感触を感じた。
そして一瞬の迷いもなく突き進み。
粉砕する。
大きく飛び散るかけらを、霞む視界からボンヤリと眺めた。
私は、フィリナのお願い、絶対に守るから。
あなたは、私に本当の心をくれた。
また、会いたかった