【ラミス派】、【ヨダン派】。そしてその他の派閥の活躍により、突如現れたモンスター達を、無事止めることができたのは、サク達が決着をつけてからそうかからなかった。
そして今回の元凶であった男とその眷属3人は、今後他の国にへと送られるのだとか。
事件から一日が経った今、サクは送られる彼らのところへは行かなかった。
敵の隊長の顔も見ないまま、別の場所に足を向ける。
マテリアルの裏庭、桜の木へ
「なんにも変わってないな…」
ポツリと呟き、木を見上げる。
その時、暖かい春風が吹いた。
そう、今は桜の満開の時期だ。
美しく咲く桜は、日の光を浴び、キラキラと輝いている。その逞しい姿は、長い年月咲き続けてきたことを物語っていた。
初めて見たあの日の感動は忘れない、何度も見た景色。でも、この景色を教えてくれた少女は、フィリナは隣にいない。
「サク」
名を呼ばれた。
振り返ると、そこにはセフィアさんが立っていた。
「えっと…、なんでここに?」
正直驚く。話では、今回敵の隊長を捕らえたのはセフィアさんだという。
そのことでお礼を言わなければと思っていた矢先だ。
話によると、滅多に現れない上級モンスターと戦い、傷を負ったらしいが、見たところ大きな怪我は無さそうで安心する。
「サクの場所、マテリアルで聞いてきた」
そう言って、セフィアさんは僕から一人分距離を置き隣に立つ。
お互い所々にガーゼなどを貼っているのを見て、つい苦笑いが出た。
「ここ、いい場所だね。初めて知った」
セフィアさんが桜に視線を移し僅かに微笑む。それを聞いて僕も前に向き直った。
「……色々と苦労させられた子との思い出の場所なんです」
「…そっか」
僅かな沈黙の後、セフィアさんが桜から視線を変えないまま、僕に言う。
「フィリナのことだけど」
「な!?」
あまりの驚きに仰け反りそうになる。
「な、なんでフィリナのことを!?」
セフィアさんは桜を見上げたまま、優しく微笑んだ。
「私の、初めての友達だから」
「ーっ」
目を見開く。
その言葉は、嘘では決してないと思った。
いつの間に知り合ったんだと汗を流しながら、僕は前を向く。
「えっと…フィリナのことで…?」
「うん。…フィリナ」
一度口を閉じるセフィアさんは、呟くような声だった。
「最後になんて言ってた?」
再び吹く風の中、息を飲む。
思い出されるあの時の光景。
首を絞められ、驚愕するフィリナは、すぐに微笑み、僕に言った。
『ごめんね…。ありがとう』
セフィアさんは俯いた。
「そっか…」という声は、悲しそうで、それでいて暖かかった。
あの時僕は、その言葉の意味がわからないでいた。
何に対しての「ごめんね」なのか、どういう意味での「ありがとう」なのか、わからないでいた。
今でも理解できたというわけではない。
でも、これだけはわかる。
フィリナは、最後の最後まで自分以外のことを考えていたんだってこと。
「ほんと、バカだよなぁ…」
そっと呟いた声は、震えてしまった。
一度唇を噛み、すぐに微笑む。
上を見上げる。
大好きだった。
光だった。
生きる理由だった。
でも、もう彼女は、フィリナはいない。
どこにもいないんだ。
でも
「おーいっ!」
後ろで、呼ぶ声が聞こえた。
振り返れば、そこには
いる。
僕の仲間が、新しい生きる理由が。
フィリナ。こんな僕を見て、君は何て言うかな。
そんなこと、わかってる。
絶対にフィリナは、あの眩しい笑みを浮かべるのだろう。
こんなに仲間が増えた僕に、心から喜んでくれるだろう。
瞳を閉じ、胸に手を当てギュッと握る。
ちゃんと、生きてる。
今、ここに立ってる。
僕は、また前に進み出す。
「サク。隊長がうるさいんだ、助けてくれ」
「な!?隊長にうるさいとは何だ!」
「2人とも、また怒られますよ」
賑やかな3人に、僕は手を振り笑う。
「ごめん。今行く!行こっ、セフィアさん」
「うん」
微笑む彼女と一緒に歩いて行く。
そんな時
「サクっ」
声が、聞こえた。
「ーっ」
バッと振り返る。しかしそこには誰もいず、ただ桜の木が揺れていた。
「どうしたんだーい!」
再びアマリアの声を聞き、僕は一度桜の木へ微笑んだ。
なぜだか一瞬、無邪気に笑うフィリナがいたような気がした。
「なんでもないですっ」
振り向き、歩き出す。
* * *
「サク。明日からアドバイザーが配属されることになるから、書類書いといてくれ」
「……」
ガンダルフの声をどこか遠くで聞きながら。サクは己の部屋のベットで座り込んでいる体を丸め、膝に顔を埋める。
あの事件から3ヶ月。
自殺行為は治まりつつあるサクだったが、訓練には参加しない日々が続いていた。
静まり返る部屋の中、やがてガンダルフが口を開いた。
「…フィリナちゃんは、いつもサクのことばかり話していたぞ」
「ーっ」
息がつまる。
「それでな、よく言っていたことだが。サク。フィリナちゃんの性をもらったらどうだ」
目を見開き、バッと顔を上げた。
「何言ってるんですか!?」
「お前が貰うというなら、今後苦しむことになるだろう。それはわかっている。だがな、お前にはその義務がある」
「ーっ」
「フィリナちゃんは、サクの支えになりたかったんじゃ。家族のない苦しみは、あの子はよくわかっとる。だからフィリナちゃんは、サクの特別な存在になりたかったんだ。これは、あの子の望みだったんだ」
「のぞ、み…」
俯き、押し黙る。
『軽い気持ちなんかじゃないよ。サクだから、あげたいの』
あの時の言葉が蘇る。
あの目は本気だった。
心から望んでいた。
「…わかりました」
そうだ。これは鎖だ。
あの時のことを、決して忘れないようにするためのもの。
一生背負っていく鎖だ。
「僕、もらいます」
* * *
「サク・ティネルっ、何故お姉ちゃんと!?」
「え」
あれからアマリアがパーティーをやろうと言い出し、僕たちは色々と買い込んでいた。
セフィアさんも一緒に参加することになり、ちょうど今蜂蜜パイを買おうとしていたのだが。
「マヤ…」
「マヤさん!?…それに」
「やっほーサッちー!クエストお疲れさまーっ」
「おいルシア、あんまハシャグな。人が多いし危ないだろ」
ブンブン手を振るルシアさんを、外見とギャップがあるしっかり者のカラムさんが注意する。
そんな中、ひときわ目立つ姿があった。
「ガッハッハ!今日は酒だ酒!」
その目に入った人物に僕は目を見開く。
「ジンラスさん!?」
やっぱり名前が同じな人じゃなかった!?
僕を見つめ、停止していたジンラスさんは、すぐに声を上げた。
「お…おぉ!!お前あの時の坊主かっ、いやぁ懐かしいな!」
「えっ?ジンラスさん、知り合いなんですかっ?」
マヤさんの問いに「ああ」と頷く彼は、長い髭に手を当てた。
「ほーう。すっかり派閥に入って一人前かっ、見違えたぞ。なぁセフィア!」
話を振るジンラスさんに僕はポカンとし、問いかける。
「え、なんでセフィアさんに?」
そんな僕に、ジンラスさんはあっさりと答える。
「なんでって、あの時セフィアも一緒だったじゃないか」
体が、一瞬固まった。
「え…えぇえええええええええええ!?」
フィリナの言ってた金髪美少女って、セフィアさんのこと!?
「いよっし!なんだかよくわからんが!もうみんなでパーっとやろうぜ!」
「あとフィルスさんたちも呼びましょう」
そんな中、ルーカスとシルアさんの言葉に、周りは騒ぎ出すのだった。
* * *
風車小屋にはみんな入りきらず、外でもパーティーは行われた。
みんながはしゃぐ中、僕とセフィアさん、そしてジンラスさんは、少し離れたところの原っぱに座っていた。
ジンラスさんは、フィリナのことを知らなかったようで、説明したあと、押し黙っていた。
「そうか…、あの嬢ちゃんが。惜しいことをしたな…」
沈黙が続く中、やがてサクは2人に向き合った。
「あの、今回は迷惑をかけました。それにアマリアを、セフィアさんに助けてもらったりしたし」
「いいんじゃよ。あんなものじゃ、この国はビクともせんしな」
「私も、君の隊長さんのことは完全な独断だから」
優しい2人に、僕はぎゅっと手を握り、頭を下げた。
「…はい。ありがとうございます」
「さてと、ワシは酒でも飲みに行こうかな。ではな」
「うん」
「はい。では」
やがてジンラスさんが行ってしまい、セフィアさんと2人になる。
なんとなくみんなを眺めていたが、やがて僕は口を開いた。
「あの…セフィアさん」
「?」
拳を握り、覚悟を決め、わずかに震える声で尋ねる。
「僕を、恨んでないんですか…?」
フィリナを殺したのは僕だ。
そのことは、彼女は知っているだろう。
セフィアさんと見つめ合う中、遠くからみんなの笑い声が聞こえてくる。
どのくらいそうしていたか。おそらくそんなに経っていないだろう。
セフィアさんは、前を向いた。
「ディメントってね。人の心とは別にあると思う」
「…えっ?」
予想外の言葉に素っ頓狂な声を出してしまう。
そんな僕に、セフィアさんは微笑んだ。
「でも反対に、心と完全に通じあうものだとも思う。きっと答えはひとつじゃないんだ。君にとっての力は、そのどっちともがある状態なんだよ」
「ーっ」
「君の炎のディメントは、フィリナを守りたい気持ちからの力だよ。だから、許すとか、許さないとか。私に言う権利なんかないし、恨みなんかない」
涙が出そうになった。
そんな考えはなかったな。僕はよく、この人に教えられる。
「…ありがとうございます」
* * *
「はぁ。今回は楽しかったねぇ」
「そうですね」
月明かりが照らす中、みんな解散し、ルーカスもシルアさんも寝てしまってから。
僕とアマリアは、小声で会話していた。
笑みを消し、僕は口を開く。
「今回は巻き込んでしまって、すみませんでした」
そんな僕に、アマリアはムッとしながら顔を向けた。
「おいサク。その言葉はなしだぞ?別に巻き込まれたとか、ルーカスも、シルアくんも思ってないよ」
「…はい」
そう言って微笑みながら視線を落とす。
「僕、ティネルって性に変えた時の考え、変えようと思うんです。これは、鎖なんかじゃないって。だって、そうじゃなきゃ、きっとフィリナも怒りますから」
「…そうか」
そう言ったアマリアは、スッと僕の手を握った。
「いつでも頼ってくれよ。ずっとそばにいるから。私は…」
見つめ合う瞳と瞳。
アマリアは顔をクリャリとして、涙を浮かべた。
「君が、大好きだからね」
* * *
「本日からアドバイザーになりますニールですっ。よろしくお願いいたします!」
初めてのサクとの出会いを思い出し、ニールは1人、微笑んだ。
今回の騒動を聞いた時、ニールは気づけば泣いていた。
彼は、本当に苦しんでいた。自分の言葉では、決して救うことなどできなかった。
「本当に、よかったね。サクくん」
緊張しながら自己紹介をし、頭を下げたニールに、サクも頭をさげた。
「初めまして。サク・ティネルです」