ディメント   作:もやしメンタル

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第37話《最後の言葉》

【ラミス派】、【ヨダン派】。そしてその他の派閥の活躍により、突如現れたモンスター達を、無事止めることができたのは、サク達が決着をつけてからそうかからなかった。

そして今回の元凶であった男とその眷属3人は、今後他の国にへと送られるのだとか。

事件から一日が経った今、サクは送られる彼らのところへは行かなかった。

敵の隊長の顔も見ないまま、別の場所に足を向ける。

 

マテリアルの裏庭、桜の木へ

 

「なんにも変わってないな…」

ポツリと呟き、木を見上げる。

その時、暖かい春風が吹いた。

そう、今は桜の満開の時期だ。

美しく咲く桜は、日の光を浴び、キラキラと輝いている。その逞しい姿は、長い年月咲き続けてきたことを物語っていた。

初めて見たあの日の感動は忘れない、何度も見た景色。でも、この景色を教えてくれた少女は、フィリナは隣にいない。

「サク」

名を呼ばれた。

振り返ると、そこにはセフィアさんが立っていた。

「えっと…、なんでここに?」

正直驚く。話では、今回敵の隊長を捕らえたのはセフィアさんだという。

そのことでお礼を言わなければと思っていた矢先だ。

話によると、滅多に現れない上級モンスターと戦い、傷を負ったらしいが、見たところ大きな怪我は無さそうで安心する。

「サクの場所、マテリアルで聞いてきた」

そう言って、セフィアさんは僕から一人分距離を置き隣に立つ。

お互い所々にガーゼなどを貼っているのを見て、つい苦笑いが出た。

「ここ、いい場所だね。初めて知った」

セフィアさんが桜に視線を移し僅かに微笑む。それを聞いて僕も前に向き直った。

「……色々と苦労させられた子との思い出の場所なんです」

「…そっか」

僅かな沈黙の後、セフィアさんが桜から視線を変えないまま、僕に言う。

「フィリナのことだけど」

「な!?」

あまりの驚きに仰け反りそうになる。

「な、なんでフィリナのことを!?」

セフィアさんは桜を見上げたまま、優しく微笑んだ。

 

「私の、初めての友達だから」

 

「ーっ」

目を見開く。

その言葉は、嘘では決してないと思った。

いつの間に知り合ったんだと汗を流しながら、僕は前を向く。

「えっと…フィリナのことで…?」

「うん。…フィリナ」

一度口を閉じるセフィアさんは、呟くような声だった。

 

 

 

「最後になんて言ってた?」

 

 

 

再び吹く風の中、息を飲む。

思い出されるあの時の光景。

首を絞められ、驚愕するフィリナは、すぐに微笑み、僕に言った。

 

 

 

 

『ごめんね…。ありがとう』

 

 

 

 

セフィアさんは俯いた。

「そっか…」という声は、悲しそうで、それでいて暖かかった。

あの時僕は、その言葉の意味がわからないでいた。

何に対しての「ごめんね」なのか、どういう意味での「ありがとう」なのか、わからないでいた。

今でも理解できたというわけではない。

でも、これだけはわかる。

 

 

 

フィリナは、最後の最後まで自分以外のことを考えていたんだってこと。

 

 

 

「ほんと、バカだよなぁ…」

そっと呟いた声は、震えてしまった。

一度唇を噛み、すぐに微笑む。

上を見上げる。

大好きだった。

光だった。

生きる理由だった。

でも、もう彼女は、フィリナはいない。

どこにもいないんだ。

でも

 

「おーいっ!」

 

後ろで、呼ぶ声が聞こえた。

振り返れば、そこには

いる。

僕の仲間が、新しい生きる理由が。

フィリナ。こんな僕を見て、君は何て言うかな。

そんなこと、わかってる。

絶対にフィリナは、あの眩しい笑みを浮かべるのだろう。

こんなに仲間が増えた僕に、心から喜んでくれるだろう。

瞳を閉じ、胸に手を当てギュッと握る。

ちゃんと、生きてる。

今、ここに立ってる。

僕は、また前に進み出す。

「サク。隊長がうるさいんだ、助けてくれ」

「な!?隊長にうるさいとは何だ!」

「2人とも、また怒られますよ」

賑やかな3人に、僕は手を振り笑う。

「ごめん。今行く!行こっ、セフィアさん」

「うん」

微笑む彼女と一緒に歩いて行く。

そんな時

 

 

 

「サクっ」

 

 

 

声が、聞こえた。

 

 

「ーっ」

バッと振り返る。しかしそこには誰もいず、ただ桜の木が揺れていた。

「どうしたんだーい!」

再びアマリアの声を聞き、僕は一度桜の木へ微笑んだ。

なぜだか一瞬、無邪気に笑うフィリナがいたような気がした。

「なんでもないですっ」

振り向き、歩き出す。

 

* * *

 

「サク。明日からアドバイザーが配属されることになるから、書類書いといてくれ」

「……」

ガンダルフの声をどこか遠くで聞きながら。サクは己の部屋のベットで座り込んでいる体を丸め、膝に顔を埋める。

あの事件から3ヶ月。

自殺行為は治まりつつあるサクだったが、訓練には参加しない日々が続いていた。

静まり返る部屋の中、やがてガンダルフが口を開いた。

「…フィリナちゃんは、いつもサクのことばかり話していたぞ」

「ーっ」

息がつまる。

「それでな、よく言っていたことだが。サク。フィリナちゃんの性をもらったらどうだ」

目を見開き、バッと顔を上げた。

「何言ってるんですか!?」

「お前が貰うというなら、今後苦しむことになるだろう。それはわかっている。だがな、お前にはその義務がある」

「ーっ」

「フィリナちゃんは、サクの支えになりたかったんじゃ。家族のない苦しみは、あの子はよくわかっとる。だからフィリナちゃんは、サクの特別な存在になりたかったんだ。これは、あの子の望みだったんだ」

「のぞ、み…」

俯き、押し黙る。

 

 

『軽い気持ちなんかじゃないよ。サクだから、あげたいの』

 

 

あの時の言葉が蘇る。

あの目は本気だった。

心から望んでいた。

 

 

 

「…わかりました」

そうだ。これは鎖だ。

あの時のことを、決して忘れないようにするためのもの。

一生背負っていく鎖だ。

「僕、もらいます」

 

* * *

 

「サク・ティネルっ、何故お姉ちゃんと!?」

「え」

あれからアマリアがパーティーをやろうと言い出し、僕たちは色々と買い込んでいた。

セフィアさんも一緒に参加することになり、ちょうど今蜂蜜パイを買おうとしていたのだが。

「マヤ…」

「マヤさん!?…それに」

「やっほーサッちー!クエストお疲れさまーっ」

「おいルシア、あんまハシャグな。人が多いし危ないだろ」

ブンブン手を振るルシアさんを、外見とギャップがあるしっかり者のカラムさんが注意する。

そんな中、ひときわ目立つ姿があった。

「ガッハッハ!今日は酒だ酒!」

その目に入った人物に僕は目を見開く。

「ジンラスさん!?」

やっぱり名前が同じな人じゃなかった!?

僕を見つめ、停止していたジンラスさんは、すぐに声を上げた。

「お…おぉ!!お前あの時の坊主かっ、いやぁ懐かしいな!」

「えっ?ジンラスさん、知り合いなんですかっ?」

マヤさんの問いに「ああ」と頷く彼は、長い髭に手を当てた。

「ほーう。すっかり派閥に入って一人前かっ、見違えたぞ。なぁセフィア!」

話を振るジンラスさんに僕はポカンとし、問いかける。

「え、なんでセフィアさんに?」

そんな僕に、ジンラスさんはあっさりと答える。

「なんでって、あの時セフィアも一緒だったじゃないか」

体が、一瞬固まった。

「え…えぇえええええええええええ!?」

フィリナの言ってた金髪美少女って、セフィアさんのこと!?

「いよっし!なんだかよくわからんが!もうみんなでパーっとやろうぜ!」

「あとフィルスさんたちも呼びましょう」

そんな中、ルーカスとシルアさんの言葉に、周りは騒ぎ出すのだった。

 

* * *

 

風車小屋にはみんな入りきらず、外でもパーティーは行われた。

みんながはしゃぐ中、僕とセフィアさん、そしてジンラスさんは、少し離れたところの原っぱに座っていた。

ジンラスさんは、フィリナのことを知らなかったようで、説明したあと、押し黙っていた。

「そうか…、あの嬢ちゃんが。惜しいことをしたな…」

沈黙が続く中、やがてサクは2人に向き合った。

「あの、今回は迷惑をかけました。それにアマリアを、セフィアさんに助けてもらったりしたし」

「いいんじゃよ。あんなものじゃ、この国はビクともせんしな」

「私も、君の隊長さんのことは完全な独断だから」

優しい2人に、僕はぎゅっと手を握り、頭を下げた。

「…はい。ありがとうございます」

 

 

 

「さてと、ワシは酒でも飲みに行こうかな。ではな」

「うん」

「はい。では」

やがてジンラスさんが行ってしまい、セフィアさんと2人になる。

なんとなくみんなを眺めていたが、やがて僕は口を開いた。

「あの…セフィアさん」

「?」

拳を握り、覚悟を決め、わずかに震える声で尋ねる。

 

「僕を、恨んでないんですか…?」

 

フィリナを殺したのは僕だ。

そのことは、彼女は知っているだろう。

セフィアさんと見つめ合う中、遠くからみんなの笑い声が聞こえてくる。

どのくらいそうしていたか。おそらくそんなに経っていないだろう。

セフィアさんは、前を向いた。

「ディメントってね。人の心とは別にあると思う」

「…えっ?」

予想外の言葉に素っ頓狂な声を出してしまう。

そんな僕に、セフィアさんは微笑んだ。

「でも反対に、心と完全に通じあうものだとも思う。きっと答えはひとつじゃないんだ。君にとっての力は、そのどっちともがある状態なんだよ」

「ーっ」

「君の炎のディメントは、フィリナを守りたい気持ちからの力だよ。だから、許すとか、許さないとか。私に言う権利なんかないし、恨みなんかない」

涙が出そうになった。

そんな考えはなかったな。僕はよく、この人に教えられる。

「…ありがとうございます」

 

* * *

 

「はぁ。今回は楽しかったねぇ」

「そうですね」

月明かりが照らす中、みんな解散し、ルーカスもシルアさんも寝てしまってから。

僕とアマリアは、小声で会話していた。

笑みを消し、僕は口を開く。

「今回は巻き込んでしまって、すみませんでした」

そんな僕に、アマリアはムッとしながら顔を向けた。

「おいサク。その言葉はなしだぞ?別に巻き込まれたとか、ルーカスも、シルアくんも思ってないよ」

「…はい」

そう言って微笑みながら視線を落とす。

「僕、ティネルって性に変えた時の考え、変えようと思うんです。これは、鎖なんかじゃないって。だって、そうじゃなきゃ、きっとフィリナも怒りますから」

「…そうか」

そう言ったアマリアは、スッと僕の手を握った。

「いつでも頼ってくれよ。ずっとそばにいるから。私は…」

見つめ合う瞳と瞳。

アマリアは顔をクリャリとして、涙を浮かべた。

 

 

 

「君が、大好きだからね」

 

* * *

 

「本日からアドバイザーになりますニールですっ。よろしくお願いいたします!」

初めてのサクとの出会いを思い出し、ニールは1人、微笑んだ。

今回の騒動を聞いた時、ニールは気づけば泣いていた。

彼は、本当に苦しんでいた。自分の言葉では、決して救うことなどできなかった。

「本当に、よかったね。サクくん」

 

緊張しながら自己紹介をし、頭を下げたニールに、サクも頭をさげた。

「初めまして。サク・ティネルです」

 

 

 

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