「何やってんだお前はッ!」
「すすすすスミマセン…!」
怒鳴りつける男に対して、胸の前で杖をギュッと持つ少女は何度も頭をさげる。
現在クエストのため、洞窟にいる7人の眷属達は、冷たい視線を少女に向けた。
「これでお前がヘマするの、何回目だよ。迷惑なんだよ、お前」
「…はい」
地面を見つめたまま答える少女に、副隊長である男は溜息をついた。
「もうお前いいわ。クビだ」
「え…っ」
パッと顔を上げた先にあったのは、歩いて行ってしまう仲間達。と言っても、何度目かの仲間達。
今までいくつもの派閥に入っては追い出されるのが続いていたのだ。
理由は一つ。足手まといなのだ。
少女のドジで何度も危険な目にあった者達は、やがて少女を避けるようになる。
「ま、待ってください…!うわっ」
声を上げ走り出そうとした彼女は、石につまずき転倒した。
しかし、そんなものもう見もしない仲間達はどんどんと離れて行ってしまうのだった。
* * *
「ぬぉおお!ルーカスがぁああ!!」
大声を上げるアマリアに、3人はビクッと肩を揺らした。
今はシルア・ルーカス・サクの順でステイタスをアマリアが見ている最中なのだが、椅子に座るルーカスの背中を彼女はマジマジと見つめている。
「どうかしたのか隊長?」
汗を流しルーカスが振り返ると、アマリアは手を振り上げ…
「やったぞルーカス!!」
バッシーン!とルーカスの背中を叩いた。
「イ…ッ!?」
背筋をピーンと立て、声が出ないルーカス。
そんな彼に御構い無しでアマリアはバシバシ背中を叩き続ける。
「アマリア隊長、落ち着いてください…!」
止めに入ったシルアのおかげで手を止めたアマリアに、サクは口を開いた。
「え、えーっと。それで何が…?」
「ルーカスのランクがEになったんだ!」
僅かな沈黙は、すぐに終わった。
「マジか隊長!?」
痛みも吹き飛んだように立ち上がるルーカスに、「おうともさ!」と両手を上げるアマリア。
サクとシルアもやがて理解し、「おおーっ」と手を叩いた。
そんな中ふと疑問が湧く。
「でもルーカスって、刻印刻んでまだ一年もたたないんじゃ…?」
僕の問いに、アマリアは頷き答えた。
「それなんだけど、実は刻んだ時からステイタスがそこそこあったんだよ」
「「「えぇえ!?」」」
「私も驚いたけど。ルーカスも、サクだってそれは感じていただろう?」
そんな言葉に考え込む。
確かに、ルーカスと初めて壁外に行った時、彼の攻撃力は自分以上だった。
「だとすると、それって…」
「以前にも派閥に入っていたということになるだろうね。そう思って私なりに色々考えてみたんだけど。もしかして、ルーカスの家族自体が派閥だったんじゃないのかい?」
そんなアマリアの考えに目を見開く。
それはシルアさんとルーカスも同様だ。
やがてルーカスは顎に手を添え考え込む。
「うーん…家族の記憶はちっこい頃のだけだから、そんな鮮明じゃないんだよなぁ。でもそれってあり得るのか?」
「家族で派閥だってところは珍しくはないよ。クエストと言っても、モンスターと戦うだけじゃないし、仕事としていても不思議じゃない」
そこでサクはそうかと納得する。
ルーカスの親は事件で死んでしまっている。それと同時にルーカスの刻印も消えたんだ。
そこでふと思う。
ルーカスの姉はどうなったのだろうか。どこかでまだ生きているのだろうか。
そんな疑問が湧いたが、聞くのもなと思い止まった。
「まぁどうであれランクアップだ、おめでとう!後でマテリアルに行かなきゃね。さーて次はサクだ」
「あ、はい」
ルーカスと交代し、椅子に座る。
上の服を脱ぐと、背中にアマリアの手が当てられた。
「それじゃあいくよ〜」
そう言うのと同時に光が発生する。
「【ラティール・メシア】」
その言葉とともにサクの背中から刻印が浮き出す。
そして敷き詰められている文字が変形してゆくのを見ていたアマリアが、次の瞬間、顔色を変えるのだった。
* * *
「えーっと…。もう1度確認するわね?」
マテリアルのロビーにて、サクとルーカスが座るソファーの反対にはピクピクと顔を引きつらせるニールがいる。
「まず、アルバネル君がランクアップね?」
「あ、ああ…」
「それで…サク君が…」
視線を向けられたサクは、ニールと同じ表情で口を開いた。
「ら、ランクアップ…です?」
なぜか疑問系なサクだが、気持ちはわかる。いくらなんでも信じられない。
ランクDになったのだから。
「…ランクDともなれば、もう下級の眷属者じゃなくなる。中級ってところだけど、ここからは一気に絞られてくるの。大半の眷属者はFかEだから…」
「は、はぁ…」
「これで【アマリア派】も、一線上の派閥ってことになるね…」
「は、はぁ…」
正直ついていけないサク達だが、ニールも言っていてよくわかっていない。
もう叫ぶ気力もなかった。
「これ、公表していいのかな…?」
もし世間に出されれば、サクの名は一気に広がる。
このようなことはありえない、ということでは正直ない。
現に数ヶ月でランクアップしたという話は実在する。
しかしそんなよくあることでは到底ない。
「一体サクの親って何モンなんだ…」
ルーカスの言葉に全くの同感だったニールは、一度息を吐き、頑張って気持ちを切り替えた。
「ま、まぁランクアップは凄いことよ!2人ともおめでとう。これで行動範囲が広がるし、派閥のレベルも底上げねっ。それでだけど、クエストが来てるわ」
そう言って取り出した紙をテーブルに置く。
それを2人は覗き込んだ。
「ヤフレソウを取ってくるってもの。これはよく医療で使われる草なの。今回は事件のすぐ後ってのもあって楽なクエストだけど、くれぐれも気をつけてね」
「わかりました」
その言葉に頷き、まだ変な感じはする中、サクはクエスト用紙を受け取るのだった。
* * *
『ギルァアアアアッッ』
「シルアさん!」
「はい!」
シャドー・ザック5体が一斉に飛びかかってくる。
それと同時にシルアさんが地面を粉砕し、疾走する。
ズガガガッと砂煙りなどを巻き上げながら、一気に3体を吹き飛ばす。
「オォラああッ!!」
まだ起き上がろうとしているモンスターにルーカスが大剣を振り抜いた。
大切断
衝撃音が洞窟に響き渡る。
「おほっ、パワー上がってるぞ!」
あの2人だけでも5体とも何とかできそうだ。
だから僕は…
『ゴゴゴゴゴッッ』
遅れて現れたストーン・ザックに集中する。
全長は3Mはいきそうなうえに、図体がでかい。
名前の通り石、と言うより岩だが、手足はしっかり存在する。
ここ第5エリアのボス的な存在である種類だ。
一発でも食らったらひとたまりもなさそうな拳が落とされる。
それを僕は横に飛び…
「うおっ!?」
今日は体が軽いとは思ってたけど、何だこれ。
そんなに力入れてなかったのにめっちゃ飛ぶ。
これがランクアップ
ザザッと足で踏ん張り体を止め、勢いよく相手に突っ込む。
「うぐ!?」
まだ慣れないほどの風圧を感じながら相手の元へ。
加速力も一気に上がっている。
勢いのままに相手に切り掛かる。
すると見事に岩にめり込んだ。
『ゴゴゴゴゴッッ!?』
そのまま相手の腹を蹴り、飛び上がる。
「うおっと」
これは慣れるまではコントロールに苦労しそうだと思いながら、一気に5Mは飛び、思いっきりウルスラグナを振り抜くのだった。
「【フレイム・ウィンド】!!」
燃え上がる。
しかし
「へ?」
炎が膨張し…
「な!?サクま…っ」
爆発
攻撃は予想をはるかに超え広範囲に達してしまうのだった…
チリチリな髪の毛のルーカスとシルアさんに僕は何も言う事ができない…。
「ったくよぉ気を付けろよな!まさかこんがり焼かれる日が来るとは思わなかったぞ!?」
「ムー…」
「ほ、本当にスミマセン…」
ルーカスが泣き言を言う中、隣ではシルアさんが頬っぺたを膨らませている。
コントロールが上手くいかなかったことで巻き添えを食らった2人にサクは謝るしかなかった。
そんなこんなでやっと目的地に着く。
そこは辺り一帯が緑となる程に植物に囲まれている、洞窟にしては珍しい場所だ。
そうして目的のヤフレソウが生えている辺りはすぐに見つける事ができた。
見つけることができ安堵するとともに、これから力のコントロールやら大変そうだなと、肩身が狭い中そう思い溜息をつくのだった。
* * *
「さーって、あとどれくらいだ?」
「うーんと、もうすぐ出口だよ」
ルーカスの質問に地図を見て僕は答える。
帰りは比較的モンスターは現れず、ディメントもあの1度使ったものだけですんだ。
あともう一踏ん張り、と言うところでリュックを背負い直しながら地図をしまっていると、「あ」とシルアさんが呟いた。
「どうかした?シルアさん」
「あの…、あそこに…」
「「え?」」
シルアさんの指差す方を見る。
この洞窟はそこまで迷路のような道でもなく、出口近くはもう一本道だ。
ここはまだ道は一つではないものの、一本道とちょうど僕たちが立ち止まった横に一つ道があるだけだ。
その横道をよくよく見る。
ランクDの視力ではよく見えた。確かにいる。
「人、だよね…?」
呟きに頷く2人と目を合わせ、進路を変更。
約20M先に倒れているのは、まぎれもなく人。
そうしてやがて到着する。
少女だ。
茶色いストレートな髪はセミロング。白のブラウスの上に、茶色の革でできている防具を着ている。
スカートなどは空色で、見た目はメルヘンな雰囲気だ。
「怪我は、擦り傷がありますね…。大きな傷はないです」
しゃがみ込んだシルアさんがそう言いこちらを見る。
僕はもう一度少女を見た。
「腰に杖…、魔導師…?」
「1人なのか?」
僕もシルアさんの隣でしゃがみ込む。
その時
突然足を掴まれた。
「!?」
「サクさん!」
「なんだ!?」
慌てる僕らだが、少女は動く気配がない。
すると、ゆっくり顔が上げられた。
その綺麗なルビーのような瞳には力がないものの、歳は同じぐらいだと思える可愛らしい顔立ちだ。
足を掴まれたまま見つめ合う中、恐る恐る僕は口を開く。
「え、えっと…」
その時、彼女は口を開いた。
「お」
「「「お?」」」
キョトンとしていると、少女は力のない声で答える。
「お腹すいた…」