「じゃ、じゃあこれで構成員として承認されたからね」
「…はい」
アマリアはバイトだったので、今回も副隊長の僕が付き添いマテリアルに来ていた。
つい顔が引きつってしまう。
絆創膏の貼られた手には汗が滲んでいる。
何だこの空気は…っ
ニールさんの頑張った明るい声も、ルルさんの返事でかき消される。
今は何故か僕の隣にはニールさんで、向かいにルルさんがいる状況だ。
耐えきれなくなったニールさんが、こちらに顔を寄せ小声で尋ねる。
「ちょっと、何でこんなションボリしてるのっ?無理やり入れたとかじゃないよね…!」
「そ、そんなこと…っいくら人員に困っててもしませんよ…!」
「あの…」
「「はい!?」」
いきなり口を開いたルルさんに、僕達はビクッと顔を向ける。
彼女は俯いていたが、やがて口を開いた。
「やっぱり、いいんですかね…私なんかが入って…」
「い、いいに決まってるじゃないですか!」
「そうよ!初めからそんなんじゃダメだよ!」
詰め寄り必死に答える僕達を一度見て、ルルさんはまた俯いてしまう。
沈黙が辺りを包む。
それに耐えきれなくなったのは、ニールさんだった。
「クエストきてるから、今度こそ頑張ってみよう!サク君が何とかしてくれるから!」
「えぇ!?僕ですか!?」
「当たり前でしょ副隊長!」
「う…っ」
それを言われては何も言えない。
そんな僕は置いてニールさんはクエスト用紙を取り出した。
「今回は、第3エリアに行ってクリスタルを取ってきて欲しいの。外見はここに書いてあるから、初めてのエリアだから難しいかもね。モンスターも中級は出るわ」
「ちゅ、中級…」
紙を覗き込み汗を流す。
単独クエストでツリー・バレクス以外の中級に出会ったら…考えたくもない。
「難度が高いだけ報酬も上がるわ、でも危険になったら諦めるのよ。絶対に無茶しないで、命が最優先だよ」
真剣な表情のニールさんに、僕は気を引き締め、大きく頷くのだった。
* * *
「ここだよね、第3エリア」
「はい、そのようです」
「なんかキラキラしてるな」
洞窟の入り口からもわかるほど、中はクリスタルで埋め尽くされている。
「取ってくるクリスタルは、他のにはない赤く光るものだから多分選別は大丈夫かな…」
「問題はそれがこの洞窟の奥にあるということですね」
シルアさんの言葉に頷く。
貴重というだけあって、一部の限られた場所にしかないらしい。
中級モンスターが出るかもというニールさんの忠告が頭をよぎった。
グッと手を握る。
副隊長の僕がこんなんじゃ駄目だ。
振り返り、表情の固いみんなを見る。
「慎重にいこう。僕が今回は先頭で行くよ」
頷く2人。
ルルさんは昨日から俯いてばかりだ。
その様子はとても心配だが、ルルさんを抜くわけにはいかない。少しでも慣れてもらう必要があるのだから。
それにルルさんは魔導師だ。
このチームが安定すれば、もうワンランク上にいける。
「じゃあ、行こう」
そう言い僕、ルーカス、ルルさんとシルアさんの順になり洞窟に踏み出した。
迫る刃の雨を、ウルスラグナでは捌ききれないと判断し、短刀を抜き放つ。
ガガガッと連続で跳ね返した攻撃。
それを飛ばしてきたナイフ・ザックは後ろに大きく飛んだ。
見た目は約2M近い、丸くて黒い人型に近い塊のようなもので、名前とは似つかわしくないが、由来は攻撃だ。
地面、天井から放たれる刃は、40Cほどの長さで、かなり頑丈だ。
先ほどまで順調だったのだが、ここで手詰まっている。
「サク!俺が攻撃防ぐから相手をやれ!」
「ーっ、わかった!」
上がってきたルーカスと並び、駆け出す。
「セネットさん、魔法をっ」
ルルを攻撃から守るシルアの言葉に、一度固まったルルは頷いた。
「オラァアアっ!!」
迫る刃をルーカスが大剣を振り回し弾き飛ばす。
その大剣をくぐり向け、サクはさらに加速する。
相手との距離3M。
サクはウルスラグナを振り絞る。
『グギギッ』
瞬間、相手が地面を両手で押さえる。
それと同時に1本の大きな刃がモンスターの目の前に立ち塞がった。
壁のバリア。
しかしサクは足を止めない。
そのまま相手へと飛び込み、叫ぶ。
「【フレイム・ウィンド】!」
吹き出す紅蓮の炎。
まとう風によって一瞬で壁に突っ込んだ攻撃は、勢いよく衝突し、辺りを揺らす。
しかしそれは5秒と持たなかった。
刃が砕ける。
「はぁあああああああっ!!」
止まることのない突進が、丸腰の相手を貫い…
「へ?」
バァン!!
視界は光で埋め尽くされる。
爆発
「フブグッ!?」
「すすすスミマセン…!!」
後頭部に命中…
は、はは。顔面じゃないだけ進歩です…
ルルの魔法が直撃した。
大きく前のめりになったサク。
モンスターも僅かに後ろに爆風で下がったが、攻撃は当たっていない。
見逃すはずもない。
『グギギィイイイイッ!』
「ー!?」
刃、ではなく思いっきり殴られる。
あまり己に近いところでは刃を出せないのか。とりあえず助かったものの
力が半端じゃない…っ
吹き飛ぶ。
「サクさん…!」
「サク!!」
「…っ」
宙を舞い、気づいたら背中に激痛がはしった。
壁にぶち当たったらしい。
「かは…っ」
意識が、やばい
そんなサクを相手は畳み掛ける。
刃を一点集中。
「させない…!!」
後衛にいたことが幸いし、サクに追いついたシルアが攻撃を防ぐ。
しかし
「ルルさん…っ」
刃が方向を変えた。
ルルを狙う。
「ーっ」
迫る1本の刃はでかい。
ルーカスとシルアが目を見開く。
そんな中
サクは地を蹴る。
「ルルさぁああああん!!」
飛びつき横へと自分もろとも転げ落ちる。
そこは一本道から外れた横道。
刃は壁にぶっささり、ドゴォオオオン!と音を上げる。
揺れる洞窟から瓦礫が降り落ちてきた。
「なー!?」
「マジかよ!?」
砂埃で立ち込める中、やっと止んだ岩の崩れはサクたちの入った道を完全に塞いでいた。
* * *
「く…っ。ダメだ動かない…!」
崩れ落ちた岩で出来た壁はピクリとも動かない。
完全にルーカス達と分離させられてしまった。
地図は自分が持っていて、2人は初のエリアというのもあり身動きが取れないんじゃないか?というかその前に、ここには中級モンスターがいる。全員でも危ういのにこのままじゃ危険だ。
リュックから地図を取り出し振り返る。
「回り道でもできる場所を探しましょう。歩けますか?」
座り込むルルにサクは手を差し伸べる。
しかし彼女はその手を握らず俯いていた。
「ほんと、情けないですよね…」
「ルル、さん…?」
俯く彼女の瞳から、流れるものがあった。
その光に狼狽してしまうが、すぐに気を取り直す。
この人は、苦しんでいる。
自分の生きる理由を見つけられないんだ。
あの頃の僕と同じだ。
ただ不器用なだけ、生きることに不器用なだけなんだ。
ルーカス達が心配だが、信用もしてる。
彼らなら、持ち堪えられる。
サクはルルから一人分開け座り込んだ。
暫くは、ルルのすすり泣く声だけが響く。
サクは無言で座っていた。
やがて、ルルが震える声を出す。
「…すみません。私のせいなのに、泣いちゃって…」
「そんなことありません」
サクは優しくそう言い微笑んだ。
ただ一言でいいのだ。余計な言葉はいらない。
「…本当に、サクさん達は優しいですね…だからなんですかね。こんなに苦しいのは、初めてです…」
まだ涙は止まっていなかった。
そんな顔を見ながら、サクはある少女を思い浮かべる。
「ほんと役立たずで。サクさんにも何度も魔法当てて邪魔ばっかして。なんなんですかね、私って」
膝に顔を埋める少女。その姿は、過去の自分を見ているようだった。
そうして気づけば、口を開いていた。
「僕もついこの前まで、自分がよくわかりませんでした。いや、1度は見つけたけど、また見失ってしまってたんです」
ルルは顔を上げないが、僅かに肩を揺らした。
サクはそのまま話し続ける。
「1度目は、ある女の子に教えてもらいました。常に周りを見ろって。そうすれば必ず光はあるって。僕の世界をカラフルにしてくれたんです。生きる理由をくれたんです」
彼女が顔を上げ、こちらを見た。
それにサクは目を合わせ、微笑む。
「その人って、どんな人だったんですか…?」
その問いにサクは苦笑いする。
「自分勝手で、恥知らずで、強引で、うるさかったです」
「す、凄い人ですね…」
「そうなんですよ。なんだこの生き物はっていうのが1番のイメージだったぐらいですから」
ルルはそれにフフッと小さく笑う。
やっと笑顔が見れた。
そう思いがら、サクは天井を見上げた。
「でもそんな彼女だったから、今の僕がいます。あの時に手を引かれていなかったら、あの笑顔を見られていなかったら、僕はここにいない。彼女が光をくれたんです」
「…そうなんですか」
顔の力が取れてきたルルは、次には疑問符を浮かべる。
「あれ、1度目ってことは…」
「もう、彼女はいないんです」
「…え」
ルルは動きを止める。
サクはただ前を見ていた。
「13歳の時から、僕はまた光を失いました。ただただ1日を過ごしていく日々。…でも」
「?」
「そんな時、無茶苦茶に僕の手を掴んだのが、アマリアでした」
今でもはっきりと覚えている。
開け放たれる窓の先に、月明かりで照らされた少女が手を差し伸べてくる光景を。
その後は散々だったが、あれから世界がまた変わったのは事実だ。
あの頃よりももっと深く広がった。
「それからたくさんの人と出会いました。変わった隊長さんだったり、すごく怖い魔導師さんだったり、とても強くて、でも優しい剣士さんだったり…。僕はずっと、どれだけ狭い場所にいたんだろうって、思わされました」
横を向き、ルルと視線を合わせ、サクは笑った。
「1人じゃないって、わかったんです」
気づけば周りには、自分に手を差し伸べてくれる人がたくさんいた。
だからもう。僕は迷わない。
ルルに手を差し伸べる。
「行きましょうルルさん。ルーカスとシルアさんが待ってます」
「ーっ」
目を見開くルルは、やがて震える声を出す。
「私は、ここにいてもいいんですか…?」
そんな彼女の姿にサクはただ微笑む。
「いてもいいとか、いけないとか。そんなこと関係ないです。それが仲間ですから。僕たちはもう、繋がってるんですから」
「ーっ」
再びルルの瞳からは涙がこぼれた。
しかし今度の涙はとても暖かく感じた。
「一緒にあがきませんか?生きてみませんか?ルルさん」
なおも差し出される手に、ルルはゴシゴシと涙を拭いた。
「はいっ」
手を握る。