「ルル!」
「がってん!」
サクの掛け声にルルが杖を振り下ろす。
中級以上ともなれば何個も使えるのだが、初級のルルには今使える唯一の技【ゼフィロス・スペクトル】を撃ち放つ。
威力もまだまだ、出せる回数も片手で数えるほどではあるが、そのコントロールは格段に上がっていた。
ルーカスに襲いかかっていたフラワー・ザックに命中…と言ってもツル一本に運良く当たっただけだが
「それで十分だぜっと!!」
一瞬ひるんだ相手にルーカスが畳み掛ける。
ランクEとなったルーカスの攻撃は、モンスターを切り裂いた。
「あと何体だ!?」
「これで最後です!」
そう答えたシルアは、相手取っていたフラワー・ザックを蹴り飛ばす。
大きく吹き飛んだ相手
その進路には炎を纏うサク。
「フッッ!」
ウルスラグナを振り抜く。
『ギィェエエッッ!?』
炎に包まれ切り裂かれたモンスターは、もう起き上がることはしなかった。
「おっし!クエスト完了!」
今回のクエストは第2エリアでの異常発生したフラワー・ザックの群れを排除せよとのことで、久しぶりにフラワー・バレクス以来のここに来ていた。
まだモンスターを警戒しながらも、ひと段落したことでそれぞれが力を抜いた。
「セネットさん、また上達しましたね」
「ふぇ!?そ、そうかなー!あ、あと私のことはルルと呼んで欲しいってずっと言ってるんだけど…」
トホホ…と落ち込み気味に言うルルに、シルアさんは相変わらずの無表情だ。そんな対の2人に、つい苦笑いしてしまう。そうして次には、僕は踵を返し、歩き始めた。
「じゃあ行こうか、マテリアルに報告行かない……あれ?」
しかしその足を止め、前方をまじまじと見つめる。
「どうしたサク?」
隣に並んだルーカスの問いに、僕は前を指差す。
「誰か歩いてきてない…?」
「「「え」」」
その言葉に3人ともが視線を向ける。
前方約20M先に、歩いてくる姿が見えた。
「人…ですね」
「うん」
シルアさんの呟きに小さく頷く。
その格好はローブに包まれていて分からないが、体格的に男性。しかもガッチリとしている。
壁外ということもあり身構えてしまうが、相手は人間だ。
「あの…どうするの?」
ルルが強張った声をサクにかける。
サクは相手を見つめたまま口を開いた。
「敵なのか、そうじゃないのか分からないけど。1人だけなのが気になる…」
「ソロってこともあるんじゃないのか?」
「うん、そうなんだけど…。もしはぐれたりして困ってたら…」
そう言葉を濁すサクに、ルーカスとシルアは溜息をついた。
「相変わらずのお人好しだな」
「う…っ」
「ですが、それでこそサクさんです。私達は副隊長の指示に従います」
サクは目を見開き視線を向けた。
2人はこちらを見て微笑んでいる。
「わ、私もサクの指示に賛成だよ!」
そんな2人を見たルルがあわてて割り込む。
「ルル…」
そんな3人にサクは微笑み頷いた。
「じゃあ僕が言って声をかける。みんなは様子を見てて」
「大丈夫か?」
「危険だと感じたらすぐに行きます」
「私は魔法出せるようにしとく!」
「うん、ありがと」
もう一度微笑み、次には引き締める。
そしてすぐにウルスラグナを抜けるようにしながら足を踏み出した。
一歩ずつ近づいていく中、相手は変わらずに歩いてくる。
そしてその距離が5Mほどになった時、相手が足を止めた。
近くで見ると余計に大きく感じる。185はあるだろうか。
緊張感が漂う。
いや、こちらが気圧されている。
「…っ」
物凄い圧なのだ。
気を抜いたら潰される。
そんな雰囲気さえ感じ取る。
額から汗が伝う。
手が震える。
”殺られる”…っ
その時
「ほう。小僧、綺麗な赤髪だなっ」
「へっ?」
いきなりの声に驚く。
どうやら目の前の男が言ったようだ。
あまりの軽い口調に拍子抜けしてしまう。
数秒ヒリーズした後我に返った僕は、乾ききった口を開いた。
「あ、ありがとうございます…」
「いやー、俺の嫁さんも赤髪でなー!これがまたベッピンさんなんだよ!がっはっは!」
「あ、あはは…?」
豪快に口を開けて笑う男性。ローブの陰から無精ヒゲが見えた。
先程までの威圧感はどこへやら。大声で笑う男に顔が引きつってしまう。
やがて笑い終わった男は腰に手を当てた。
「で、あの3人はお前の仲間か?」
「へ?あ、そうですけど…」
男が指を指した方向、ルーカス達を振り返り咄嗟に頷いてしまう。
一人で「しまった!」と思っている中、男は向こうに目を向け呟いた。
「そうか」
そんな行動を不思議に思いながらも、なんとか切り替え目的を果たそうとサクは切り出す。
「えっと…!あ、あなたは…?」
上目遣いに尋ねると、男は視線を戻し、親指をビシッと己にへと向けた。
「俺は名はなのれん!そのためのローブだしな。でも出身はお前達と同じ国だと思うぞ、偶にしか帰ってこねぇけど」
「そ、そうなんですか。えっと、名乗れないっていうのは…」
「あー、俺今お偉いさん達から抜け出してきたんだよ。いろいろ面倒でさぁ。国のこととか何とか」
「国!?も、もしかして偉い人ですか!?」
目を丸めて尋ねるサクに、男は視線を向けニッと笑った。
「まぁなっ」
「凄い!ホントですか!?」
完全に目を輝かせるサクに男は1度驚き、すぐに笑う。
その笑みはどこか優しげで、悲しげでもある。
そしてポンっとサクの頭に手を乗せる。
「?」
なぜだろう。
その手はとても大きくて、硬くて、暖かい。
懐かしい感じがする…
「またな、小僧」
「え?」
サクの声と同時に男は身を翻す。
「あ、あの!?」
「気が変わった、やっぱお偉いさん達のとこ戻るわ」
「はぁ…?」
背を向け手を振る相手にサクはポカンとしながら見つめる。そしてあることに首を傾げた。
「またなって、どういう…」
「おーいサクー!」
「大丈夫ですかっ」
「さっき凄い笑ってたけどっ?」
仲間の声に我に帰る。
走り寄ってきたルーカス達に顔を向け、僕は頬をかいた。
「あ…うん、悪い人じゃなかったよ。手助けはいらなかったみたいだし」
最後の言葉、そしてあの笑顔は気になるけど、とりあえず頭を切り替える。
クエストは終わったとはいえ、まだ危険地帯。油断してはいけないというのは、セフィアさんからみっちり教えられているのだ。
「じゃあ、行こっか」
気になることは多くあるが、ここは副隊長として洞窟を後にするのだった。
* * *
「こ、これは一体…」
シルアの呟きに誰も返すことなくポカンとする。
なぜかといえば…
「急げ急げー!!」
「早くしろ!」
「こっちは準備できたぞ!」
「ど、どうなってんの…」
顔を引きつらせ、サクは呟く。
壁外から戻ってきてみれば、街中物凄い騒ぎなのだ。
多くの店が強制的に閉められ、人々が駆け回っている。
誰もが急ぐようにしている中、止まっているのはサク達だけだ。
「どうする?サク」
ルーカスの問い掛けに、サクは汗をかく。
「と、取り敢えずアジトに戻ろう…」
「ただい…」
「おー来たきた遅かったねぇ!」
「ブグ!?」
「うわぁ!?」
帰ってきてそうそうサクに飛びつくアマリア。
それはいつものことだが、未だアマリアのお迎えに慣れないルルだけはギョッと驚いた。
「さぁ早速行こう!!」
「「え?」」
アマリアの言葉ににルーカスとシルアは首をかしげる。
「あ、あのアマリア?行くってどこへ…」
「あーそうか!サクはこの街にはいたけどずっとマテリアルにいたんだもんねっ、それに3人もここに来て一年と経たないし」
仰向けに倒れたまま尋ねたサクに、上に乗るアマリアはポンっと手を叩く。
そんな彼女の言葉にサクは一つ引っかかった。
「え、ルルもそうなの?」
顔を向けると、ビクッとしたルルは俯く。
「この国にはいたけど、街には…。前の街の派閥にはもう『私を入れるとロクなことがない』って噂になっちゃってて…」
「そ、そうなのか…」
過去の記憶がよみがえり、激しく落ち込み出したルルにみんなは顔を引きつらせる。
そんな中、シルアが話を切り出した。
「というと、ラノスでは何か一年に一度このようなことが?」
「いや。その逆さ!」
ピシッとアマリアは人差し指を立てる。
その答えにサクたちは首をかしげた。
「逆って、どういう意味だ隊長?」
「つまり!今まで起こらなかったことが起こってるんだよ!」
「そ、それって何なんですか…?」
サクの問いにに、アマリアはにしっと笑った。
「英雄が帰って来たんだ!」
* * *
「それで一体どこに向かってるんですかアマリアっ?」
「もちろん街のみんなと同じ場所さ!」
街を5人で走る中、サクはアマリアに問いかける。
それに即答した彼女はビシッと前を指差した。
そこにはアマリアの言う通り同じ場所に向かう人々。
「英雄って、そんなに凄いやつなのかよっ?」
「おうともさ!えーっと…セフィア・カルヴァートがこの都市で最強と言われ始めてることは知ってるね?」
いきなり出てきた師匠(仮)の名前に驚きながらもサクは頷く。
「マテリアルでそう言ってるのを聞きました」
「ゼアノスを推してる奴らもいるよな」
アマリアはサクとルーカスの答えに頷き、指を立てた。
「でも、”言われ始めてる”ってだけで、まだそうじゃないんだよ。言ってるのは街にあとあと来た人だけだ。この街には絶対的な最強が、”英雄”がいるから…といってもゼンッゼン帰って来なかったどうしようもない英雄だけどねぇ」
「そ、そうなんですか…」
「あ!あれじゃない!?」
そこでルルの声にサク達は顔を向ける。
人が一点に集中しているのは、なんとマテリアルの前の広場だ。
それも物凄い人…っ
「こ、これは流石に近づけないんじゃ…」
汗を流すサクはそう言って走るのを止めようとした…
その時
「サクさん行きます」
「へ?」
グイッとシルアさんに持ち上げられる。
「し、シルアさん!?ま…っ」
そんなことに目を丸くするサクはされるがまま…
「はぁあああああああああっっ!!」
投げ飛ばされる…
「なぁあああああああああっっ!?」
猛スピードで中心にぶっ飛ぶサクは、そのまま
「ブグフッッ!?」
地面に向かって派手に突っ込んだ
「キャー!?」
「な、なんだ!?」
「空から何か降ってきたぞ!?」
もくもくと煙が立ち込める中、人々はいきなりの事に大騒ぎになる。
「あ、あれって大丈夫なの!?」
「まー大丈夫だろ。サクああ見えてタフだし」
「そういう問題じゃ…っ」
「さー私達はこのドサクサで開いた道を行くぞー!!」
「はい」
「えぇええええええっっ!?」
オドオドするのはルルだけで、アマリア達は当然のように駆け出す。
そんなみんなを見ながら、ルルはハンカチを目に当てる。
「サク、苦労してるんだね…っ」
「いてててて…ホントこれ、いつまで経っても慣れないんですけど…」
頭をさすり涙目で上体を起こす。そして今の状況は結構なことになっている…
大勢の人に囲まれてしまっている…
「あ、あの子アマリアちゃんのとこのっ」
「子供が空から降ってきた!?」
注目の的ってこのことなのかな…
「あ、あはは…」
どうしよう。物凄い恥ずかしい…っ
「よっし!作戦成功だー!!」
「ホント無茶苦茶…なのは毎度のことか」
「それでいいの!?」
「まぁ、いつものことですから」
最前列に到達した仲間たちが見えた。
作戦成功って…あんまりだよ…
そうして項垂れる。
そんな時
「さっきの小僧じゃねぇか」
目の前に影がかかった。
「え」
頭に手を乗せられる。
その手はとても大きくて、硬くて、暖かい。
懐かしい手…
顔を上げる
「また、会えたな。小僧」