ディメント   作:もやしメンタル

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第43話《境界線》

目の前に立っている人は、紛れもなくつい先程壁外であった男性だった。

しかしその格好は変わっており、もうローブは着けていおらず、姿が露わになっている。

まるで教会の人のような白のフリルブラウスに黒のジャケット。そしてその上に黒のコートを羽織っている。

ガッチリとした体は逞しく、その顔もよく無精髭が似合う男前だ。髪は茶色だが少し赤みがかかっていて、腰まで届く長さを後ろで一つにまとめている。

さっき会っていた人物とは思えないほどにキッチリとした男性に、サクはただただ呆然とするのだった。

その時

 

「やっと見つけましたぞ!まったく早くマテリアルにお戻りになって下さい!」

 

「げ、もう来やがった…!」

「え?」

表情を苦くする男性とともに声のする方を見る。

さっきの声には、どこか聞き覚えのあったような気がした。

何度も聞いたバリトンの…

「ガンダルフさん!?」

人混みを割って入ってきたのは、僕の育ての親であるガンダルフさんだ。

驚きで叫んだ僕に彼は気づき

「な……サク?」

瞬間

何故か物凄い形相になりながら男性に目を向けた。

「何やっとるんですかあんたは!?」

ガンダルフさんの叫んでるのを久しぶりに見た、というかここまで取り乱した姿は見た事がない僕はポカンとする中、何故かはわからないがその原因であろう男性は、トコトン面倒臭そうに顔を背け、小指を耳に突っ込んだ。

「俺は悪くねぇぞ。コイツからここに来たんだから」

「な!?本当かサク!!」

「は、はい?…って今の状況、僕関係してるんですか!?」

こんなに取り乱すガンダルフさんの原因が、まさか僕にあるとは思いもよらず、「えぇえっ!?」と思いっきり驚いてしまう。

そうしていると、ガンダルフさんが我に返ったらしく、辺りにはたくさんの人がいるということに気づいたようだ。

次に彼はわざとらしく咳払いすると、「とにかく」と男性に目を向けた。

「マテリアルに戻りますぞ。まだ話し合いは終わっておりません。というか始まってすらもいませんがね、誰かさんがブラブラどっか行きまくるもんで」

「だって俺あそこ嫌いなんだよ」

そんな気のない男性の言葉に、ガンダルフさんは僅かに表情を引きつらせるが、すぐに切り替える。

「それとまぁ…サクは帰れ」

「え、なんでですか?」

「いや…それは、まぁ。これからこのサギ牧師はやる事がたんまりあるのでな、急がなならんのだ」

「は、はあ」

「誰がサギ牧師だっ」

「ささっ、行きますぞ!」

そうしてガンダルフさんは足早に男性の背中を押して行ってしまう。

周りの人達の歓声が大きくなる中、僕は小さくなっていく2人の背中を眺める。

なんだかガンダルフさんは、僕を遠ざけようとしているようだった。

「あ。そういえば…」

あの人の名前も知らないままだ。

先ほど触れられた頭に手を乗せる。

あの手は、大きくて、暖かくて

どこかとても懐かしいような…

 

「おいおいサク、どうしたんだいっ?」

 

「へっ?」

突然の声に顔を上げると、そこには僕の顔を覗き込むアマリアがいた。

「あ、すみません。何でもないです」

苦笑いを浮かべ辺りを見渡すと、いつの間にかすっかり誰もいなくなっている。

「もう街のみんなは英雄を追っかけて行っちゃったよ」

僕の様子にそう答えたアマリアは、「さーって」と伸びをした。

「どうしようか。私達も後を追うかい?」

「まぁ、別にもういいんじゃないか?それより腹減って死にそうだ」

「そうですね、このままだと、いつサクさんのお腹が鳴るかわかりませんし、何より…」

僕へのイメージが酷いことに顔が引きつるが、シルアさんの話の途中で向けた視線を追う。

「も、もうだめぇ〜…」

そこにはあまりの空腹で、すでにダウンしているルルさんが…。

そんな彼女にそれぞれが苦笑いを浮かべる。

「これは早く帰ったほうがよさそうだね。みんなクエスト帰りで疲れてるようだし」

アマリアの言葉に頷き、僕達はアジトへと足を向ける。

その時、一瞬先ほどの男性が浮かび上がってきて1度振り返る。

「?、サクさんどうかしましたか?」

「え、あぁ別に何でもないよっ」

足を止めるサクにシルアが首をかしげるが、すぐに大丈夫だとサクは返し、再び歩き出すのだった。

 

* * *

 

「それにしても、凄い人気だったな、英雄様」

「そうですね、街のほとんどの人が集まっているようでしたし」

帰り道でそういうルーカスとシルアさんに、アマリアが「おうともさっ」とこちらを振り返る。

「何せ街のシンボルみたいなところもあるからね。知らない君達の方が珍しいくらいさ。私は街から少し離れたところで暮らしてたけど、話くらいは知ってたぜ?」

「あの、その事ですけど」

顎に手を添え考え込むルルはそう言ってアマリアに目を向けた。

「その”英雄”とは、何故にそう言われるようになったんですか?」

「「「あ」」」

ごもっともな疑問に、サクたちはその時になってそういえばと手を叩く。尋ねられたアマリアも、ああそうかと手を叩き、ぴっと指を立てた。

 

「彼は”3代クエスト”の1つをクリアしたんだよ」

 

「「「「3代クエスト?」」」」

サクたちが首をかしげる中、アマリアはうんうんと頷く。

「3代クエストっていうのは、まさに異形さ。まぁ1つを彼がクリアしたから、残りは2つだけどね」

「え、クリアしたらもうそれっきりなんですか?」

「お、いいとこをつくねルルくんっ」

ピシッと両手をピストルにしてルルを指すアマリアはにしっと笑う。そんな彼女に、サクは汗を滲ませながら口を開いた。

「それで、あの人はどんなクエストを…?」

「ああ。彼はね、”ドラゴン”を倒したんだ」

その言葉にそれぞれがポカンとする中、彼女は説明を続ける。

「ただし、ただのドラゴンじゃない」

「まぁそうだろうな。ドラゴンなら、俺たちも共同クエストで倒してるし」

「え、そうなのっ?」

「あ、そういえば、まだルルさんに【ファルス派】の人達を紹介していませんでしたね」

「【ファルス派】?その人達と共同クエストをしたの?」

「はい。皆さんとてもいい人達ですよ」

「おいおい、話が脱線してるぜ?」

苦笑いするアマリアに、ハッと気づいたシルアとルルは「すみません」と頭を下げる。それに同じく苦笑いするサクは、アマリアに視線を移した。

「話からすると…、ドラゴンでもただのドラゴンじゃないって事は…、もしかして上級モンスターって事ですか?」

「その通り!だけどただの上級モンスターでもないんだ」

首をかしげるサク達に、アマリアは1度顔を引き締めた。

「ドラゴンっていうモンスターは、ちょっと特殊なんだよ。君達も実感したはずだぜ」

「実感?」

サクが首をかしげる中、「あ」とシルアが口を開く。

「そういえば、私達の倒したドラゴンって、”初級モンスター”でしたよね…?」

「「あ!」」

「へ、そうなの?」

1人キョトンとするルルに頷いてから、サク達は汗を流す。

「たしかランクは、D…」

「えっ、初級モンスターで!?」

「ああ、そうだった。【ファルス派】と協力してやっと倒せてぐらいだったのにな」

そんな眷属の会話に、アマリアはパチンと指を鳴らす。

「まさにその通りなんだよ!ドラゴンという生き物は、もともと架空の動物。よーく考えてくれ。ドラゴン以外にそんなおとぎ話に出てくるようなモンスターはいるかい?」

彼女の質問にそれぞれは考え込む。

たしかに、今まで戦ってきたモンスターも、熊だったり鳥だったり、変わっていたとしても影や花っていう動物以外のモンスター達だ。決して架空のものじゃない。

「…いないですね」

「そうなんだよ!モンスターじゃないと考えても、ドラゴンというのは人類の脅威に他ならない、まさに最強の生物だ。そんなのがモンスターだったら、はたまた上級モンスターだったら、どうなると思う?」

「ど、どうなるって…、どうかなるんですか?」

サクの質問に、アマリアはスッと僅かに目を細め、口を開いた。

 

 

「ランクが”Aを超えるんだよ”」

 

 

目を見開く。凄まじい衝撃が体を突き抜けた気がした。

「そ、そんなことって…あるんですか」

「例外に決まってるだろ?だから3代クエストだ。そして、彼はそれを達成している。まさに英雄だろう」

その言葉に、何故かゾクゾクしたものがこみ上げてくるのがわかった。

そして強く思う。

もう1度、彼に会ってみたい。

そして直接、聞いてみたい。

とてつもないモンスターを相手取り、勝利したその冒険譚を、彼という人間の事を、話して欲しい。

無性に彼に会いたい。

 

…でも

 

先ほどの遠ざかる背中を思い出す。

 

 

「?、サク?」

アマリアの言葉に、俯いていた少年はやがて顔を上げ、笑顔を作る。

「何でもないです。風車小屋までもう直ぐですよ」

「あ、ああそうだね。さーって、今日のご飯当番は誰かな〜っ」

「隊長だろ」

「うえぇっ!?」

それぞれかワイワイとしだす中、サクは1人空を見上げる。

名前すら知らない英雄の姿が浮かんで直ぐに消えてしまう。

彼との間は、きっと果てしなく遠いのだろう。

実力も、地位も、何もかもが…。

でも

「いつか、きっと…」

そう思う。

そうしてサクは、スッと空に手を差し伸べた。

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