「おーいサク。大丈夫かー」
「全く心配そうに見えないですよルーカスさん。少しはセネットさんを見習ってください」
「だ、だだだ大丈夫サクッッ!?」
「…逆にルルくんは落ち着いたらどうだい?」
そうしてドタバタとするアマリア達の原因はというと、「うぅー…」と唸りながらオンボロソファーに寝転がり、両目に冷やしたタオルを被せてダウンしている。
それはつい先程のクエストでの事だ。
今回のクエストは、壁外にて薬草を取ってくるものだったのだが、 その薬草自体がモンスターであるということだった。
薬草だから当然草だったわけで、草のモンスター【リーフ・ザック】は、なかなかに素早く、しかも頑丈だった。
しかしサクの敏捷はその上をゆく。
ルーカスもシルアも、相手に劣ることなく、ジワジワとモンスターを追い詰めていき
「魔法いくよ!」
ルルの合図にそれぞれが反射的に【リーフ・ザック】から距離をとった。
「【ゼフィロス・スペクトル】!」
ルルの杖から放たれる光の光線。
日々努力し鍛えている魔法だが、やはりこんな短期間では劇的に上達するわけもない。しかしその命中率は5割ほどまで上がってきていた。
そして、今回は…
「うわぁっタンマぁあああっっ!?」
「ブフグっ!?」
見事に失敗…
「ご、こめんサクゥッ!?」
「…前から思っていたんですが、何故いつも魔法に当たるのはサクさんなんでしょう?」
「運が悪りぃんじゃねぇのか?それともよっぽど魔法に好かれてるか。それより、今は敵だぞ」
サクが、前々から練習していたというルルの回復魔法で治療してもらう中、当然モンスターは待ってくれない。
瞬間、【リーフ・ザック】が吠えた。
「「ーっ!?」」
それと同時に、一斉に鋭いリーフが放たれる。
「くーっ」
それを反射的に跳ね返すルーカスとシルア。
しかし1つだけ、葉を捌き損ねる。
その方向には、回復魔法で手一杯で攻撃に気づかないルルが。
「ーッ、セネットさん!」
「え?」
シルアの叫びに振り返るルル。しかし攻撃はそこまで迫っていて回避は不可能。
その時
「…ッルル!!」
ルルにサクが覆いかぶさり、地面に倒れ込む。
完全に回避はできなかったが、僅かに葉がサクの腕をかすっただけで済んだ。
そうして無事を確認した瞬間に、ルーカスとシルアは地を蹴りモンスターに突っ込んだ。
「プハァーっ。今日のは一段と大変だったな」
なんとかモンスターを倒したルーカスとシルアは、ヘトヘトになりながら踵を返し、サクとルルのもとへ歩き出す。
そうしてふとある違和感に気付いた。
あれからモンスターとはルーカスとシルアだけで応戦した。
そう、サクは復帰してこなかったのだ。
「ルルの魔法がそんなに応えたのか?」
「確かにセネットさんの魔法は上がりましたが、こんなにも…」
いくらなんでもランクDのサクが、ランクFのルルの魔法でこんなにへばるとは思えない。
そんなことを考えていると。
「サクッ、サク!?」
ルルが叫びながら、グッタリとし倒れているサクを揺すっていた。
「まさか【リーフ・ザック】は、”そのままの状態じゃただの毒草だった”なんてねぇ。まぁ大して強い毒じゃ無いみたいだけど」
そうしてアマリアは苦笑いを浮かべた。
解毒はしたので、1日経てばもう大丈夫になるのだということ。
それを知る前は大層ヒヤヒヤされられたものだ。
「うぅ〜、私が足を引っ張らなければ…」
「セネットさん。またネガティブが出ていますよ」
「ハ…!ご、ごめんっ」
「まぁまぁ。取り敢えずサクは無事みたいだし、みんな疲れているだろう。今日はもう休んでくれて構わないよ。サクのことは任せてくれ」
微笑みながらそう言うアマリアに、それぞれが苦笑いを浮かべる。
「ワリーな隊長」
「構わないさ。でも明日のクエストは、サク抜きになりそうだから気をつけてくれよ」
「そ、それは大分キツイね…」
アマリアの言葉に、そういえばと気づく3人は汗をながす。
そんな彼らにアマリアは手を叩いた。
「ほらっ、だからもう寝なきゃダメだよっ」
ルーカス達はもう一度苦笑いしてから、それぞれの寝床へと向かっていくのだった。
「じゃあ行ってくるぜ、隊長」
「行ってきます」
「こ、今度こそは頑張ります!」
「ああ、気をつけておくれよ」
太陽はすでにだいぶ登った昼前に、3人の後ろ姿に手を振る。今回のクエストはお昼からのものだったのだ。
そうしてやがて「よしっ」とアマリアは踵を返し、風車小屋へと入って行った。
今日はサクの事もあってバイトをお休みする事にしたので、予定は何も入っていない。考えてみれば、なかなか2人っきりになることが無かったので、アマリアはだらしなく「えへへ〜」と頬を緩めてしまう。
未だに寝ているサクのおデコに乗っているタオルを取り、もう一度水につけて冷やす。そうしておでこに戻すと、その冷たさでか、「う…ん?」とサクの瞼が震え、ゆっくりと開かれた。
「あ、起こしてしまったかい?」
「…アマリア?」
眠たそうな目のまま上体を起こすサクは、半目で辺りを見渡す。
「…あれ?みんなは?」
「ああ、ルーカス達なら今さっきクエストに行ったよ」
「へー、そうですか…」
アマリアがサクの額から落ちたタオルを拾う中、重い瞼でサクは頷き
「えぇえっ!?」
一気に意識が覚醒したように目を見開いた。
「な、なんで僕起こしてくれなかったんですか!?というか行かないと…ッ」
「あー待った待った!落ち着いてくれサクっ」
急いで支度をしようとするサクに、アマリアが制止をかけて再びソファーに座らせる。
「覚えてないかもだけど、君は昨日毒でへばっちゃったんだよ。だから今日は1日安静にしているんだ」
「え!?で、でも僕もう大丈夫で…」
「無茶して長続きしたらダメだろう?」
「う…っ」
そう言われて仕舞えば何も言えないサクに、アマリアはやれやれと苦笑いする。そうしてポンっとその頭に手を乗せた。
「副隊長だからって、あんまり気張りすぎるのは良く無いぜ?少しは肩の力を抜きなよサク」
「…はい」
まだ晴れない顔をするサクに「ホント頑固だなぁ」と呟く中、ピコーンとあるナイスアイデアが浮かび上がった。
「サク」
「ん?どうかしました?」
「体はもう平気なんだね?」
「ーっ、はい!だから僕もクエ…」
「だったら一緒にデートをしよう!!」
「…はい?」
サクの言葉を遮り、アマリアは体を乗り上げグッと親指を立てる、なぜかキラキラと輝く彼女に、サクはポカンと停止する。
「今、なんて…」
「そうと決まったらすぐに行こう!どこに行こうか…あそうだっ、メインストリートに行ってみようよ!ついこの間美味しいクレープ屋さんができたらしいんだよっ」
「え…あの」
「それじゃレッツゴーだよサク!!」
「え、まっ…うわぁ!?」
ぐいぐいと手を引っ張られ、サク達はデート(仮)に出かけるのだった。
* * *
「うわー!やっぱり人が一杯だねっ」
「あ、あのアマリア…」
「うん?」
お昼とだけあって人の賑わう街に、アマリアは目を輝かせる中、サクが汗を流しながら口を開く。
「その…、ルーカス達はクエストなのに、なんか悪い気が…」
「もー!そんなこと言ってたら一生遊べないぞサク!こんな時くらいいいんだよ!」
「で、でも…」
「いいんだ!!」
「は、ハイ…」
まだ納得のいかないというサクにアマリアはグイッと詰め寄り、強制的に頷かせる。
そして満足げに笑った彼女は、再び前を向き、拳を突き上げた。
「さー遊ぶぞー!」
そんな元気いっぱいのアマリアに、サクは苦笑いを浮かべるが、次には微笑みにへと変わる。
こんなに楽しそうなアマリアは、いつぶりに見ただろう。
相変わらず僕はされるがままなのは、初めて会った時と変わらないのだが、なんだかとても心が温かくなった。
「1日くらい、か…」
正直にただ遊びたかったと言えばいいのに。
アマリアに手を引かれながら、僕は口には出さず、そう呟いた。