東方四鬼館 ~青鬼の館が幻想入り~   作:ガルナイド.

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一話で失踪しませんでしたね。どうも、ガルナイドです。

今回はキャラが三人も追加登場します。誰でしょうね。
あと、一応言っておきますが、今作の青鬼はverX(バージョンエックス)です。基本的に皆さんがプレイした青鬼とは所々相違点があると思います、ご了承ください。

では、どうぞ。



二話 背を見せるは鬼の恥

 

 別の部屋で何かが割れた。

 入口が開かない時点ですでに、ここが怪奇の館だという事は分かっていた。それでも、突如として起こる謎の現象は気に掛けてしまう。この館なりの歓迎とでもいうのだろうか。

 しばらく、無言の時が進む。

 

「よし、何が割れたのか確かめに行こうじゃないか」

 

 沈黙を破り、勇儀が嬉々として言った。一時の衝撃こそあったものの、四人はあまり応えている様子が無かった。

 

「……ええ、行くならまとまって行った方が良いわね」

 

 勇儀の積極性のある提案に答えたのは、意外にも華扇だった。

 

「ほう。華扇、いつになく乗り気だね。酒と好奇心は常に人を動かしうるって? それとも、内心では楽しんでたりしてるのかい?」

 

 笑みを浮かべながら、萃香がからかうように脇腹を小突く。ふざける際のそれにしては、鈍い音が強すぎるほどだった。しかし、華扇は真顔で萃香を軽く(にら)みつけるだけ。痛手ではないようだ。

 力、硬さ、技、心。鬼は非常に戦闘に長けた能力を持っている。人間が受ければ必殺の一撃でも、鬼にとってはお遊び程度なのだ。

 種族の差とは、とても大きな物だ。ましてや、鬼の中でも最高の実力を持つ萃香、勇儀、華扇の三人である。その地位は平の鬼、天狗、その頭を否が応にも下げさせる。鬼でなくとも彼女らに肩を並べるコンガラの立ち位置も、それに相応する。

 

「まったく……楽しんでなんかないってば。どうせ行く当てもないんだし、もしかしたら誰かいるかもしれないでしょう」

「そうだな、華扇殿がいるかもしれぬ。先程から姿が見当たらぬ故」

 

 その言葉を聞いて、華扇が戸惑うようなそぶりを見せる。自分に何も異変がない事を確認し、彼女は言った。

 

「コンガラ。真顔でそういう事言われると怖いのよ。私がみんなから見えていないって言う風に錯覚して――」

「華扇殿、大丈夫か? 何をおかしな事を言っている」

「ちょっと」

「さてと、華扇がこれ以上おかしくなる前に脱出した方が良いのかな。先頭は華扇でいいね? 行こうか」

「早速化け物が出てくれるといいんだけどねぇ。腕が鳴る。先頭は華扇か」

「華扇殿、早く行こう」

「え、え? なんでそうなるのよ」

「言い出しっぺは華扇。だから、先頭」

「……確かめようって言ったのは勇儀よ。先頭は勇儀ね」

「あぁ、そういえばそうだったね。むぅ……じゃあ先頭は勇儀だ」

 

 萃香はいささか不服そうに言った。あくまでも自分の言った理屈であったので、彼女にはきっぱり折れるという判断しかできなかった。強者とは皆、何かが違う。普通の者と考え方が根本的にずれている者が多い。

 鬼は嘘を()く事をこの上ない恥だと言う。鬼も極端な性格の持ち主が多く、ある意味『ずれている』のだ。

 

「私は先頭でも構わない。むしろ、化け物を一番早く目に掛けられる点では一番良い立ち位置じゃないか」

「では、私は二番目にいよう。勇儀殿の援護を受け持つ」

「じゃあ私は一番後ろで。背後の奇襲は私が撃退するよ」

「……私は中央辺りで見張りでもするわよ……」

 

 ため息交じりに呟く華扇だったが、鍵を見つけないと出られないとは分かっている。そのため、一刻も早くここから出るためには、ある程度積極的に協力する他なかった。

 四人は自己申請した順に列を組み、音のした方へ向かう。 

 

「流石洋館だ。異国語の札が付いているぞ」

 

 廊下に面する一つの扉に『LIBRARY』と書かれた札が付いていた。

 

「コンガラ、読めるのかい?」

 

 札をまじまじと見つめながら萃香が尋ねる。

 

「そのような(わけ)なかろう。異国語など、模様のようにしか見えぬ」

「まあ、そうだよねぇ」

 

 山に住む鬼や仏が外国語に触れる機会は少なく、自分から触れようとする意欲がある個体も稀である。自分らの使っている言葉や文字で全て事足りるのだから、他の言語を学ぶ必要など無いのだ。

 

「お二人さん、ちいと頼りないんじゃないかい?」

 

 勇儀が二人を(あざけ)るように介入した。自信に満ちた目でコンガラと萃香を交互に見る。

 

「英語って言うのさ。洋風志向の奴の近くにたまにある」

「勇儀殿、読めるのか」

「へえ、この中で情報量が一番乏しいのはあんただと思ってたよ。案外広い情報網を持っているのかねぇ」

 

 二人は意外そうに言った。

 力の勇儀。彼女は一部でそう呼ばれていた。脳筋という言葉があるように、力のある者は知性が乏しいように見えやすい。勇儀自身も、知的なそぶりを見せた事はなかった。

 

「で、この言葉はなんて意味なんだい?」

「知るか。どんな部屋かなんて、入ってみりゃ分かる事さ」

「結局知らないのね」

 

 あの自信に満ちた目は、異国語が読める事による物ではなく、なんという種類の文字か知っている事による物であった。

 知的なそぶりはしないのではなく、できない。

 

「別にいいだろう、文字だけが情報って訳じゃあない。何かが割れた音源だって、ここかもしれないだろう。よし入るか」

 

 鍵は開いていた。

 勇儀が先頭となり、部屋へと入る。比較的広い室内には、勇儀の身長の二倍ほどある本棚がいくつも置かれていた。

 

「図書室ね……」

 

 華扇が本棚へ近づき、いくつかの本を手にとってはパラパラとめくる。本を棚に戻すと、今度は全ての本棚を眺めるようにして部屋を周った。

 

「……駄目ね。ここの本、全部異国語で書かれてる。ここで情報は得られないわ」

「いや、情報は無くとも、何か手掛かりはあるかもしれないよ。一通り探してみようじゃないか」

 

 本に何か挟まっていないか、本棚の下に何かないか、全てを確かめるとするとかなり時間のかかるであろう作業だった。

 作業効率を上げようと、萃香は複数人に分裂してまで捜索を始めた。

 しかし、手掛かりは、簡単な場所で見つかる。

 

「見つかったわよ」

 

 華扇が見ているのは、図書室内の書類がいくつか置いてあった机だ。その声を聞いて、一つに(あつ)まった萃香と、本棚を切り刻もうとしていたコンガラ、本棚を破壊した勇儀が机に近づく。

 

「なーんだ、気張る事も無かったね」

「ねえ勇儀。なんで本棚壊したのよ」

「これは……寝室の鍵か」

 

 鍵は書類の下に、無造作な状態で置かれていた。鍵には、二つの札がついていた。片方は日本語で『寝室』と書かれている。もう片方の札は英語で記されている。

 

「一応、この本棚はあなたの物じゃないんだから、勝手に壊したら――」

「寝室は何処(どこ)にあるんだろうね」

「手当たり次第に探すしかないようだ」

「そもそも、あなたは考えてから行動するっていう事を――」

「だが、何かが割れた場所も探さなければ……」

「どっちを優先しようかねぇ……」

「力で解決することが一番合理的とは限らないのよ? だから、物事の解決方法には――」

「華扇、静かに」

「えっ」

 

 萃香に説教を止められたり、コンガラに真顔でからかわれたり、この短時間で何度も散々な目に遭っている彼女は、少しでも幸せなひと時を過ごしたい気持ちに駆られた。お団子や羊羹を食べたいと。

 

「よし! とりあえず、音のした所を探そうか。運よく寝室に当たったらそこを調べよう」

 

 異論を唱える者はいない。

 

「じゃあ、行くか」

 

 皆が場を離れようとして間もなく、室内の雰囲気が変わった。何処か不穏な空気だった。

 四人はそれに敏感に反応し、すぐに辺りを見回す。

 

「あれは……何だ……?」

 

 『それ』は本棚の後ろから突如現れた、先ほどまでは何も無かったというのに。 

 背丈は本棚ほどあり、一応人型を取っているが頭は異常に大きく、体も青黒い色をし、目の形は左右非対称、見るからに『化け物』だった。

 

「はぁ……コンガラの言う事は当たってたのね」

「ほう、なかなか面白くなってきたではないか」

「酒があるって噂の信憑性も高くなったよ」

「ああ。でも、とりあえずは戦うのが先になるかもしれないねぇ……」

 

 青黒い怪物は四人を発見すると、少しの間だけ静止した。獲物の状態を確認しているかのようだった。

 

「あんた……話せたりできるのかい?」

 

 勇儀の問いに返って来る言葉は無し。依然と唸り声が聞こえるだけだ。

 

「ああそうかい、無理かい。……みんな、構えた方が良さそうだ。来る」

 

 次の瞬間、怪物は四人へ襲い掛かった。

 

 

 

 

☆新聞記者side★

 

 

 

「ねえ(あや)。なんでまた逃げたのよ」

 

 館には鴉天狗が二人生存していた。

 

「戦う意味が無いからよ。良い写真と情報が手に入ればこの館にだって用済み、すぐに出ればいい」

「出られないから困ってるんでしょ」

 

 文と呼ばれた者は、首にカメラをぶら下げている。名を射命丸文(しゃめいまるあや)といった。

 もう片方の者は、手に携帯電話のようなカメラを待っている。名を姫海棠(ひめかいどう)はたてといった。

 双方は新聞記者であり、別の新聞を作成している。今は、現在最も話題になっている神隠しの館の実態を写真に収めるために館へ訪れていた。

 

「って言うか、なんで私も連れて来たの? 私は念写を使えば簡単に写真が手に入るのに。あの怪物の写真だって、潜入せずとも一発入手」

 

 彼女は、念写という、単語を思い浮かべれば、それに関する画像が撮れるという優れた能力を持っていた。その為、外出頻度が少ない傾向にある。

 

「自分から出向かなければ分からない事だって沢山あると言うのに。それだからいつまで経っても花果子念報(かかしねんぽう)は弱小新聞なのよ」

「あんたは行動力以前に、記事をしっかりしなきゃ。そんなに雑な記事の前には、大きな真実も廃れてしまうわ」

「何を言ってるの? 大きな真実は廃れない物よ。それの大きさを示すために文字がある。文字数が多いほど重要だって事は、誰もが感覚的に察知するわ」

「あと、どうせあれでしょ。私が念写を使わないように、道連れする気でしょ。もし一人でここへ来て万が一何かがあれば、新聞を作れず、私に先を越されるからね」

「半分正解、半分不正解。道連れにするっていうのはその通りだけど、あなたが何をしても、私の新聞を越す事はできない」

「何を! ふんっ、どうかしらね。今に見ていろ」

 

 そう言って、はたては文にカメラを突き付けた。

 

「館の正体を暴く決定的な写真を撮ってやるわよ。あなたに勝るステータスでね」

「やってみたら? 不人気度だけを示すそのステータスで、何ができるのか知らないけど」

 

 彼女達は睨み合っている。いかにも、火花が散りそうなくらいだ。

 しかしその時、場の雰囲気が大きく変わると共に、扉の方から唸り声が聞こえた。この唸り声は、この館において、ある事を示している。

 

「……見つかった」

 

 

 二人は声を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《次回予告》

 清く正しい射命丸です! メインストーリの方々を差し置いて私が三話の予告……私も有名になったもんですねぇ。……ちょっと外野。清くも正しくもないとか言わない。
 次回はついにあの方々と怪物が対峙する事になります。流石に、四人がかりで倒せないはずが……フラグ立てちゃいましたかね。
 次回、
「はたて、墨汁を飲む」
「文、新聞大会一位」 
「はたて死す」
の、三本です。
 はたて、あなたの事は忘れないわよ。あなたは人里中を半裸で狂ったように何度も前転するような変人だと。責任を持って山のみんなに広めておくからね。
 ちょ、ちょっとはたて。あなたは外野でしょ? こっち来ないで。私が次回予告してるんだから。ふっ、あなたの出番は無いでしょうね! なっ、だからこっちに来ないでって何度言ったら――  



次回「三話 再度襲う悪夢っぽい悪夢」(予定)    


―――――――――


追加キャラは青鬼さんと新聞記者のお三方でした。
当初はもっと後半に登場させる予定でしたが、新聞記者sideという形で初登場しました。




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