学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として 作:RedQueen
翌日、
「昨日は大変だったようですね」
ユリスが再び襲われたという一件は、昨日のうちに風紀委員会へ通報済だ。
当然クローディアの耳にもとっくに届いているのだろう。
ちなみにネットニュースにも話題があがっていたが、どれも「ユリスが謎の襲撃者を撃退」という点ばかりを取り上げていて、紗夜の名前はおろかその場にいたことさえ出ていなかった。やはり《
まあ、わかりやすいと言えばわかりやすい。
「どう、犯人は捕まりそう?」
「んー、正直なところ難しいかもしれませんね。風紀委員会にも本腰を入れて調査を行ってもらっていますが、ほとんど手がかりが残っていないようです」
「いくらアスタリスクでも、昨日のは明らかな犯罪行為にあたるんじゃないのかな? だったら普通に警察とかに任せてしまえばいいんじゃない?」
「それが簡単じゃないのが現状なんだろ。矢吹が言ってたじゃないか。「外部の報道機関は協定によって学園の敷地内に入れない」……って。警察でも似てるとこなんだろ」
「まあ、そうご理解していただいても結構です。アスタリスクにも一応警察に準じる
「というと?」
「彼らの警察権はアスタリスク市街地においてのみ発揮されるべきものなので、学園内に及ぶものではない__というのが各学園共通の見解です。余程の事件でもない限り、学園側は彼らを招き入れることをよしといません」
学園の意向は統合企業財体の意向であり、すなわちアスタリスクのルールだ。
つまり学園側が許可しない限り、星猟警備隊とやらは入ってくることができない、と。
「痛くもない腹を探られるのは嫌だってことか」
「探られると痛いから嫌なのでしょう」
クローディアはあっさりと認めた。
「私個人としては警備隊にお願いしたいところですが、こればかりは私の権限でもどうにもなりません。せめてもう少しユリスが協力的であれば打つ手もあるのですが……」
「まったく。なんでああも頑ななのかなぁ」
「まあ、しゃあねえだろ」
風紀委員会に一報こそしたものの、ユリスはそれ以上の関与を拒んでいる。
誰の助けも必要ないと言ってはばからないのだ。風紀委員は必要なら警護を付けることも可能だと言っていたのだが、「自分よりも弱い警護など不要だ」と一蹴していた。
「きっとあの子は自分の手の中のものを守ることで精一杯なのでしょうね。新しいものを手に入れようとすると、今あるものがこぼれ落ちてしまうと思っているのかもしれません」
「手の中のもの……?」
「とはいえ、それとこれとは話が別です。私としても今回の件を看過することはできません。そこでご相談なのですが__」
クローディアがそう言って身を乗り出したところで、生徒会室のドアが荒々しくノックされた。
「……と、すみません。今日はあなたたち以外にも来客があるのを忘れていました。この続きはまた後ほど」
クローディアが執務机の端末を操作すると扉が開き、思わぬ一行が入ってくる。
それは向こうも同じだったようで、揃って驚いたような顔で雅と綾斗を見た。
「
にこやかに紹介してくれようとしたものの、もちろんその必要はなかった。
なにしろ、やってきたのはレスターとその取り巻きたちだったからだ。
クローディアもすぐにその雰囲気を察したのか、不思議そうに首を傾げる。
「あら、もしかして皆さんすでにご存じでしたか?」
「まあ、一応ね」
「な、なんでおまえらがここに……?」
太ったほうの取り巻き__ランディがぽかんとした顔で二人を指差す。レスターはといえば、忌々しそうに二人を一瞥しただけですぐに視線をそらしてしまった。
「今回は綾斗、雅くん、そしてマクフェイルくんのお二人に適合率検査を受けていただきます。おわかりだとは思いますが、そちらのお二人は付き添いということなので保管庫には入れません。よろしいですね?」
「ああ、はい、もちろん了解しています」
痩せたほうの取り巻き__サイラスがこくこくとうなずいた。
「いいからさっさとはじめようぜ。時間がもったいねえ」
「ふふ、せっかちですね。ですが確かに時間は有意義に使うべきです。参りましょうか」
クローディアはそう言って立ち上がると、先導するように生徒会室を出た。
よく磨かれた廊下を進みながら、綾斗は気になっていた疑問をクローディアにぶつけてみる。
「それで、
「手順としては単純ですよ。希望する純星煌式武装との適合率を測定して、八十パーセント以上であればそれが貸与されます」
「それだけでいいのか?」
「ええ」
なんだか拍子抜けだ。純星煌式武装のコアに使われているウルム=マナダイトは、とても金銭には換算できないほどの価値があるという。そんなものを気軽に学生へ貸し出してしまっていいものなんだろうか。
「はっ、なんも知らねぇんだな。純星煌式武装を借り受けるのは言うほど簡単じゃねぇんだよ」
すると雅の後ろを歩いているレスターが嘲るように言った。
「そもそも希望すれば誰でも通るってわけじゃねぇ。序列上位者か、《星武祭《フェスタ》》で活躍したやつ、あるいは特待生でもなきゃまず無理だ。その上で適合率が八十パーセントを超える純星煌式武装と巡り会えなきゃ意味がねえ。よしんば借りを受けられたとしても、そいつを使いこなせるかどうかはまた別問題だしな」
適合率とはその純星煌式武装の能力をどこまで引き出せるかの目安だ。誰でも簡単に起動可能で、威力もある程度調節できる
ウルム=マナダイトは極めて純度の高い
つまりはそれを扱いきれるかどうかを測るのが適合率検査なのだが、言ってしまえば相性の問題なので、基本値自体は本人の努力ではどうにもならない部分が大きい。
「ふふっ、さすがにチャレンジも三回目となると説得力がありますね」
得意そうに語っていたレスターだったが、クローディアの言葉に一転顔をしかめる。
「けっ! 今度で終わりにしてやるさ」
そして苦々しそうにそう吐き捨てた。
「そうだよレスター! 今まではちょっと運がなかっただけだ! 今度こそやれるさ!」
「ふふん、当然だ」
ランディのお世辞は随分とあからさまだったが、レスターもすぐに気を良くする。
「二度あることは三度あるってか」
「ん、なんか言ったか?」
「いんや、なんも言ってへんよ」
危なかった危なかった。もし聞こえてたらこの男のことや、分殴られとったかもな。
「希望すれば何回もチャレンジできるってこと?」
「許可さえ下りれば可能ですよ。学園としても宝の持ち腐れでは意味がありませんからね。まあ、そうは言ってもその審査が厳しいのも事実です__《冒頭の十二人《ページ・ワン》》を除いては、ですけれど」
ほほう。それはさすがの特権だ。
「といっても《冒頭の十二人《ページ・ワン》》とて無制限ではありません。見込みがないと判断されれば許可が下りなくなることもあります」
そうこうしているうちにたどり着いたのは、高等部校舎の地下ブロックにある装備局だ。地下といってもアスタリスクは人工島なので実際は水中なのだが、窓らしきものは一つもないので中はそう大差がない。
職員と思しき白衣姿の人々が忙しそうに行き交う通路を、二人が物珍しそうに眺めながら進んでいると__
「や、やあ、この前はすみませんでしたね」
ふいに背後から小さな声で話しかけられた。
振り向いてみれば、サイラスが気の弱そうな笑顔を浮かべている。
「レスターさんも悪い人じゃないんですが……その、ちょっとばかり気性の激しいところがある方なので……」
そう言って恐縮した様子で頭を下げてくる。
「ああ、いや、別に気にしてねえよ、そんなこと」
「ランディさんもあの調子ですから、また何か不愉快な思いをさせてしまうかもしれませんが……本当に申し訳ないです。昨日も二人でなにか話してたみたいで……」
「おい、サイラス! てめえ、なにやってやがる!」
「そうだぞ! 早くこい!」
「は、はいっ!」
そこへ前を行くレスターたちから怒声が飛んできた。
サイラスはもう一度小さく頭を下げると、慌てた顔で二人に駆け寄っていく。
どうやら三人の力関係はレスターが一番上でサイラスが一番下らしい。
「ふむ……」
それから装備局フロアの最奥にあるエレベーターでさらに潜り、ようやく到達したそこは広めのトレーニングルームのような空間だった。地下なのにずいぶんと天井が高い。
片方の壁には六角形の模様がズラリと並んでいて、その反対側の壁は一部がガラス張りのようになっている。ガラスの向こうでは白衣姿の男女が何人か忙しそうに働いていたが、年齢的にも学生とは思えないので装備局の職員なのだろう。ランディとサイラスも今はそちらで待機している。