学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として   作:RedQueen

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第十五話、始まりました。

雅「久々の投稿だな。いやー長かった長かった」

あ、あの……。

雅「体がなまってきたー」

うぅ、すいません。

雅「そんなへこたれるな、主よ」

誰のせいでしょうかね。まあ、それはおいといて、たしかに久々の投稿です。

雅「おお、自ら認めた」

犯人が自首したような感じで言わないでくださいよ。

雅「ごめんな。では本編どうぞ」


本当の実力

「───内なる剣を以って星牢を破獄し、我が虎威を解放す!」

 

その刹那、ユリスの目に苦悶の表情を浮かべる綾斗の姿が映った。星辰力が爆発的に高まり複数の魔法陣が周囲に浮かび上がると、光の火花を散らして砕け散る。圧倒的な星辰力が解放され、光の柱のように立ち上る。

まるで固く縛り付けていた枷が外れたように。

 

「は……?」

 

サイラスが唖然とするのも当然、一瞬にして綾斗がその場所から姿を消していた。同時に襲いかかった人形もバラバラになる。その切り口は刃物で切ったというよりは、高熱で焼き切られたように赤熱していた。

 

「……なっ! ば、馬鹿な!? どこに消えた────!?」

 

「ここだよ」

 

「ひっ!」

 

綾斗はサイラスの斜め後ろに立っていた。

大剣を握ったまま、一瞬で回り込んだのだ。それも人形たちを一振りで薙ぎ払って。

ユリスには綾斗の動きが尋常な速度ではないことが理解できた。

 

「な、な、な……!」

 

サイラスは綾斗から逃げるように後ずさる。

 

「お、おまえは一体……」

 

人形と戦っていたユリスでさえ一瞬呆然と言葉を失っていたが、我に返るとすかさず綾斗に声をかけた。

 

「よそ見は駄目だよユリス。今は目の前の人形を一体でも多く片付けないと」

 

「そ、そうだな、わかった。ただし無理だけはするな。それを片手で……」

 

ユリスは綾斗から《黒炉の魔剣》へと視線を移す。

 

「ああ、これって案外軽いから大丈夫」

 

綾斗はそう言って《黒炉の魔剣》を振ってみせた。真っ白だったその刀身には、いつの間にか黒い文様が浮かんでいる。

 

「まあ、正直言っちゃうとあんまり長くは持たないんだけど───この程度ならどうとでもなるよ」

 

綾斗はそう言ってサイラスに視線を向ける。

 

「ぐっ……! た、多少はできるようですが、あまり侮らないでいただきたいですね!」

 

サイラスはなんとか冷静さを取り戻そうと努めているようだが、

 

「完全に動揺してるって表情だな。とうとう自分が不利だって気がついてきたのか?」

 

雅が挑発混じりの言葉をとばす。

 

「そ、その余裕がいつまで続くことやら。次はこちらも本気でいかしてもらいますよ……!」

 

と、今まで乱雑に並んでいた人形たちが整然と隊列を組み始める。

前衛は槍や戦斧といった長柄武器、後衛は銃やクロスボウ、その間を剣や手斧を持った人形が埋め、その最後列にサイラスが鎮座した。

 

「これぞ我が《無慈悲なる軍団(メルツェルコープス)》の精髄! 一個中隊にも等しいその破壊力、凌げるものなら凌いで────!?」

 

サイラスは最後まで言いかけようとしたが、ある違和感に気付きその目を大きく開いた。

 

「ど、どうした!? なぜ動かない!? う、動けよ!!」

 

サイラスの言葉通り、隊列を組んだ人形たちはサイラスが呼びかけてもピタリとも動かない。いや、動こうとしないのだ。そのあまりの出来事にサイラスは動揺を隠せないでいる。

 

「君には従えないってさ、サイラス・ノーマン。いやはや残念だったね。これでネタが尽きちゃったかな」

 

雅は薄ら笑いを浮かべながらサイラスへと視線を向けている。

 

「ふ、ふざけるな! お、おまえなんてこいつらにかかれば……」

 

「動かないんだからただのガラクタじゃないか。こんなのに俺らがやられる? 上等じゃねえか」

 

一瞬だけ雅の目つきが鋭くなり、サイラスはおびえるように後ずさる。

だが雅はすぐにふと何か思いついたかのような顔に変わる。

 

「……動けば文句がないってことだよな。なら、こういうのはどうよ?」

 

雅が片手を人形たちの足下へと伸ばす。

 

「お楽しみあれこの幻想を、祭りを、《遊戯狂の偽祭典(メッゾプラーヴィ・カーニバル)》」

 

その瞬間、人形たちが少しながら動き始めた。サイラスはようやく人形が動いたことに安堵したのか笑みがこぼれるが、それも次の瞬間には恐怖へと塗り替えられた。

 

「……あ、あ…」

 

人形たちがお互いを壊し合っているのだ。ある者は握られた剣で斬り、刺す。ある者は自らのボディを武器で壊しにかかる。

サイラスは余りの惨状に言葉も出ない。

 

「どうだろ面白いか楽しいか。この光景に感謝感激ってか」

 

「何が感謝感激だ! こんなの……!?」

 

「ひどすぎるって言いたいのか? 裏でこっそり隙をうかがい、相手に大怪我を負わせるのとあんまり大差なさそうだけどな」

 

雅が言い終わると同時、残った最後の人形が雅へと襲い掛かった。全体が傷だらけで今にも崩れ落ちそうだが、それでもなんとか体勢を保っている。

片手に握られた剣が雅へと向けられる。雅はそれを避けようとはせず、人形へと歩み寄る。

剣先が雅に触れようとした寸前、雅は《紅戒の呪爪》で人形を斬りつけた。ただそれだけで人形は音もなく両断された。斬りつけた瞬間、《紅戒の呪爪》の切っ先が紅く染まっていく。

 

「さ、お終いだ」

 

雅は鉤爪を無造作にぎらつかせながらサイラスに近づく。

 

「う、嘘だ……こんなことが……ありえない……ありえるはずがない……」

 

サイラスが後ずさりながら、言葉を発する。

 

「終わりだよ、サイラス」

 

「……ま、まだだ! まだ僕には奥の手がある!」

 

サイラスは腰砕けになりながらも大きく腕を振った。

すると背後にあった瓦礫の山が吹き飛び、中から巨大な人影が姿を現す。

 

「おお、これまたでかい代物ですな。よくもまあ、隠してたもんだ」

 

「は、ははは! さあ、僕のクイーン! やってしまえ!」

 

サイラスの命令に従い、巨体に似合わぬ素早い動きで雅に襲い掛かる。

 

「雅、俺もいいかな?」

 

「もちろんだとも、親友」

 

二人はお互い目配せをし、《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》《紅戒の呪爪(ヴェスペ=ヌヴァイ)》を構える。

巨大な拳がまさに二人を圧殺せんと迫る刹那───その剣が閃く。

 

 

「五臓を裂きて四肢を断つ────天霧辰明流中伝“九牙太刀”!」

 

「闇を纏い陰を秘めよ《崩神魔の暗因腕(ヴァルッシュ・イネイス)》」

 

 

刹那、巨大な人形は両手足を切断され地響きを上げて倒れた。それに追い討ちをかけるように地面から黒い物体が集合していく。それがどんどんと数を増し、巨大な腕となり、クイーンと同等とも思えるほどの大きさだった。その腕が振り落とされると同時、膨大な爆風が吹き荒れ、残骸は見る影もないほどに砕ける。

 

「────」

 

サイラスはもはや言葉も出ないほどになっている。

綾斗が近づくと、サイラスは顔を引きつらせながら逃げ出した。

 

「ひ、ひぃぃ!」

 

転がるようにしながら、半泣きの顔で人形の残骸の中を逃げ惑うサイラス。

 

「往生際が悪いなぁ」

 

綾斗が呆れたように眉をひそめていたが、ふいにその顔が険しくなる。

 

「あんま無茶しなさんな。その状態もそろそろ限界だろ。あいつは俺がどうにかする」

 

「ごめん、雅」

 

「なんで謝るんだよ?」

 

「おい、それよりもサイラスは逃げてしまったぞ」

 

ユリスに上空を見るよう促されると、サイラスは人形の残骸にすがりついたまま浮いていた。

 

「ちょっくら追いかけますか」

 

「追いかけるって、間に合うのか?」

 

「今の俺では厳しいだろうけど、一つだけ得策があるのはある」

 

「得策だと?」

 

雅は二人から離れた位置に移動すると、サイラスが浮いている上空を見据える。

次の瞬間、雅の星辰力が急激に高まる。その星辰力は綾斗の比ではなく、無尽蔵にも思えるほどだった。他者を寄せ付けない圧倒的な星辰力はユリスでも計り知れないなにかを感じ取れた。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

そう言った途端、雅は地を蹴った。それだけ雅は一瞬にして屋上へとたどり着く。まさに人智を遥かに凌駕するかのような速さと脚力でサイラスを追いかける。雅がいた場所には少しながらクレーターらしき歪みができていた。

 

(くそっ! なんなんだよあいつら!? 一体何者なんだよ!?)

サイラスは残骸にすがりついたまま心の中で思考を巡らせる。

 

「サイラス!」

 

「っ!?」

 

背後から自分を呼ぶ声が聞こえ振り向くがそこには誰もいない。

 

(き、気のせいか。流石にここまで追いかけては……)

 

サイラスがそう思った途端、視界の前方に雅が映った。

 

「ようやく終了のお時間ですよ、サイラス・ノーマン」

 

「く、くる、くるなあああ───」

 

ただ一瞬瞬きをしただけで雅の姿が目の前に現れた。急な転回など出来るはずがなく、サイラスと雅はすれ違う。サイラスの叫びもむなしく、その瞬間に人形は粉々に引き裂かれ、サイラスは絶叫し廃ビルの谷間へと落ちていった。

 

「まあ、《星脈世代(ジェネステラ)》だし、落ちたぐらいじゃなんともないよな、うん」

 

雅は夕焼けに染まる空、一人納得する。

このまま夕焼けをめでようと思ったその時、身体に異変を感じ苦痛の表情を浮かべる。

 

「ちっ、もう時間切れか。どっかに降りねえと俺まで落ちちまうぜ」

 

雅は一番近い建物を探し屋上へと着陸する。安堵したのもつかの間、周囲の万応素(マナ)が集約されていく。

 

「ぐっ……うぅ…」

 

痛みに雅は懸命に耐える。これまでも幾度となく味わってきた痛みで慣れてきてはいるが、それでも耐えられない痛みが全身を縛り付ける。複数の魔法陣が取り囲み、その魔法陣から出現した光の鎖が雅の体を何重にも縛り付ける。

 

「う…………はぁ…はぁ」

 

ようやく痛みが収まってきた。なんとか意識は保っているものの、体が動けずにいる。

雅は屋上で寝そべったまま空を眺める。

 

「しっかし、俺はともかく綾斗のほうは無理だろうな」

 

そう口走った途端、とある屋上の上空に翼らしき焔が見えた。それは明らかにこっちに向かってきている。

まあ、焔といったら一人しかいないが。

 

「お、おい、雅! これはどういうことだ!?」

 

「まあまあ落ち着きなよ、ユリス。綾斗は大丈夫だからさ」

 

雅の顔は真剣そのものだ。とても嘘をついているとは思えない。

 

「……わかった。だが……」

 

「……だが?」

 

「説明してもらおうか?」

 

「説明って、どんな?」

 

「まずは綾斗を抑え付けているあの能力────《魔女(ストレガ)》か《魔術師(ダンテ)》のものだな? もしやおまえざかけたとは言わんだろうな?」

 

「違う違う。俺にそんな能力はねえよ。それに俺も綾斗同様かけられてる立場だし」

 

雅は不自由な腕をできる限り振る。

 

「そうか。なら一体誰にかけられたものだ?」

 

「それは綾斗の姉さんだよ。能力は万物を戒める禁獄の力、だったかな」

 

「……なら、サイラスを追いかけたときのあれが本来の実力なのだな?」

 

「それは違う。使いこなせていないし、それでは実力とは言えない」

 

雅はきっぱりと言い切る。

 

「俺は感謝してるよ。この力に、綾斗の姉さんに。それにさっきのように力を使えるのは精々四分。それを過ぎると、綾斗のように気絶しちまうんだよ。まあ、俺はなんとか耐えることができるけどな」

 

「おまえの力を抑える理由がわかったが、なぜ綾斗の力まで抑える必要があったのだ?」

 

「それは俺も綾斗も知らないよ。なんせ五年前に失踪しちまってるからな」

 

そう言って雅はどこかに立ち去ろうとする。

 

「おい、どこに行く?」

 

「どこって、寮で一休みするんだよ。それに俺はハッピータイムの邪魔をするほど馬鹿じゃないので」

 

「ハッピータイム……? なっ!」

 

ユリスはようやく雅の言葉の意味を理解したのか、綾斗を見て顔を真っ赤にした。

 

「ほんじゃあごゆっくりどうぞ、お・ふ・た・り・さん」

 

雅は満面の笑みを浮かべ、建物へと姿を消した。

 





はい! 第十五話完了~

雅「いやー、そうっすね♪」

おや、やけにテンションが高いですね。どうしました?

雅「俺が考え抜いた攻略ルートがうまい具合で進んでいるんでな」

と言うとあの二人のことなのですか?

雅「ご想像はお任せする」

お任せされます。ところで雅さんってどういう経路で綾斗さんと出会ったのですか。それに今回発動したあの実力、使いこなせていないってことは過去に……

雅「それは後々わかってくることだよ。それに、俺は過去を見ない。大切なのは今だ」

おー、かっこいい。まあ、気になることですが今は控えましょう。

雅「それが正しい。ってか、そこんところは考えないで気楽にいこうぜ!」

気楽にですか。それもそうですね。
では、そろそろお願いします。

雅「オーケー! 次回からはようやく彼女が……」

彼女とは、もしや?

雅「次回もよろしくする!」

よろしくお願いしますね。

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