学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として   作:RedQueen

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第十六話、ようやく到来······です。

雅「ようやく、ってのは単に主が遅えだけだろ」

ぐっ、痛いところをついてきますね。これはこちらにも諸々の事情があるからしてーー

雅「わかってるよ、進級だろ。進級やテストやらで忙しいんだろう」

うぅ、その通りです。こんなにも理解が早くて助かりーー

雅「あー、はいはい。そんなことはいいから、本編開始しよーぜ」

え、あ、はい。そうですね、では雅さん。

雅「えー、それでは本編をどうぞ」


綺凛という名の銀髪少女

七月の中庭。照ってくる日差しは一向に衰える気配がない。

そんな中庭を、雅が欠伸をかきながら駆けていた。

 

「ふわぁ······眠い眠い、眠すぎる···けど、付き合わなければならないし······過酷だぁ」

 

《鳳凰星武祭》開催まで残り一ヶ月。綾斗とユリスがタッグパートナーを組んで出場することになり、雅はその訓練相手として手伝い役を担っていた。

それで今日も、いつもどおり放課後に訓練をする予定だったのだが、襲ってきた眠気に負けてしまい熟睡してしまっていたのだ。

綾斗はともかくとして、時間厳守なユリスには別の理由を考えておかなければいけないな。

そんなことを考えつつ中等部校舎と大学部校舎を結ぶ渡り廊下を横切ろうとしたその時、考え事で油断していたのか、目の前の人の気配に気づくのが少し遅れてしまった。

ちょうど死角になっている柱の陰から、一人の少女が現れた。

 

「っ!?」

 

気づいてから速度を緩めようとするが、この距離では到底間に合わない。

向こうの少女もこちらの存在に気づいたようで、驚いた表情のまま視線を向けてくる。

このままでは正面衝突してしまうだろう。

切羽詰まったこの状況、雅は高い身体能力を駆使して避けようと試みる。

身体への負担をなるべく軽減しつつ、少女とぶつからない程度に方向転換をする。無理矢理なせいか、痛みが身体中に走るが、正面衝突よりかはまし······だ!?

それで回避に成功できたと思いきや、なぜか身をかわした先に少女の姿があった。

 

「なっ!?」

 

「きゃっ······!」

 

状況が状況なだけに想定外だったこともあり、今回ばかりは避けきれず、結局二人は正面から真っ向に思いっきりぶつかってしまった。

それでもかなり減速できていたこともあって、衝撃はそれほどでもなかったが、相手はあくまでも小柄な少女。体勢を少し崩しながらも雅は地面に座り込んだ少女のところへ駆け寄った。

 

「ご、ごめんっ······怪我はないか?」

 

「あ、はい······大丈夫、です」

 

恥ずかしそうに微笑みながら雅を見上げる少女が、小さな声でそう答える。

 

「本当にごめんな。ちょっと急ぎの用があったもんだから急いでたし、不注意が過ぎた······」

 

頭を下げながら手を差し伸べると、少女はしばらく戸惑うようにしてからおずおずとそれを取る。

立ち上がった少女は取り繕うようにスカートの埃を払うと、ぺこりとお辞儀をする。

この制服、中等部の生徒なのか。

くりくりとした大きな瞳に可愛らしくツンとした鼻、銀色の髪を二つに結び、背中に流している。

服の上からもわかるくらいの抜群とも思えるスタイル、その細い腰には実剣を収めているらしき鞘が差してあった。

 

「い、いえ、わたしのほうこそごめんなさいです。音を立てずに歩く癖が抜けなくて。いつも伯父様に注意されるんですけど······」

 

音を立てずに歩く癖、かあ。

気づけなかったのはそのせいなのか、それとも別のなにかか。

 

「······まあ、いっか」

 

「え······?」

 

考えるあまり独り言を呟いた雅に、少女は不思議そうに小首を傾げた。

 

「ああ、いや、なんでもないさ······って、それより、ちょっとじっとしててもらえるかな?」

 

「ふぇ······?」

 

よく見ると、少女の綺麗な銀髪には小指ほどの小枝が一本絡まっている。

雅は髪を傷めないよう動かないようにしてもらい、少女がじっとしている間にそっと小枝を取り除く。

 

「······はい、もう大丈夫。君の綺麗な髪が傷つかないでよかった」

 

「あ、あ······ありがとう、です」

 

少女はお礼を言ったのち、なぜか湯気が噴き出しそうなほどに顔を真っ赤にして、そしてもじもじと俯いたまま黙ってしまう。

時折チラッと視線が上がってくるが、こちらと目が合うとすぐにまた伏せてしまう。

人見知り、とまではいかないがそれに近いものなのだろうか。

こういう時はどう対応をーー

そう思っていたその時、ふいに中等部校舎のほうから大きな声が響いてきた。

 

「綺凛! そんなところでなにをやっている!」

 

「······は、はいっ! ごめんなさいです、伯父様! すぐに参ります!」

 

聞こえてきたかけ声にビクリと身をすくました少女は、焦った様子でもう一度雅にお辞儀をする。

 

「そ、それじゃ······!」

 

「あ、ああ···じゃあな」

 

少女の向かった先を見てみると、中等部校舎の入り口付近に壮年の男性が立っていた。少女はその男のところへと小走りで去っていく。

そこらの常人と比べるとわりと体格がいい感じの男性だが、星辰力(プラーナ)がまったく感じられないからして《星脈世代(ジェネステラ)》ではないのだろう。

少女が伯父様と言っていたこともあり親族で間違いないようだが、ここは親族といえども立ち入り禁止のはず、そう容易には立ち入れない場所だ。とすると、やはり学園の関係者という可能性が高い。

校舎を眺めながら考えていたが、はっとなにかを思い出したかのか、ふと時間を確認する。

 

「······ありゃりゃ、こりゃやばい。綾斗のやつ、説得してくれてーー」

 

約束していた時間はとうに過ぎ去っていた。

焦りを感じて駆け出した雅が言い終わろうとしたその時、ポケットに入れていた携帯端末が着信を知らせてくる。

溜め息をつきながらも、しぶしぶ空間ウィンドウを開くと、

 

「ねえみてぇ、だな」

 

もちろん最初から予想はできていたことだ。ユリスが、不機嫌そうな顔で睨んでくることは。

そのユリスの背後では引き攣った笑みを浮かべる綾斗の姿があった。

 

 

 

 

 

「咲き誇れーー赤円の灼斬花(リビングストンディジー)!」

 

凛とした声がトレーニングルームに響くのと同時、ユリスの周囲に紅蓮の炎が吹き上がる。

それはまるで竜巻のように渦を巻きながら、空中で円盤状へと姿を変えていく。その数は軽く見積もっても数十個。激しく回転する炎の刃はまさに、灼熱の戦輪(チャクラム)だ。

 

「行け!」

 

ユリスがそう命じると、それに呼応するように無数の戦輪が雅へと襲いかかる。雅は姿勢を低くして鍵爪を嵌めた腕を大きく広げて構える。白銀の輝きを放つ鋭い爪が、先陣を切って飛び込んできた戦輪を真っ二つに切り裂く。一瞬の間に両断された戦輪は、存在を保てなくなって消えていく。

と同時に雅を包囲するように頭上と左右から、そして正面から三つ、さらに背後からも三つの戦輪が迫ってくる。周囲を意図も容易く囲まれてしまい、逃げ場などない状況といえる。

三次元機動する物体を十数個同時にコントロールするのだけでも至難の技だというのに、ここまで見事に操りきるユリスやはり序列五位に君臨していることはある。

そう思っていた雅は左腕の手のひらで優しく地面に触れ、落ち着いた雰囲気で口を開く。

 

「華麗に咲き散れ、黒飛の狂蝶刺(ライネス・フィージ)

 

笑みを浮かべて言い放った雅を中心に魔法陣が浮かび上がり、その上空にきらびやかに羽を広げ宙を舞う蝶が現れる。その数は瞬く間に十、二十と数を増していく。その一部が重なるようにして集結していき、やがて複数の鋭く尖った槍が形成される。それらが襲いかかってきたいくつもの戦輪とぶつかり合ったかと思うと、先ほどまでの蝶という美しさとはほど遠く、凄まじい爆風と轟音が室内に鳴り響き、あまりの威力に壁や床に亀裂が走る。

それを目前で目の当たりにしたユリスが驚愕と呆れとが入り混じった表情で雅を睨む。

 

「おい、いくらなんでもやり過ぎではないか。直撃で喰らっていたら、たとえ私でも重傷を負いかねん威力だったぞ」

 

「まあ、これは歯止めがきかないやつの一つでさ。今度こそは、と思ったんだが······」

 

周りの惨状を哀れむように眺めながら、雅が不満げにそう言った。

魔法を操る魔術師(ダンテ)の立場であるがこそ、うまく使いきれない魔法が多々あるということに雅は納得できないでいるのだ。口振りからして過去に今回のような出来事は何度も数えきれないほど繰り返してきたのであろう。

 

「······まあ、失敗は成功の元と言いますし、挑戦あるのみだぜ」

 

鉤爪をぎらつかせて強気に言いはった雅がふとユリスのほうに視線を移すと、ユリスの周囲にはまだ十個以上の焔の戦輪が渦を巻いていた。

 

「挑戦あるのみ、か。なら私も······次も全て避けることができるものか試してみようではないか」

 

「あはは、こりゃまたご冗談を······って言っても無駄そうだなありゃ」

 

そう気軽に言いながらも、雅はしっかりとユリスが操る戦輪から目を離さずにいる。

その間にも戦輪はユリスによって立体的に展開されていく。

 

「まあ、いっちょ気張りますか」

 

姿勢を低くした雅が言うが早いか、ユリス目掛けて一気に駆け出した。

上半身を低く屈めながら駆けるその姿は、どこか平原を疾走する豹を思わす。

 

「なにっ!?」

 

意表を突かれたのか、ユリスの対応が一瞬遅れてしまう。

慌てた様子で配置した戦輪を動かすが、明らかに雅の速度に追いつけていない。

速度をつけ素早い身のこなしで戦輪を潜り抜けて、ユリスとの間合いを詰めようとしたその時、ふと異変に気づく。慌てた素振りを見せていたユリスが、ほくそ笑んでいることに。

 

「掛かったな―ー綻べ、()()()()()()!」

 

途端に雅の足元へ魔法陣が浮かび上がり、その行く手を遮るように炎の柱が立ち上がった。前後左右に合計五本。まるで鋭い爪を持つ巨大な怪物の手の中に囚われてしまったかのようだ。

(設置型の能力、久々に見たな)

魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》の能力には、ある一定条件を満たすまで発動しないものがある。今回ユリスが発動したような罠に使われるケースが主として多いのだ。

 

「ふふん、今回こそは勝たしてもらうぞ」

 

勝ち誇ったユリスの声が聞こえてくるが、炎の柱が邪魔をしてその表情までもは確認できない。

その炎の柱が雅を握りつぶそうと襲い掛かるようにして爪先を向ける。

それでも雅は焦るどころか、柱のほぼ真上に高く飛翔した。

 

「《黒炉の魔剣(セル=ベレスタ)》ほどじゃないが、《紅戒の呪爪(ヴェスペ=ヌヴァイ)》も結構斬り味は誇れるもんだぜっ」

 

荒れ狂う炎の中枢で回転するように落下していく最中、白銀の鋭い爪の連撃が一瞬の間に炎の柱をいくつも切り裂く。雅が着地すると同時、五本全ての炎の柱は呆気なく掻き消えていく。

 

「な······」

 

ユリスが呆然と立ち尽くすのも束の間、一瞬で間合いを詰めた雅が爪先を突きつける。と同時、トレーニングルームに甲高いアラームが鳴り響いた。




完了~

雅「······だな」

おや、終わったというのに何か考え事ですか?

雅「まあ、考え事っていうまではいかないがな。少し気になることがあってな」

それって、雅さんの不注意でぶつかってしまったあの女の子のことですよね。

雅「ああ、そんなんだ」

あの子のことが気になると? やはり雅さんも男の子なんですね。

雅「なーんか違う気がするが、まあ気にしないでおいてやる」

······そうですか。なら話題を変えましょうか。雅さんの放った能力ってすでに三つとなりましたよね

雅「ああ、「遊戯の偽祭典」に「崩神の暗因腕」、それに「黒飛の狂蝶刺」だな」

この調子でどんどん増えていくのですか?

雅「さあ、それが気になるんなら次回からも閲覧することだな。もっとも主が投稿できればの話だが」

微妙な圧力とも思えましたが······まあいいでしょう。
では、また次回お会いしましょう。


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