学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として   作:RedQueen

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誤字・脱字がある場合は申し訳ありません。


決闘

「決闘!?」

 

驚く綾斗をよそに、綾斗の胸の校章がそれに応じて赤く発光する。

 

「あちゃー、そうきましたか。まあ綾斗だけで済むならいいけど」

 

「それと天霧綾斗との決闘後に引き続き黒摩耶雅との決闘を申請する!」

 

「え? なんで俺まで!」

 

「おまえたちが勝てば、その言い分を通して大人しく引き下がってやろう。だが私が勝ったなら、その時はおまえたちを好きにさせてもらう」

 

ユリスは驚く雅をよそに話を続け、ニヤリと笑う。

 

「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんな__」

 

「ここに転入してきた以上、いくらなんでも決闘くらいは知っているな?」

 

有無を言わせぬ問いかけだった。

 

「……そりゃ、一応は聞いてるけど」

 

「俺もそこそこは知ってる」

 

突き詰めてしまえば、このアスタリスクに暮らす全ての学生は闘うために集められていると言っていい。

世界最大の総合バトルエンターテインメント星武祭(フェスタ)。ここはその舞台であり、各学園の生徒は皆がその選手候補なのだから。

 

「だったら早く承認しろ。いい加減、人も集まってきている」

 

言われて二人は周囲を見回すと、確かにいつの間にか三人を中心にして人の輪ができはじめていた。

騒ぎを聞きつけてやってきたのだろうか、女子寮の敷地内のためかその多くは女子生徒のようだったが、チラチラと遠巻きに見ている男子生徒もある。

 

「ねーねー、なにごとなにごと?」

 

華焔の魔女(グリユーエンローゼ)が決闘だってよ!」

 

「マジで!?冒頭の十二人(ページ・ワン)じゃねーか! そいつぁ見逃せねーな!」

 

「んで、相手はどこのどなた様よ?」

 

「知らなーい。なんか見たことない顔ねぇ……ネットは?」

 

「今見てるー……けど、二人とも『在名祭祀書』(ネームド・カルツ)には載ってないなー」

 

「リスト外かよ。そりゃまた勇気あるチャレンジャーたちだ」

 

「どのくらい持つかしらねー。あのお姫様ってば手加減は一切しない性格だし」

 

「三分」

 

「一分」

 

「待て待て、もうすぐネットのオッズが出るみたいだ。……えーと、三分以内で二倍だな」

 

「もう開いてるブックメーカーがあるんだ。連中、相変わらず耳が早いわねー」

 

「すでに報道系クラブのライブ実況が入ってるからな。ほれ、そことかあっちとか」

 

そんな外野の声を聞きながら、綾斗と雅は困ったように眉をひそめた。

衆目を集めるのは苦手中の苦手なのだ。

 

「なんでこんなに注目されてるんだ……」

 

「ていうかここから今すぐ逃げたい」

 

「男なんだからもう少し胸を張れ、特にここではな。それに、集まってきた理由は二つ。一つ目は有力生徒の__つまり私のデータ収集目的だな。これでも私はこの学園の《冒頭の十二人》だし、隙あらば蹴落とそうと狙っている連中は少なくない」

 

「《冒頭の十二人》? 知ってるか、雅?」

 

「いや全く知らん」

 

「……そこから説明しないといけないのか?」

 

「いやー、知ってなくてすまない」

 

「まあいい、アスタリスクの各学園には序列制度があるのは知っているだろう? 学園によって細かいルールは違うが、それぞれの学園が有する実力者を明確にするためのランキングリスト__それが『在名祭祀書』(ネームド・カルツ)だ。枠は全部で七十二名。その中でも上位十二名は、リストの一枚目に名前が連ねられていることから俗に冒頭の十二人(ページ・ワン)と呼ばれている」

 

「ってことは、ユリスさんはその序列で五位に位置する学生……こりゃ凄いお人に決闘申し込まれたな、俺たち」

 

「そして二つ目の理由は単純明快、ここの連中はみんな野次馬精神旺盛な馬鹿ばかりだからだ」

 

……なるほど。

 

「まぁ、どうしても嫌だというなら仕方がない。おまえたちにも決闘を断る権利はある。ただ、その場合は女子寮の自警団に突き出すことになる。私としては自分の手で始末をつけたいので残念ではあるが」

 

つまり俺たちにはこの場でユリスと決闘をするか、自警団に突き出されて変質者として学園生活を送るかしかないのか。

 

「あー、でもほら、俺も雅も武器持ってないし」

 

自前の武器武装を持って入学してくる生徒もいるようだが、基本的には学園からの支給品をカスタマイズして使っている者がほとんどだ。綾斗も雅も必要であればそうしようと思っていたので、当然武器など持ち合わせていない。

 

「天霧綾斗。おまえ、魔術師(ダンテ)ではないな。使う武器は?」

 

「……剣」

 

「誰か、武器を貸してもらえないか? 剣がいい」

 

ユリスがギャラリーに向かってそう問いかけると、すぐに反応が返ってきた。

 

「おーらい、こいつ使えよ」

 

そんな言葉と共に、ギャラリーから綾斗に向かってなにかが投げられる。

それは片手で握るのにちょうどいい大きさの短い棒状の機械だった。そして、先端には緑色の鉱石__マナダイトがはめこまれている。

煌式武装(ルークス)の発動体だ。

 

「そいつの使い方もわからないとは言わせんぞ」

 

ユリスはそう言って不適に微笑んだ。

 

「はぁ……」

 

綾斗は大きく息を吐くと、手にした煌式武装を起動させた。

マナダイトに記憶させてある元素パターンが再構築され、鋭角で機械的な「鍔」(つば)が何もない空間から瞬時に出現する。さらに待機状態(スタンバイ)から稼働状態(アクティブ)へモードを移行(シフト)させると、万応素が集約・固定されたまばゆい光の刃が虚空に伸びた。

刀身の長さは一メートル程度。ほとんど調整らしい調整のされていない、ノーマルな煌式武装だった。

ユリスもそれを確認し制服の腰についたホルダーから発動体を取り出し、煌式武装を起動させる。

しかし綾斗のそれと違って、細くしなやかな光のレイピアだ。

 

「さて、準備はいいか?」

 

細剣を優雅に構えながら、ユリスの瞳が綾斗を見据える。

 

「綾斗、今のおまえじゃ勝つ確率は低い。死なない程度にがんばってくれたまえ。俺は先に生徒会室に行っとくわ」

 

そう言って雅は綾斗の視界から一瞬にして消えた。しかしその光景を驚く者は一人もいない。

なぜなら、雅は消える以前にユリスやギャラリーから『視認』されていなかったからだ。

 

そして綾斗は胸の校章に手をかざし、ため息混じりにつぶやく。

 

「……我天霧綾斗は汝ユリスの決闘申請を受諾する」

 

受諾の証として、綾斗の校章が再び赤く煌めいた。

 

 

 

 

 

《星武祭》とは世界最大のファン人口を誇る総合バトルエンターテインメントである。

北関東多重クレーター湖上に浮かぶ人工水上都市・六花(りっか)__通称アスタリスクを舞台として年に一度開催されるそれは、六つの学園それぞれの学生たちが武器を手に覇を競う過激なものだ。

といっても、実際に命のやり取りをするわけではなく、星武憲章(ステラ・カルタ)と呼ばれる取り決めに定められていて、わかりやすく言ってしまえば『相手の校章を破壊した方が勝ち』というものだ。意図的な残虐行為は禁止されているものの、戦闘能力を削ぐ目的であれば校章以外への攻撃も認められているし、武器を使う以上は当然怪我人も出る。時には怪我ですまない場合さえある。

それでもなお世界中からこの都市へ若者たちがやってくるのは、ここでなければ叶えられない望みがあるからだ。

そして、彼らが闘う機会は《星武祭》だけではない。

腕に覚えのある血気盛んな若者が同じ場所に集まれば、少なからずもめ事が起きるものだ。そのような場合、アスタリスクではルールに則った私闘である決闘が許可されている。

そして、特に同じ学園に所属する学生同士の決闘では、その勝敗によって序列が変動する。だから単なる私闘ではないのだ。

 

 

 

 

 

綾斗とユリスの決闘がはじまった頃、雅は平然と学園の廊下を歩いていた。

しかし、外で決闘がおきてるせいか生徒の姿はあまり見られない。

そのまま、歩いていると背後かわ急に声をかけられた。

 

「あの、あなたは黒摩耶雅さん、ですよね」

 

振り向くとそこには、しっとりと落ち着いた雰囲気の、ユリスとはまた違った美しさの持ち主だ。

目もくらむような金色の髪をなびかせた少女の美しさは、静かな湖のように深く穏やかだった。そのせいか年齢はユリスと同じくらいだろうに、ずいぶんと大人びて見える。

 

「そ、そうですが……って、あれ、なぜ俺の名を?」

 

「それはもちろん私がこの星導館学園の生徒会長、クローディア・エンフィールドですから。よろしくお願いしますね」

 

目を見張るような美人であるクローディアはそう告げた。

 




休みは今日を入れてあと2日。
刻々と迫るテスト。
心が折れないよう精進したいです。

なので、この休み中に時間ある限り投稿します。

絶対、絶対に。

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