学戦都市アスタリスク 闇に潜みし者として   作:RedQueen

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誤字・脱字がある場合は申し訳ありません。


一年三組、谷津崎匡子さん

「ユ、ユリスさん、急にどしたの?」

 

あまりの唐突の質問に雅は逆に聞き直す。

 

「少しわかりづらかったなら言い直そう」

 

そう言ってユリスは雅の片手に握られていた銃型の煌式武装(ルークス)に目線を移す。

 

「まず、おまえがその銃で矢を止めたのか?」

 

「その通り。矢を撃ち落とすこと自体はそう難しくないんだけど……他人に見られないようにするのが大変だったな」

 

「それは魔術師(ダンテ)の能力を使っている時のことか?」

 

「大体正解ですよそれ。半分は見られたくない、そして半分はえげつないんだわ見た目が」

 

次の瞬間ユリスの表情がありもしない光景に一変する。

雅の銃を握っていた腕の手首から下が消えていた。

 

「みんな同じ反応なんだよ。まあこんな腕見たら仕方ないかもしれないか」

 

「い、いや、驚かないのか! 自分のう、腕が消えているのだぞ!」

 

「いや別に大変なことじゃないよ。これも能力を使ってのマジックだし、ユリスの影を見たら種明かしになるんですよ」

 

雅はユリスに影を見るよう促す。言われるがままに背後に振り向くと、自分の影から消えたはずの雅の右腕が飛び出ていた。

 

「な、なんだこれは!? わ、私のか、影にう、う、腕が!」

 

「まあまあ落ち着いて、これは能力だよ、能力。ただ今回はユリスの影を通過点として使わせてもらったんだ。まあ光が届かない場所しか通過点として利用できないのが欠点だけど」

 

雅は困ったように手で頭を押さえる。

 

「つ、つまりおまえの能力は『空間転移』の暗闇限定なのか?」

 

「ブッブー、残念でした。俺の能力は空間転移ではありません。それにどうせ星武祭(フェスタ)でユリスは綾斗と組むんでしょ。だったらいずれは俺とも闘う可能性もある。その時までには俺の能力は分かると思う」

 

「な、なぜ私があいつと組むことになっているのだ!?」

 

「あれ、そうじゃないの? あの流れじゃあ、って、あの、ユリスさん、その周りの炎は一体なんなのでしょうか?」

 

ユリスの周りには二度目の火球が出現していた。

止めようとしても、ユリスは聞く耳を持とうとしない。

 

「咲き誇れ__九輪の舞__」

 

「おーい、さっさと上ってこい。二人して罰受けたいんか?」

 

ユリスが言い終わる前にある人物によって止められた。

声の方向には目つきが悪い、教師らしくない人がいた。

 

「い、今行きます!」

 

「俺も行ったほうがいいかな」

 

先程までの闘いムード満載のユリスの姿はなく、二人は校舎へと早歩きで入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、とゆーわけで。こいつらが特待転入生の天霧と黒摩耶だ。テキトーに仲良くしろよ」

 

実におざなりな紹介だった。

新しいクラスにうまく馴染めるか不安になっている転入生には、もう少しこう、思いやりとか心遣いとか、そういうものがあってもいいんじゃないだろうか。

そんな気持ちを込めて綾斗は隣に立つ女性を横目で見た。雅はついさっき見たからかある程度のことは想定していた。

そして、一年三組担任・谷津崎匡子は「次はおまえだ」と言わんばかりに、あごをくいっと動かしただけだった。

目つきも悪く、口調も態度もあまり教師らしくないがなにより目に付くのは、その手に持った釘バットだ。見た限り、だいぶ年季が入っている。赤黒く変色したその染みがなんなのか、とても気になる反面できれば知りたくないような複雑な気分にさせる一品だった。

 

「ほら、さっさとしろ」

 

「あ、はい。えーと、天霧綾斗です。よろしく」

 

「俺は黒摩耶雅っす。よろしくでーっす」

 

綾斗は綾斗でそっけないことこの上ない挨拶、雅は元気ありげの挨拶を交わした。

そんな対照的な二人を見つめるクラスメートたちの視線は様々だった。

興味津々なもの、無関心なもの、探るようなもの、警戒しているもの……。

いやでも注目されるのが転入生の常とはいえ、これはちょっと過剰な気がする。

ただ一人だけ、なんとも複雑な表情のまま二人に視線を向ける少女がいたが、これについては綾斗も雅にもその理由が理解できた。

 

「席は……ああ、ちょうどいい。黒摩耶は夜吹の隣で……天霧は火遊び相手の隣が空いているから、そこにしろ」

 

「だ、誰が火遊び相手ですか!」

 

匡子の言葉にその少女__ユリスが顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「ふふん。おまえ以外に誰がいるんだ、リースフェルト? 朝っぱらから派手にやらかしやがって。売られたほうならまだしも、こんな時期に《冒頭の十二人》が気軽にケンカふっかけてんじゃねーよ。レヴォルフじゃねーんだぞ、うちは」

 

「ぐっ……」

 

しぶしぶと腰を下ろしたユリスの席は最後列より一つ前。

その隣の二席とその後ろの席が空いていた。

 

「まさか同じクラスとはね」

 

「いやーこれも何かの縁。よろしくお願い、ユリス」

 

「……笑えない冗談だ」

 

雅と綾斗が席についてそう声をかけると、ユリスは視線だけを綾斗の方に向けて言った。

 

「おまえたちには借りができた。要請があれば一度だけ力を貸そう。だが、それ以外で馴れ合うつもりはない」

 

それきりぷいっと顔を背けてしまう。

__と。

 

「ははっ、おまえら、振られたな」

 

隣の席から同情半分からかい半分といった感じの声がかかった。

確か谷津崎先生によれば、えーと、夜吹……だったかな。

 

「ま、相手があのお姫様じゃしかたないさ」

 

精悍な顔に人懐こい笑みを浮かべた男子が手を差し出してくる。

その手を握ると、その男子は嬉しそうにぶんぶん振り回した。

 

「おれは夜吹英士郎。一応おまえさんらのルームメイトってことになってる」

 

「ルームメイトって……ああ、寮の?」

 

「そういうこと。うちの寮は基本二人部屋だからな」

 

「ん、でも俺、綾斗、夜吹で三人だけど?」

 

「大丈夫だよ。それにおれはにぎやかなほうが好きなんでね」

 

英士郎はいかにも快活そうな少年だった。

座っているのではっきりとはわからないが、綾斗よりも頭一つ分くらいは背が高いだろうか。仕草は子供っぽいのに、体のつくりや表情はずいぶんと大人びて見える。左頬にやや目立つ傷跡があったが、それが少年のアンバランスな魅力によく似合っていた。

 

「あとどうせ相部屋になるなら、面白いやつがいいと思ったしな」

 

「……いや、俺は別に面白くはないよ?」

 

「またまた、転入初日の朝から《冒頭の十二人》相手に決闘しでかして、おまけにそのお姫様を衆人環境の中押し倒したやつが謙遜すんなって」

 

「うむ。あれはまさに絶景ハプニング時間だった。いやー思い出しただけで笑いが……くくっ」

 

雅は笑いをこらえきれず、少しだけ笑ってしまう。

この時、綾斗は一瞬思った。

雅と夜吹は少し、いや、もの凄く似たもの同士だと。

 

 

そして、ホームルームが終わるや否や、綾斗と雅のまわりにはちょっとした人だかりができていた。

 

「ねぇねぇ、天霧くんと黒摩耶ってば前の学校じゃなにかやってたの? こんな時期に二人も転入なんて普通じゃないよね?」

 

「つーか、どうしてまたお姫様相手に決闘なんてするはめになったんだ? そのあたり、ぜんっぜん情報が入ってこないんだよなー」

 

「いやいやいや、それよりもあの熱烈なアプローチのほうが問題っしょ? なに? なんなの? 決闘の最中にいきなり恋に落ちちゃったの? 禁じられた愛なの?」

 

「待てよ! そんなくだらないことより、お姫様の攻略法だ攻略法! どうやってかわしてたんだ、あれ?」

 

「確かにな。正直、あれだけ持つとは思わなかった」

 

質問責め(主に綾斗への)が数多も続いた。

その一方で、あからさまに冷淡な態度のグループもいる。

 

「はっ、そんなの《華焔の魔女(グリューエンローゼ)》が手加減してたに決まってるだろ」

 

「まったくだ。身のこなしにしろ、反応速度にしろ、この都市の基準にしてみれば凡庸の域を出ん。あれでは『在名祭祀書(ネームド・カルツ)』入りも難しかろうよ」

 

「なんであれが特待生なのかしら? うちのスカウトも見る眼がないわねぇ」

 

「どうせもう一人も同じぐらい低ランクだろなぁ」

 

などなど。

とにかく授業が終わるたびにそんな感じだったので、綾斗も放課後になる頃にはすっかり疲れ果てていた。

 

「ひゅ~ひゅ~……」

 

「はぁ~……」

 

「お疲れさん。人気者は大変だな」

 

「よく耐えたな~綾斗。今日の主役はおまえ、俺は裏。表は裏があるからこそ堂々と、裏は表があるからこそ自由奔放であれる。今の俺とおまえのように、な」

 

夕陽が差し込む教室でぐったりしていると、英士郎が綾斗の肩をぽんっと叩いてくる。

雅は相変わらず窓辺に寄りかかり、口笛を吹いている。

 

 




こんな微妙なところで終わってしまいました。

もう少し続けたいところですが就寝のお時間となり、諦めました。

あ、でも、投稿は続けますのでこれからもよろしくお願いします。

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