クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
「…………」
引き戸を開いた姿勢のまま、少年は動きを止めていた。
本日は日曜日。通っている幼稚園は当然休み。両親も出掛けていて家にはおらず、この家には自分と赤ん坊の妹(そして飼い犬一匹)しかいなかった。
絵本を読んだりビデオを見ていたりしていたが、飽きてきたので起きていたら一緒に遊ぼう。そのつもりで妹が眠っている部屋に入った。
真っ先に目に入ったのは、知らない男で、その手には古ぼけた木の『弓』が握られていて――。
そして、眠っている妹の胸に、『矢』が突き刺さっていた。
男は少年へと顔を向け、微笑んだ。少年からは顔はよく見えなかったが、それだけは分かった。
「ウオワァアァァアァ!」
普段の彼なら絶対に出さない叫び声を上げ、男に向けて飛び出した。この男が妹を殺した。この状況は彼がそう認識するにも、彼が男に襲い掛かるにも、充分過ぎるものだった。
服の前が『引っ張られた』。それで体勢を崩し、転ぶ。立ち上がろうとしたが、『服が纏わり付いて動きを邪魔をして』出来なかった。
男は少年の前に行って、座り込んだ。
「手荒な真似をしてゴメンね。用が済んだらすぐに『解く』から」
「お前……何を……」
「悪いけどそれを長々と説明してる時間は無いんだ」
元から話なぞ聞くつもりは無い。この男は妹を殺した。たとえ内容がお菓子の食べ放題だとか、自分の好きな事でも、妹の仇のこの男の話なぞ耳に入れるつもりなんか無い。
「安心しなよ。君の妹……『生きてるよ』」
柔らかな声色で、宥めるように信じられない事を口にした。
そんな事信じられるか。嘘を吐くなら内容を選べ。何も言ってないが、心の中でこう罵ったのが表情や眼差し、雰囲気から見て取れた。
男からすればそれは予想通りの反応で、だから立ち上がって妹の元まで歩いた。そして手を伸ばし、『矢』を掴んで引き抜いた。
そこで初めて『矢』の全体を目にした。木の胴体部分に光沢のある石の鏃。
男は『弓と矢』を床に置いて、手慣れた手付きで妹を抱きかかえて少年の顔近くまで持って行った。
妹は安らかな寝顔で、何事も無いかのように可愛い静かな寝息をたてていた。
「ね? 生きてるでしょ?」
妹を丁寧に元の位置に戻し、布団を被せる。『弓と矢』を持って再度少年の前に立つ。
「言っておくけど、これは催眠術による幻覚とかじゃない。実際に起こっている現実だ。そして彼女が『矢』で貫かれて生きているのは、彼女に『素質』があったからだ……」
「そしつって……植物の?」
「それはソテツ」
「判断ミスで傷付けた」
「過失」
「日本の夏は高温」
「多湿……ウォッホン、この『矢』に貫かれた者が辿る道は二つに一つ、『特別な才能』をその身から引き出されるか死ぬか……」
「つまり……『特別な才能』の『素質』があったから生きてるって事?」
「飲み込みが早いね……その通りだ……その『特別な才能』についてだが今は『常人では不可能な摩訶不思議な現象が起こせるようになる』と解釈してくれ……」
「『超能力』ってやつ?」
「それでも構わない……ここからが本題だ。この『素質』は遺伝する……つまり素質』ある者の血縁者には比較的高確率で『素質』がある。直系であれば尚更だ……だから僕は君を射抜く前に、『確かめる』為にこの子を射抜く事にしたのさ……」
つまり、本来用があったのは自分で、妹はついで。そう、妹は『ついで』で傷付けられた。
怒りが込み上げて来るが、どれだけ力を込めようと動けない。
「じゃあ用をとっとと済ませるね」
少年はいきなり立ち上がる。好機と思って殴りかかろうとするが、これ以上の動きは出来なかった。
そんな少年に『弓と矢』を引き、射る。
放たれた『矢』は少年を貫く。そして少年は――
「な……え? え?」
生きていた。
男は即座に『矢』を引き抜く。少年の傷は同時に跡形もなく塞がった。
少年の意識は薄れていく。男はそんな少年の頬を両手に添えた。
「おめでとう……君達は選ばれた……君達はいずれ変化した己に気付き、そして戸惑うだろう。安心しなさい、悪い変化じゃないだろうから……」
手を放し、『弓と矢』を持って窓へと向かう。窓を開いて桟を跨いだ所で何か思い出したような仕草をして振り返った。
「君の『才能』を引き出した理由……次に僕が君の前に現れた時に教えるよ。もっともその前に知ってしまうかも知れないけど……だからそれまで好きな事を沢山してその『才能』を理解しておいてね……」
男は靴を履いて出て行き、残ったのは、親が帰ってきて起こすまで眠っていた兄妹だけだった。
少年の名は野原しんのすけ。これが彼の、自分の街、埼玉県春日部市に巣くう邪悪な『力を持つ者達』との戦いの序幕だった。